菅官房長官の昨日(5月22日)午前の記者会見。《「日朝 政府間議含め対話再開目指す」》(NHK NEWS WEB/2013年5月22日 12時16分)
菅官房長官「安倍総理大臣は拉致問題の解決には非常に強い意思を持って取り組んでいるので、北朝鮮との間でありとあらゆる可能性を模索しながら、今、交渉に当たろうということだ」
記者「あらゆる可能性の中には、日朝間の政府間協議の再開も含まれるのか」
菅官房長官「あらゆる可能性を探るわけだから、当然それは入る」
この答弁は、去年11月以降中断されたままとなっている日本と北朝鮮の間の政府間協議を含めて、対話の再開を目指していく考えを示したものだと記事は解説している。
飯島内閣官房参与の北朝鮮訪問についての発言。
菅官房長官「私が判断して、安倍総理大臣の了解の下に訪朝していただいたということだ」
金正恩側近が中国訪問に向かったことについて。
菅官房長官「北朝鮮がどういう意図でやったかということは、今読みかねているから、答えることは控えさせていただきたい。ただ、話し合いをすることはいいことだろうと思う」
記事が伝える菅官房長官の発言はこれですべてである。
先ず飯島訪朝は菅官房長官判断・安倍晋三了解の形を果たして取ったのだろうか。菅官房長官判断ということは人選も秘密外という方法も菅官房長官主導による発案ということになる。
一度ブログに書いたが、安倍晋三は昨年(2012年)8月30日にフジテレビ「知りたがり」に出演して拉致解決について次のように発言している。
安倍晋三「金正恩氏はですね、金正日と何が違うか。それは5人生存、8人死亡と、こういう判断ですね、こういう判断をしたのは金正日ですが、金正恩氏の判断ではないですね。
あれは間違いです、ウソをついていましたと言っても、その判断をしたのは本人ではない。あるいは拉致作戦には金正恩氏は関わっていませんでした。
しかしそうは言っても、お父さんがやっていたことを否定しなければいけない。普通であればですね、(日朝が)普通に対話していたって、これは否定しない。
ですから、今の現状を守ることはできません。こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ。
そこで思い切って大きな決断をしようという方向に促していく必要がありますね。そのためにはやっぱり圧力しかないんですね」――
ブログには「これは否定しない」の否定の対象を、(父親の拉致犯罪)としたが、(5人生存、8人死亡)の誤りでした。訂正します。
約半月後に産経新聞のインタビューで同じ趣旨のことを発言している。このもともブロに書いた。《【再び、拉致を追う】小泉訪朝10年、停滞する交渉 安倍元首相に聞く 正恩氏に決断迫ること必要》(MSN産経/2012.9.17 10:36 )
記事にはインタビューの日は記載されていないが、記事発信が9月17日10時36分だから、当日か前の日か前々日辺りだろうと思う。
安倍晋三「金総書記は『5人生存』とともに『8人死亡』という判断も同時にした。この決定を覆すには相当の決断が必要となる。日本側の要求を受け入れなければ、やっていけないとの判断をするように持っていかなければいけない。だから、圧力以外にとる道はない。
金正恩第1書記はこの問題に関わっていない。そこは前政権とは違う。自分の父親がやったことを覆さないとならないので、簡単ではないが、現状維持はできないというメッセージを発し圧力をかけ、彼に思い切った判断をさせることだ。
つまり、北朝鮮を崩壊に導くリーダーになるのか。それとも北朝鮮を救う偉大な指導者になるのか。彼に迫っていくことが求められている。前政権よりハードルは低くなっている。チャンスが回ってくる可能性はあると思っている」――
要するに安倍晋三はこのままでは北朝鮮は崩壊する、それを防ぐには拉致の問題に解決をつける以外にないという金正恩向けの拉致解決のアイディアを持っていて、二度も同じ趣旨の発言をマスメディアに対して発言している。
