防衛省が謳う「米軍の意義」が尖閣諸島・北方四島の「日本固有の領土」問題に役立ったのだろうか

2011-06-02 11:41:04 | Weblog



 今朝のWeb記事、《「米軍の意義」に沖縄県が異議 防衛省パンフに質問状》asahi.com/2011年6月2日0時58分)

 記事は沖縄県が防衛省作成パンフレット「在日米軍・海兵隊の意義及び役割」に「沖縄は朝鮮半島や台湾海峡といった潜在的紛争地域に近い」と記載していることは在日米軍が沖縄に集中する利点を強調する内容だとして反発していると伝えている。

 北沢防衛相が先月の来沖時に仲井真知事に渡し、沖縄防衛局が県内各市町村長にも配布したという。

 仲井真弘多知事が纏めるように指示した反論としての質問状を6月1日、上京中の与世田兼稔(よせだ・かねとし)副知事が北沢俊美防衛相充てに提出したという。

 質問状の内容。

 昨年5月に鳩山由紀夫首相(当時)が県外移設断念の経緯について「四十数カ所で可能性を探った」としていることに対して「これらの検討結果を明らかにし、県外移設を再検討するよう強く求める」としている上に、そもそも政権交代時にどんな認識で県外移設を唱えたのかとの説明も求めている。

 〈パンフレットはA4判で20ページ。Q&A方式で、米軍普天間飛行場の移設について「国外県外を含め、多数の候補地について検討した」が、「グアムなどに移設すると国際社会に誤ったメッセージを送る」などとしている。〉――

 この防衛省作成のパンフレットをインターネットで探したが、見つからなかった。但しPdf 記事で紹介されている。最も記事にある「グアムなどに移設すると国際社会に誤ったメッセージを送る」の文言は記載されていない。北沢防衛が沖縄配布用に防衛省に指示して書き加えたのかもしれない。

 書き加えたとしたら、沖縄の国外・県外移設意志にブレーキをかける企みを働かせた操作となる。

 Pdf記事から必要と思われる箇所を抜粋してみた。 

 「在日米軍・海兵隊の意義及び役割」(平成22年2月 防衛省

4在沖米海兵隊の意義・役割-沖縄の戦略的位置

1米海兵隊の沖縄駐留の理由

○沖縄は、米本土やハワイ、グアムなどに比較し、東アジアの各地域に対し距離的に近い。→この地域内で緊急な展開を必要とする場合に、沖縄における米軍は、迅速な対応が可能。

○また、沖縄は我が国の周辺諸国との間に一定の距離を置いているという地理上の利点を有する。

2在沖米海兵隊の意義・役割

○在沖米海兵隊は、その高い機動性と即応能力により、我が国の防衛をはじめ、06年5月のインドネシアのジャワ島における地震への対応など地域の平和と安全の確保を含めた多様な役割を果たしている。→地理的特徴を有する沖縄に、高い機動力と即応性を有し、様々な緊急事態への一次的な対処を担当する海兵隊をはじめとする米軍が駐留していることは、我が国及びアジア太平洋地域の平和と安定に大きく寄与。

「日米同盟:未来のための変革と再編」(2005年10月29日)抜粋

○普天間飛行場移設の加速

沖縄住民が米海兵隊普天間飛行場の早期返還を強く要望し、いかなる普天間飛行場代替施設であっても沖縄県外での設置を希望していることを念頭に置きつつ、双方は、将来も必要であり続ける抑止力を維持しながらこれらの要望を満たす選択肢について検討した。双方は、米海兵隊兵力のプレゼンスが提供する緊急事態への迅速な対応能力は、双方が地域に維持することを望む、決定的に重要な同盟の能力である、と判断した。さらに、双方は、航空、陸、後方支援及び司令部組織から成るこれらの能力を維持するためには、定期的な訓練、演習及び作戦においてこれらの組織が相互に連携し合うことが必要であり続けるということを認識した。このような理由から、双方は、普天間飛行場代替施設は、普天間飛行場に現在駐留する回転翼機が、日常的に活動をともにする他の組織の近くに位置するよう、沖縄県内に設けられなければならないと結論付けた。

 「米本土やハワイ、グアムなどに比較し、東アジアの各地域に対し距離的に近い」、「周辺諸国との間に一定の距離を置いているという地理上の利点を有する」、「地理的特徴を有する」等々、軍事上の地理的有効性のみから沖縄を価値づけている。

 沖縄の負担軽減を謳っていたとしても、地理的有効性優先をスタンスとしていて、歴史的にも現実生活上も負わされている沖縄県民の負担感に向ける視線は乏しい。

 最後の「普天間飛行場代替施設は、普天間飛行場に現在駐留する回転翼機が、日常的に活動をともにする他の組織の近くに位置するよう、沖縄県内に設けられなければならないと結論付けた」が言っていることは「回転翼機」を沖縄県内移設の要件の一つとしていることになる。

 米空母に載せてアジア大陸に近い太平洋上を回遊させてもその機能は果たせるはずであるし、どうしても「他の組織の近くに位置」させることが安全保障上の絶対条件だというなら、「他の組織」共々本土内、もしくは国外に移動願ってもその機動力を果たせないわけではあるまい。

