安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

ハービー・ハンコック著 「ハービー・ハンコック自伝」 (川島文丸訳 DU BOOKS刊)

2016-06-24 22:59:34 | 読書

半世紀以上にわたり、ピアニスト、作編曲家、プロデューサーとして活躍しているハービー・ハンコック(1940年~)の自伝が日本語訳され、昨年出版されたので読んでみました。本文(ハンコックとともにリサ・ディッキーも著者の一人となっています。)とともに川嶋文丸さんによる訳がわかりやすく、ページ数は多いものの、読みやすい本です。

   

冒頭部分にマイルス・デイヴィスとのエピソードが登場しますが、ジャズの創造現場の話で印象深いものです。引用すると、1960年代半ばにおけるストックホルムでのコンサートの「ソー・ホワット」のマイルスのソロで、

『ソロを構築していた彼が、これから楽想を自由に羽ばたかせようとする直前に一息ついた。そこで私はコードを弾いたが、それは不適切な音だった。・・・・私はとっさに「あっ、しまった」と思った。みんなで築いてきた素晴らしい音の楼閣を私が壊してしまったのだ。マイルスはほんの一瞬、間をおき、奇跡的にも私の弾いたコードが正しかったと思わせる音を吹いた。その瞬間、驚きのあまり私の口はあんぐりと開いてしまった。』

『ジャズは瞬間に生きる音楽なのだ。自分を信じて臨機応変に対応するのがジャズだ。それができなければ、音楽においても人生においても、道を切り拓くことはできないし発展することもできない。私は幸運にも、マイルスとの共演、そしてその後のさまざまな経験を通じて、それを学ぶことができた。』と、ハンコックは回想しています。

1965年12月のプラグドニッケルのライブに関しての描写も記憶に残るものです。演奏直後、ひどいサウンドだとハンコックは思ったようですが、17年後発売されたアルバムを聴いた彼は、『このサウンドは洗練されていない。ここにあるのはむき出しの熱気と大胆さだ。生のエモーションだ。プラグド・ニッケルでのレコーディングを聴くと、いまも私はその生々しい情熱と真摯な意気込みに圧倒される。』と述べています。

プラグド・ニッケルのアルバムを、僕は発売直後に購入して聴いたところ、フリー的なインプロヴィゼーションが展開されていて、すごいと同時に難しい音楽だとびっくりしたのですが、当時のメンバー間のやりとりなど、この本の記述を通して、そう感じた原因がおぼろげですがわかりました。

   
Miles Davis 「at Plugged Nickel,Chicago」

驚くことに、ハンコックがエレクトリックピアノを弾く端緒となったのも、マイルスでした。1968年5月、アルバム「マイルス・イン・ザ・スカイ」のレコーディングで、『スタジオに入ると、私が弾くはずのピアノがなかった。「マイルス、おれは何を演奏すればいいんだい?」と訊いた。彼は「あれを弾け」といい、隅にあるフェンダー・ローズのエレクトリック・ピアノのほうを顎でしゃくった。』とあり、それまでエレクトリック・ピアノには何の興味もなかったハンコックの目を開かせることになります。

   
Herbie Hancock 「Head Hunters」

90年代における深刻なコカイン中毒を家族の力で乗り越えられたという出来事は、この本の中で初めて明らかにされました。さらに、マイルスと出会う前のドナルド・バードとの日々や、マイルス以降のファンク・ミュージックのこと、映画音楽とのかかわりなども詳しく書かれていて、ハンコックファンはもちろんですが、ジャズファンなら興味深く読める本です。

