新国立競技場建設費高騰の原因の一つは自民も民主も利害を同じくする企業間・官庁企業間の癒着か
8月10日(2015年)参議院予算委員会で民主党の蓮舫が新国立競技場建設見直しについて追及した。
先ず一度ブログに使用したマスコミ記事を参考にしたデザイン決定から建設見直しに至る経緯を時系列で少し手直しして再度並べてみる。
①2012年11月16日、イギリス在住イラン人ザハ・ハディド女史のデザインが独立行政法人日本スポー ツ振興セ
ンター(JSC)主催の日本の新国立競技場のコンペ(国際デザイン・コンクール)で最優秀賞を受賞。建設予算は
1300億円
②2013年9月7日にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開催IOC総会が2020年オリンピック・パラリンピッ
クの東京開催を決定。
③安倍晋三(同9月7日プレゼン)「他のどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから、確かな財政措置に
至るまで、2020年東京大会は、その確実な実行が確証されたものとなります」(ザハ・ハディド女史デザインを
頭に置いていた)
④2013年10月、東京開催決定を受けて1カ月後、独立行政法人日本スポー ツ振興センター(JSC)が設計図から
建設費用を起こす設計会社に見積もりを依頼。総工費3000億円の見積となる。
⑤2013年10月23日、文科相の下村博文が総工費は最大約3000億円と発表。
⑥2013年11月8日、当時の猪瀬都知事が定例記者会見で新国立競技場の建設費を国が総額1852億円と見積もって
いることを明らかにした。
⑦2014年5月28日、JSCの有識者会議が延べ床面積を25%程度縮小等による費用圧縮の基本設計総工費1625億円を了承。
⑧2015年1~2月、JSCは施工予定者のゼネコン側から実施設計図に基づく総工費が3000億円以上になるとの報告を受ける。
一方、JSCと設計会社が基本設計として了承した1625億円を基に資材高騰分や消費税率の引き上げ分を上乗せし2100億円と試算。
⑨2015年2月13日、JSCは2つの見積と共に「(金額の)乖離を収めることは困難と想定される」と文科省に報告。
⑩2015年4月、JSCの河野一郎理事長が下村博文に総工費は最終的にゼネコン案の見積りを基に2520億円に圧縮と報告。
⑪2015年5月18日、下村博文が開閉式屋根設置の大会後への先延ばしを表明
⑫2015年6月29日、下村博文が総工費は2520億円と発表。
⑬2015年7月8日 官房長官の菅義偉が記者会見で総工費2520億円に決まったことについて「大会招致の最終プレゼンテーションで世界に発信し、東京開催を勝ち取った経緯が
あり、安易にデザインを変更することは国際的な信用を失墜しかねない」と表明。
⑭2015年7月10日、安倍晋三、衆院特別委で「これから国際コンペをやり、新しいデザインを決めて基本設計を作っていくのでは時間的に間に合わない。2019年のラグビー
ワールドカップには間に合わないし、2020年の東京オリンピック・パラリンピックも間に合わない可能性が高い」と述べ、デザインの変更は困難だという認識を示す。
⑮2015年7月17日、安倍晋三、首相官邸で記者団に建設計画を白紙に戻し、ゼロベースで見直す方針を表明。
このように時系列で見てみると、先ず2013年10月に設計会社が見積もった金額は3000億円。余りにも費用が膨大過ぎるからということからなのだろう、費用圧縮に取り組み、2013年11月時点で1852億円の建設費、翌年の2014年5月には1625億円の建設費へと圧縮。
ところが、2015年1~2月に今度は施工のゼネコン側が総工費3000億円の見積もりを出すと、JSCは2014年5月28日に一旦は基本設計として了承した1625億円を、2014年4月1日消費税5%から8%増税の既成事実の状況下で見積もったはずにも関わらず、それを2015年1~2月に資材高騰分や消費税率の引き上げ分を上乗せして2100億円へと見積りし直している。
