明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



ロシアの文豪の頭部が完成。やはり眉間に皺寄せた、あまり楽しそうでない状態の男性は、私の得意な分野である。私がもし某宗教の信者であったなら、あの究極の、あまり楽しそうでない状態の男性を作っていたことであろう。 頭部さえできればできたも同然。仕上げに時間がかかる裸体でなく、着衣であれば一気に作る。ここから乾燥に入るまでのスピードは一度録画しておきたいほどである。苦労ばかりの頭部が終わり、これからが本来楽しいので、多少はああだこうだしたいところなのだが、ほとんど何も考えず、息を止めるようにして迷うことなく一気に集中する。 背景は以前制作した室内風景がちょうどイメージに合っており、使うことにした。さらに文豪と著者の共演を試みることになっている。 1冊目の拙著『乱歩夜の夢こそまこと』(廃刊)で乱歩や二十面相と人物を共演させ、三島の『潮騒あるいは真夏の死』では、海女姿の娘と共演させてみた。しかしたとえば悪魔と取引するために十字路に立つロバートジョンソンの横で、一緒に悪魔を待ってみたいミュージシャンは現れず、森鴎外と夏目漱石に挟まれたい、志ん生と酒場で酒を酌みかわせてみよう、などという企画を考えてくれる人はいない。まあ確かに、この連中と並んで、どんな顔をしたい人がいるのか、という気はする。そこへ今回は編集者の意向で、著者の顔をなんらかの形で画面に入れられないかという話であったので、これは良い機会。顔だけといわず、文豪と共演してもらうことにした。本来出会うはずのないもの、そこにいるはずのないものを画面に入れることについては、アダージョには鍛えられたが、おかげでそのためには、無関係なものを結びつける、なんらかの媒介が必要なことが判った。今回でいえば私の制作した部屋ということになろう。 アダージョでは、来日したことすらないこのロシアの文豪を、都営地下鉄駅近辺に立たせる可能性があったが、私はどんな奇手を使うつもりだったのか。ボツになってあんなホッとしたことはない。

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