安倍内閣の違反操業台湾漁船は拿捕、主権侵害の領海侵入中国艦船は警告のみの矛盾

2013-05-07 08:35:50 | 政治

 沖縄県尖閣諸島周辺排他的経済水域一部を双方が相手側の漁船の取締りを行わない水域とすること等を盛り込んだ「日台民間漁業取り決め」が4月10日台北で締結され、30日以内(5月10日から)運用の運びとなった。「民間」の形は取っているが、日台間に国交がないためで、実質的には日台両政府間で推進、締結した政府間協定だそうだ。

 特に安倍政権が尖閣諸島領有権問題で台中の共闘を恐れて合意を急いだと次の記事が伝えている。《尖閣で中台共闘を懸念、合意急ぐ…日台漁業協定》YOMIURI ONLINE/2013年4月11日07時22分)

 記事題名の「尖閣で中台共闘を懸念」は尖閣諸島の領有権主張は中国ばかりではなく台湾も行なっているからなのは断るまでもないが、記事が言っていることが事実とすると、安倍政権は尖閣諸島には領有権問題は存在しないという立場を取っているが、日台漁協協定締結を通して領有権問題が存在することを認めたことになるはずだ。

 もし存在しないを押し通すなら、例え日台が共闘しても、共闘自体を問題外としなければならない。

 記事は、〈同県の尖閣諸島を巡る問題で挑発行為を続ける中国に対し、政権発足以来厳しい姿勢を示す安倍首相の外交戦略の一環だといえる。〉と解説している。

 果たして「厳しい姿勢」を示していると言えるのだろうか。

 しかも沖縄県がこの協定に反対しているにも関わらず、〈首相官邸主導で日本側が譲歩した。〉と書いている。

 菅官房長官(4月10日記者会見)「歴史的な意義を有する。地域の安定にもつながる」

 協定締結の経緯――〈日中間では2000年に漁業協定が発効したのに対し、日台間は1996年以来計16回の漁業協議が決裂の繰り返しで、「無秩序状態」(外務省幹部)が続いた。尖閣周辺水域を「伝統的な漁場」とみなす台湾漁業者の要求水準が高く、日本が呑めなかったためだ。

 しかし、昨年9月の尖閣国有化に反発した台湾漁船団が巡視船を伴って日本の領海に侵入し、中台が「共闘」する姿勢も見られ、親日的な台湾を中国側に追いやるおそれが高まったことで、状況は一変した。

 安倍首相は昨年12月、漁業協定の合意を急ぐよう関係省庁に指示。東日本大震災2周年追悼式で台湾代表の席を各国代表や国際機関と同じ場所にする配慮を示すなど、布石も打った。沖縄の漁業には打撃になりかねない譲歩案に水産庁が難色を示す中、最後は首相官邸が押し切った。4月からマグロ漁などが本格化しており、台湾漁船との衝突を避ける必要もあった。〉云々。

 締め括りの記事解説である、〈安倍政権にとって中台の“分断”は、狙い通りの成果になる。〉の文言一つを取っても、尖閣諸島に領有権問題が存在することを認めているからこその“狙い”ということになる。

 いわば安倍政権は日台漁業協定を通して領有権問題が存在することを炙り出してしまったことになるが、どうだろうか。

 尤も日台漁業協定締結によって「尖閣で中台共闘を懸念」は必ずしも薄らいだと言うことのできる保証はないようだ。《台湾総統 取り決め評価も領有権譲らず》NHK NEWS WEB/2013年4月11日 19時3分)

 馬英九台湾総統が4月11日、日本の台湾に対する窓口機関「交流協会」の大橋光夫会長と面会、取り決めによって台湾の漁業者の権利が拡大するとして、「歴史的な成果だ」と高く評価したという。

 馬英九の「歴史的な成果だ」の発言は安倍政権の譲歩の大きさを物語ることになる。日本側の譲歩によって手に入れさせた「歴史的な成果」という関係を成り立たせたということである。

 だからこその沖縄の反発なのだろう。沖縄の操業上の治安問題を含めた漁業利益を割譲して、割譲した分を台湾側に与えた譲歩と言うことなのだろう。

 その割譲が大きいからこそ、台湾側の「歴史的な成果」ということでもあるはずだ。

 問題は馬英九次の発言である。

 馬英九「今回は島の領有権には踏み込まなかったが、今後、議論をしていきたい」
 
 この発言は、〈台湾では漁業権と領有権を引き換えにしたものだという声も上がっていて、馬総統の発言は、そうした批判を意識したもの〉と解説しているが、引き換えの裏取引があったとしても、「今後、議論をしていきたい」と一旦口にした以上、領有権の主張を続けなければならないことになる。

