2016年2月7日、コチコチの保守系市民団体「頑張れ日本!全国行動委員会」が東京都内で集会を開催、日韓従軍慰安婦合意は「重大な過失だ」と批判の気勢を上げたそうだ。
気勢を上げたという表現は使っていないが、「47NEWS」記事が伝えている。
水島総幹事長「(日韓合意は)「(旧日本軍の関与を認めて謝罪した1993年の)河野洋平官房長官談話と比較にならないほど国家的な重大過失だ。
『慰安婦は性奴隷だった』といった韓国の主張を日本政府が公式に追認したと理解されても仕方ない。海外の報道機関でもそのように報道されている」――
安倍晋三は歴史の事実に反して旧日本軍による従軍慰安婦の強制連行を認めたとする事実を日韓合意の中に一切含めていない。当然、「慰安婦は性奴隷」なる事実を、それが韓国の主張であろうが何であろうが、歴史の事実に反して公式に追認はしていない。
保守の親分安倍晋三の心、子分共知らずの類いに過ぎない。
確かに日韓外相会談による従軍慰安婦合意後の《日韓両外相共同記者発表》(外務省/2015年12月28日) では、〈慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している〉と発表された。
前にブログに書いたことだが、この「軍の関与」についてどのような性格のものか、岸田文雄は共同記者発表後の記者会見で次のように種明かししている。
岸田文雄(日本政府の責任を認めたことについて)「慰安婦問題は、当時の軍の関与のもとに、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるということは従来から表明してきており、歴代内閣の立場を踏まえたものだ。これまで責任についての立場は日韓で異なってきたが、今回の合意で終止符を打った」(NHK NEWS WEB/2015年12月28日 17時31分)
「従来から表明してきて」、「歴代内閣の立場を踏まえたもの」とは、「『村山談話』や『河野談話』等の歴史認識に関する歴代内閣の立場を安倍内閣としても全体として引き継いでいる」と安倍晋三や岸田や官房長官の菅義偉が国会答弁や記者会見で何度も何度も「従来から表明してき」た、その範囲内の「軍の関与」だと、その程度だと、種明かししたのである。
このような性格の「軍の関与」に過ぎないと。
確かに「河野談話」は旧日本軍による従軍慰安婦の強制連行を認めている。だが、2007年3月8日辻元清美提出の従軍慰安婦に関わる質問書に対する2007年3月16日提出の安倍政権の政府答弁書は、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」として「河野談話」の旧日本軍による従軍慰安婦の強制連行説を否定、更に同答弁書で、「官房長官談話は、閣議決定はされていないが、歴代の内閣が継承しているものである」と、安倍政権のこの政府答弁書が閣議決定されていることを以って歴史の事実に反して従軍慰安婦に関わる歴史認識としての正当性を与えたのに対して「河野談話」が閣議決定されていないことを以って、その正当性を剥奪、単に歴代内閣が形式的に継承しているに過ぎないものとした。
この経緯は2012年9月16日の自民党総裁選討論会での安倍晋三の発言にそのまま現れている。
安倍晋三「河野洋平官房長官談話によって、強制的に軍が家に入り込み女性を人さらいのように連れていって慰安婦にしたという不名誉を日本は背負っている。安倍政権のときに強制性はなかったという閣議決定をしたが、多くの人たちは知らない、河野談話を修正したことをもう一度確定する必要がある。孫の代までこの不名誉を背負わせるわけにはいかない」――
要するに岸田文雄は日韓外相会談で安倍晋三の意思に従って、「歴代の内閣が継承し、安倍内閣も継承している」河野官房長官談話の範囲内で「軍の関与」を認めたに過ぎない。
当然、その「軍の関与」は2007年の閣議決定で旧日本軍の従軍慰安婦強制連行を認めている「河野談話」の否定を正体としていることは断るまでもない。
日韓従軍慰安婦合意を計算式で表してみると、次のようになる。
(「河野談話を引き継ぐ程度の「軍の関与」の認定)-(閣議決定による「河野談話」否定)=(「軍の関与」否定)
以下もブログに書いたことだが、2016年1月18日の参議院予算委員会での安倍晋三の答弁が「軍の関与」の正体を自ら種明かししている。
質問は「日本のこころ」代表の右翼中山恭子が保守系市民団体と同じように韓従軍慰安婦合意の「軍の関与」を勘違い、保守親分安倍晋三の親心、子分ども知らずの過ちから発したものだった。
安倍晋三「先程外務大臣からも答弁をさせていただきましたように、海外のプレスを含め正しくない事実による誹謗中傷があるのは事実でございます。性奴隷 あるいは 20万人 といった事実ではないこの批判を浴びせているのは事実でありまして、それに対しましては政府としては、それは事実ではないということはしっかりと示していきたいと思いますが、政府としてはこれまでに政府が発見した資料の中には、軍や官憲による所謂強制連行を直接示すような記述は見当たらなかったという立場を辻本清美議員の質問主意書に対する答弁書として平成19年、これは第一次安倍内閣の時でありましたが、閣議決定をしておりまして、その立場には全く変わりがないということでございまして、改めて申し上げておきたいと思います。
また 当時の軍の関与の下にというのは、慰安所は当時の軍当局の要請により設営されたものであること、慰安婦所の設置、管理及び慰安婦の移送について旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与したこと、慰安婦の募集については軍の要請を受けた業者が主にこれにあたったこと、であると従来から述べてきている通りであります。
いずれにいたしましても重要なことは今回の合意が、今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に異なっておりまして、史上初めて日韓両政府が一緒になって慰安婦問題が最終的且つ不可逆的に解決されたことを確認した点にあるわけでありまして、私は私たちの子や孫そしてその先の世代の子供たちに謝罪し続ける宿命を背負わせるわけにはいかないと考えておりまして、今回の合意はその決意を実行に移すために決断したものであります」――
日韓合意前と合意後で安倍晋三の、あるいは安倍政権の従軍慰安婦に関わる歴史認識に何の変化があるわけではない。にも関わらず、韓国政府が合意した理由は不明だが、あるいは何らかの密約がるのかもしれないが、「軍の関与」なる文言が歴史の事実通りに従軍慰安婦の強制連行まで認めたように解釈されたとしても、安倍晋三にしたら韓国を合意に引きずり込むための苦肉のゴマカシであって、いずれにしても従来から変わっているわけではない歴史認識で押し通すことは目に見えているから、コチコチの保守系市民団体の批判はまさしく保守親分安倍晋三の心、子分共知らずの杞憂と言ったところだろう。
保守親分たる安倍晋三の歴史の歪曲に子分共は少しは親孝行した方がいい。