アートディレクター佐野研二郎氏の手によるデザインが2020年東京オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムに決定、7月24日発表された。
ところが、既に周知のように盗作疑惑が起きた。この経緯を色々な記事から拾ってみる。
5日後の7月29日、ベルギー在住のグラフィックデザイナー、オリビエ・ドビ氏が2年前の自作の劇場ロゴに類似しているとフェイスブックに投稿、7月31日にIOCと日本オリンピック委員会(JOC)にエンブレムの使用差し止めを求める文書を送付し、8日以内に回答するよう要求した。
同じ7月31日に組織委が「IOCの規定上必要とされる手続きを踏まえ、発表前にIOCと共に国内外における商標調査を経た上で決定したものであり、組織委員会としては問題ないと考えている。IOCも同じ見解と承知している」(スポニチ)とのコメントを発表。遠藤利明五輪相も会見で「問題ない」(同)と疑惑を否定。
盗作を疑われた佐野研二郎氏は海外出張中で、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会を通じて盗作疑惑否定のコメントを発表した。
「報道されている海外作品については全く知らないものだ。制作時に参考にしたことはない。このエンブレムは1964年の東京オリンピックの作品へのリスペクトを持ちながら日本らしさを自分のなかで追求してデザインした」(NHK NEWS WEB)
佐野研二郎氏は8月4日夕方に海外から帰国、翌8月5日に記者会見を行い、盗作疑惑を全く事実無根と否定した。
会見全文は《聞文読報》に載っている。
そこに次のような発言がある。
「まずはじめに誓って申し上げますけれども、今回の東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムは、アートディレクター、デザイナーとしてこれまでの知識や経験を集大成して考案し仕上げた、私のキャリアの集大成とも言える作品だと思っております」
自身の知識と経験の全てを掻き集めて一つに纏め上げた、全キャリアを賭けた一大作品だと自負と自信の程を示した。
これは自分がオリジナル追求者であることの宣言でもある。誰が他人のデザインなど真似をするもんか、オリジナルで生き、オリジナル一本で勝負しているという宣言である。
周囲からの応援者も存在した。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻相関社会科学コース博士課程在籍中の日本の頭脳のエースの位置に立つ弱冠30歳の社会学者古市憲寿が8月6日のフジテレビ「とくダネ!」に出演して、佐野研二郎氏の無実・身の潔白を印象づける強い味方となった。
古市憲寿「オリビエ・ドビさんて、そんなに世界的に有名なデザイナーではないですよね?
Twitterもフォロワー数が300人しかいないような『弱小の人』なんですよ。だから、本当に言いがかりだなって思っちゃうんですけどねえ」(livedoor news)
Twitterのフォロワー数が強い人・弱い人の基準、あるいは人間の大きさ・小ささの基準、さらに真偽判定の基準になるということは初めて知った。この基準に当てはめるなら、私なんぞはケツの穴に入ってしまう程のケチ臭いチッポケな人間ということになるが、さしずめ当たっているのかもしれない。恐れ入りました。
いずれにしても東京大会組織委員会は佐野研二郎氏オリジナル作のエンブレムの使用を決め、舛添東京都知事も都として使うことを明らかにしたことで盗作ではないこと・全くのオリジナルであることの強い保証人となった。
佐野研二郎氏は背中に鮮やかな桜吹雪の刺青を入れた遠山金さんの「これにて一件落着」の身の潔白の裏付けを世間的にも社会的にも得たことになる。
しかし、何もあとを濁すことのない全くの一件落着ではなかったようだ。
8月11日から昨日の8月13日にかけて、各マスコミがサントリービールの販促キャンペーン賞品の佐野研二郎氏デザインによるトートバッグ(手提げ、あるいは肩掛けバッグ)30種類の内、8種類が他人のデザインとよく似ているとインターネットで指摘され、その事実がマスコミその他によって確認され、サントリービールは8月13日、佐野研二郎氏の申し出を受けて、その8種類のバッグの取り扱いを中止することを決めたと報じている。
今回は東京オリンピック・エンブレムの盗作疑惑のときのようにオリジナル追求者の立場から、自分の作品は全てオリジナルであって、単なる偶然の類似に過ぎない、事実無根だと全面否定することもなく、自分から申し出て8種類のデザインを撤回した。
エンブレムとトートバッグの違いはあっても、もしここで自身のデザインに関してそのオリジナル性に一点の曇りでも与えたなら、エンブレムに関して改めてオリジナル性に一点の曇りもありません、私自身のオリジナルです、「デザイナーとしてこれまでの知識や経験を集大成して考案し仕上げた、私のキャリアの集大成とも言える作品」ですと申し開いたとしても、その証言は信頼と確かさを失うことになる。
もしエンブレムが盗作でも何でもなく、自身のオリジナルだと主張したなら、トートバッグのデザインに関しても、オリジナルだと主張する一貫性を持たせてこそ、エンブレムのオリジナル性は保証される。商品の中から8種類のデザインのバッグは取り下げて欲しいと申し出てはならなかった。
トートバッグのいくつかのデザインはオリジナルではなかったが、エンブレムに関しては全くのオリジナルですと主張したとしたとしても、どれくらいの人間が信じるだろうか。
一貫した態度を取ることができなかった以上、例え盗作ではなかったという判定が下されたとしても、その判定自体が疑惑の目で見られて、疑惑を膨らませることにしか役立たず、ついには疑惑は事実化して、独り歩きしていくことになるだろう。佐野研二郎氏が身の潔白をどのような言葉でどう主張しようと、盗作の人とレッテルを貼られるか、色眼鏡で見られることになるに違いない。
そうしなかった以上、例え盗作ではなかったとしても、疑惑を膨らませて、疑惑は事実化して、独り歩きしていくことになるだろう。佐野研二郎氏が身の潔白をどのような言葉でどう主張しようと、盗作の人とレッテルを貼られるか、常に色眼鏡付きで見られることになるに違いない。
サントリーはキャンペーンページから、佐野氏のプロフィールを削除したというが、早手回しの防御策に出たということであるはずだ。