英語のリーディング、英日翻訳のむずかしいことのひとつに、「辞書に出ていない表現」の意味を突き止めるということがある。
ネイティブであれば、大体その意味とイメージはつかめるのだが、ノンネイティブにはそれがむずかしいことがある。
たとえば本年翻訳刊行予定の本に、次の表現があった。
Most of those present were further down the art world’s food chain, of course, such as the thirty-five-year-old London-based Russian art adviser who had risen from running the door at upmarket Moscow nightclubs to travelling between Moscow, New York and Bermuda buying art on behalf of wealthy Russians. Like scores of other voyeurs, she would raise her hand, holding an iPhone rather than a paddle, to record the bidding in wobbling videos destined for YouTube.
赤字にしたrunning the doorがよくわからない。work the doorであれば、信頼厚い「リーダーズ・プラス」に以下の定義がある。
work the door 《俗》 〈売春婦が〉売春宿のドアの前や窓際などに立ちセクシーなドレスや表情で客を誘う[引く].
これに近いと思うが、こういったときはインターネットの検索エンジンに、その表現をクォテーションマークで囲って検索してみよう。
この場合は、 “run the door”で検索すればよい。
すると、このサイトが見つかる。
https://splashthat.com/blog/how-to-run-the-door-vip-events
ここに書かれている内容から、「クラブの入り口で客を通す係」のことを指しているだと思われる。この人は女性だからごついbouncerとは違うが、「V.I.P.は別の入り口から早く通してあげるとか、機転を利かせる必要がある仕事」という感じだろうか?
であれば、こんな感じで訳せばよいだろう。
ここにいる多くの者たちは、もちろん彼らと違ってかつては美術界の食物連鎖のずっと下のほうにいた。たとえばそのなかに、以前はモスクワの高級ナイトクラブの入口前で客を選り分けるような仕事をしていたが、今はロンドンを拠点に、裕福なロシア人の代理人としてモスクワやニューヨークやバミューダを飛びまわって美術品を買い集める三十五歳のロシアの美術アドバイザーがいた。この女性はパドルを上げるのはなく、物めずらしさに訪れたまわりの大勢の者たちと同じように、iPhoneを掲げて、競売の模様をよろめきながらビデオ撮影し、あとでYouTubeに動画を投稿するのだ。
英語はむずかしいが、現代英語であればわからないということはない。毎日大量に英語を読んでみる、実際に自分で訳してみる、信頼できる人に訳文を見てもらうということが大切だ。そして自分で英語を使ってみる(書く、話す)ことで、英語を読んで訳すスピードも正確さも上がるように思う。