英和翻訳をしていると、原文はthisで記されているのだが、「これ」というより、「それ」とか「その」と訳したほうが自然ではないかと思うことが時々ある。それはまったくそのとおりで、thisが指すものが今、話者の目の前にない、場所も時間も離れたところに指すものであったりすると、そう思えてしまう。
だが、ここで注意してほしいのは、場所と時間は確かに離れているが、話者は「心理的にかなり近い」ととらえているのではないだろうか?
英語のthisにはこのような感覚があり、英和辞典にも定義されている。
信頼厚き『研究社 新英和大辞典』にはこの定義と用例がある。
1a [時間的・空間的・心理的に近いものを指して] これ, この物, この人 (cf. that1).
・What's all this I've been hearing about you and Max? 君とマックスについていろいろと聞いているが一体どういうことか.
注意してほしいのは、『新英和大辞典』の日本語の訳は「これ」を使わずに、「心理的に近いものを指している感じ」を見事に表現していることだ。これが研究社の辞書のすごいところだ。
よく英和翻訳をしているにもかかわらず、「自分は英英辞典しか引かないから」という人がいるが、英和辞典は英日翻訳のすぐれた訳例の宝庫であり、信頼できる英和辞典はぜひ参考にすべきだ。その点、研究社のオンライン辞書KODは大変ありがたい。
本日のGetUpEnglishはthisのこの意味の使い方を紹介する
例文をいくつか挙げる。
○Practical Example
“When this happened, I couldn’t believe my eyes.”
「まさに事件が起きた時、私は自分の目を疑った」
“This is exactly what we feared would happen.”
「まさに私たちが恐れていたことだ」
例文が短いので日本語の訳文には「それ」や「その」をあてるしかないかもしれないが、そもそも「それ」や「その」が何を指すのか読者にはわからないかもしれないから、状況によってはそれが指すものを具体的に出すのがよいように思う。
たとえば、「まさに事件が起きた時、私は自分の目を疑った」は「飛行機が堕ちた時、わが目を疑った」、「まさに私たちが恐れていたことだ」は、「暴動をわたしたちはまさにおそれていた」くらいにすれば、「話者の心理的な近さ」、「臨場感」や「緊張」が再現できるだろう。
●Extra Point
もう2例。
◎Extra Example
“I was devastated when this news reached me.”
「知らせが届いき、打ちのめされた」
“After all this, do you still think it was a good idea?”
「あんなことになっても、それがいい考えだったと思う?」