民主党は昨2月22日午前(2011年)開催の倫理委員会(委員長・渡部恒三最高顧問)で検察審強制起訴の判決確定まで党員資格停止処分とした小沢元代表から処分に対する弁明を聴取。小沢氏は「合理的な理由が見あたらない」などとして党処分の不当を主張。だが、同日午後開催の常任幹事会で党員資格停止処分の最終決定を下した。
小沢氏は常任幹事会に対してこの決定に不服を申し立てる方向で調整を進める予定だということだが、処分理由の全文を「MSN産経」が記事にしているから、参考引用してみる。
《民主党常任幹事会の決定全文》(MSN産経/2011.2.23 01:47)
民主党常任幹事会で決定した小沢一郎元代表への処分全文は以下の通り。
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2011年2月22日
民主党第514回常任幹事会決定
小沢一郎議員に対する党倫理規則の適用について
常任幹事会
1月31日、わが党所属の小沢一郎議員は、東京第五検察審査会の政治資金規正法違反被疑事件についての起訴議決にもとづき、起訴された。
本事案について常任幹事会は、2月15日に「小沢一郎議員に対する党倫理規則の適用」にかかる役員会発議について協議を行い、倫理規則第6条にもとづき倫理委員会の意見を聴く手続きを決定した。
これについて本日、倫理委員会より別紙の通り意見が答申されたことを受け、常任幹事会としてあらためて協議を行った結果、以下の結論に達した。
これまで、党所属国会議員が刑事事犯等に問われて逮捕・起訴等された場合には、離党届の受理もしくは倫理規則にもとづく処分を行ってきている。検察審査会の起訴議決後にもとづく起訴が通常の検察による起訴とは異なることについての一定の考慮は必要であるが、法にもとづき国会議員本人が起訴された事実は重い。
判決確定までは推定無罪の原則が働くが、それは検察による通常の起訴の場合も同様である。また、公訴事実の認定は司法判断に委ねられているところであり、処分の是非についての判断材料とすべきではない。
また、小沢議員に関しては、元秘書3名が逮捕・起訴されている。政治活動に関わり、秘書が逮捕・起訴された過去の事例を見ると、わが党所属議員に限らず、自らの政治責任を認め、公職の辞任や議員辞職、離党などの対応がなされている。
元秘書の逮捕等をもってただちに「倫理規範に反する行為」に該当するとは認められないものの、小沢議員の資金管理団体に関し、元秘書が逮捕・起訴されていることもあわせて考慮すべき事項である。
さらに、これまで執行部は役員会の決定にもとづき、政治倫理審査会に速やかに出席するよう要請してきたが、小沢議員はこれに応じていない。これについても、ただちに「倫理規範に反する行為」に該当するとは認められないものの、考慮すべき事項である。
したがって、常任幹事会としては、以上の経緯を踏まえつつ、法にもとづき小沢議員本人が検察審査会の起訴議決にもとづき起訴された事実を「倫理規範に反する行為」(倫理規則第2条第一号「汚職、選挙違反ならびに政治資金規正法令違反、刑事事犯等、政治倫理に反し、または党の品位を汚す行為」)と認め、その上で検察審査会の議決にもとづく起訴は通常の検察による起訴と異なる点があることを踏まえ、小沢議員に対して党倫理規則を適用し、当該事件の判決が確定するまでの間の「党員資格の停止」(倫理規則第4条第二号)とする。
なお、「党員資格停止期間中の権利制限等の指針」(2008年12月24日両院議員総会承認)において、「党員資格停止処分の期間は、一回の処分において原則として最長6カ月以内とする」とされているところであるが、裁判手続きに要する期間を予見することはできないため、当該指針の例外として、一般職公務員についての「起訴休職」を類推し、その期間を判決確定までの間とする。
また、判決結果如何により、別途処分が検討される場合があることを付記する。
以上 |
「公訴事実の認定は司法判断に委ねられているところであり、処分の是非についての判断材料とすべきではない」