他の機会にも発言しているかもしれない。但し金正恩は父子権力継承の正統性を金日成に発して金正日を介し、金正恩に伝えられた血に置いていて、父親の金正日を常に正義の存在と位置づけていなければならないのだから、父親金正日が言った「5人生存、8人死亡」を「ウソでした。実際はもっと生存しています」と認めることによって起こり得る父親に対する偶像破壊は簡単にはできないし、そもそもからして拉致の首謀者は金正日だとする周知の事実を金正恩自ら認めるようなことは不可能と考えると、安倍晋三の拉致解決のアイディアは合理性を欠くが、しかし自身の中では確信となっていたからこそ、マスコミに対して堂々と発言したはずだ。
また、国連の経済制裁に応じて中国の国有大手である中国銀行が5月7日声明を発表して北朝鮮の貿易決済銀行である「朝鮮貿易銀行」に対して取引停止と口座の閉鎖を通知したことが、金正恩に日本の戦争賠償と経済援助を北朝鮮崩壊防止の残されたチャンスと期待を寄せる画期的出来事と見て、安倍晋三をして飯島訪朝を決断させた可能性も否定できない。
何しろ、北朝鮮崩壊か、拉致を解決して日本の援助かと二者択一を迫ることが拉致解決の有効策としていたのである。
当然、自らのアイディアを確信していたなら、実践への欲求を持つことになる。
さらに拉致解決は自身の使命であり、安倍内閣で解決すると公言して憚らなかった、ホンモノなのかどうか、口先だけなのかどうか分からないが、その熱意と考え併せると、飯島訪朝は菅官房長官の「判断」で、安倍晋三は単に了解を与えたでは、安倍晋三の拉致解決に向けた熱意、発言等と見比べて整合性を失うことになる。
アベノミクスのスタートの大成功と内閣支持率の高さが自身の政治能力への自身を高めたことも決心させる大きなキッカケとなったはずで、こういった安倍晋三を取り巻く状況とこれまでの言動から考えると、安倍晋三自らの判断で飯島秘密外交による訪朝を発案したとすることによって、初めて整合性を取り得るはずだ。
だが、菅官房長官は「私が判断して、安倍総理大臣の了解の下に訪朝していただいたということだ」と自らの主導だとしている。
考え得る理由は安倍晋三の判断による飯島秘密外交による訪朝だったが、北朝鮮にマスコミ報道されて秘密が秘密でなくなり、しかも拉致問題に進展がなかったでは安倍晋三の政治能力に疑問符をつけることになり、内閣支持率ばかりか、夏の参院選挙に悪影響を及ぼすために、自動車事故を起こして運転者を妻等第三者と偽って出頭させるのと同じで、菅官房長官にすり替えて、批判が安倍晋三に直接及ばないように手を打ったということであろう。
飯島訪朝が失敗に終わったことは「日朝協議再開検討」自体が証明している。飯島訪朝が拉致解決に向けて何らかのキッカケを掴む糸口となっていたなら、日朝双方が話し合いを重ねてその糸口を詰めていく継続という形式を取るはずだが、飯島訪朝の継続ではなく、「日朝協議再開検討」という別の形式を早々と口にしている。
いわば仕切り直しであって、仕切り直し自体が飯島訪朝の失敗を物語ることになる。
この仕切り直しは飯島が5月21日安倍晋三と会談、訪朝報告後の本人の記者たちに対する発言が証明している。
飯島「(報告内容について)言えない。(拉致問題は今回の訪朝を)一つの材料として、首相が不退転の決意で実行していくと解している」(YOMIURI ONLINE)
飯島訪朝を「一つの材料」とするということは、会談で取り交わした話し合いを拉致解決に向けて継続的に詰めていくすべての元とするということではなく、その継続性を断ち切って「一つの材料」とする、いわば参考にするという意味であって、いわば仕切り直しそのものを指していることになる。
飯島訪朝が成功していたなら、仕切り直しは必要ではなく、如何に継続させていくかが重要となる。
「日朝協議再開検討」と言っても、北朝鮮が応じるかどうかも分からないのだから、日朝協議再開を北朝鮮側に呼びかけるとしても、この時点で検討を持ち出したことは飯島訪朝が失敗に終わったことを失敗とは言えないために持ち出した取り繕いでしかないことが分かる。
要するに安倍主導の飯島秘密外交訪朝は飯島がピョンヤン空港に降り立った時点「で北朝鮮側にその秘密を暴露されて、拉致問題も何ら進展を見なかった安倍晋三の勇み足で終わった。