アメリカを訪れている民主党の前原政策調査会長が9月7日ワシントン市内で講演し、海外に派遣される自衛隊員の武器使用基準の緩和や、外国への武器輸出を原則禁じた「武器輸出三原則」の見直しなど、安全保障を巡る一連の課題に積極的に取り組んでいく考えを示したと、《前原政調会長 武器使用基準緩和も》(NHK NEWS WEB/2011年9月8日 12時0分)が伝えている。
講演議題は、『多国間協力の中での日米同盟』
前原誠司(国連のPKO=平和維持活動への自衛隊の参加について)「アメリカが手が回らない部分を埋めるという意味で、日米同盟をよりバランスの取れたものにする。そのためにも自衛隊と一緒に活動を行っている他国の軍隊を急迫不正の侵害から守れるようにすべきだ」
これは〈海外に派遣される自衛隊員の武器使用基準を緩和する必要があるという認識〉の提示だと記事は伝えているが、「他国の軍隊を急迫不正の侵害から守」るとは他国軍隊と共に戦闘行為を行うことを言い、当然憲法第9条第1項で禁止している「武力の行使」を禁止事項から外して自ら武力行使を行うばかりか、他国軍隊との武力行使の一体化に進むことを目指していることになるし、同じく憲法9条が禁止している「国の交戦権」の見直しへと波及していくことになる。
「国の交戦権」の見直しはやはり憲法上許されないこととされている「集団的自衛権」の行使の禁止規定からの解除につながっていく。
この「NHK NEWS WEB」では触れていないが、講演では〈「(憲法解釈で行使が禁じられた)集団的自衛権の問題も解決されていない」と解釈見直しに言及した。〉と、「時事ドットコム」が伝えているが、当然の成り行きとしてある言及であろう。
【集団的自衛権】「ある国が武力攻撃を受けた場合に、これと密接な関係のある他の国が自国の安全を脅かす物として共同して防衛に当る権利。国連憲章では加盟国に認めている」(『大辞林』三省堂)
要するに前原の発言は「武力の行使」と「交戦権」を含めた「集団的自衛権」に集約されると言える。
この集約は武器の使用に関しても現在の規制を取り外してあらゆる武器の使用(武器使用基準の全面緩和)を伴うことになる。
前原誠司(外国への武器輸出について)「日本の防衛産業は、各国との武器の共同開発プロジェクトに参加できないため、技術革新の波から取り残されるかもしれない。武器輸出三原則は見直す必要がある」
記事はこの発言を、〈安全保障を巡る一連の課題に積極的に取り組んでいく考えを示〉したものだとしているが、日本独自の武器技術を進化させて日本の質的な軍事力増強を目的とした意味合いを含んでいるはずだ。
最後に中国について。
前原誠司(尖閣諸島沖で起きた中国漁船による衝突事件や南シナ海の島々の領有権を巡る中国の対応を念頭に)「中国は既存のルールを変えようとしている」
この発言は、〈中国に領土保全や通商に関する国際規範を順守させる必要があるという立場を示し〉たものだとしている。中国の遣り方は国際的なルールに通用しないというわけである。
2005年12月9日、米戦略国際問題研究所で行った講演での中国言及、「中国の軍事的脅威に対して日本は毅然とした態度を取るべきである」と比べたら、中国や民主党内から批判を受けて懲りたからだろう、かなり婉曲的な発言となっている。
前原は昨年9月の尖閣諸島沖中国漁船衝突事件では仙谷と共に中国人船長逮捕を主導したと言われているが、中国の圧力にたちまち屈して船長を処分保留で釈放した腰砕けの経緯は発言だけ勇ましい印象を与える。
軍事問題に関しての発言はすべて持論としていることだと言われているが、持論としているなら、民主党代表選で大々的に触れてようさそうなものだが、確か一言も触れていない発言である。
2005年の「中国軍事的脅威」論と同様、日本では言わずにアメリカで勇ましく打ち上げる。なぜかというと、日本国憲法が禁止している「武力の行使」も「交戦権」も「集団的自衛権」も、その憲法の禁止規定からの解除をアメリカが求めているからである。
求めているアメリカで求めていることを言う。当然、アメリカでの評価は上がり、アメリカで点数を稼ぐことになる。子どもが父親の求めていることを常に言い、求めていることを常に行う。当然父親に気に入れられて、可愛がられ、父親から点数を稼ぐことになるから、なおさら父親が気に入ることを言い、可愛がられる行動を取るようになって、父親の意図の範囲内の言動が当たり前となり、父親っ子そのものと化す。
日本で発言し、どのような障害が立ちはだかろうと、日本で自らの主義・主張の実現に努力するのではなく、日本での実現に役には立たなくてもどのような障害もないアメリカで発言し、アメリカから高い評価を受けてアメリカの気に入れられる。まさしくアメリカでの前原誠司ははアメリカっ子といった状態だ。
私自身は憲法9条の改正に賛成で、「武力の行使」も「交戦権」も「集団的自衛権」も認めて、民主主義や人権といった共通の価値観を有した先進国の一員としての責任を安全保障分野で果すべきだと思っている。
だが、「武器輸出三原則」だけは守るべきとの立場に立っている。軍事大国の道を採らないためと一旦開始すると際限もなくなる武器開発競争、軍備増強競争を煽らない、あるいは競争に一枚加わらない姿勢であるべきだと考えているからである。
軍事力はアメリカその他の国と共同することで力を強くすることができる。
また、国家の安全保障は何も軍事力によってのみ果たすことができるとは思っていないからである。
外交力、内政力、経済力、公的人材によるものだけではない民間同士の人的交流をベースとした国際関係力、文化力等々の総合力が国家の安全保障をより強固とするはずだ。
人的交流は単に外国と日本の間を往き来するだけではなく、日本人はもっと世界に出て、世界を住み処(すみか)とし、大いに発言して、一人ひとりの交流を友好足らしめることによって全体の友好を形成することも、国の政治が過つことがない限り、国家の安全保障につながっていくはずだ。
前原アメリカっ子発言の波紋。《集団的自衛権、憲法解釈変えぬ=一川保夫防衛相インタビュー》(時事ドットコム/2011/09/08-18:34)(一部抜粋参考引用)
記者「民主党の前原誠司政調会長が武器輸出三原則の見直しが必要と発言した。政府と連携を取った発言か」
一川保夫防衛相「何も連携は取れていない。直接、前原さんからその話を聞いたことはない。党全体の意見として取りまとめられるかどうか、それすら分からない。政府としてどうなるかは、そう簡単なものではない。防衛省として、武器輸出三原則に関わる問題について、常に問題意識を持ちながら勉強していくことはいい。結論はまだ出ていない」
記者「前原氏は国連平和維持活動(PKO)の武器使用基準の緩和にも言及した」
要するに政府内で議論した話ではないとなかなかつれない答弁になっている。国内に異論はあっても、アメリカ向けのアメリカに気に入られようとする、アメリカっ子としての発言なのだから、当然の成り行きと言える。
安全保障問題や中国問題でアメリカっ子よろしくアメリカ限定販売の発言をしているようでは、小沢民主党元代表の言葉を借りると、「(首相が)前原では日本が潰れてしまう」も十分に頷くことができる発言だと言うことができる。 |