 主張をやめたとき、引き換えたことが証明されることになるからだ。

 例え漁業権と領有権の引き換えを裏取引した協定であっても、明文化されていなければ、裏取引は表に出すことができない関係上、主張は続けることによって生きてこない保証はない。

 台湾が領有権の主張を続けた場合、台中連携の今後の可能性は否定できない。中台分断の狙い通りの成果となるかどうかは危うい状況にある。

 逆に裏取引があって、その裏取引が生き、中台分断が狙い通りの成果を上げたとしても、そのことによって中国の領有権主張が和らぐというわけではないだろう。 

 協定締結を受けて4月10日、仲井真沖縄県知事が国に対する抗議の意思を示すコメントを発表した。《「極めて遺憾」「国に抗議」=日台漁業協定を批判-仲井真沖縄知事》時事ドットコム/2013/04/10-20:49)

 仲井真沖縄県知事「沖縄県からの要望が全く反映されておらず、台湾側に譲歩した内容で極めて遺憾。

 合意により漁場競合の激化や好漁場の縮小は避けられない。国に対して強く抗議する」

 この沖縄の抗議をかわす意図もあったに違いない、江藤拓農水副大臣が4月5日那覇市で記者会見している。

 江藤拓「対象水域外で台湾漁船が違反操業するのを発見した場合は徹底的に拿捕するのが基本的な姿勢だ。出だしから厳しくする」(47NEWS

 違反操業は「拿捕するのが基本的な姿勢だ。出だしから厳しくする」と、手抜きはしない姿勢を示していることは立派である。結構毛だらけ猫灰だらけ。

 だが、日台漁業協定は排他的経済水域の一部について取り決めた約束事である。ご存知のように領海は基線から12海里(約22キロメートル)以内の海域。接続水域は領海の外側から、12海里(約22キロメートル)以内の海域。排他的経済水域は基線から領海部分を除いた200海里(約370キロメートル)まで、いわば領海の外側12海里(約22キロメートル)を基点として200海里(約370キロメートル)までの間の188海里(348キロメートル)の帯状の海域を言う。

 経済的主権は適用されるが、領海と違って国家の統治権としての主権が適用されているわけではない。日本政府が排他的経済水域内で禁止している経済活動以外の活動は許されることになる。 

 台湾漁船が協定の海域以外の排他的経済水域で違法操業したとしても、日本国の主権を侵害することになる領海侵入には当たらない。例え領海内に入り込んで違法操業したとしても民間の漁船である。

 だが、中国の領海侵入は中国政府所属の中国艦船である。一国の政府による他国政府に対する領海侵入という主権侵害とどちらの罪が重いかは明らかだが、違反操業した場合の台湾漁船は拿捕するが、中国艦船の領海侵入は拿捕もせず、警告射撃も行わず、海上保安庁の巡視船による無線を使った領海外退去要求のみの警告では領海侵入の方の罪を軽くすることになるはずだ。

 江藤拓の発言を記事で知ったとき、例え沖縄を批判をかわすための発言であったとしても、この男は何を言っているのだろうと思った。
 
 以前、ブログにも書いたことだが、3月7日の午前中の衆院予算員会で 安倍晋三が中国艦船の尖閣海域での行動に対して民主党政権とは違って厳しく対応すると国会答弁している。

 安倍晋三「前の政権では、過度に軋轢を恐れるあまり、領土・領海・領空を犯す行為に対して、当然行うべき警戒・警備の手法に極度の縛りがかけられていた。相手方に誤ったメッセージを送ることになり、不測の事態を招く結果になると判断したので、安倍内閣が発足した直後から、前の政権の方針を根本から見直し、冷静かつ毅然とした対応を行う方針を示した」(NHK NEWS WEB

 違反操業した場合の台湾漁船拿捕と領海侵入中国艦船無線警告の罪の重さを逆転させる矛盾は江藤拓発言を有効とさせ、上記安倍発言を無効とする矛盾となって対立させることになるだけではなく、安倍発言の無効は口先だけと化していることの証明ともなる。

 民主党の前原誠司は口先番長という有難い名称を頂いていたが、安倍晋三はさしずめ口先首相と言ったところか。その口先だけの言葉にゴマ化されてはいけない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする