安倍晋三の占領軍がつくったを理由とした日本国憲法改正意思の国民共有度の低さは何を物語るのか

2013-05-09 08:33:30 | 政治

 【謝罪】

 5月7日当ブログ記事――《安倍内閣の違反操業台湾漁船は拿捕、主権侵害の領海侵入中国艦船は警告のみの矛盾 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で冒頭、〈「日台民間漁業取り決め」が4月10日台北で締結され、同日発効の運びとなった。〉と書きましたが、〈4月10日台北締結、30日以内(5月10日から)運用〉の間違いでした。謝罪し、訂正します。

 今夏の参院選挙で憲法改正を争点とする動きが着々と進んでいる。既にご存知のように改正の柱に「第9章 改正 第96条 改正の手続」を置いている。

 「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」

 「各議院の総議員の3分の2以上」を2分の1以上に改めて、憲法改正を発議し易くしようという狙いを込めている。当然96条改正は憲法改正の入口ということになる。

 最終目標は憲法9条改正に置いているはずだが、憲法9条改正はチラチラと見せるだけで、殆ど背後に隠し、96条改正を主として前面に押し出している。

 常識的には憲法のどこを改正し、どういう国の形にしたいか、そのような国の形にしたら、日本の国家としての国民に対する責任、国際社会に向けた責任のみならず、国民の社会に対する責任もしくは国民の国際社会に向けた責任がどう変わるのか、国際的な地位への位置づけ等、96条改正による最終目的たる憲法改正に関わるすべての説明責任を国民に果たすことを先に持って来るべきが、説明責任を果たさずに96条改正を先行させている。

 小沢一郎生活の党代表が4月8日の記者会見で発言していたことは最も当然なことである。

 小沢一郎代表「(改正の)手続き部分だけを先行するのは非常に邪道だ。憲法のあり方、国家像を明示して議論すべきだ」(YOMIURI ONLINE

 だが、安倍晋三も橋下徹も石原慎太郎も、96条改正の数合わせにまっしぐらである。96条さえ改正したら、後の改正はこっちのものだと考えているのかもしれない。

 勿論、憲法改正の手がかりとしての96条改正を目指す勢力には国民世論の最近の憲法に対する意識の変化が支えとなっている。

 4月19日付「YOMIURI ONLINE」による「読売新聞社全国世論調査」(3月30、31日、面接方式)

 「憲法を改正する方がよい」 ――51%(昨年2月調査・54%)
 「憲法を改正しない方がよい」――31%(昨年2月調査・30%)

 少し下がっているものの、過半数超えを維持している。この微減は安倍晋三の国家主義、歴史認識に危険を感じ始めたことによる傾向かもしれない。

 集団的自衛権行使

 「憲法を改正して使えるようにする」   ――28%(昨年2月調査・28%)
 「憲法の解釈を変更して使えるようにする」――27%(昨年2月調査・27%)

 容認派の半数超えとなっている。

 憲法改正の発議要件を定めた96条

 「改正すべきだ」   ――42%
 「改正する必要はない」――42%

 憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認派の27%は96条改正必要性の是非を差し引きするはずだが、あくまでも改正には厳しい条件をつけるべきだとする考えからの拮抗ということもある。

