前原外相の首相1年交代が北方四島返還交渉の障害は責任逃れの逃げ口実

2011-02-27 07:58:10 | Weblog

 

 昨2月26日(2011年)土曜日の日本テレビ「ウエークアップ!ぷらす」に電話出演して、北方四島の返還解決には安定した政権が必要だと発言したといくつかの記事が伝えていた。

 私自身はロシアが第2次世界大戦の結果得た戦利品だとしている主張を覆す論理の構築・創造が解決の唯一のカギだと見ていたし、その線に添って2月16日(2011年)に《菅首相はロシア北方四島見解「第2次大戦の結果認めよ」を乗り超える否定論理構築の責任を負う - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》をエントリーしていたから、前原発言は非常に奇異に感じた――と言うよりも、正直に言うと何をバカげたことを言っていると思った。

 日本側の領有根拠は一貫して「北方四島は歴史的に見ても国際法上も日本固有の領土である」だが、ロシア側の「第2次大戦の結果」論は北方四島に関わる日本の歴史と国際法を第2次世界大戦が断ち切ったとする意味を持たせているのである。

 当然、日本側は第2次世界大戦以後も日本の歴史と国際法は継続して生き続けていることの証明が必要となる。「第2次大戦の結果認めよ」を乗り超える否定論理の構築である。

 このことは戦争に譬えるとよく理解できる。相手が「正義」を大義名分に掲げて戦争を仕掛けてきた場合、その戦争を受けて立つ側は武力で相手を負かすだけでは国際世論は納得せず、相手の「正義」だとする大義名分を実体は「非正義」に過ぎないとする自らの「正義」を実地に打ち立てることが必要となり、現実に打ち立てて国際世論をも納得させることができる。

 いわばロシア側の「第2次大戦の結果認めよ」に対して日本側の「第2次大戦の結果」は認められないとする論理・根拠の構築である。

 日本が行うべきはこの一点だと思うが、間違っているだろうか。

 上記記事では直接触れなかったが、「第2次大戦の結果」論を否定する論理として私の念頭にはこれまでも様々なブログ記事の中で紹介してきた《北方四島返還の新しいアプローチ/先住アイヌ民族と現住ロシア人との共同独立国家とする案 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いてあるアイヌ民族の領有としてアイヌ民族に返還、北方四島在住のロシア人との共存国家があった。

 この「第2次大戦の結果」の主張は最近の主だったところでは最初に紹介した2月16日のブログ記事に書き入れているが、2月15日にラブロフ露外相自身が直接発言している。

 ラブロフ外相「第2次世界大戦の結果を認めるという他の国がしていることを、日本がする以外に方法はない」

 ラブロフ外相のこの発言は菅首相が2月7日(2011年)の北方領土返還要求全国大会で2010年11月1日の「メドベージェフ大統領の国後島訪問は許し難い暴挙だ」と挨拶したことに対抗させた北方四島ロシア領有の正当性を主張する発言であるが、趣意は「北方四島を諦めろ」と言うことであろう。
 
 因みに浅野貴博新党大地衆院議員が菅内閣に提出した菅首相の「許し難い暴挙」発言に関わる質問主意書に対する答弁を《北方領土 露大統領への首相「暴挙」発言「国民の声を自らの言葉で述べた」と政府答弁書》MSN産経/2011.2.25 12:01)が伝えている。

 答弁「北方領土問題を一刻も早く解決してほしいと強く願う日本国民の思いを自らの言葉で述べたものだ。発言がわが国の国益を損ねたとは認識していない」――

 記事は質問主意書の内容を伝えていないが、浅野貴博議員の公式WEB《浅野貴博》に2月25日の衆議院予算委員会で前原外相に、「菅総理は2月7日の北方領土返還要求全国大会で、ロシアのメドベージェフ大統領の国後島訪問を『許しがたい暴挙』と形容したが、この発言は菅総理が自分で考えたものか」と質問していることを書き入れている。

 前原外相の答弁は、「菅総理の発言は、領土問題解決に向けた国民の思いを受け、総理自身が行ったもの。総理の発言一つ一つについて自分がコメントすることはない」となっている。

 閣議は一般的には火曜日と金曜日の午前中に行われると言うことだが、この2月25日は金曜日に当り、予算委開催前に行った閣議で決定した質問主意書に対する答弁に添った前原外相の答弁なのかもしれない。

 要するに「許し難い暴挙」は国民の思いを菅首相が代弁した。だが、実際はロシア側からより強硬な「第2次世界大戦の結果」論を炙り出すこととなった。

 こういった状況からも、日本側が「歴史的に見ても国際法上も我が国固有の領土だ」と主張する以上、ロシア側の「第2次大戦の結果」論を打ち破る歴史論・国際法論を構築・創造し、ロシア側と堂々と渡り合う以外に返還の方法は見い出すことができないことにならないだろうか。

 では、前原外相が土曜日のテレビの電話出演でどのような発言をしたか、記事に当たってみる。《首相1年交代、相手にされず=ロシアとの北方領土交渉-前原外相》時事ドットコム/2011/02/26-11:25)

 ロシア側が「第2次大戦の結果」を根拠に北方領土の領有権を主張していることに関して――

 前原外相「先方がいろいろな球を投げてくる。交渉術と言ってもいいかもしれない」

 ロシア側が北方四島領有正当性の根拠と看做して、「第2次大戦の結果」ロシア領となったとする意志に立って着々と開発を進め、軍事的な備えをも高めて実効支配を強固なものにしようとしている姿勢を前にして、果して「交渉術」で片付けていいのだろうか。

