安倍晋三の8月4日参院質疑、自身の著書で日米軍事同盟を“血の同盟”と表現する時代錯誤な危うい思想

2015-08-06 09:37:52 | 政治



 民主党元政策調査会長で、現在も医師をしている桜井充(宮城県選挙区)が8月4日午後の参院平和安全法制特別委員会で安倍晋三の2004年1月発売の岡崎久彦との対談集を用いて、安倍晋三が言っているのとは反対に自衛隊員のリスクは高まるのではないのかと追及した。

 安倍晋三の著書の一節を書いた大型のパネルをテーブに立てて質問に入る。

 櫻井充「これはご自身の著書です。『この国を守る決意』というとこにこういうふうに書かれています。

 『言うまでもなく、軍事同盟というのは“血の同盟”です。日本がもし外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流します。しかし、今の憲法解釈のもとでは、日本の自衛隊は、少なくともアメリカが攻撃されたときに血を流すことはないわけです。実際にそういう事態になる可能性は極めて小さいのですが、しかし完全なイコールパートナーと言えるでしょうか』

 つまり日本の自衛隊に対してですね、血を流せと、そこまではっきりとおっしゃっていまして、アミテージ元国務副長官は要するにNHKでインタビューに答えて、ガイドラインの見直しを含む安倍総理の、安倍首相の訪米にはどんな意味があるのか考えますかということについて、何て書いてあるかというと、『日本周辺でアメリカ人を守るため自衛隊が命を賭けるという宣誓なのか』と。ここまでおっしゃっている。

 総理は繰返し繰返し自衛隊の方々のリスクは軽減するんだとか、危なくないんだという発言をされてきておりますが、ご自身の著書でもですよ、血を流すんだとまで言っているんですと、リスクが高くなるってことじゃないんですか。

 ですから、私は何で(安倍晋三が著書で、ということか)ああいう発言を出しているのかと言うと、結局のところはリスクは高くなるんだから、リスクは高くなるんですよとおっしゃるべきだと思うんですよ。

 おっしゃった上で、だけど、こういう対処をするんですよという(ことを)出してですよ、何か全然大丈夫だから、心配するなって言われたって、これはみーんな信用しないと思いますが、如何ですか」

 安倍晋三「えー、私の著書の一文を引いて頂いておりますが、ここのどこにですね、自衛隊が血を流せと書いてあるんですか。全くどこに書いてありますか、桜井先生。

 先程から何回かですね、私が血を流せと書いてある。えー、どこにも書いていないわけであります。

 それはですね、『完全なイコールパートナーと言えるでしょうか』ということについて申し上げているわけでございまして、決して私は自衛隊に血を流せと言っているわけではないわけでございます。

 いわば旧安保条約に対してですね、新安保条約に於いては5条で旧安保条約になかった米軍に対する日本に対する防衛義務を与えていると同時にですね、6条に於いて極東の安全と平和ために日本の施設を使うことができる、この中に於いていわば双務性ということになっているわけでございますが、しかし、それは完全なものではないという意味に於いて、ここで、私はここで述べているわけでございます。

 その違いについてはですね、まさにアメリカの若い兵士が日本のために命を賭けるということは事実であります。その認識を知っていただくためにこれを書いたわけでありまして、自衛隊に血を流す(流せ)と書いていないし、そういう意図もないということは申し上げておかなければならないということです。

 これはお互いにですね、冷静な桜井先生でありますから、これはよく分かっておっしゃっておられるんでしょうが、まさに建設的な議論を行っていきたい、このように思っているわけでございます

 櫻井充「あの、済みませんが、私の国語能力がないからなのかもしれません。しかし、ここのところの2段目からですね。しかし、『日本の(パネルには『今の』と書いている)憲法解釈のもとでは、日本の自衛隊は、少なくともアメリカが攻撃されたときに血を流すことはないわけです』

 その前の段で、『アメリカの若者が血を流します』と、こう書いて、ここまで書かれていればですよ、血を流さければイコールパートナーにはならないんじゃないかというふうに書いてあると、読むのが私は普通だと、そう思います。

 まあ、いいです。水掛け論になるんでしょうから」

 桜井は集団的自衛権の国内的な定義があるのか、ないのかに質問を変える。

 パソコンを叩きながら、NHKの中継で二人の遣り取りを聞いていて、最初は安倍晋三の元々いいはずはない国語能力の程度の悪さに呆れたが、最後の文飾を施した発言を聞いている内に意味深な言葉の発信に思えた。

 このことに関しては後で自分なりに説明するとして、安倍晋三が対談集で自身が述べている発言を改めて見てみる。

 「言うまでもなく、軍事同盟というのは“血の同盟”です。日本がもし外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流します。しかし、今の憲法解釈のもとでは、日本の自衛隊は、少なくともアメリカが攻撃されたときに血を流すことはないわけです。実際にそういう事態になる可能性は極めて小さいのですが、しかし完全なイコールパートナーと言えるでしょうか」