 「産経新聞社・FNN」4月20、21両日実施合同世論調査

 「憲法改正賛成」――61・3%
 「憲法改正反対」――26・4%

 憲法96条改正による衆参両院改憲発議3分の2以上から過半数への変更

 「反対」――44・7%
 「賛成」――42・1%

 北朝鮮による同盟国への武力攻撃を日本の攻撃とみなす「集団的自衛権」を行使可能とする見直について

 「賛成」――65・8%
 「反対」――21・8%

 対象国を北朝鮮と限ったことが「賛成」に影響したことも考えられる。

 対日本向けミサイル発射準備国に対する敵基地事前攻撃ついて

 「専守防衛の範囲内と思う」  ――43・6%
 「専守防衛の範囲内と思わない」――43・1%

 5月3日付記事「毎日新聞社」4月20、21日実施世論調査。

 憲法改正

 「改正すべきだと思う」  ――60%
 「改正すべきだと思わない」――32%

 「改正賛成60%の96条発議要件引き下げ」

 「賛成」――59%
 「反対」――37%

 憲法96条改正

 「反対」――46%
 「賛成」――42%

 憲法9条

 「改正すべきだと思う」――46%
 「思わない」     ――37%

 「9条改正賛成46%の96条発議要件引き下げ」

 「賛成」――63%
 「反対」――35%

 いずれも発議要件の厳格維持が約半数以上を占めている。憲法改正には賛成だが、発議要件は厳しくしたままにしておくべきだとする意見が無視できない数を占めている。

 いずれの世論調査も憲法改正の賛否を尋ねてはいるが、改正の理由は質問していない。

 2013年4月19日(金)~21日(日)実施、5月3日発信のNHK世論調査が改正の理由を質問している。 

 「2013年4月 NHK憲法に関する意識調査 単純集計表」(部分的参考引用)
 
第2問あなたは、現在の憲法について、どのような考えをお持ちですか。次に読み上げる4つの中から、もっともあてはまるものを、1つ選んでお答えください。

1.ほぼ理想的なもので、現実と合っている・・・・・・・・・7.6%
2.ほぼ理想的なものだが、現実とは開きがある・・・・・・・・・32.6
3.日本の実情からみて望ましいものではないが、実際には定着している・・・・・・・・・35.7
4.日本の実情からみて望ましいものではないし、現実とも開きがある・・・・・・・・・13.1
5.その他・・・・・・・・・0.2
6.わからない、無回答・・・・・・・・・10.9

第3問あなたは、今の憲法を改正する必要があると思いますか。それとも、改正する必要はないと思いますか。次に読み上げる3つの中から1つ選んでお答えください。

1.改正する必要があると思う・・・・・・・・・41.6%
2.改正する必要はないと思う・・・・・・・・・16.0
3.どちらともいえない・・・・・・・・・39.3
4.わからない、無回答・・・・・・・・・3.1

第3問SQ1 〔第3問で「1. 改正する必要があると思う」の人に〕それは、なぜですか。次に読み上げる3つの中から、もっともあてはまる理由を1つ選んでお答えください。

1.アメリカに押しつけられた憲法だから・・・・・・・・・8.6%
2.国際社会での役割を果たすために必要だから・・・・・・・・・15.0
3.時代が変わって対応できない問題が出てきたから・・・・・・・・・75.4
4.その他・・・・・・・・・0.1
5.わからない、無回答・・・・・・・・・0.7


第3問SQ2 〔第3問で「2. 改正する必要はないと思う」の人に〕それは、なぜですか。次に読み上げる3つの中から、もっともあてはまる理由を1つ選んでお答えください。

1. 今の憲法がいい憲法だと思うから・・・・・・・・・7.3 %
2. 多少問題はあるが、改正するほどのことはないから・・・・・・・・・35.5
3. 戦争の放棄を定めた憲法9条を守りたいから・・・・・・・・・52.5
4. その他・・・・・・・・・0.0
5. わからない、無回答・・・・・・・・・4.6

第4問憲法改正の手続きを始めるにはまず、衆議院と参議院の両院ですべての議員の3分の2以上が賛成する必要があると憲法96条で定めています。

現在、これを改正して「過半数の賛成」に緩めるべきだという主張があることを知っていますか。次に読み上げる4つの中から1つ選んでお答えください。

1. よく知っている・・・・・・・・・16.8 %
2. ある程度知っている・・・・・・・・・35.9
3. あまり知らない・・・・・・・・・30.4
4. まったく知らない・・・・・・・・・14.6
5. わからない、無回答・・・・・・・・・2.3

第5問あなたは、憲法96条が定めた、憲法改正の手続きを始めるためにまず必要な「すべての議員の3分の2以上の賛成」という条件を「過半数の賛成」に緩めることについて、どのような考えをお持ちですか。次に読み上げる3つの中から1つ選んでお答えください。

