カダフィの市民殺戮/菅首相は通り一遍の非難で、前原は口先だけ強い非難

2011-02-26 09:21:15 | Weblog



 リビアで40年以上も独裁体制を敷いているカダフィ政権に対する民主化を求める反政府デモ隊の活動が多くの死傷者を出しながらも激しさを増している。リビア軍から離反者が出て反政府集団に味方する者、体制側からもカダフィ大佐の辞任を求める要職者や抗議の辞職を行う者が出現しているだけではなく、リビア第2の都市ベンガジが反政府勢力の支配下に入り、東部の主要都市でも反政府活動が活発化、それが首都トリポリにも波及、政府軍のデモ隊に対する攻撃で少なくない死傷者を出しているというから、最早反政府デモと言うよりも、内乱に近い状態になりつつあるのではないのか。

 リビアはカダフィ大佐を頂点に独裁体制を敷き、言論の抑圧、住民監視、体制批判者の拘束・収容、一族の権力と富の独占等々反民主体制下にあるのだから、国民自身が政府を選択し、政治に参画できる民主化は必然としなければならない。リビアに於いても民主化のレールは敷かれなければならないことを絶対としなけれがならないということである。

 反政府活動が激しさを帯び、対してカダフィ大佐が徹底抗戦を宣言、政府軍と衝突して死傷者が増えるに及んで日本の菅首相と前原外相がカダフィのリビア非難に出た。西側諸国首脳の非難に追随したのかもしれない。

 先ずは菅首相の非難。《首相 カダフィ政権を強く非難》NHK/2月25日 11時58分)

 何しろ市民・国民の味方、自称元市民派である。この自称と言うこと程信用が置けないものはない。

 菅首相「中東情勢が大変緊迫している。中でもリビアの情勢では、多数の死傷者が出ていて、政府側による攻撃があるということで、これは許されない行動だ。何としても平和裏に改革が進むことを求めたいし、安定した政権の在り方が実現されることを望んでいる」

 菅首相「この地域の動向は、経済やエネルギー、特に石油の問題に大きな影響を与え、わが国の経済にとっても、いろいろな形で影響するので、しっかりと情報を把握し、各省庁連携のもとで対応してほしい」

 菅首相は2月7日(2011年)午後、東京都千代田区で開かれた北方領土返還要求全国大会で次のように挨拶している。

 菅首相「北方四島問題は、日本外交にとって、極めて、重要な、課題であります。昨年、11月、メドベージェフ、ロシア大統領の、・・・・・北方領土、国後島、訪問は、許し難い暴挙であり、その直後の、APEC首脳会談の際に行われた、私と、メドベージェフロシア大統領との、会談に於いても、強く抗議をいたしました」

 メドベージェフ大統領との会談で「許し難い暴挙」という強い憤りの意志で抗議したとしたら、会談後の記者会見でも、会談に同席した福山長官の記者会でもそのことを国民に伝えたはずだが、「NHK」記事が公にした菅首相の発言は「北方四島は我が国固有の領土である」と、「大統領の北方領土訪問は、国民感情からも受け入れられない」の2点のみで、メドベージェフ大統領の発言は「私が自らロシア領土への訪問を決定した」の1点であった。

 だが、会談があった11月13日に会談終了後、メドベージェフ大統領はツイッターに次のように投稿していた。

 メドベージェフ大統領「日本の首相に会い、解決できない論争より経済協力の方が有益だと伝えた」

 しかしこの情報は政府側から発表されなかった。メドベージェフロシア大統領のツイッター発言はあくまでも北方四島はロシア領土であるとする意志を前提とした経済協力提案となっているために都合が悪いから発表しなかった、いわば隠したとしか考えることができない。

 このような情報隠蔽の経緯からすると、とても「許し難い暴挙」だとする強い憤りの意思で抗議したとは思えない。事実抗議したと解釈したとしても、何ら相手に通用しなかった「許し難い暴挙」の憤りだったことになる。

 現実問題としても会談後もロシアの北方四島開発が着々と進められ、尚且つ要人の訪問が続いている状況からしても抗議が何ら効果がなかったことの何よりの証明となっている。

 こういった現実の状況を無視して北方領土返還要求全国大会での挨拶だからと言って、「許し難い暴挙であり、その直後の、APEC首脳会談の際に行われた、私と、メドベージェフロシア大統領との、会談に於いても、強く抗議をいたしました」などと発言するのは後で強がる犬の遠吠え――口先だけで強がった言葉に過ぎないことになる。
 
 そして今回はリビア政府軍の反政府活動鎮圧活動を受けた一般市民殺傷を指して、「許し難い暴挙」ではなく、「許されない行動だ」と非難した。言葉を替えて言うと、菅首相の感受性は、あるいは情報解読能力は市民殺傷を「許し難い暴挙」と把握したのではなく、「許されない行動だ」と把握した。

 この市民殺傷が住民監視を行い、政府批判者を政治犯として逮捕・収容する人権抑圧の強権政治・独裁権力維持の発動を背景としていることを考慮したなら、基本的人権や民主主義を信じる一般的な感覚からしたなら、「許し難い暴挙」に見えるはずだが、菅首相にはより弱い表現の「許されない行動だ」ぐらいにしか見えなかった。その程度の感受性の持ち主であり、情報解読能力しか持ち合わせていなかった。