 参考に、目次を掲げます。

第一章 シカゴのサウス・サイド
第二章 ジョージ・シアリングのジャズ
第三章 グリネル、シカゴ、そしてニューヨークへ
第四章 ドナルド・バードと〈ウォーターメロン・マン〉
第五章 マイルス・デイヴィス・クインテット
第六章 マイルスとウェイン
第七章 〈処女航海〉と初めての映画音楽
第八章 結婚、そして独立へ
第九章 ハービー・ハンコック・セクステットの始動
第十章 エムワンディシ・バンド
第十一章 シンセサイザーの導入
第十二章 仏法の実践
第十三章 ファンク・ミュージックへの転身
第十四章 『ヘッド・ハンターズ』の成功
第十五章 VSOPクインテット
第十六章  ニュー・テクノロジーの追求
第十七章 ウィントン・マルサリスとの共演
第十八章 〈ロックイット〉のヒット
第十九章 『ラウンド・ミッドナイト』
第二十章 悲しみと栄光
第二十一章 マイルスとの最後の日々
第二十二章 崩壊の淵
第二十三章 『リヴァー~ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』 
第二十四章 不可能への挑戦
謝辞
訳者あとがき
ハービー・ハンコック リーダー・アルバム・リスト
索引


善光寺界隈散策 藤屋や楽茶れんが館

2016-06-23 23:28:54 | お出かけ・その他

先週の日曜日、長野市の善光寺近くの「藤屋御本陣」(THE FUJIYA GOHONJIN)で行われた結婚式に招待されたので出席してきました。かつては旅館や料亭としての営業だったのですが、10年くらい前からイタリアンレストランとなり、結婚式も行われています。旅館の時には、たまに宴会で利用していたので懐かしい建物です。

早く着いたので、藤屋の近くを散歩してみました。実は、近くに「ロートレック」というお気に入りの駐車場完備の喫茶店があったのですが、昨年店を閉じてしまいました。閉じるところもありますが、善光寺の南側に当たるこの付近は、飲食店が増えつつあります。

   

藤屋。

   

藤屋入り口。

   

上の方(善光寺側)から入り口。藤屋ホームページ:THE FUJIYA GOHONJIN

   

藤屋の隣にある八幡屋磯五郎。七味唐辛子の製造販売を行っています。

   

八幡屋磯五郎の裏手にある、同店直営の横町カフェ。

   

善光寺参道がすぐ目の前のです。

   

少し東へ歩いて、東町。善光寺側から下の方へと撮っています。目立たない通りですが、お店がぼちぼち立地していて、散歩するのにもいい通りになってきました。寄ってみたい喫茶店、古本屋もあるのですが、時間の都合で寄れませんでした。そこは、後日訪れてみるつもりです。

   

東屋。鳥料理の鳥蔵グループです。料亭ですが、ランチもやっていて女性に人気があります。

   

ピザのお店「TIKU (チクー)」。

   

東町を下りてきて道路を渡ったところにある「胡蝶庵茶寮」。本店が安曇野市で、そちらのホームページを見ても出てこないのでよくわかりませんが、多分系列店だろうと思います。

   

僕がたまに入るのはこのお店「楽茶れんが館」です。善光寺から見ると下の方で、藤屋の手前にあります。レンガ造りの建物は、明治45年に信濃牛馬合資会社から始まり、善光寺郵便局、長野物産館という変遷を経て、現在のお店に至っています。建物は国の登録有形文化財です。ランチはリーズナブルで、コーヒーを飲んで休憩するのにもよいです。

楽茶れんが館ホームページ:rengakan


トミー・フラナガン ECLYPSO

2016-06-22 21:14:04 | ピアノ・トリオ

早川書房から出ている、クリスティ文庫の<名探偵ポアロ>シリーズの「ブラック・コーヒー」を読みました。推理小説は、和洋を問わず結構読んでいた時もあったのですが、最近はほとんど読まなくなりましので、久しぶりです。この本は、クリスティが創造したエルキュール・ポアロという名探偵のキャラクターが面白く、謎解きばかりでなく、登場人物にも魅力があります。パイプをくわえて、名探偵のような風貌にも見えるポートレートのアルバムを聴いてみました。

TOMMY FLANAGAN (トミー・フラナガン)
ECLYPSO (ENJA 1977年録音)

   

トミー・フラナガンの代表作の一つに挙げたくなるアルバムですが、1957年に「Overseas」(オーヴァーシーズ)を録音して、その際の曲の再演という面もあります。ちょうど20年経った1977年の録音ですが、エルヴィン・ジョーンズ(ds)が健在で、この「Eclypso」でも、プッシュしていて、再演に相応しい録音になっています。

