北方4島返還に関わるこれまでの交渉経緯をインターネット記事等で調べて、ざっと振り返ってみた。
●1956年日ソ共同宣言
モスクワで署名、国会承認を経て、同年12月12日発効。両国の国交が
回復。
「平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を引き渡す」
●1993年東京宣言(細川総理大臣とエリツィン大統領)
4島の帰属の問題を解決し、平和条約を結ぶことを確認。
●1997年クラスノヤルスク会談(橋本総理大臣とエリツィン大統領)
「2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」ことで合意。
●2000年プーチン大統領就任
「平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を引き渡す」とした1956年の日ソ共同宣言の有効性を認める、
●2001年イルクーツク声明(森首相とプーチン大統領)
日ソ共同宣言と東京宣言を交渉の基礎と位置づけ、以下の確認。
▽歯舞、色丹の2島の引き渡しを巡る交渉
▽国後、択捉の帰属の確認を巡る交渉
●2003年小泉首相モスクワ公式訪問。
日ロ行動計画で合意。
北方領土問題を含む平和条約交渉及び全分野での両国関係進展の確認。
日本側が4島の帰属の確認を求める姿勢を強め、ロシアがこれに反発したため交渉停滞。
●2010年メドベージェフ大統領国後島訪問、両国の関係が悪化。
●2012年プーチン大統領
大統領職復帰前、「双方受け入れ可能な形で決着させ、この問題に終止符を打ちたい」
だが、ロシアの返還意思に逆行する動きがあった。
●2006年8月策定
「2007-2015年のクリル諸島(サハリン州)社会発展計画」
予算総額179億4170万ルーブル(約840億円)
計画内容
1.輸送インフラの発展(空港、港湾、自動車道路の整備)
2.漁業の発展
3.燃料・エネルギー部門の発展(電力供給の質と確実性の向上)
4.社会的インフラの発展と観光業の発展(病院、学校、通信網の整備)
(《ロシア極東地域をめぐる最近の政策動向》島村智子)から引用
●2011年2月約3千人のロシア兵駐留の択捉島、国後島の軍備近代化方針を表明。
2011年2月1日北方領土を含む千島列島の開発プロジェクトのリストを韓国企業に提示、事業参画を要請
2011年2月15日中国・大連の水産会社と国後島地元企業とのナマコ養殖の合弁事業開始合意。
2011年2月16日中国の水産会社が色丹島地元企業とホタテ養殖の合弁会社設立を計画中。
(以上《WEDGE Infinity》から)
●2011年末ロシア極東拠点アメリカ系企業が国後島で発電所建設受注
●2012年8月スイス企業幹部ら国後訪問。
目的:観光や投資環境の視察。
●2012年9月フョードロフ露農相が択捉島に上陸。
目的:参入韓国企業整備の港湾地区、温泉治療施設等視察。
●2013年2月ロシア極東拠点アメリカ系企業受注の国後島発電所建設の着工確認。
以上北方領土に於ける第三国の経済活動はロシアの実効支配正当化につながるとして容認できないとしている日本政府の方針を無視するロシア側の態度となっている。
逆説すると、日本政府の方針を無視した北方4島の実効支配強化=ロシア領土化ということであり、今まで示してきたロシアの北方4島返還意思に矛盾する開発であり、軍備近代化ということになる。
問題は実効支配強化=ロシア領土化と返還とどちらが事実なのかということに尽きる。
このことを占う象徴的な態度を安倍晋三との会談後のプーチンが示している。
《【日露首脳会談】ロ大統領、会見でいら立つ 北方領土の外国企業活動問われ》(MSN産経/2013.4.30 07:40)
北方領土で外国企業が活動している問題について問われると。
プーチン「我々は本当にこの(領土)問題を解決したいのだ、(問題解決プロセスを)妨げたいなら、激しくて直接的な質問をし、激しくて直接的な回答を得ることだ。
現地はロシア国籍を持つ人々が暮らす。彼らの生活を考える必要がある」
島民の生活向上はロシア政府に課せられた義務だとしても、その義務を説明すれば済むことを、「妨げたいなら、激しくて直接的な質問をし、激しくて直接的な回答を得ることだ」と、記者に対してそれ以上の質問を封じるような発言をする必要はどこにもない。
いわば島民の生活向上以外に実効支配強化=ロシア領土化といった他意がなければ、第三者が指摘する他意に拘る必要も囚われる必要も、さらに煩わされる必要もないだろうから、苛立つことこともなく、「ロシアの経済発展に対応させた4島の開発であり、4島島民の生活向上だ。ゆくゆくは返還するからといって、島民の生活を置き去りにしてもいいのかね」と言えば片付くことを、苛立ちを示すことによって逆に他意の存在を窺わせることになった。
今回の安倍晋三の訪露ではプーチン大統領と会談し、日ロ共同声明を発表しているが、領土問題については双方に受け入れ可能な形で最終的な解決を図り、平和条約の締結を目指すことで合意したということだが、この「双方に受け入れ可能な形」というのが曲者であり、難敵である。
ロシアが日本に対して「受け入れ可能な形」をどうぞと譲ってくれるわけではないからだ。「受け入れ可能な形」に関して双方が一致しなければ、返還交渉は延々と平行線を辿る。
領土交渉が平行線を辿るか停滞している間に信頼関係の構築だとばかりに経済協力だけが先行して経済的な相互依存関係が強化されれば、領土交渉で日露間に軋轢や関係悪化が生じても、対抗策として経済関係を損なうことになる措置を講じることは、そのことによって日本側も受けることになる一時的なダメージは覚悟できても、一定程度以上の持続的なダメージは覚悟し難いものとなる。
このことを裏返すと、日露の経済的な相互依存関係が強化されればされる程、ロシアは一時的な経済的ダメージを覚悟の上で領土交渉を長引かせることができることになる。
そう疑わせるロシアの領土返還意思に矛盾するロシア側による北方四島の開発と軍備近代化等の実効支配強化=ロシア領土化となっている。
日露のもはや解(ほど)くことができない程に経済的な相互依存関係が密接となったとき、誰を次の大統領に選ぶか世論の動向にもよるが、プーチンが領土返還強硬反対のメドベージェフとお互いの職責を再び交換して、メドベージェフが領土交渉打ち切るという手は考えられないでもない最悪の悪夢である。
そのことによって政治的関係は冷え込むだろうが、もはや経済的相互依存関係を決定的に壊すことはできない。
安倍晋三が中国に関して「日中関係は最も重要な2国間関係の一つであるし、経済に於いては切っても切れない関係だ。尖閣諸島の問題で、すべての関係を閉ざしてしまうのは間違いで、安倍政権に於いても、対話のドアは常にオープンにしている」と常に言っているようにロシア側からも、「露日関係は最も重要な2国間関係の一つであるし、経済に於いては切っても切れない関係だ。領土返還問題で、すべての関係を閉ざしてしまうのは間違いで、ロシア政権に於いても、対話のドアは常にオープンにしている」と言われるだけに違いない。
正夢となる悪夢なのか、逆さ夢となる悪夢なのか、プーチンとメドベージェフのみぞ知るといったところか。