菅仮免の日本再生のカンフルとならなかったKAN-FULL BLOG

2011-09-16 10:43:37 | Weblog

 野田首相が菅仮免の官邸ブログ「KAN-FULL BLOG」に取って代わって官邸ブログ「官邸かわら版」を開始した。9月14日(2011年)の2回目だか3回目だか興味はないが、「初めての所信表明を終えて」の冒頭は次のような一文となっている。

 〈昨日(13日)、国会で、初めての所信表明演説を行いました。テレビでは衆議院での演説しか放送されませんでしたが、参議院でも行い、計2回の演説をそれぞれ約35分ずつ、やり終えました。
 
 演説で申し上げたとおり、野田政権が取り組むべき課題は、明らかです。東日本大震災と世界的経済危機という「二つの危機の克服」。そして、「誇りと希望ある日本の再生」。一言で言えば、「国家の信用」の回復です。あとは「実行」により、全力で「結果」につなげます。〉――

 東日本大震災という一つの「危機」さえ、その迅速性に関して「克服」が覚束ないのに世界的経済危機という「危機の克服」にまで手を広げてやってのけようとは「ドジョウの取り得」を武器に「泥臭く」政権担当を目指す首相としてはなかなか見上げた志と言える。「ドジョウの大志」といったところか。

 大体が日本の経済に関してはアメリカ経済頼り、中国経済頼りの他力本願国家経営となっている。外需が制す国家経済である。当然後先で言うと、世界経済危機の克服を待って日本経済危機の克服があることになる。世界頼みを待つしかないのではないのか。

 円高から円安への「克服」にしても、アメリカの景気回復を待ってこそのプロセスとなるはずである。「あとは『実行』により、全力で『結果』につなげます」と国民に公約しているのだから、期待して待つが、先ずは己の実力を知って、そこから出発しないことには実力以上の目標の克服も、実力以上の力の発揮も期待はできない。

 実力を知らずに闘った場合、戦略上の錯誤が生じて、却って実力以下の力しか発揮できないことが往々にしてある。二兎追う者は一兎も得ずという。「東日本大震災」の「危機の克服」にのみ的を絞って「日本の再生」に挑戦した方が力も目標も集中できて達成の確率は高くなるように思えるが。

 菅仮免の「KAN-FULL BLOG」は自分の苗字の「菅」の音である「カン」と沈滞した日本に活力を注入して「日本再生」につなげる意味のカンフル剤の「カンフル」をかけて「KAN-FULL BLOG」としたはずだ。

 だが、菅仮免の存在もその政策もカンフル剤足り得なかった。野田首相の存在とその政策が二の舞とならないことだけを祈りたい。

 当然、「KAN-FULL BLOG」の命名自体が見掛け倒し、カンバン倒れだったことになる。

 菅仮免の経済成長論はご存知のようにいつも「一に雇用、二に雇用、三に雇用」で始まった。2010年9月1日の小沢氏を対抗馬とした民主党代表選でも繰返した。

 菅仮免「私は先ずやるべきことは一に雇用、二に雇用、三に雇用だと考えております。つまり仕事がないということは人間の尊厳に関わることでありまして、仕事があることによって尊厳が保たれ、そして安心な生活になってまいります。

 この雇用を生み出せば、経済の成長につながります。また働く人は税金を払っていただいて、財政の再建にもつがなります。介護や保育の分野で働けば、社会保障の充実にもつながるわけであります」――

 モノが売れて、企業が利益を上げなければ新たな雇用は生まれないはずだが、雇用を先に持ってきたのは民主党が2009年マニフェストで「介護報酬7%引き上げ」、「介護ヘルパー給与月額4万円引上げ」を公約としたことから始まっているのだろうが、菅仮免が介護や保育、医療等の分野を成長分野と看做して、特に介護の分野をターゲットにして税金を投入して政府の力で待遇の改善を図り、そこに雇用を生み出して、雇用が生まれれば税金が生み出され、経済成長にもつながって、さらに税収も生じて財政再建にも役立つというサイクルを頭に描いていたからに他ならない。

 菅仮免は介護や保育、医療等の成長分野をターゲットにして日本経済を再生させる、あるいは日本を再生させるカンフル剤と看做したわけである。

 「介護や保育の分野で働けば、社会保障の充実にもつながるわけであります」と簡単そうに言っているが、社会保障分野は常に税金を投入しなければならない分野であって、消費税を増税しなければ追いつかない状況にまで追いつめられている。事はそう簡単にいくはずはないが、簡単にいくかのように言うところが合理的判断能力の点で問題となるが、本人は最後まで気づかなかった。

