泉鏡花の『貝の穴に河童の居る事』は、舞台現場に行ってみたら、あまりにそのままで驚いたが、圓朝も取材旅行にでかけたようで、若き鏑木清方はこの旅に同行するほど仲が良かった。であるから写真では伝わらない部分まで、その姿を伝えているのであろう。私としては乏しい写真情報以外に人となりをつかむには、伝記、当時の実見記の類を読むしかない。これもしつこく続けていると、だんだんイメージが蓄積されてきて、やがて“見てきたような嘘”をいえるようになる。 昼頃、窓を開けようとした時、ひょいと圓朝がこちらを見ている画が浮かんだ。眠い目をこすり、1ページ読むたび5回もコックリやっていると『ちょっと見せてやるよ』と向こうから寄ってきてくれる。この場合、もうちょっとアップでも良いんじゃないか?などと思ったとしても動かないし動かせない。ここはいつも不満なのだが、結局色々やってみても最初のイメージを超えることはないのである。 こちらを見ている圓朝の周囲にヒトダマが漂っていたのだが、これが描かれた物のように見えた。おそらく怪談映画のヒトダマを観て、明らかに固形物に火を着けているのが気に入らない、と思ったせいであろう。後から中心の固形部分を消すつもりでいたのだが、描くことも選択肢に加えることにした。手塚治虫を作った時、手塚漫画のジェット噴射はロウソクの火みたいなので、実際ロウソクでやってみたら明らかに推力不足で、後からパワーをくわえた。何事もやってみないと判らない。
HP