沖縄県要請の補助金使途自由な一括交付金化に見る民主党政権の政治主導とマニフェスト違反

2011-09-22 11:56:54 | Weblog

 野田政権の沖縄振興策基本方針が明らかになったと、《沖縄に一括交付金 野田政権、普天間進展狙い提示へ》asahi.com/2011年9月22日3時3分)が伝えている。

 基本方針に「より自由度の高い沖縄の一括交付金を創設する」と明記してあるという。

 但し、〈具体的な金額や制度の仕組みは「予算編成過程において全国ベースでの制度設計を踏まえ、国の責務としての沖縄振興のあり方を勘案しつつ、検討する」としている。〉と解説。

 すべての自治体に対して必要予算を一括交付金化したなら、一律化を要求することになる「全国ベースでの制度設計」は必要なくなる。「全国ベースでの制度設計を踏まえ」てということは、その設計過程で一括交付金化できる事業とできない事業の仕分けが行われる可能性は否定できない。

 仕分けが行われた場合、そこに他県との兼ね合いが生じない保証はない。いわば沖縄県だけ特別扱いするわけにはいかないとの理屈づけである。

 自治体相互に特別扱いはできないとそれぞれの一括交付金化のレベルを下げていって国の関与を残した場合、当然、役所の権限を温存する力学が働くことになる。

 国の責任が関与しない形の、いわば沖縄に責任を全面的に任せる「沖縄振興のあり方」にはできないということだから、沖縄が要求している3000億円どおりの金額となるのか、使途自由度が沖縄の思惑通りの自由度なのかは予断は許さない。

 記事は狙いを、〈県側の要望に応えることで、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題の進展を図る〉ことだと解説している。要するに辺野古移設実現のエサということだろうが、仲井真知事はあくまでも移設と沖縄振興とは別問題だという態度を取っている。

 そういった態度の仲井真県知事に9月26日の沖縄政策協議会の部会で提示するということだが、仲井真知事がブレない限り、魚にエサだけ獲られる事態が待ち構えることになるが、辺野古移設反対派は沖縄がエサだけ獲る魚となることを願っているに違いない。

 記事は最後にこのように至った経緯について解説している。〈菅前政権は今年度当初予算で沖縄関連予算として計2300億円を計上。このうち321億円が、他の都道府県と同じ一括交付金だった。ただ、使途が一部の事業に限られるため、県は予算全体を3千億円まで増額し、全額を自由に使える「沖縄振興一括交付金」とするよう要望している。〉

 菅政権は20011年度当初予算で計2300億円の沖縄関連予算を計上、うち沖縄県が自由に使うことができる一括交付金はたった14%の321億円。

 これは明らかにマニフェスト違反であろう。マニフェスト違反常習政党の民主党だからさして驚かないものの、違反している事実だけは指摘しておかなければならない。

 尤もあちこちでこの手の指摘が既に氾濫しているかもしれないが、遅ればせながら、指摘の尻馬に乗ろうかと思う。

 指摘する前に全額使途自由の「沖縄振興一括交付金」が実現できるかどうかは政治主導、あるいは官僚主導、何れかにかかっていることを伝える記事がある。

 仲井真知事も強気に出たものだが、これは普天間基地の辺野古移設を果してアメリカにもいい顔を見せたい政府の足許を見て駆引き材料とした強気かもしれない。果たしてどちらに軍配が上がるか。

 《一括交付金 問われる政治手腕》沖縄タイムズ/2011年9月20日 13時36分)

 この記事も上記記事と同様に20011年度当初予算沖縄関連予算計2300億円を3000億円まで増額、全額を自由に使える「沖縄振興一括交付金」とするよう要望と書いている。

 その上で、〈今月末にも予定される2012年度予算の概算要求を前に、内閣府沖縄担当部局予算(沖縄振興予算)の一括交付金化をめぐる国と県の動きが活発化している。〉と駆引きがヒートアップしている様子を伝えている。
 
