統幕の成立前の安保法案の分析・研究への自衛隊参加は禁止規定の政治的行為に該当、政治への関与となる

2015-08-22 08:13:59 | 政治


 ご存知のように安倍内閣は防衛省統合幕僚監部が安全保障関連法案の成立を前提に自衛隊の対応を記した内部文書を作成していたことについて何ら問題はないという態度を取っている。 

 内部文書の作成時期について防衛相の中谷元は8月19日の参院特別委員会で次のように発言している。

 中谷元「5月の14日の法案の閣議決定を機に必要な体制を整える観点から、翌5月15日に私から省内の監部に対して、法案の内容について一層、分析、研究に努めるとともに、隊員に対しての周知を行うよう指示をしたところでございます」(聞文読報)   

 2015年5月14日に閣議決定して、翌5月15日、統合幕僚監部に対して法案の分析・研究を指示、併せて自衛隊員への周知を指示した。

 この2015年5月15日は安倍内閣が安保法案を国会(衆議院)に提出した日でもある。

 いわば国会提出と同時に法案の分析・研究をスタートさせた。

 この早手回しには驚くが、法案の成立を前提に未成立の法案に基づいて分析・研究を防衛省内の統合幕僚監部が、例え幹部自衛官がそのメンバーを占めていたとしても、行政機関の一部として行うことは問題ないとしても、行政機関に所属していない自衛隊員を分析・研究に関与させることは自衛隊員の政治的行為の禁止規定に抵触し、政治への関与を意味しないだろうか。

 法案が成立し、法律となった場合は各条文の具体的運用に関わる解釈は国会審議を通じて確定的となるから、如何ようにも分析・研究しようとも解釈に影響を与えないだろうから自由であるが、成立前であるなら、その解釈に影響を与えて、それが国会審議での閣僚答弁に反映され、条文自体の解釈にプラスされた場合、自衛隊員の政治的関与を介在させたことになる。

 この解釈への影響は自衛隊法が第61条で、〈隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。〉と規定している内の、“政治的目的のための利益要求”に関する政治的行為の禁止に該当するはずである。

 また、自衛隊法施行規則の第86条第5項、〈政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し、又はこれに反対すること。〉という禁止規定に該当するはずである。

 8月19日の参院特別委員会では小池晃共産党議員の追求に対して中谷元は上に挙げた答弁だけではなく、その他にも統合幕僚監部の法案に基づいた分析・研究への自衛隊の関与に言及している。

 中谷元「自衛隊の幹部に対する説明につきましては、やはり法案の内容を正しくしっかり周知徹底をするという意味で、これは重要なことでございます」

 何しろ総理大臣や防衛大臣の指示の下、具体的運用は自衛隊に任されるのだから、自衛隊の幹部がただ聞きおくだけという一方通行の説明で終わる保証はなく、彼らの、現場のことは我々が一番知っているという現場知識主義に基づいた自衛隊幹部側からの要望や希望、期待の類いが寄せられないということは考えられない。

 未成立の法案に対する要望や希望、期待と言うことなら、政治への関与そのものとなる。

 中谷元「今般の法制に関しましても、成立前に法律の施行に際して必要となる事項について、あらかじめその内容を分析、研究しておくことは、実際に任務として実施していく防衛省、自衛隊としては必要なことでありまして、本資料も統合幕僚幹部として当然に必要な分析、研究をおこなったものでございます」     

 防衛省のみならず、自衛隊が必要とする法案内容の分析・研究だと言っている。

 中谷元は自衛隊の政治への関与を許しておきながら、シビリアンコントロールについて次のように答弁している。

 中谷元「このように、この資料の内容はわたくしの指示の範囲内のものであり、法案成立後に行うべきものである実際の運用要領の策定や訓練の実施、関連規則等の制定は含まれておらず、シビリアンコントロール上も問題はあると考えておりません」(以上(聞文読報

 自衛隊を政治関与させておいて、「シビリアンコントロール上も問題はあると考えておりません」と言う。

 安倍晋三も同じようなことを言っている。

 8月21日の参院特別委員会。

 安倍晋三「今後、具体化していくべき検討課題を整理すべく、必要な分析や研究を行うことは当然のことと考えている。ましてや今回の資料の作成は、防衛大臣の指示のもと、その範囲内で行われたものであり、資料の作成に問題があるとは全く考えていない。シビリアンコントロール、文民統制は完遂されている」(NHK NEWS WEB

 自衛隊幹部を政治関与させる“シビリアンコントロール”とは、一体どのようなシビリアンコントロールなのだろうか。

 自衛隊の政治関与が当たり前となったとき、自衛隊の意向が法律やその他の規則に反映されていくことになるだろうし、何しろ彼らは現場を一番知っているのは我々なのだという現場知識主義の特権を体質としているだろうから、法律や規則の具体的運用に於いても、自衛隊の意向が大きく反映されかねない。

 こういった状況の行き着く先が戦前の軍部とならない保証はない。


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