明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 

肖像  


制作中のロシアの文豪は、残された写真はそれほど多くない。ないならないで、後から決定版がでてこなければかまわない。 十字路で悪魔と契約したという伝説のブルースマン『ロバート・ジョンソン』はかつては写真が存在しない、ということでアルバムジャケットはイラストであった。ところがついに発見と、雑誌に1カット掲載された。ある日の飲酒後、我慢できずにホンモノかどうか、夜の十二時過ぎに編集部に電話をしたら、編集者がでて「そういわれてます」。さっそく制作を開始した私であったが、当時は実在の人物を資料を見ながら作る、ということはほとんどしたことがなかったし、その人物がどうも風采があがらず、ロバート・ジョンソンというわりにもっさりしていて盛り上がらずしなびた。それは結局ガセネタであった。もしあのまま、どこの馬の骨だか判らない、ただの男を完成させてしまっていたら、私は3回は繰り返しここで恨みごとを並べていたであろう。 それにしてもこのロシア人。自主的にカメラの前に座っているように見えない。腹の中を悟られないよう、レンズではないところを見つめ、別のことを考えているように見える。そのせいか口が開いてしまっている。 立体の場合は、ひとたび作ってしまえば、どの方向からも撮影ができる。どうせなら写真が残されていない方向から撮りたい。見たことがないからその人に見えない、という危険はつき物であるが、その肖像は撮影したカメラマンが選んだ表情である、という意味で、作る方としては面白くない。 資料でもらった写真の中に、絵画が混ざっていたが、そのうちの1カットがリアルに描かれていて、リアルに似ていない。リアルであるほど、写真で残っていない角度を描くのが難しいのは当然であろう。これを見てかまわず撮ることにした。いっそのこと流し目にしてやろうか。

去の雑記

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