 駆引きの存在は勿論すんなりと一致しない、相違点の存在を証明する。駆引きのヒートアップは相違点の大きさを証明する。

 菅仮免「一括交付金、県が主体となる計画への支援、跡地利用に関する法律の制定、出先機関の見直しなど、地元の方々の声に耳を傾けながら実現してまいります」

 慰霊の日の6月23日(2011年)、糸満市摩文仁で催された全戦没者追悼式に出席した菅仮免(当時)が県の要望実現に意欲を表明した発言だと記事は書いている。

 さらに記事は、〈女房役の枝野幸男官房長官(同)も近く発表される2012年度予算の「概算要求基準」で、一括交付金化に関して一定の方向性を出すとの見通しを示していた。〉と解説。いわば政府主導(=政治主導)で沖縄一括交付金の実現を沖縄県に対して、当然沖縄県民に対して公約した。

 〈ところが菅氏は東日本大震災への対応などをめぐり急速に求心力を下げ、8月26日に退陣を表明。その後新たに就任した野田佳彦首相は菅内閣の基本的な政策を継承する考えを示したが、概算要求が迫りながらも一括交付金化の具体的な進展は見えてこない。〉――

 政府主導(=政治主導)で沖縄一括交付金の実現を約束しておきながら、野田政権にバトンタッチ後も具体的な進展はない。当然、その経緯には政府主導(=政治主導)に対する官僚主導の干渉、もしくは抵抗による停滞を考えなければならない。まさか政府自体が政治主導を忘れて怠けているわけではあるまい。

 記事はこのことを次のように解説している。〈これまで各省庁から予算をかき集めて「沖縄振興予算」として一括計上してきた内閣府沖縄担当部局は、関係省庁との調整が付いていないことなどを理由に挙げ、明確な返答を避けている。

 また、これまでルールだった各事業ごとの予算の積み上げになっていない県の要望を「ブラックボックス」と指摘し、県の要望通り計上することを困難視している。〉・・・・

 全額使途自由の一括交付金なのだから、すべての事業は県が主体となると言うことであって、もはやすべての省庁は蚊帳の外に置くことになるのだが、「関係省庁との調整が付いていない」と言う。

 “全額使途自由”ということはどのような事業を行うか、行う事業ごとの予算を県がどう予算計上するかはすべて沖縄県が自らの責任のもと行うことであって、それを従来どおりのルールから外れて「各事業ごとの予算の積み上げになっていない」、これを以て「ブラックボックス」だとして忌避している。

 要するに何にいくらどう使ったか、費用対効果はどうだったか、最終的な精査に任せるべきを前以て個別に精査して、妥当か否かを国が判断して、妥当ではない事業、予算付けは撤回させたり、改めさせたりするということだろうが、そうすればそうする程、一括交付金という性格から離れることになる。

 一括交付金と言いながら、一括交付金の体をなさないことになる。

 予算決定に関わるこの構造はあくまでも国を地方の上に置き、地方を国の下に置く態度から成り立っている。地方を国に対して独立した存在、あるいは自律した存在と認めまいとする態度でもある。

 対する沖縄県側の対応。〈こうした内閣府の対応について、仲井真弘多知事も早い段階から「ゼロ回答に近い」と認識。政治主導による決着に望みを託し、民主党幹部との接触を重ねてきた。〉

 9月6日に上京、〈岡田克也最高顧問や前原誠司政調会長らとひそかに接触し、沖縄側の意向を伝えている。〉と記事は書いている。

 要するに根回しである。その成果としての「asahi.com」記事が伝えている「沖縄振興策の基本方針」ということなのだろうが、その内容からすると、そこにあくまでも国の関与を残そうとしている節があることから、使途自由な一括交付金化の実現は予断を許さない印象を消すことができないように「沖縄タイムズ」記事も似た結論で締め括っている。

 〈しかし、概算要求基準に県の要望を盛り込むことは前例もないため、事務レベルでは依然として官僚の抵抗が強く、野田内閣や民主党の政治手腕が試されているといえる。〉――

 だが、一括交付金化は2009年マニフェストにも菅仮免が作成した2010年参院選マニフェストにも明記し、公約としたことなのだから、民主党が政権を獲って2年経過していることからして、政治手腕が試される段階は最早卒業して、実行していく段階にきているはずである。

 《民主党政策集INDEX2009》を見てみる。

 「地域主権の確立」

 〈ひもつき補助金の廃止と一括交付金化〉

 〈地方向けの補助金等は、中央官僚による地方支配の根源であり、さまざまな利権の温床となっています。これらの補助金等をすべて廃止して、基本的に地方が自由に使える一括交付金に改めます。真の地方自治を実現する第一歩を踏み出すため、「ひもつき補助金廃止法」を成立させます

 一括交付金のうち、現在の義務教育や社会保障等に関する補助金等に対応する部分は、必要額を確保します。現在の公共事業等の補助金等に対応する部分については、格差是正の観点から財政力の弱い自治体に手厚く配分します。

 中央・地方ともに補助金等に関わる経費と人件費を大幅に削減して、財政の健全化にもつなげます。〉云々。

 次に2009年マニフェスト。

 《2009年民主党の政権政策(マニフェスト)》 

 〈27.霞ヶ関を解体・再編し、地域主権を確立する

 【政策目的】

○明治維新以来続いた中央集権体制を抜本的に改め、「地域主権国家」へと転換する。
○中央政府は国レベルの仕事に専念し、国と地方自治体の関係を、上下・主従の関係から対等・協力の関係へ
 改める。
 地方政府が地域の実情にあった行政サービスを提供できるようにする。
○地域の産業を再生し、雇用を拡大することによって地域を活性化する。

【具体策】

○国から地方への「ひもつき補助金」を廃止し、基本的に地方が自由に使える「一括交付金」として交付す
 る。義務教育・社会保障の必要額は確保する。
○「一括交付金」化により、効率的に財源を活用できるようになるとともに補助金申請が不要になるため、補
 助金に関わる経費と人件費を削減する。

 次に2010年参院選マニフェスト。

 《2010年民主党参院選政権政策(マニフェスト)》(テキスト版)

 〈地域主権

 地方が自由に使える「一括交付金」の第一段階として、2011年度に公共事業をはじめとする投資への補助金を一括交付金化します。引き続き、さらなる一括交付金化を検討します。

 国直轄事業に対する地方の負担金廃止に向けて、引き続き取り組みます。〉云々。

 ちょっと簡単過ぎるが、2009年マニフェストに十二分に書き尽くしていることからの簡略化であろう。

 特に菅仮免はその短い在任中に一括交付金化を実現させる責任を有していた。なぜなら、恐れ入ったことに各政策提示の要所要所に次ぎの宣伝文句が入っている。

 「菅 直人HISTORYNAOTO KAN

 市民運動から、総理へ。

 ついに政権交代、そして総理に」・・・・

 テキスト版には5箇所も入れている。

 かくまでも自己宣伝に何様だと熱意・執心を示した以上、菅仮免は在任中に実現させて置かなければならなかったはずだ。

 だが、依然として民主党政権は「国と地方自治体の関係」を「上下・主従の関係」に置き、沖縄が他の自治体に先駆けて行った使途自由な一括交付金化の要求に対してマニフェストどおりにストレートに応える政治主導を既に発揮し終えていていいはずが、発揮し終えることができないばかりか、普天間の辺野古移設実現に絡めて(内閣自体は直接的には否定するだろうが)持ち出すマニフェストどおりの政治主導に反する不純な行動に出ている。

 これが「ドジョウ」の泥臭い粘り強さということなのだろうか。


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