どうもゼネコンが3000億円と見積もるなら、我々の見積りは少な過ぎるのではないのかと3000億円を追っかけて2100億円にしたようにさえ見える。
そして最終的に両者の見積りを折衷して、ほぼ中間の2520億円にしたのではないかと見えてしまう。
ザハ・ハディド女史の事務所は7月28日、自身のデザインが建設費の高額を理由に撤回されたことに関して建設費高騰は〈建設会社の選定で競争原理が働かなかった〉こと、〈建設会社選定の際に日本スポーツ振興センター(JSC)に対し「国際的な入札が行われず、急いで建設会社を選定すれば、建設費の高騰を招く」と忠告したが、聞き入れられなかった〉こと、さらに〈JSCが「建設費を抑制し、質の高い建物を完成させるために必要な、建設会社との協力を許可しなかった」と批判する〉(毎日jp)声明を発表している。
「建設会社の選定で競争原理が働かなかった」と言うことは競争入札ではなく、随意契約と言うことになる。
例え随意契約であっても、建設費があまりにも高ければ、別の設計会社なり、別のゼネコンなりに見積りを依頼し直して、そのとおりの金額なのか検証するものだが、どの記事からもそれを行ったことを窺わせる文言を確認できなかった。
但し随意契約先と事業主体のJSC側と癒着がある場合は、他社に見積りの見直しを依頼することは先ずない。依頼して安く見積もられたら、折角の相互に甘い蜜を分かち合う癒着関係を壊すことになるからだ。
JSC側と設計会社あるいはゼネコンと実際に癒着があったかどうかは分からない。だが、もし事実競争原理が働かない随意契約であったなら、選定に何らかの元々の特定な関係があったことになって、随意契約自体が一つの癒着を指すことになる。
まさかサイコロを振っったり、あみだクジで選んだわけではあるまい。癒着を隠す口実として実績から選んだという言葉をよく使うが、例え競技場建設の実績がなくても、設計図さえ渡せば、競技場建設に関わる設計・施工の熟練者を現場監督等にスカウトして間に合わせる。莫大な利益と競技場が残る限り施工業者として名前が残る自社宣伝のためにも指を加えて眺めるゼネコンはそうは存在しないはずだ。
8月9日の蓮舫の追及を聞いていて、癒着の一層の疑いを抱いた。
蓮舫は「これまで何度も国会で(競技場建設の)見直しを求めて私たちは提案して来たが、現行案で建設と言って一切耳を貸さなかった。求めても情報をまったく公開して来なかった。国会で行政監視しようにも、国民が知ろうとしても、JSC・文科省からは『検討中』と言うばかりで情報が一切開示されなかった」と批判し、「昨日やっと、『白紙撤回までの競技場改築計画の時系列の報告書(新国立競技場整備計画検証委員会)』を出した」と言ったあと、次の質問を続けた。
蓮舫「『白紙撤回までの競技場改築計画の時系列の報告書』、JSCに伺います。当時(見積りは)いくらでしたか」
河野一郎JSCV理事長「3000億丁度です」
蓮舫「ゼネコンが決めつけた総額3000億円、同じ時期にJSC と設計JVが計算した同じ工事の概算額はいくらだったんですか」
河野一郎「約2100億です」
蓮舫「ゼネコンが3000億。JSCが2100億。900億円の乖離はなぜなのですか。同じ建物の概算額です。900億円は何が違ったんですか」
河野一郎「概算をする際の与条件(発注者が設計者に対して与える希望条件)の扱いが違ったものと思っています」
蓮舫「主だった条件の扱いの違いは何ですか」
河野一郎「例えば資材の調達先を国内にするか、国外にするか等々の違いだと思っています」
河野一郎はJSCのトップ、最終責任者である。当然、見積金額に関わる情報を逐一受けていなければならない。受けていれば、それぞれの違いの理由・原因を把握していることになるし、把握していなければならない。
そうであるなら、前者は「与条件の扱いが違っていたからです」と言い、後者は「資材の調達先を国内にするか、国外にするか等々の違いです」と、違いについて明確に言い切らなければならないはずだが、「と思っています」と推定語を使うことで、自身を建設費の違いから距離を置いている。
