明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



水墨画の白といえば紙の色だが、絹布に描かれるようになると、そのくすんだ色から白い顔料が使われるようになる。雪舟の『慧可断臂図』の達磨大師はお馴染みの赤ではなく白い衣を着ているが、他に白い顔料は使われていないので、実は積雪の場面とは知らなかった。足で涙で描いた鼠が生きているように見えた雪舟も、ただの地面にしか見えない。 慧可が手にする切断した腕は、まるで家で血抜き処理をして来たかのように、血の滴りもない。お土産物じゃあるまいし。覚悟を表すという意味では、アウトレイジで中野英夫が指を噛み切ったように、その場で切断した、という話ではないかと思う。しかしそこが西洋的表現ではなく、あからさまには描かないのであろう。ところがよく見ると、切断面に薄っすらと赤い色が引かれている気がした。手持ちの図版では虫眼鏡で見ても判然としない。図書館で大きめの図版で見ると、僅かに赤が引かれていた。これは気が付くことはなかなかできない。私の場合はもう少し血を表現し、それに対応させ、達磨大師の衣も赤色にすることに決めた。

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