安倍晋三たちの実体経済回復を前提としない各企業に対する様々な要請は主客逆転の責任行為

2013-05-31 08:42:07 | 政治

 5月29日、鶴保国土副大臣と菅原経産副大臣が日本商工会議所を訪れて、加盟しているトラック輸送の荷主側企業を対象に円安による燃料価格上昇がトラック運送事業者の経営の重荷になっているとして燃料上昇分を運賃に適正転嫁できるよう協力要請したと、次の記事が伝えている。

 《燃料高騰 トラック運賃に適正転嫁要請》NHK NEWS WEB/2013年5月29日 19時20分)

 鶴保国交副大臣「中小企業が90%以上を占めるトラック運送業者が燃料費の上昇で大きな打撃を受けるのは、日本経済にとってもよくない。荷主とトラック運送事業者がきちんとした関係を築くことが大切だ」
 
 国土交通省「規制緩和で過当競争が指摘されるトラック運送業界では荷主に対する立場が弱いため、燃料価格の上昇分を運賃に転嫁することが難しい」(解説を会話体に直す)

 外国のことは知らないが、元請となる大企業がその優越的立場を利用して下請関係としている中小企業に対して不当な抑圧待遇を行うのは何も荷主となる大企業のトラック業界に対する不当な運賃統制に限らない歴史的文化となっている。いわゆる下請けイジメというやつである。

 確かに正さなければならない抑圧待遇ではあるが、仮に政府の要請だからと荷主側企業が燃料価格上昇分を運賃に転嫁したとしても、実体経済が伴わなければ、応じた分、荷主側企業の負担となり、その負担は人件費等への皺寄せとなって現れる。

 トラック業界にしても実体経済が伴わなければ、荷主企業から燃料費が適正に支払われるだけのことで終わる。不況に応じた少人数体制・賃金抑制体制が強いることとなっていたトラック運転手の長時間・低賃金労働が正されるわけではない。

 要するに実体経済の回復を先に持ってくるのではなく、それを置き去りにしたまま異次元の金融緩和を先に持ってきて株高と円安を生み出し、その結果として燃料高騰を招いた。

 実体経済が回復していない以上、荷主企業としても政府の要請だからと言って、積極的に応じるとは思えない。

 このことは安倍晋三が率先して経団連に賃金上昇を求めたが、経団連が業績が改善した場合の一時金や賞与への反映には応じたが、ベースアップには難色を示した条件付き積極性が証明している。

 太田昭宏国交相も4月18日に建設業界団体と都内で会談し、建設労働者の賃上げを要請している。2013年度から公共事業の工事費を算出する際の労務単価を全国平均で前年度比15%引き上げているが、実際の賃金に反映させていないからだという。

 だが、これも実体経済次第であることは被災地の復興公共事業が証明している。

 公共事業や民間土木・建設事業が過度に集中したために人手不足、資材不足を招き、そのことが人件費の高騰ばかりか資材価格の高騰へと繋がって、これらの事情が公共事業の場合、被災地の入札不調となって現れ、前年度比1.6倍に達していると2013年3月12日の「NHK NEWS WEB」は伝えている。

 人手不足、資材不足、人件費の高騰、資材価格の高騰が復興の障害となって復興遅れの大きな要因となっているとしても、被災地の実体経済に応じた人件費・資材価格の趨勢ということであって、実体経済を無視して政府が介入して決める諸要素ではないということである。

 建設業界団体が前年度比15%増の公共事業労務単価を土木作業員の人件費に反映させていないのも公共事業自体が減っていたことと不況が重なって、倒産する企業が続出、反映させにくい状況にあったからだろう。

 となれば、反映のカンフル剤は政府の要請ではなく、実体経済の回復となる。

 安倍晋三も今年の4月19日(2013年)、日本記者クラブで講演、実体経済を前提としない成長戦略を語っている。

 「失業なき労働移動」と題した項目で――

 安倍晋三「昨年末に政権が発足してからのわずか3カ月で、それまで低迷していた新規求人数は4万人増えました。一本目と二本目の矢は、確実に、新たな雇用という形でも、成果を生み出しつつあります。

 雇用を増やしている成長産業に、成熟産業から、スムーズに『人材』をシフトしていく。『失業なき労働移動』は、成長戦略の一つです」――

 そのために「労働移動支援助成金」の増額、成長産業と労働者のマッチングを円滑実施するための3カ月間のお試し雇用を支援する「トライアル雇用制度」の拡充を謳っている。

 いわば成熟産業から成長産業への「失業なき労働移動」によってより速やかに経済の成長を加速させていくことを以って安倍内閣の「成長戦略」とするということなのだろうが、いくら成長産業であっても実体経済が伴わなければ、政府から労働移動支援助成金を受けたとしても人件費の確実な保証は長続きしないはずだから、成長産業を生かすのも殺すのも実体経済の回復が基本となるはずだ。

 また実体経済が回復すれば、政府の要請を待たずとも、成長産業への労働移動は自ずと発生することを市場原理とするはずである。

 要するに講演という形で「成熟産業から成長産業への『失業なき労働移動』」などと謳わなくても、実体経済の回復に焦点を絞ってその実現を最初に図りさえすれば解決する政府の責任であるはずである。

 言い替えるなら、安倍晋三が直々に経団連に賃金アップを要請するとか、副大臣が荷主企業に燃料高騰分のトラック業界の運賃への適正な転嫁を要請するとか、太田国交相が建設業界団体に労務単価の人件費への反映を要請するとかは政府が実体経済の回復という役目を果たしたあとですべき責任行為であって、実体経済回復を先決の責任問題とせずに様々に要請を出すことは主客逆転させた責任行為に過ぎないということである。

 安倍内閣が金融政策で株高・円安を実現できたとしても、実体経済の回復という点で責任を果たしていないからこそ、主客逆転させた的外れの責任行為に勤しまなければならないということなのだろう。

 このようなアベノミクスのズレ・見当違いは多くの識者が指摘している。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする