小沢元代表が8月25日、自らに近い議員に対して次のように発言したと言う。
小沢元代表「前原氏では日本がつぶれてしまう」(NHK NEWS WEB)
朝日新聞が行った8月25、26の両日、全国緊急世論調査(電話)では次期首相適任者では前原誠司がダントツの40%を掻き集めている。海江田万里と原口一博が5%、野田佳彦と馬淵澄夫が4%、小沢鋭仁が3%、鹿野道彦が1%、樽床伸二が0%、その他・答えないが19%・・・・
他候補から比べた前原の40%の支持は天文学的な数字、独り占めと言える。この40%だけを見たら、とてもとても「日本が潰れてしまう」どころか、日本国期待の星、沈みゆく日本を救う救世主の出現に思える。
問題は国民の前原に対するこの高い期待が結果に結びつくかどうかである。
今朝3時頃投稿したツイッター。〈朝日新聞世論調査では次期首相適任者は前原40%。まさかと思うが、顔がいいからと女性陣、あるいはオバサン連中が大部分を占める40%?かつて橋本龍太郎元首相は歌舞伎俳優似の顔だからと「龍様」と呼ばれてオバ様たちから大いなる支持を受けた。小泉元首相も女性に支持受けした。〉――
前原誠司は民主党代表だった2005年12月9日、米戦略国際問題研究所で行った講演で勇ましいばかりに次のように発言。
前原誠司「中国の軍事的脅威に対して日本は毅然とした態度を取るべきである」(Wikipedia)
日本に向けた中国の軍事的脅威がさも目の前に迫っているかのように言い、それに対して「日本は毅然とした態度を取るべきである」とした。余りにもストレート過ぎる中国認識であると同時に余りにもストレート過ぎる日本の対抗意識となっている。
言ってみれば、お前がその気なら、こっちだって考えがあるぞの喧嘩腰の挑戦状の叩きつけとも言える。
前原は講演で日中の経済関係や文化交流等にも言及しただろうが、中国の存在は軍事的に脅威だと中国と日本の関係を単純化したのである。
「中国の軍事的脅威」を日本に対する重点的且つ喫緊の関係と把えたこのような単純化は当然、経済関係や文化交流等の他の関係を相対的に無力化させる。
軍事的脅威が日本に対する侵略とか軍事的攻撃といった具体的意志の形を取っていたなら、前原の主張は例え口先だけの強がりであっても正当性を得るが、そうではなく、単に軍事力増強を謀っているだけのことなら、政治指導者は経済関係や文化交流等の他の関係を強めて、逆に「中国の軍事的脅威」を相対的に無力化させる方法を講ずるべきではなかっただろうか。
戦争をしたなら、経済的にも文化的にもお互いに傷つく関係に持っていくということである。日中が戦争をした場合、中国の経済的損失は何兆円、日本の経済的損失は何兆円といったふうに試算し、それを公表するのも一つの手かもしれない。
前原の「中国軍事的脅威」論は当然中国は激しく反発した。前原はそのことを予想し、その先を計算した中国の軍事的脅威を相対化する何らかの戦略性を持っていたのだろか。
いわば中国の反発を問題としない、中国の軍事的脅威を相対化する何らかの戦略性を保持した上で、「中国軍事脅威」論を主張したのかということである。
前原は米戦略国際問題研究所の講演のあと中国を訪問、中国側は前原と中国要人との会談を拒否。
前原誠司「(率直に物を言わぬ上辺での)友好は砂上の楼閣になってしまう」(Wikipedia)
要するに話し合いを持たない「友好は砂上の楼閣になってしまう」と話し合いの必要を訴えたということなのだろうが、中国を相手とした場合は会談拒否を予想していなければならなかったことだったし、例え話し合いを持ったとしても、言葉で「中国軍事的脅威」論を相手に納得させようとしたとしても相手の反発を一層高めるだけのことは目に見えている。
直接的な言葉が通じないということなら、わざわざ米戦略国際問題研究所で「中国軍事的脅威」論を持ち出すまでもなく、民主党の政治指導者として粛々と中国の軍事的脅威を相対化する外交的・経済的・文化的な戦略を構築し、対中外交に役立てることをすればよかったということになる。
一つの政党の指導者でありながら、前原の「中国軍事的脅威」論は外交という点で単純・単細胞に過ぎたと言うことである。
前原の単純・単細胞な戦略性は他にも例を示すことができる。国交相兼沖縄北方担当相だった当時の2009年10月17日に北海道根室市の納沙布岬を訪れ、対岸の北方領土を視察。
前原誠司「歴史的に見ても国際法的に見ても(北方領土は)日本固有の領土。終戦間際のどさくさにまぎれて不法占拠されたもの。やはり四島の返還を求めていかなければならない」(毎日jp)
ロシアが反発すると、
前原誠司「鳩山外交の姿勢と違うとは全く思っていない。・・・自民党政権時代からの日本政府としての法的な立場を改めて申し上げただけだ。
お互いの認識が違うからこそ、領土問題が未解決になっている。四島の帰属を明確にし、日露間で平和条約が結ばれた中でさらなる協力関係が結べる状況になればいい」
当座はそう言っていたが、それ以来「不法占拠」という発言を自ら封じた。
2010年11月12日の外務委員会で新党大地の浅野貴博議員が当時の前原外相に「北方四島がロシアに不法占拠されているという認識に、大臣、今でも変わりはありませんでしょうか」という質問に次のように答えている。
前原誠司「北方領土は我が国固有の領土であるけれども、管轄権を事実上行使できない状況が続いているということでございます」
「管轄権を事実上行使できない状況」であって、「不法占拠」ではないとしている。
要するにロシアの反発の先を計算した何らかの戦略性を準備した上での「不法占拠」発言ではなかった。言葉のための言葉に過ぎなかった。
外交的な戦略性のない政治家が沖縄北方担当相としてロシア外交に携わっていた。
外交に対して戦略性を満足に備えていなければ、菅仮免の例を出すまでもなく、内政に関しても満足な戦略性を持たない政治的資質の持主だと断言できる。
昨年9月の尖閣諸島沖中国漁船衝突事件での中国人船長逮捕劇も同じ構造を取っている。逮捕した当初は「国内法に則って粛々として処分する」と関係閣僚が口を合わせて言っていながら、中国の圧力に屈して船長を処分保留で釈放。にも関わらず日中関係は険悪なまでに冷却した。菅首相は胡錦涛や温家宝との会談を望みながら、暫くの間相手にされなかった。
これも中国人逮捕の先を計算した何らかの戦略性を持たず、中国の圧力にただウロウロした周章狼狽しか見えなかった。前原誠司は菅内閣の外相として関わっていた。
単純・単細胞な外交戦略しか持たない、ひいては内政的戦略性にも影響しているはずの前原誠司が次期首相として国民から40%の期待を集めている。私自身の批判が妥当とするなら、この逆説性を素直に読むと、小沢元代表の「前原では日本が潰れてしまう」は正当性得る発言と言える。
参考までに。2006年3月15日記事――《単細胞な「中国脅威論」 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》
2010年3月15日記事――《ロ大統領の国後訪問は前原の「不法占拠」発言に対する対抗意識からのロシア領宣言のデモンストレーション - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》
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