安倍内閣の卒業後返還免除判断の給付型奨学金は受給大学生を国家好みの人間に飼い慣らそうとするもの

2016-04-06 08:40:07 | 政治

 自民党の教育再生実行本部(渡海紀三朗本部長)と公明党の教育改革推進本部(富田茂之本部長)が4月4日、教育格差の克服に向けた提言をそれぞれ纏めて首相官邸で安倍晋三に手渡したと「時事ドットコム」記事が伝えている。

 提言内容は共に大学進学者を対象とした返済不要の給付型奨学金の創設を盛り込んでいるという。

 給付型奨学金にしても同一労働・同一賃金にしても、野党が先に言い出していることだが、ここに来て自民党及び安倍晋三が言い出したのは明らかに参院選対策以外の何ものでもない。アベノミクスが社会的平等とは反対の格差ミクス、あるいは金持ミクスを実態とした社会的不公正そのものの政策であって、そのことが露わになっていることからの選挙不利回避の実態隠しといったところだろう。

 民主、維新、みんな、生活の野党4党は2014年衆院選挙公示前の11月6日、「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」(通称「同一労働同一賃金推進法案」)を衆院に提出している。

 この提出に応じて生活の党の小沢一郎代表が2014年衆院選挙公示日の12月2日にNHKのニュース7に出演、「安倍政権は非正規雇用をさらに多くしようとしているが、これでは将来の身分の保障がない。非正規雇用には制限を加え、同一労働・同一賃金を目指すべきだ」(NHK NEWS WEB)と発言している。

 一方の安倍晋三が同一労働・同一賃金を政策として掲げたのは今年に入った2016年1月22日の施政方針が初めてである。それ以前は掲げてはいない。2016年1月1日安倍年頭所感で掲げた「ニッポン一億総活躍プラン」で後から目玉の一つとすることになった。

 後のことだから、この年頭所感では同一労働・同一賃金については一言も触れていない。2016年1月22日の施政方針演説から7日後の2016年1月29日の首相官邸開催の「1億総活躍国民会議」で「同一労働・同一賃金」の施策を具体的に検討するよう指示した。

 奨学金に関しては民主党はこの3月19日(2016年)、「共生社会創造本部」が給付型奨学金である「渡し切り奨学金」制度を提案し、今夏の参院選の公約にする方針を打ち出している。

 一方馳浩の文科省が考えていた2017年度採用生から適用の「所得連動返還型奨学金制度」は、貸与額に応じ返還額を固定していた現行制度に対して卒業後の所得に応じて返還額が変わる制度で、文部科学省の有識者会議は3月24日、所得に占める返還月額の割合を9%とする制度を決定、最低返還月額を2千円と定めて、年収ゼロでも返還可能だが、年収300万円以下の場合は最長10年の返還猶予も申請できるとしたと、「47NEWS」記事が伝えている。   

 要するに所得の増減に応じて9%の固定割合で返還する。職を失って所得がゼロとなった場合でも、余裕があれば申請して最低返還月額2千円の返還で済ますことができるし、余裕がなければ、返還猶予も申請できることになる。

 記事は最後に次のように解説している。

 〈現行制度は貸与額に応じ返還額を固定。大学生の無利子奨学金は月3万~6万4千円が貸与され、4年間借りると返還月額は9230~1万4400円となっている。
 2017年度に新規で無利子奨学金を借りる学生から、所得連動制か固定制のどちらかを選ぶ。〉――

 誰がどう見ても明らかに民主党の渡し切り奨学金(=完全給付型)とは異なる。

 このような制度にしようと3月24日に文部科学省の有識者会議が決定したばかりなのに10日後の4月4日、自公の教育関係本部が安倍晋三に返済不要の給付型奨学金の創設を提言した。

 民主党が渡し切り奨学金を提案し、参院選の公約とする方針を決めたことの背景には経済格差と連動した教育格差が無視できない形で存在するからだろう。安倍晋三にしたら現在各種の格差を作り出している張本人として選挙対策のためにもその印象を隠さなければならない。

 同一労働・同一賃金を打ち出したように給付型奨学金を打ち出さざるを得なかったはずだ。

 但し安倍晋三、あるいは安倍政権が狙っている給付型奨学金は一筋縄ではいかない制度に持っていこうとしている。

 2016年4月5日の閣議後記者会見。

 馳浩「給付型奨学金を巡る明確な提言が安倍総理大臣に出されたことは重く受け止めたい。政府内で合意を取りながら、水面下で煮詰めるところは煮詰めていきたい。

 給付の在り方を考えた場合、最初から4年間分の奨学金をどうぞというのは課題が大きい。進学や単位の取得を踏まえて判断される必要があり、返済免除型の方が理屈に合い、モラルにも沿っているのではないか」(NHK NEWS WEB/2016年4月5日 10時53分)  

 記事が解説しているように入学前に支給するのではなく、卒業後に奨学金の返還を免除する仕組みとした方がモラルに合致するとしている。

 当然、免除に条件がつくことになる。学業中心ではなく、音楽や演劇に打ち込んだり、あるいは登山やその他の活動に自分自身が今存在していることの意味を見い出そうとしている、あるいはそれぞれの意味を刻々と表現しようとしている若者がそこから人間としても社会的にも多くを学ぶことができるはずだが、そのことが学業(=テストの点数)にそのまま反映されずに単位をどうにか取ることができたり、ときには取ることができず、どうにか進学し、どうにか卒業した学生にとって、しかもまともな会社に就職せずにアルバイトで活動に専念しようという場合、果たして返済免除のテストに合格することができるだろうか。

 大学4年間をしっかりと勉強してそれなりの会社に就職したいと考えている大学生にとっても、卒業後返済免除されるかどうか不安な状態に置かれるだろうから、勢い用心深い生活態度を心がけなければならなくなる。

 いわば4年後の返還免除の判断をエサに関係者が色々と発言することで、その4年間を安倍晋三が、あるいは安倍政権が好む学生像にコントロールすることも可能となる。

 例えば「学生の本業は学業である」と、そのことを信念とすることを求める発言が繰返された場合、如何にその信念通りに4年間を過ごすことができたかどうかが判断基準となるだろうし、学生側は余程学業が優秀でない限り、4年間どのような成績を取るのかも、卒業後の進路にしてもそのときになってからでなくてははっきりしたことが分からないから、返還に確たる自信が持てず、返還を免れるために無難に生きることを選択することにもなりかねない。

 当然、貧しい学生は学業そっちのけで何かの活動に打ち込むといった冒険もできないことになる。例え打ち込んだとしても、4年後の返還か返還免除かを考えると、少なくともそのことに気を取られた腰の座らない活動とならざるを得ないはずだ。

 結果、国家権力にとっては好都合な、危険とは程遠い無難で事勿れな人間を育てることになる。

 現在もその傾向にあるが、親が裕福で、そのお蔭で大学生活を伸び伸びと生活ができる学業優秀な大学生のみが頭角を現す時代がより色濃く訪れるに違いない。

 馳浩はそれらの役を担おうしている。

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