民主党と維新野党は2月24日(2016年)、「給付付き税額控除法案」を共同で衆院に提出した。
与党の「軽減税率導入」に対抗する民維の「給付付き税額控除」とはどのような内容なのか、民主党のサイト内を探した。「民主党・消費税の逆進性を緩和するための給付付き税額控除の導入等に関する法律案要綱」と、「逆進性対策についての民主・維新案と政府比較」なるPDF記事で、その内容を伝えていた。
後者はここに貼り付けた画像のみで、前者は控除に関してのみの文言を拾い出すことにする。
〈①給付付き税額控除において所得税の額から控除する額は、居住者―人当たりの飲食料品の購入に要する費用の額に係る消費税の負担額として家計統計(統計法第2条第4項に規定する基幹統計である家計統計をいう。)における食料に係る消費支出の額(酒類及び外食に係るものを除く。)、消費税の収入見込額等を勘案して算定した額の10分の2に相当する額を基礎として計算するものとすること。この場合において、当該控除する額は居住者の所得の額の逓増に応じて逓減するように定めるとともに、―定以上の所得を有する者については給付付き税額控除における控除を行わないものとすること。(第3条第1号関係)〉――
要するに家計統計で年間収入何百万台世帯は酒類及び外食の支出を除外た食料品にどのくらいの消費支出の額となっているか、その統計値と消費税からの国の税収見込額を勘案して算定した額の10分の2に相当する額を基礎として計算して所得税額から控除し、課税最低限以下の収入世帯に対しては10分の2に相当する額を基礎として計算して逆に給付し、プラスマイナスを合わせるということなのだろう。
だが、実際に年収世帯別にどのくらいの給付付き税額控除となるか、民主党のサイト内を探しても、具体的な説明はどこにも見つからない。法案を衆院に提出した翌2月25日、〈経済・業界団体の関係者を招き、民主党の消費税に関する考え方や、民主・維新両党が前日に国会に提出した「給付付き税額控除法案」の内容について説明した。〉と「民主党」サイトに出ている。
具体的にどういった内容の説明かは分からない。骨組みだけを説明して、年収世帯別の計算値は示したのか、示さなかったのか。前者だとしたら、あまりにも国民に不親切だし、後者としても、その不親切さにさして変わらない。
「消費税の収入見込額等を勘案」はできないから、ネット上から年収別の平均食費支出額を拾い出してみた。《2014年「全国生計費調査」速報》(日本生活協同組合連合会)にはなぜか載っていなかったが、《2012年「全国生計費調査」速報》(日本生活協同組合連合会)には載っていた。
400万円未満 21.6%
400万円以上~600万円未満 17.9%
600万円以上~800万円未満 17.1%
800万円以上~1000万円未満 14.6%
1,000万円以上 13.6%
記事が〈「食費」について、年収400 万円未満の世帯(世帯主平均年齢62.7 歳)で、消費支出に占める割合が21.6%で平均よりも5.5 ポイント高くなっており、年収が低いほど負担が大きいことがわかります。〉と解説しているように年収が低い世帯程食費支出額が多くなっている。
これもネットで調べたのだが、普段の食事は家計簿の「食費」の項目に入れて、家族揃っての外食は「レジャー費」、友達とのランチや職場の飲み会は「交際費」と項目を分けた支出としているというから、年収が高い程外食頻度が多くなって「食費」の項目から除外されるケースが多いことからの年収が高くなるに連れて食費に占める支出額が減るということなのだろうか。
それとも中低所得者よりも食費に多額の支出をしていながら、収入が高額になる程、その高額に対して食費に回す金額の割合が相対的に少なくなるということだけなのだろうか。
いずれにしても民主党が基準としている年収500万円世帯の食費に占める割合を17.9%とすると、895000円の年間食費となる。
これを消費税8%を含めた食費とすると、税抜きで約83万円となる。消費税の収入見込額等の勘案は無視しておおまかに計算すると、この83万円に対して10分の2に相当する額16万6000円を基礎として計算するということなのだろうか。
消費税抜きで年間食費83万円に掛かる消費税8%から10%へ増税の2%をかけると16600円。
給付付き税額控除額がこの16600円を確実に下回らないという保証はあるのだろうか。
ないはずだ。統計から出した消費支出の額はあくまでも平均値であって、平均を下回る世帯には問題ないとしても、上まわる世帯は常に余分に払うことになる。
