安倍晋三の歴史認識が日中・日韓関係に於ける外交関係構築の基本的要件を踏まえることができない理由

2013-05-16 09:42:04 | 政治

 ――先に結論を言うと、日本の首相の歴史認識が日中・日韓関係に於ける外交関係構築の欠かすことのできない基本的要件となっていながら、安倍晋三がそのことを踏まえることができないのは自らの歴史認識が中韓に受け入れられないからであり、基本的要件を踏まえた場合、自身も承知しているように直ちに外交問題化・政治問題化するからだ。――

 踏まえることができないのは安倍晋三ばかりではない。昨日、5月15日(2013年)の外交・内政諸問題の集中審議を行った参院予算委で歴史認識について安倍晋三を追及した民主党小川議員も踏まえていないために安倍晋三の箸にも棒にもかからない、はぐらかすだけの答弁を引き出す堂々巡りの質疑を延々と続けることになった。

 際限もないエネルギーのムダに思えて仕方がなかった。NHKの中継を録画して途中まで文字に起こしてみた。安倍晋三の答弁はこれまでの繰返しに過ぎない。小川議員は安倍晋三から繰返しの答弁を引き出すためにエネルギーを使ったようなものである。 

 2013年5月15日)参議院予算委員会 外交・内政諸問題集中審議
  
 小川敏夫「過去の日本、日本はですね、中国に侵略したというご認識はお持ちでしょうか」

 安倍晋三「この過去の問題でございますが、日本と中国というのはですね、えー、お互いに隣国でありますから、長い歴史を共にしているわけでございます。

 その間ですね、えー、実際にこれまで様々な出来事があったわけでございますが、先の大戦、または過去に於いてですね、えー、中国の人々に対して大きな、えー、被害を与えたと、大きな苦しみを与えたことに対して、いわゆる痛惜の念を持っているわけでございました。(ママ)

 そうしたものの反省の上に立って、えー、今日の日本の現状があるわけでございまして、まさに自由で民主的な、法の支配を尊ぶ基本的な人権を守っていくという、そういう国をつくってきました。こういうことでございます」

 小川敏夫「つまり、総理はね、あのー、質問に答えていない。あのー、中国の人々に苦しみを与えた、だから、反省するというのはあるんだけど、その前提として私が聞いているのは、侵略したと、まあ、村山談話でも、政府は認めているわけですし、その後の政府も認めておるわけでございますけども、あなた自身、総理、あなた自身は今の答弁でも明らかなように侵略したということについては一言もおっしゃらなかった。

 これまでも国会答弁もそうだから、私は重ねてここで聞いているわけです。村山談話を継承するとか、抽象的なことは除いてください。

 総理、あなたご自身の認識で、かつて日本は、あるいは日本軍は中国に侵略したのですか、あるいは侵略ではなかったんですか。

 そこのところははっきりと、総理のご認識を教えて下さい」

 安倍晋三「えー、私は今まで日本が侵略しなかったと言ったことは一度もないわけでございますが、まあ、ま、しかし歴史認識に於いてですね、私がここで述べることはまさにそれは外交問題や政治問題に発展していくわけでございます。

 いわば私は行政府の長としてですね、いわば権力を持つ者として、えー、歴史に対して謙虚でなければならない。このように考えているわけでありまして、えー、いわばそうした歴史認識に踏み込むことは、これは抑制するべきであろうと、このように考えているわけでございます。

 つまり、えー、歴史認識については歴史家に任せるべき問題であると、このように思っているわけでございます」

 小川敏夫「あのー、総理ね、総理は外交問題に発展するからと言って、答弁を逃げていらっしゃるけれども、そうして逃げることが外交問題に発展するという認識は持ちませんか。

 即ち、日本政府はこれまで明らかにはっきりと、侵略と、いうことを認めて、その上で謝罪をしておったわけであります。ま、総理は、先般国会でですね、侵略という言葉にも色んな定義がある。色んな意味があるというふうにおっしゃられました。

 では、そのー、言葉を踏まえて質問しますと、では、侵略という言葉の定義の把え方によっては侵略したとも言えるかもしれないけれども、侵略という言葉の定義の把え方によっては、あれは侵略でなかったと、こういうふうに総理は考えていらっしゃるんですか」

 安倍晋三「ま、つまり、それは今委員が議論しようとされていることこそですね、えー、歴史認識の問題であって、そこにいわば、あー、踏み込んでいく、べきではない、というのが私の見識であります。

 つまりここで、えー、議論することによってですね、外交問題、あるいは政治問題に発展をしていく、わけであります。ま、つまり、えー、歴史家がですね、冷静な目を持って、そしてそれは歴史の中で、まさに、えー、長い歴史と試練に、曝される中に於いて、えー、確定していくものであると、いうことだろうと思いますが、つまり、それは歴史家に任せたいと、こういうことでございます」

 小川敏夫「いや、これまでは日本政府はですね、日本が侵略したことを認めた上で謝罪をしているわけです。しかしそれを、今総理、あなたは認めないからこそ、外交問題になっているわけです。日中問題が悪化していると。あるいはアメリカもですね、議会調査局がですね、懸念を示しました。

