夜中に蛸の撮影を済ませ、一眠りしたあと、老画家の身体に二匹の蛸をまとわりつかせた。画狂老人といって、すぐに浮かんだのが、蛸に襲われながらも画帖と筆を離さない葛飾北斎であった。モチーフはもちろん『蛸と海女』だが、解せなかったのが北斎の蛸の面相である。横山ノックの蛸踊りではないが、口を突き出した蛸の八ちゃん的イメージは、誰がいつ始めたのだろうか。あの口は配水管で、口は脚の付け根にクチバシがある。届いた蛸をぬめりを取るため塩で揉んでいて気がついた。北斎の蛸は帽子をかぶったような下に目があり、口があるが、あれは人間で言えばうなじあたりで、排水管を口に見立てるため、眼を後ろにもって来て顔にしているのであった。そうとわかれば私も、といきたいところであったが、そこが写真である。実際の部品では、どう考えてもああ面白くはならない。突き出した排水管が口でなければ有名な春画『蛸と海女』は成り立たない訳である。 半分凍った状態でT千穂に持っていき、脚二本を焼いてもらい後はしゃぶしゃぶにして北斎の身体役のじいさんとI夫妻と成仏させた。夜中の苦闘を思うと戦友を食したような気分が少々。
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