 どこか感覚がずれているとしか思えない。

 北方領土返還交渉の要件について―― 

 前原外相「安倍さん(晋三元首相)以降、だいたい1年くらいで首相が代わっている。こんな国とはまともに議論できないなというのが向こう(ロシア)側から透けて見える。安定した政治をつくらないと、どっしりした相撲は取れない」

 1年やそこらで内閣が変わったのでは相手も足許を見て満足な交渉はできない。長期政権が必要だと示唆している。

 これは間接的には菅内閣長期政権を望む意図を含んだ発言なのだろうか。だが、菅内閣長期政権ということなら、次期首相の声が高い前原外相の首相就任の時期は遠のくことになる。

 だとすると、前原政権となった場合の長期政権の必要性を訴えた発言なのだろうか。だが、長期政権はリーダーが自ら求めるものではなく、自身の指導力、統治能力、政治的創造性によって構築していくものであるはずである。「どっしりした相撲」を取るも取らないもリーダー自身の資質に負うということである。

 また、北方四島に関わる日本の歴史と国際法を第2次世界大戦が断ち切ったとするロシア側の「第2次大戦の結果」論を打ち破る方策として短期政権とか長期政権が果して要件となるのだろうか。

 外交の中でも北方四島返還は政権に関係なく継続性を保持しなければならない重要課題であるのだから、有識者を交えたチームをつくってロシア側の「第2次大戦の結果」論に対抗する日本側の否定論の構築を図ったなら、長期政権、短期政権、あるいは1年くらいの首相交代は問題ではなくなるはずである。

 要は「第2次大戦の結果」論打破の一点のみにかかっているはずだからだ。

 枝野幸男官房長官が24日の衆院予算委員会で自民党の下村博文氏の質問に答えて、我が国固有の領土である北方領土や竹島について「法的根拠のない状態で支配されている」と答弁したと、《枝野氏、北方4島と竹島は「法的根拠ない状態の支配」 「不法占拠」は避ける》MSN産経/2011.2.24 11:04)が伝えている。

 記事題名が書いているように、「不法占拠」発言を避けた「法的根拠ない状態の支配」だとする新しい対抗論ということらしい。

 詭弁家枝野「法的根拠のない状態で支配されている」

 詭弁家枝野「北方4島、竹島については歴史的にも法的に見ても、他の国がそこを事実上、支配する根拠はない。一般的にそういった事実上の支配は実効支配とはいっていない。わが国として、実効支配されていることを認めることはできない立場は明確だ」――

 枝野発言は単に日本の立場を述べているだけのことで、相手国の実効支配を脅かす力さえも備えていない。
 
 記事は最後に〈ロシアの北方領土や韓国の竹島への不法占拠については外務省がホームページで明確に主張しているが、民主党政権は相手国への配慮のため、記者会見などで「不法占拠」と明言することを封印している。〉と書いているが、「不法占拠」と言おうと、「法的根拠のない状態の支配」と言おうと、ロシア側の「第2次大戦の結果」論を論破する内容を備えた「不法占拠」、あるいは「法的根拠のない状態の支配」だと根拠づけることができなければ、何ら意味を持たない言葉となる。

 詭弁家枝野官房長官のこの「法的根拠のない状態の支配」発言に対してロシア側が早速反応している。《ロシア「北方領土領有は合法」 ヤルタ協定、国連憲章など論拠に》MSN産経/2011.2.24 22:57)

 2月25日の声明発表となっている。

 ロシア外務省「ロシアはこの領土(の領有)に関して必要な全ての権利を有している。ロシアの主権は完全に合法的で疑う余地はない」

 記事は、〈声明は領有権主張の根拠を「第二次大戦の結果」とし、それがヤルタ協定▽ポツダム宣言▽サンフランシスコ講和条約▽国連憲章107条(旧敵国条項)-で認証されたとしている。〉と解説している。

 ロシア側が2月25日に以前から主張していたことを改めて、ヤルタ協定、ポツダム宣言、サンフランシスコ講和条約、国連憲章107条(旧敵国条項)を根拠に挙げて北方四島の領有はロシアに帰属したと、あるいは間接的に北方四島に関わる日本の歴史と国際法を断ち切ったとして「第2次大戦の結果」論を掲げたのに対して、その「第2次大戦の結果」論を打ち破る強力な論理の構築・創造を行うべきを、前原外相は翌2月26日のテレビ電話出演で、ロシア側の「第2次大戦の結果」論を、「先方がいろいろな球を投げてくる。交渉術と言ってもいいかもしれない」と単なる「交渉術」だと判断している。

 どう考えても、返還交渉の解決困難を1年程度の首相交代ではどっしりとした交渉ができない障害だと理由づけることで責任逃れする逃げ口実にしか思えない発言としか受け取ることができない。

 次期首相の呼び声が高いが、この程度の判断能力・責任能力しか示し得ない男を首相にしてもいいのだろうか。例え首相になる幸運に見舞われたとしても、自身で返還交渉の要件として「1年くらいで首相が代わ」らない「安定した政治」を掲げたとしても、「1年くらいで首相が代わ」る同じ繰返しが待ち構えているようにしか思えない。

 菅首相もきっとそうなるに違いない同じ仲間入りということである。


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