 鳩山政権発足が2009年9月16日。遡る4ヶ月前の2009年4月に麻生政権下で、民主党の政策に対抗する必要もあったに違いない、介護報酬の3%引き上げと2011年度末期限で対介護事業者宛の介護職員(常勤換算)1人当たり月額平均1.5万円交付目的の「介護職員処遇改善交付金」制度をスタートさせている。

 2009年度から2011年度末までの3年間で総額4千億円の税金投入。但しHP《厚生労働省:介護事業所の皆さまへ「介護職員処遇改善交付金の活用を!!」》には次のような記載がある。

 〈本交付金を積極的にご活用いただくとともに、賃上げについては、あくまで事業者の皆さんのご判断となりますが、できる限り毎月の給料に上乗せする形で支払っていただけますよう、ご検討をお願いいたします。〉

 要するにそうはなっていないことからの「ご検討をお願い」と言うわけである。このことは制度が発足する前からマスコミが取上げていた。経営が苦しいところが多いから、右から左へとスムーズに流通させずに、経営資金への転用が多く見られるのではないかと。

 中には経営が苦しくなくても、経営資金に転用したと見せかけて懐した事業者もいたに違いない。

 民主党のマニフェストは「介護報酬7%引き上げ」、「介護ヘルパー給与月額4万円引上げ」となっている。2012年度からの改定となるが、財源不足と大震災復興が優先となるから、子ども手当や高速道無料化が証明しているように額面どおりの実現は覚束ないが、財源不足を消費税増税に頼るとしても、「税と社会保障の一体改革案」は消費税引き上げが原案の「2015年度までに10%へ段階的」が「2010年代半ば」と時期が曖昧になったことからすると、2012年度の改定には間に合わない可能性が生じる。

 間に合ったとして、民主党のマニフェストどおりに「介護ヘルパー給与月額4万円引上げ」を実現させたとしても、介護職員の現在の平均月収は「月額平均1.5万円交付」を経ても約21万円強ということで、これにさらに民主党公約の「月額4万円」を加算しても、平均月収は25万円。

 対して全産業の平均月収は約33万円ということである。依然として8万円の差がある。

 結果次のような現象が生じるだろう。

 《介護施設半数「人手不足」 離職率3年ぶり悪化 昨年度》asahi.com/2011年8月24日1時5分)  

 昨年10月1日時点の状況について厚生労働省所管の財団法人「介護労働安定センター」が調査。8月23日公表の2010年度の介護労働実態調査。全国の約1万7千事業所とそこで働く約5万1千人を抽出、約7300事業所、約2万人から回答。
 
 「職員が不足している」介護事業所――50.3%(前年度+3.5ポイント)

 「1年間の離職率」――17.8%(3年ぶりの悪化)

 〈ここ数年は政府が介護職員の処遇改善に力を入れた効果で改善傾向にあったが、〉と記事は解説している。

 介護労働安定センター「景気の回復に伴い、介護よりも待遇がいい他の仕事へ転職する傾向が再び強まっているのではないか」――

 この言葉を裏返すと、不況が多くの非正規労働者や正規労働者をも含めてその労働を奪い、行き場もなく、有効求人倍率の高い、いわば給料が安くて、あるいは待遇が悪くてなり手の少ない、人手不足の介護関係に待遇改善も言われていることもあって流れていったという状況が先ず存在していたことが浮かんでくる。

 だが、景気の回復が逆の現象を引き起こすことになった。

 要するに介護分野の待遇改善に税金を投入するにしても、その待遇改善が全産業の平均月収を超える金額になるまで税金を投入するという条件を満たさないない限り、景気次第の不安定な雇用であり続けることになる。

 当然、菅仮免が掲げて機会あるごとに言っていた、介護や保育等に雇用を生み出して、雇用が生まれれば税金が生み出され、経済成長にもつながって、さらに税収も生じて財政再建にも役立つとするサイクルを経済成長の主要な一つのアイデアとしたことは絵に描いた餅に過ぎないと言うことになる。

 自動車産業や電気産業のように裾野が広く、生産が生産を生む循環・拡大型の産業と言うわけではなく、単に社会の少子高齢化が要請している、このことを逆説するなら、人口分布に於ける壮年以下の空洞化を招いている、しかも税金の投入がなければ成り立たない準完結型の産業(裾野の広がりをさして持たないゆえに介護のみで完結するに近い産業)であることを考えもせずにバカの一つ覚えのように介護産業を「日本再生の」カンフル剤とすべく、「一に雇用、二に雇用、三に雇用」の雇用創出の分野の主たる一つとしていた。

 やること成すことのすべてに亘ってカンバン倒れ、見掛け倒しだったが、「KAN-FULL BLOG」の命名がこのことの象徴となっていたということではないだろうか。


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