 記事では、「グアムなどに移設すると国際社会に誤ったメッセージを送る」となっているが、沖縄に米軍を現状どおりに駐留させたとしても、常に“国際社会に正しいメッセージを送る”保証となり得るのだろうか。

 「双方は、米海兵隊兵力のプレゼンスが提供する緊急事態への迅速な対応能力は、双方が地域に維持することを望む、決定的に重要な同盟の能力である」と地理的に沖縄を絶対条件とし、他地域を排除している。

 確かに日米安全保障に基づいた沖縄を含めた日本に於ける米軍の存在、あるいは日本の軍隊である自衛隊の存在、それらの軍事力は対外的には中国や北朝鮮に対する睨みとして役立っているだろうが、2010年9月7日の尖閣諸島中国漁船衝突事件に端を発した日中間の領土問題、経済的・政治的摩擦とその解決に沖縄駐留米軍の存在ばかりか、日米安保条約すら役立ったと言えるだろうか。

 衝突事件で日中間に諸問題が持ち上がっている最中の2010年9月7日に当時の日本の前原外相がクリントン米国務長官と会談、クリントンから「尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象範囲内である」の言質を引き出したが、そのことが菅政権の対中外交に有効に役立ったと言えるのだろか。

 また、日米安保条約の存在、米軍の日本に於けるプレゼンスが中国の尖閣諸島領有を阻んでいるとする主張があるが、中国が軍事力で強引に領有に動いたなら、国際世論が許さないだろうし、中国との間で南沙諸島等で領有権を争っているフィリピンやベトナム、マレーシア、台湾などが尖閣諸島領有の正当性を中国に与えた場合、その正当性は自分たちの領有問題にも適用されない保証を失うことになり、決して認めることはできないに違いない。

 外交問題で往々にして軍事力が役立たないのは侵略が横行した植民地主義時代ならいざ知らず、現在の民主主義を価値観とする世界に於いて、それを国家体制の価値観としない少数国家が存在したとしても、軍事力が外交力の生殺与奪の権を握っているわけではなく、外交力が軍事力の生殺与奪の権を握っているからだろう。

 外交力を間違えると、行使した軍事力も間違えることとなり、世界を敵に回すことになる。

 また外交力を無視して軍事力を行使した場合も世界を敵とすることになる。

 ということは、基本は軍事力以上に外交力の質が問題となる。

 2010年11月1日のメドベージェフ大統領国後島訪問は尖閣問題で見せた日本の弱腰外交(当時の仙谷官房長官に言わせると、「柳腰外交」と言うことになるが)の足許を見て決行したとする説があるが、それが事実とすると、外国との関係を正常に保つことができるか否かは何よりも外交力の質が問題となることの証明ともなる。

 尖閣諸島中国漁船衝突事件に端を発した日中間の摩擦では何よりも日本の外交力が問われた。断固・毅然とした姿勢を示し得ず、国家の主体性を失わせしめた。

 中国が日本が必要とする物資・資源等の禁輸等の措置で日本に対して政治的圧力をかけてきたとしても、日本の経済的存在力は中国も必要としている。中国人観光客は激減して観光業が打撃を受けたが、中国向けの日本人観光客も激減して中国経済にそれ相応の打撃を与えたはずだ。

 経済的に相互が依存関係にある以上、一方の打撃では済まない。双方が傷つくことになるから、それが修復不可能状態にまで決定に傷つく前に関係修復に動かなければならない。

 いわば経済的にも政治的にも良好な関係にあった国と国が例え敵対関係に陥ることになったとしても、例外はあるかもしれないが、一般的には一時的な関係悪化で終わるということである。

 関係が修復し、経済関係が元の状態に回復したときに残る評価は、あるいは当初からのこととして何よりも問題とされることは関係が悪化したとき国として採る外交姿勢であり、外交力であろう。

 それが劣った能力として提示された場合、悪しき学習を相手国に与え、外交交渉の様々な場面で相手国に足許を見られたり、侮りを与えたりする。

 日本を経済大国と認めてはいても、政治的・外交的には二流国、三流国と侮っている国は多く存在するに違いない。

 政治・外交の主体性の確保・維持こそが国家の主体性の確保・維持につながる。軍事力以前の問題として必要不可欠な国家の要素であるはずである。

 政治的・外交的主体性を持ち得ないゆえに外交力に劣った国が肥大した軍事力を持った場合、往々にして対外的に権威主義的な危険な態度を取ることになる。

 断固とした政治的・外交的主体性に立脚した国家の主体性を伝統とすることによって外交力は力を発揮し得る。

 日米関係の維持・発展を最重要課題としている当の米国内にも日本の政治力・外交力を二流国並み、三流国並みと侮っている政治家、識者が多く存在するかもしれない。

 一般的には軍事力ではなく、外交力こそが国家の主体性を保証する力となり得ている以上、軍事力を補う国力として外交力を磨くことが国益確保の道となる。日本の外交力を向上させることによって、沖縄の軍事的な地理的有用性を減少させることができるはずだ。

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