 以上の言葉を次のようにように要約してみる。

 「日本がもし外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流し、アメリカが攻撃されても自衛隊は血を流さない。アメリカが攻撃される可能性は極めて小さいが、一方が血を流し、もう片方が血を流さないのは完全なイコールパートナーとは言えない」――

 こう言っていることは、「完全なイコールパートナー」となるにはアメリカの若者も血を流し、自衛隊も血を流す相互関係(安倍晋三が言う「双務性」)を目指すことを意味していて、安倍晋三は自衛隊が血を流すことを前提とした日米関係の新たな構築を考えていたことになる。

 自衛隊も血を流すそういった関係の構築自体が自衛隊のリスクが増大することを意味していて、増大することを常識とした関係構築を指すことになる。

 それを安倍晋三は「ここのどこにですね、自衛隊が血を流せと書いてあるんですか」と、書いてないことを以ってリスク増大を誤魔化す詭弁を用いて遣り過ごそうした。

 なかなかの狡猾ぶりである。

 安倍晋三が「冷静な桜井先生でありますから」と持ち上げたのは、冷静に行きましょうというサインであろう。そして「まさに建設的な議論を行っていきたい」と、「建設的な議論」を促した。

 つまり不毛の議論となることを戒めた。

 では、この場面での安倍晋三にとっての不毛の議論とは、アメリカの若者が血を流すのだから、自衛隊も血を流すことを求めているとか求めていないとか、あるいは血を流さなければならないとか流さなくてもいいとかいった議論と言うことになる。

 こういったことを不毛の議論とするには自衛隊も血を流すことになる状況の当然視を前提としていなければならない。

 新安全保障関連法案が成立しても絶対に自衛隊が血を流すことがなければ、流血に関しての議論で不毛も建設的も存在しないことになる。兵士が戦争に行って、あるいは戦闘に加わって血を流すことになるのは当たり前のことだから、流す・流さないを論じることは不毛の議論だということになり、それに触れないこと、あるいはそういったことを問題にしないことが安倍晋三にとって「建設的な議論」ということになる。

 要するに自衛隊が血を流すとか流さないといった限定的な地域での問題は小さな現象であって、国を守る・守らないといった大きな枠で捉えることが安倍晋三にとっての「建設的な議論」ということなのだろう。

 だからと言って、国を守るを口実に、あるいは日本の安全保障を口実に憲法に違反していいわけではない。憲法に違反してまで、国民に血を流すことを求めていいいわけではない。

 なぜなら、戦前の例のように国策が常に正しいとは限らないし、常に正義であるとも限らない。間違えないための基本的な歯止めが憲法である。憲法を順守することによって、その順守姿勢が他の約束事(安倍晋三提唱の「国家安全保障会議」が安全保障に関して決めた諸々の規定や、「国家安全保障会議」が規定に忠実に則って決定した事項の実務的な運用の取り決めを行う防衛省内設置の「統合幕僚監部」のそれぞれの規定等)を間違いないように運用する姿勢に繋がていく。

 最初の決定の過程で規定をいい加減に解釈して運用をすれば、他の決定の過程でもそれぞれの規定をいい加減に解釈することになって、負けている戦争を負けていないと偽ることになる。

 安倍晋三の著書『この国を守る決意』の中での発言で何よりも問題なのは、「軍事同盟というのは“血の同盟”です」と、時代錯誤な“血の同盟”という表現を用いていることである。いくら11年前の著書であっても、時代錯誤に過ぎる。

 時代錯誤の血判状が頭にあったのだろうか。このような時代錯誤の政治家に一国の首相を任すことができるだろうか。非常に危うい思いしか湧かない。

 安全保障問題を血を流す・流さないのレベルと把えていることと新しい安保法制のもとで自衛隊のリスクが高まるかどうかは別問題である。法案を成立させるためにリスクを隠していいという理由にはならないし、自衛隊を海外活動させるためにリスクを隠していいという理由にもならない。

 実際にリスクが高まらないならいいが、リスクが高まることが予想されながら、リスクは高まらないとすることでリスクを軽減することはできないからだ。

 既に憲法を順守ししていない上に後者であるとしたら、他の約束事に求めるべき如何なる順守の姿勢も期待不可能となる。

 桜井充が安倍晋三が「これはお互いにですね、冷静な桜井先生でありますから、これはよく分かっておっしゃっておられるんでしょうが、まさに建設的な議論を行っていきたい、このように思っているわけでございます」と言って求めた暗黙の取引を理解して、「まあ、いいです。水掛け論になるんでしょうから」と引き下がったのかどうかは分からない。

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