 だからだろう、「この地域の動向は、経済やエネルギー、特に石油の問題に大きな影響を与え、わが国の経済にとっても、いろいろな形で影響するので、しっかりと情報を把握し、各省庁連携のもとで対応してほしい」と指示することができた。

 リビアに於いても例え少なくない犠牲が生じたとしても国民自身が政府を選択し、政治に参画できる民主化を必然としなければならない政治状況を第一義的に求めるべきを求めずに、既に穏健な解決が望みようもないこの場に及んでも平和裡な改革と安定した政権の実現という穏健且つ無難な解決を望んでいるからこそ、「許し難い暴挙」ではなく、「許されない行動だ」の言葉を選ぶことになったに違いない。

 菅首相が一般市民のある程度の犠牲は止むを得ない代償だとして、国民自身が政府を選択し、政治に参画できる民主化を必然とすべきだと第一義的に求めるだけの感受性を備えていたなら、そういった情報解読者であったなら、カダフィ独裁体制と民主化闘争との戦いによって石油問題に悪影響を与え、日本経済に打撃を与えることになったとしてもリビアの民主化達成までの我慢だとして、そのことへの国内的備えを優先させる指示を出したろう。

 だが、カダフィの市民を犠牲とする軍事攻撃を批判しているものの、同時に国内経済への悪影響を考慮したのは実質的には国民自身が政府を選択し、政治に参画できる民主化の必然性への視線を持たなかったからだろう。

 いわば、自称元市民派だけあって、リビアの民主化よりも石油問題が与える自国経済をより優先させていた。だから、平和裏な改革の進展と安定した政権の実現を求めることとなった。

 前原外相もリビアを非難している。《リビア制裁、慎重に検討=前原外相》時事ドットコム/2011/02/25-15:02)

 25日の記者会見――

 前原外相(リビアへの制裁について)「議論はしていくが、リビアにいる何の罪もない方々のことを考え、慎重に対応しなくてはいけない」

  前原外相「無辜(むこ)の一般市民まで銃を使って無差別に殺傷するリビア政府は人道上絶対に許されない。カダフィ大佐は頭を冷やして考え直してもらいたい」――

 「カダフィ大佐は頭を冷やして考え直してもらいたい」とはなかなか勇ましい非難言葉となっている。誇り高い一国のリーダーに対して遠い国のたいしたこともない外務大臣が「頭を冷やせ」と言ったのである。勇ましい言葉でなくて何であろう。

 だが、この勇ましい言葉が実質的にカダフィの頭を冷やすに効果のある言葉となるかどうかが問題となる。頭を冷やさせる言葉とならなければ、菅首相の「許し難い暴挙」と同様、強がっただけの犬の遠吠えで終わる。

 リビアに於ける現下の状況は既に銃撃戦に入って片方のカダフィは徹底抗戦を呼びかけているのだから、現状ではカダフィ自らの意志による退陣は考えにくく、カダフィ独裁政権を倒すか、果たせずに反体制派が葬り去られるか、双方共に一気に決着をつけなければならない、どちらも引けない緊迫した分岐点に突入していると見なければならない。当然、西側の民主国家は当面の石油問題よりも反体制派が勝利する形の決着を望んでいるはずであり、アメリカ以下の西欧諸国が模索している制裁はカダフィの力を削ぎ、反体制派に有利な支援をとなる措置を望んでいるはずで、まさか石油問題を優先させたその逆ではあるまい。

 要するに緊急な決着が望まれるこの切迫した状況を考慮したなら、制裁がもたらすかもしれない市民の困難への回避を選択するよりも制裁によってカダフィの力を削ぎ、反体制派の民主化活動に力を与えて一気の決着に持っていく方策を選択すべきを、日本の前原外相は「リビアにいる何の罪もない方々のことを考え、慎重に対応しなくてはいけない」と前者を選択する、緊急な決着に役立たない悠長な発言となっている。

 また、「無辜(むこ)の一般市民まで銃を使って無差別に殺傷するリビア政府」の行為を「人道上絶対に許されない」と言うなら、それを阻止する方策を取って、言葉は初めて実効性を備えることができる。そうでなければ相手に通じないまま言っただけ、言葉のままで終わることになる。

 だが、制裁に慎重ということなら、あるいはこれまでの例が示しているようにアメリカ以下の西側諸国が制裁に出たなら、それに追随して制裁に出るということなら、カダフィの頭を冷やさせるどころか、前原外相の言葉は実質的には体裁上の言葉に過ぎないことを暴露することになる。

 口先番長と揶揄されているだけあって口先だけで言った「人道上絶対に許されない」であり、「カダフィ大佐は頭を冷やして考え直してもらいたい」が正体の制裁に慎重な姿勢ということであろう。

 外務大臣という立場上、あるいは次の首相と期待されている立場上、強く非難して目立たなければならなかった役柄上の義務感が色濃く出た発言と見たが、どうだろうか。


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