 では、侵略の次に続いてもう一つ聞きます。

 韓国、あるいは朝鮮半島に対する植民地支配、これもですね、政府も植民地支配を認めて、その上で謝罪しておったんですが、この、おー、安倍総理は日本が韓国を植民地支配をしたという認識はお持ちですか。あるいは違う認識なんですか」

 安倍晋三「えー、まあ、韓国、あるいは朝鮮半島の人々に対してですね、まあ、ま、日本は過去、大変な、ま、被害を与え、そして苦しみを与え、まさに、その、痛惜の念、ま、その上に立って、ま、自由で、民主主義な、そして基本的人権を尊ぶ、法の支配を守る国としての、今日の歩みが、あるわけでございます。

 えー、ま、その中に於いてですね、まさに、えー、我々はですね、えー、今申し上けましたように国際社会に於いて、大いなる貢献をしてきたところでございます。

 えー、先程も申し上げましたようにですね、これは政治問題、外交問題に発展をしていくわけでございますから、えー、これは、まさに歴史家に任せる問題であろうと、このように思います」 

 小川議員は続いて日韓関係がギクシャクしている原因は何かと問うと、安倍晋三はイ・ミョンバク大統領の竹島上陸を挙げて、民主党政権時代の出来事だと民主党政権に責任を転嫁。ついでにメドベージェフ大統領の国後島訪問も民主党政権の時代だと、そのことだけが問題でもないのに罪を着せるようなことを言う。

 対して小川議員は韓国に竹島の実効支配を許したのは自民党政権時代だと、歴史認識に関係しない応酬に両者ともエネルギーを使い、日韓関係がギクシャクしているのは安倍晋三自身の発言が原因となっているのではないかと直截に追及、対して安倍晋三は日韓は自由や民主主義の普遍的価値を共有する大切な隣国で、韓国が新しい指導者となったことから、両国の対話が進み、関係が強化されていくことが日本の国益に適うと、質問には直接答えない、例の如くの答弁に終始する、かくかような際限もな堂々巡りの質疑となっている。

 確かに村山談話は日本の植民地支配と侵略を認めている。

 村山内閣総理大臣談話(外務省HP/1995年〈平成7年〉8月15日)
  
 〈わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。〉――

 だが、安倍晋三は村山談話のうちの「アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」だけを剽窃して、肝心の「植民地支配と侵略」は骨抜きしている。

 このこと一つ取るだけでも、日本の戦争を侵略戦争と認めていないことを自明の理とすることができるが、これまでの国会での発言、東京裁判否定、占領政策否定、河野談話に関わる発言、その他での発言で日本の戦争を侵略戦争と認めていないことは十分に証明できる。

 村山談話にしても、ここでは「私は今まで日本が侵略しなかったと言ったことは一度もない」と断言しているが、「今まで日本が侵略しなかったと言った」経験はないという意味にも取れるし、実際にもそうだったはずだから、「侵略しなかったと言ったことは一度もない」が侵略を認める発言となる保証はない。

 安倍晋三が侵略も植民地政策も認めていないのは天皇主義者であることからも分かるはずなのに単に過去の侵略を認めるのか、植民地支配を認めるのかと質問するから、安倍晋三にしても認めていないことを認めるというわけにはいかないから、言った場合外交問題化・政治問題化は明らかで、それを恐れて直接答えないはぐらかしの答弁となるだけなのだと弁えなければならないはずだが、弁えていないから、同じ質問の繰返しとなり、答弁の方も同じ繰返しとなる。

 もし小川議員が日本の首相の歴史認識が日中・日韓関係に於ける外交関係構築の欠かすことのできない基本的要件となっていることを的確に認識できていたなら、「歴史家に任せた歴史認識ではなく、中韓と良好な友好関係を築くためには安倍晋三自身の歴史認識を中韓に対して明らかにする必要がある」と追及することができたはずだ。

 基本的要件となっているからこそ、村山談話が発表され、河野談話を必要とし、歴代内閣が引き継いでいくこととなった。

 いわば村山談話にしても河野談話にしても、それぞれの談話自体を日中・日韓関係に於ける外交関係構築の基本的要件としたのである。

 そういった外交上の後々にまで亘る制約を日本の戦争がつくり出した。

 しかし基本的要件から攻めないから、安倍晋三に対して自らの歴史認識を隠させたまま、中韓を含めたアジアの国々に多大な被害と苦痛を与えた「反省の上に立って今日の日本の現状がある。まさに自由で民主的な、法の支配を尊ぶ基本的な人権を守っていくという、そういう国をつくってきた」といった文言で過去のことはいつまでも拘るな、現在と未来に拘るべきだといった趣旨の答弁を許すことになる。

 小川議員が「例えばの話として、もし総理が植民地政策と侵略を認めたなら、中韓との歴史認識に関わる外交関係は悪化することを避けることできると思いますか」と質問したなら、安倍晋三はどう答弁するだろうか。

 勿論、素直には答えまい。今までだって素直に答えたことはない。だが、聞くだけの価値はある。

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