2015年4月に河野一郎は2520億円に建設費を圧縮したことを文科省に出向いて下村博文に報告しているが、やはり「と思っています」という言葉を使ったのだろうか。
距離を置くということは建設費とまともに向き合おうとはせずに、それだけ責任回避意識を働かせているということであろう。
こんな男が独立行政法人日本スポー ツ振興センターのトップを務めている。
蓮舫「900億の乖離は埋められるものでしたでしょうか」
河野一郎「調整の結果、この乖離は2520億となったものです」
蓮舫「埋められるものだったんでしょうかと聞いているのです」
河野一郎「最終的には埋められなかったと思います」
ここでも「と思います」と推定では許されないはずなのに、推定で発言している。
蓮舫「2015年ゼネコン提示の3000億と同時にJSCが設計業者と試算した2100億円の乖離を埋めることは困難と、JSC自らが文科省に報告しているじゃないですか。
最初から埋められないと報告している。文科省はこの乖離は埋められないと説明を受けて、どんな指示を出しましたか」
誰も答弁に立つ者がいなくて、一時中断する。
橋道和文部科学省青少年局長「文部科学省からはラグビーワールドカップの開催を必須とした工費の短縮の検討を指示を致しました」
蓮舫は河野一郎の見積金額の900億円もの違いについて述べた「資材の調達先を国内にするか、国外にするか等々の違い」という説明をさして重要な発言だと見なかったのか、無視したのだろうか。
2014年7月24日付のBloombergは、〈7月24日、尾道造船は韓国鉄鋼メーカー最大手のポスコとの造船用鋼板の価格交渉で、7-9月期に前期比で1トン当たり5000円値上げすることで合意した。値上げ率は10%未満にとどまり、相対的に安価な韓国製鋼材の調達拡大でコスト削減を図る考えだ。〉と伝えている。
要するに国内の鋼材は原料を外国に頼る関係で円安で値上がりしているが、同じ韓国が原料を外国に頼っていても、韓国産の鋼材の方が相対的に安価だと言うことになる。
当然、3000億提示のゼネコンは鋼材、その他の資材を主として国産に頼り、2100億円提示の設計業者はそれらの資材主として外国産に頼って、その差が900億の差を生んでいる大きな要因と見ることができる。
確かに安かろう悪かろうでは困るが、外国産の資材も質の高いものもある。セメントなども韓国産のセメントが国産よりも安く、質も変わらないと聞いたことがある。
資材の国産依存の裏返すと、ゼネコンは資材調達先を自由に選択していないことになる。大手の建設会社になる程、国内の大手の鉄鋼メーカーとの関係を優先する。
この関係は一種の癒着に当たるはずだ。企業間だけではなく、官庁と企業の間でも、お互いに関係を密にして相互に利益を図り、相互にそれぞれの組織を育成し合うという癒着が生じている。
結果、そういったネットワークが全国的に張り巡らされることになって官庁にしてても企業にしても取引先の企業を国内企業から選択するという暗黙の合意を生んで、国内企業優先の癒着に至る。
こういったことがザハ・ハディド女史の事務所が言っていた「建設会社の選定で競争原理が働かなかった」ということであり、「国際的な入札が行われなかった」ために建設費の高騰を招いたということであろう。
蓮舫はJSC理事長の河野一郎が金額の差が900億も出たことに関して、「例えば資材の調達先を国内にするか、国外にするか等々の違いだと思っています」と言ったことが社会的に何を指しているのか気づかなかったのかもしれないが、企業間や役所と企業の間の癒着から発している国内企業への拘りであり、国産建築資材への拘りであり、それが建設費の高騰を招いている消費税だけが原因ではない、その一つの要因に見えて仕方がない。
但し蓮舫がそこに癒着を感じ取ったとしても、自民党は企業の利益を代弁し、民主党は労働組合の利益を代弁し、労働組合は結果的に雇用者に当たる企業の利益を代弁していて、直接、間接の違いはあっても、いずれも企業の利益を代弁していることになるから、果たして気づいたことを追及できたかどうかは分からない。