メンバーは、トミー・フランガン(p)、ジョージ・ムラーツ(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)。エルヴィンはもちろん、このアルバムでトミー・フラナガンと初録音をしたジョージ・ムラーツも躍動感に満ちた活きのいい演奏をしていて、フラナガン中心のトリオですが、三者が一体となっています。

曲は、ジャズ・オリジナルです。ソニー・ロリンズ作「Oleo」、デンジル・ベスト作「Denzil's Best」、タッド・ダメロン作「A Blue Time」、チャーリー・パーカー作「Relaxin' at Camarillo」、トム・マッキントッシュ作「Cup Bearers」、フラナガンの自作「Eclypso」、チャーリー・パーカー作「Confirmation」の7曲。このうち、オーヴァーシーズでも演奏されていたのは、「Relaxin' at Camarillo」と「Eclypso」の2曲。

アルバムの最初から最後まで、どの曲にも魅了されるアルバム。フラナガンのピアノは本来エレガントですが、オーヴァーシーズと同じく、エルヴィン・ジョーンズのドラムスを得て、リズミカルでアグレッシブなところがあって、変化に富んでいます。どれもいいのですが、ムラーツの冒頭のベース・ソロも印象的な「Denzil's Best」、スローテンポで哀愁味のあるテーマ、ソロが聴ける「A Blue Time」、エルヴィンのドラムソロも登場し、フラナガンの熱演が続く「Eclypso」あたりが好きなトラックです。

【アガサ・クリスティ著  ブラック・コーヒー(早川書房)】

   

たまには海外の推理小説も面白いです。


ルパンジャズライブ 大野雄二&ルパンティック・シックス ウィズ フジコチャンズ(6月18日 上田市サントミューゼ)

2016-06-20 21:29:01 | 演奏会・ライブ

長野県内で大野雄二のルパンジャズライブが、6月17日(金)に松本、18日(土)に上田で開催されました。日程の都合で、18日の上田公演を聴きました。松本はチケットがソールド・アウト、上田も満席の状態で、ずいぶんと人気があるのに驚きました。お子さんもいて、アニメのルパン三世の人気は高いようです。テレビ音楽が基のフュージョン系だろうと予想はついたものの、こういうのもたまにはいいなと思い出かけました。

当日のメンバーは次のとおり。それに加えて、3人のヴォーカルグループのフジコチャンズが加わります。

大野雄二(pf)
松島啓之(tp)
鈴木央紹(t.sax&s.sax)
和泉聡志(g)
宮川純(org)
ミッチー長岡(ba)
市原康(dr)

   

休憩なしの2時間弱のステージでした。演奏された曲は、MCはあったものの聞きとりずらく、さらにルパンの曲は全く知らないので、次のような曲が順番に演奏されたようです。発売されているCDの曲名を参考にした判明分だけです。

BUONO!! BUONO!!
LOVE SQUALL 2016
DESTINY LOVE
ちゃんと言わなきゃ愛さない
ZENIGATA MARCH 2016
TORNADO 2016
ルパン三世愛のテーマ
THEME FROM LUPIN III

この他に1~2曲演奏があり、アンコールでは2曲が演奏されたと思います。いずれも大野雄二作曲によるルパンシリーズからの曲です。ギターの和泉さんがMCを担当していて、率先して初めから手拍子だったので、会場は最初から最後まで、手拍子の連続でした。また、アンコール曲では、MCからのリクエストもあって、会場総立ちでした。

ロック、ファンク調のギター、ベース、ドラムスがリズムを送り出すフュージョン系のサウンドでしたが、メンバーのソロが多く、楽しめたライブでした。ファンキー、メローな編曲も大野雄二だと思いますが、トランペット、サックス、ハモンドオルガン、彼自身のエレクトリックピアノとジャジーでかっこいいソロが続き、このあたりルパンジャズと銘うってあるだけのことはありました。

面白かったのは、曲の特徴で、最初の「BUONO!! BUONO!!」は、60年代ブルーノートサウンドのリー・モーガン「サイドワインダー」を連想させ、石川さゆりが歌っているテレビのルパン三世のエンディングテーマ「ちゃんと言わなきゃ愛さない」は歌謡曲調で、ツボを押さえた受ける曲作りになっていて感心しました。