1. 賛成・・・・・・・・・25.6 %
2. 反対・・・・・・・・・23.8
3. どちらともいえない・・・・・・・・・46.8
4. わからない、無回答・・・・・・・・・3.8

第6問次に、憲法9条について、あなたのお考えをうかがいます。憲法9条は、戦争を放棄し、戦力を持たないことを決めています。
あなたは、戦後、憲法9条の果たした役割を、どの程度評価しますか。次に読み上げる4つの中から1つ選んでお答えください。

1. 非常に評価する・・・・・・・・・25.2 %
2. ある程度評価する・・・・・・・・・51.1
3. あまり評価しない・・・・・・・・・13.9
4. まったく評価しない・・・・・・・・・3.2
5. わからない、無回答・・・・・・・・・6.6

第7問
あなたは、憲法9条を改正する必要があると思いますか。それとも改正する必要はないと思いますか。次に読み上げる3つの中から1つ選んでお答えください。

1. 改正する必要があると思う・・・・・・・・・33.1 %
2. 改正する必要はないと思う・・・・・・・・・29.9
3. どちらともいえない・・・・・・・・・31.8
4. わからない、無回答・・・・・・・・・5.1

第7問SQ1 〔第7問で「1. 改正する必要があると思う」の人に〕それは、なぜですか。次に読み上げる4つの中から、もっともあてはまる理由を、1つ選んでお答えください。

1.自衛力を持てることを憲法にはっきりと書くべきだから・・・・・・・・・46.9%
2.国連を中心とする軍事活動にも参加できるようにすべきだから・・・・・・・・・31.6
3.海外で武力行使ができるようにすべきだから・・・・・・・・・8.6
4.自衛隊も含めた軍事力を放棄することを明確にすべきだから・・・・・・・・・7.1
5.その他・・・・・・・・・1.1
6.わからない、無回答・・・・・・・・・4.7
                (分母=535人)

第7問SQ2 〔第7問で「2. 改正する必要はないと思う」の人に〕それは、なぜですか。次に読み上げる4つの中から、もっともあてはまる理由を、1つ選んでお答えください。

1.海外での武力行使の歯止めがなくなるから・・・・・・・・・8.5%
2.アジア各国などとの国際関係を損なうから・・・・・・・・・6.8
3.平和憲法としての最も大事な条文だから・・・・・・・・・66.0
4.改正しなくても、憲法解釈の変更で対応できるから・・・・・・・・・15.9
5.その他・・・・・・・・・0.0
6.わからない、無回答・・・・・・・・・2.7
                  (分母=483人)

第8問現在の「自衛隊」を「国防軍」に変えるべきだという意見がありますが、あなたはどのような考えをお持ちですか。次に読み上げる3つの中から、もっともあてはまるものを、1つ選んでお答えください。

1.「自衛隊」のままでよい・・・・・・・・・44.8%
2.「国防軍」に変えた方がよい・・・・・・・・・19.1
3.どちらともいえない・・・・・・・・・30.6
4.その他・・・・・・・・・0.4
5.わからない、無回答・・・・・・・・・5.1

第9問あなたは、政府が憲法解釈では認められないとしている集団的自衛権の行使について認めるべきだと思いますか、それとも認めるべきではないと思いますか。次に上げる4つの中から、もっともあてはまるものを1つ選んでお答えください。

1.憲法を改正して、行使を認めるべきだ・・・・・・・・・18.6%
2.政府の憲法解釈を変えて、行使を認めるべきだ・・・・・・・・・29.3
3.政府の憲法解釈と同じく、行使を認めるべきでない・・・・・・・・・16.5
4.集団的自衛権自体を、認めるべきでない・・・・・・・・・9.4
5.その他・・・・・・・・・0.1
6.わからない、無回答・・・・・・・・・26.0 