ここにすべての問題点がある。司法判断がどう認定するか、無罪とするか、有罪とするか、判決が下されるまで誰にも分からない。例え倫理委員会と名付けようと常任幹事会と名付けようと、それらのメンバーにしても判断することはできない。当然、誰もが「処分の是非についての判断材料」とすることは不可能だが、「判決確定までは推定無罪の原則が働くが」と言いつつ、それを無視して、誰にとっても不可能な「処分の是非についての判断材料」に代えて自らの判断を持ってきて処分する独断を行っている。
このことは小沢氏の元秘書3名が逮捕・起訴されていることを以って、3名にしても有罪が決定するまでは推定無罪の状態にあることを問題外として、「政治活動に関わり、秘書が逮捕・起訴された過去の事例を見ると、わが党所属議員に限らず、自らの政治責任を認め、公職の辞任や議員辞職、離党などの対応がなされている」との理屈で小沢氏の政治責任に、無罪なら免れることになる可能性を無視して「推定無罪の原則」の状態にあるうちから結びつけていることによって起きている独断であろう。
「推定無罪の原則」と言いつつ、それを度外視して自らの判断を絶対としていることは最後の一文に如実に表れている。「また、判決結果如何により、別途処分が検討される場合があることを付記する」
「推定無罪」の状態にありながら、政治責任の名のもと、有罪か無罪かの判決が確定する前に党員資格停止処分とし、さらに「判決結果如何により、別途処分が検討される場合がある」と付記する。
政治責任の謂いが常に有罪だとする意識を背中合わせとした処分の経過を辿っているからこその有罪をより前提とした「別途処分」と言うことであろう。
もしそうでない、あくまでも純粋に政治責任に則った党員資格停止であり、「別途処分」は法的な「判決結果如何」に従う罰則だと言うなら、小沢氏に対して処分を下した側も、有罪か無罪かによって政治責任自体が大きく変化するはずだし、場合によっては消滅する可能性も考え得るのだから、そうなった場合の自分達の政治責任をも対比させておくべきだろう。
有罪か無罪か分からない「推定無罪」の状態のうちから小沢氏の政治責任のみを問い、「推定無罪」を無視することの自分達の政治責任を対比させないのは公正な態度とは言えない。
相手は小沢一郎である。無罪であった場合は議員辞職を以って自らの政治責任としますぐらいは書くべきだろう。
菅首相がぶら下がりで小沢氏に対する党員資格停止処分について発言している。《小沢氏処分決定「党のけじめとして」 22日の菅首相》(asahi.com/2011年2月22日20時26分)
――先ほど民主党の常任幹事会で、小沢元代表の処分について党員資格停止を判決確定まで実施すると決定した。これで党としてのけじめはついたか。
菅首相「はい。丁寧な手続きを経て、党のけじめとしてですね、決めたと。このように私は理解しています」
――一方で、小沢元代表は党倫理委員会に対して「検察審査会と検察による起訴は違う」「規約以上の党員資格停止期間は著しく不穏当」などと主張した。どのように受けとめるか。
菅首相「今申し上げたとおり、きちんとですね、丁寧な手順を踏んで、そういう小沢元代表からの主張もきちんとですね、倫理委員会で聞いたうえで、けじめを付けたということです」――
百歩譲って処分を党のケジメとすることは無視するとしても、菅首相が民主党を統轄する党代表であり、内閣運営の最終責任者である以上、倫理委員会や常任幹事会のメンバー同様に処分の結果起こり得る党内状況の変化、政権運営の障害が生じた場合の自らの結果責任をどうつけるかのケジメを対比させないのは公平な態度とは言えないし、覚悟の所在さえ見い出し得ないことになる。
「ケジメをつけた結果、何が起ころうと、どのような責任も負います」の覚悟のケジメ意識が小沢処分と対比させた菅首相自身の政治責任であり、そのような覚悟を持って処分を行ったとする政治責任の経過を辿るべきだが、「党のケジメ」を言うだけで、そのことに対比させた自身の責任に言及しない態度からは覚悟も結果責任意識も何ら感じ取ることはできない。
指導力は結果責任意識を常に強く保持し、結果責任を常に負う前提意識で行動することによってよりよく発揮し得る。指導力を元々欠いているから、党のケジメを言うだけで、自身のケジメとすべき結果責任意識が前面に現れることがないのだろう。 |