早めに会場を出たのですが、帰りがけのエレベーターのところで、僕より少し年がいっていると思われるご夫婦の会話『トランぺッターがすごいね。上手だわ』、『サックスも音色がいいし、素晴らしい』を耳にしました。僕もそんな感想で、松島啓之(tp)については、コンボで演奏を聴いてみたいと思いながら会場を後にしました。

【Ohno & Lupintic Six 最新CD YEAH!!YEAH!!】

   商品の詳細


キース・ジャレット BYE BYE BLACKBIRD

2016-06-19 09:22:27 | ピアノ・トリオ

先日、上田市を訪れた際に、喫茶店の「NABO」(ネイボ)に初めて寄りました。本の販売も行っているブックカフェですが、ネット中古書店の「VALUE BOOKS(バリューブックス)」(上田市内にある倉庫の在庫は80万冊だそうです。)の直営店なので、定期的に棚の本は入れ替わります。喫茶の方も、プレスマシンで淹れるコーヒーに、軽井沢のhaluta(ハルタ)のパンが販売されていて本格的です。駐車場もあり、折に触れて寄ってみたい喫茶店です。たまに聴きたくなるアルバム。

KEITH JARRETT (キース・ジャレット)
BYE BYE BLACKBIRD (ECM 1991年録音)

   

タワー・レコードのホームページを見ていたら、マイルス・デイヴィス(1926~1991年)の生誕90周年ということで、マイルス・デイヴィス(tp)の50年代のハード・バップ期から60年代初頭のモード・ジャズ期の演奏を33曲収録したコンピュレーションアルバム(3枚組CD)が発売されていました。亡くなってからも25年になるし、時の過ぎるのは早いなあという感慨を抱きました。そこでキース・ジャレットのマイルス追悼作を聴いてみました。

メンバーは、キース・ジャレット(p)、ゲイリー・ピーコック(b)、ジャック・デジョネット(ds)。録音日は1991年10月12日で、マイルス・デイヴィスの逝去したのが1991年9月28日なので、約2週間後の録音で、キースはじめメンバー3人のマイルスへの想いが録音日を見ても伝わってきます。このアルバムでは、キースの唸り声がいつにもまして大きく、好みが分かれるところです。想いを旋律に換えていくと、声も出てしまうのかと、僕は割合好意的にとっています。

曲は、マイルス・デイヴィスの演奏した曲とメンバー3人によるオリジナルです。「Bye Bye Blackbird」、「You Won't Forget Me」、「Butch and Butch」、「Summer Night」、「For Miles」(3人によるオリジナル)、「Straight No Chaser」、「I Thought About You」、「Blackbird , Bye Bye」(3人によるオリジナル)の8曲。「Bye Bye Blackbird」や「Stragith No Chaser」、「I Thought About You」を聴いていると、50~60年代のマイルスグループの演奏が思い浮かびます。

最高のピアノトリオによる記念碑的な演奏。キース・ジャレットには有名作品が多数あるので、今やあまり話題にならないかもしれませんが、ジャレット(p)の即興のラインやデジョネット(ds)の押さえ気味のドラミングを聴いていると、特別なアルバムという感じがします。多分即興で演奏したと思われる「For Miles」では、マイルスへの敬慕の念が溢れているようで、鎮魂の歌のように聴こえ感動しました。おなじみの「Bye Bye Blackbird」や「Straight No Chaser」ではリズムにも乗った軽快な演奏が楽しめます。 

【Books&Cafe NABO(ネイボ)】

住所:長野県上田市中央2-14-31
電話:0268-75-8935
営業:10:00 〜 22:00 (定休 火曜日)
ホームページ:nabo Books&Cafe     nabo facebook

   

通りに沿って設置してある看板。

   

入り口。

   

カウンター。

   

コーヒーのマシーンが並んでいます。

   

二階に上がる階段。

   

一階右手の様子

   

バリューブックスの在庫本の検索用パソコンが置いてあります。その横に、真空管のアンプでしょうか、インテリアの一つとしてオーディオ機器が置かれていました。

   

店内二階。

   

通りから見たお店の外観。「小島紙店」と看板にあって、古い建物を利用していて、趣があります。