 NHKの世論調査にしても憲法改正賛成が第1位を占めている。憲法9条改正も僅差ながら、第1位を占めている。憲法9条を改正して、「自衛力を持てることを憲法にはっきりと書くべきだ」にしても過半数近くを占めている。国民の現状に於ける憲法観は他の世論調査とほぼ同様の傾向を示しているはずだ。

 だとすると、憲法そのものの改正の必要性の理由についても、同様の傾向にあり、最大公約数と見ることができる。

 「改正の理由」

1.アメリカに押しつけられた憲法だから・・・・・・・・・8.6%
2.国際社会での役割を果たすために必要だから・・・・・・・・・15.0
3.時代が変わって対応できない問題が出てきたから・・・・・・・・・75.4
4.その他・・・・・・・・・0.1
5.わからない、無回答・・・・・・・・・0.7

 「時代が変わって対応できない問題が出てきたから」が圧倒的多数の75.4%、次が、「国際社会での役割を果たすために必要だから」が15.0%。「アメリカに押しつけられた憲法だから」がごく少数派の8.6%。

 安倍晋三は日本国憲法の改正理由を占領軍がつくった憲法だからに置いている。

 2013年4月5日衆院予算委員会。

 安倍晋三「我々は事実上占領軍が作った憲法だったことは間違いないわけであります。

 ま、形式的にはですね、そうではないわけであります。しかし、占領下にあって、それが行われたのは確として事実であります。その中に於いてですね、やはり、占領が終わった中に於いて、そういう、いわば(憲法改正の)機運が盛り上げるべきではなかったか、というのが私の考えであります」――

 日本国憲法は「事実上占領軍が作った憲法」であり、占領が終わった時点で「(憲法改正の)機運が盛り上げるべきではなかったか」と、占領軍がつくったことを最大理由に憲法改正意思を示している。

 安倍晋三の憲法改正理由と国民の憲法改正理由に大きなズレがあることになる。この改正理由の大きなズレは基本的にはそのまま改正意思のズレとなって現れているはずで、この同床異夢とも言うべき改正意思の国民との共有度の低さは何を物語るのだろうか。

 安倍晋三は「皇室の存在は日本の伝統と文化、そのもの」だとし、その中心に天皇を置く国家観はそこに国民を省いていることによって国民の権利・自由よりも天皇中心の国家を優先させる国家主義を宿らせた発想だと言うことができる。

 また、安倍晋三が示している日本の戦前の侵略戦争・軍国主義(=ファシズム)のアンチテーゼとして存在した占領政策とその集大成である日本国憲法の否定は侵略戦争・軍国主義(=ファシズム)の否定でもある。侵略戦争を自存・自衛の戦争と見、軍国主義国家(ファシズム国家)だったことを軍国主義国家(ファシズム国家)だったとは見ずに、天皇を倫理的・精神的・政治的中心とした国体・国柄と見る、やはり国民を中心に置いていないゆえに国家優先の国家主義思想を纏わせた歴史認識者だと言うことができる。

 戦前の戦争を侵略戦争と見ていないからこそ、安倍晋三は「侵略という定義は国際的にも定まっていない。国と国との関係で、どちらから見るかということに於いて(評価が)違う」という発言が可能となる。

 だとすると、「アメリカに押しつけられた憲法だから」と見る憲法改正意思の安倍晋三と国民の共有度の低さは安倍晋三と国民との国家主義思想共有の程度の差であって、安倍晋三が体現している国家主義に国民の多くがまだ染まっていないことの現れと見ることができるはずだ。

 日本国憲法の改正意思を、「アメリカに押しつけられた憲法だから」と見ていない国民が多いこと自体が、戦前の日本の戦争を否定し、占領政策を肯定、占領時代から現在に続く日本国憲法を基本の所で肯定していることの現れでもあるはずである。

 少なくとも日本の国民の多くが安倍晋三流の国家主義に染まっていないということは安倍晋三とは違って健全な精神状態にあることの証しともなる。

 国民の多くが「アメリカに押しつけられた憲法だから」と日本国憲法そのものを否定することになったとき、思想的に危険な時代を迎えたシグナルとなるはずだ。

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