このことを予想してある程度余裕を持たせて余分に基礎計算することにしても、軽減税率のように余分な財源が掛かることにならなくても、平均値を上回る世帯は更に余分に利益を得ることになるが、平均値をかなり下回る世帯は支払った消費税の2%に達しないケースも出てくることもある。
なぜ国民は税収が減ると分かっていて給付付き税額控除よりも軽減税率を選択するのか民主党も維新の党も真に理解しているのだろうか。国民の側ではなく、単に国家の立場から税収の面だけを考えているのではないだろうか。
だから、年収世帯別にいくらの給付付き税額控除となるのか、説明のない不誠実・不親切を犯すことになる。
2015年10月当時の世論調査は軽減税率導入に約8割前後が賛成し、反対は20%前後だった。公明党はこの8割の賛成を根拠に軽減税率の導入を主張したはずだ。
だが、民主党、その他の野党が軽減税率では財源が兆円単位になること、その分の国の税収が減ること、高額所得者になる程に軽減税率の対象となる食料品に対する消費が低所得者の消費よりも高額で、軽減税率導入によって高額所得者になる程、より利益を得て、その層を優遇することになること等を理由に国会等で軽減税率導入に反対しことが功を奏したのか、最近は賛成が減っている。
2016年1月のNHKの世論調査。
軽減税率
「大いに評価する」5%
「ある程度評価する」36%
「あまり評価しない」37%
「全く評価しない」15%
評価しないが50%を超えている。
但し、問いが〈政府は、消費税の税率を8%に据え置く「軽減税率」を、「酒類と外食を除いた飲食料品」、それに「定期購読の新聞」を対象に導入する方針ですが、この方針への評価を聞いたところ〉となっていて、軽減税率導入の対象品目の範囲――線引きがこうなったことへの賛否なのか、軽減税率導入そのものへの賛否なのか明確ではない。
「毎日jp」が同じ2016年1月の世論調査でより明快に聞いている。
「酒類と外食を除く食料品に軽減税率を導入することに関して」
「評価する」52%
「評価しない」40%
賛成が上回っているが、かつての8割の勢いはない。
昨年2015年10月の産経新聞とFNNの合同世論調査。
「消費税率10%引き上時の軽減税率の導入に関して」
「賛成」60・6%
「反対」33・3%
「軽減税率の対象品目」
「酒類を除く飲食料品」63・3%
「生鮮食品のみ」22・6%
「精米のみ」6・4%
線引きについてもそれぞれに意見が異なる。
全体的に見ると、現在の段階でも軽減税率導入は賛成が上回っている。
賛成と反対が例え拮抗することになったとしても、軽減税率導入の賛成はより所得の低い生活者であり、反対は軽減税率を導入しなくても生活に困らないより所得の高い生活者と見なければならない。
なぜならより所得の低い生活者程、1円でも安い食料品を手に入れるべくスーパーの特売日を狙ったり、普段利用するスーパーではなく、少しぐらい遠方でも買い求めにいく生活をしているからだ。
つまりより所得の低い生活者程、1円の差が切実な生活実感となっている。だが、軽減税率導入によって政府財源を兆円単位で必要とすることになり、そのことが財政健全化や社会保障費に影響する可能性は頭では理解できても、生活実感としの切実さは1円の差殆どには感じない。より所得の低い生活者にとって日々の生活が最大の利害だからである。
そのような切実な生活実感をある程度確実に和らげてくれるのがその場で2%分の消費税が免除される軽減税率であり、今のところ民主党からも維新の党からも懇切丁寧な具体的金額の説明がない以上、実際に支払った消費税2%分が戻ってくるのかどうかも不透明な民維主張の給付付き税額控除ではないはずだ。
いわば消費税の逆進性対策はより所得の低い生活者を主として対象としているはずでありながら、そのような対象者が給付付き税額控除に関して不安定で居心地の悪い宙ぶらりんの状態に置かれている。
民主党と維新の党が給付付き税額控除導入に関する世論調査で軽減税率導入よりも賛成を多く得たいと思ったなら、より所得の低い生活者とって1円の差が切実な生活実感となっている民意を汲みとって、軽減税率導入に劣らない、確実で目に見える負担軽減となることを見せなければならない。
今のままの不誠実・不親切な状態で給付付き税額控除導入を推し進めるようなら、参院選で少なくとも多数派を形成する中低所得者の1票を得ることは難しい。
もう一度言う、中低所得者にとって日々の生活が最大の利害となっていて、1円の差を切実な生活実感とさせている。このことを自覚して政策を進めなければならない。