――河野太郎が言うように被災地支援物資配送はプッシュ型でもプル型でもなく、御用聞き型で行うべきだろう――
4月23日政府開催の「熊本地震非常災害対策本部」で本部長で防災担当相の河野太郎の会議冒頭発言。
河野太郎「(被災地の要請を待たずに物資を送る)プッシュ型から、細かいニーズを吸い上げるプル型のオペレーションに変えたい」(時事ドットコム)
さも当初のプッシュ型が良好な進捗を見せ、何の支障もなくプル型へとバトンタッチしていくことができるようなことを言っている。
マスコミは地震発生3日目の4月17日になると、避難所生活での食料不足や飲料水不足を報道し始めている。当初から不足していたはずだが、地震が家屋やインフラに与えた被害の状況や避難状況を伝えるのに手一杯で、食料不足や飲料水不足を伝える余裕がなかったことからの表面に現れなかった生活状況であったはずだ。
それが証拠に4月17日付け13時02分の「NHK NEWS WEB」記事は熊本市中央区の五福小学校の避難所では、給水所も設けられていてペットボトルなどを手にした人たちが朝から長い列をつくっていたこと、熊本市中央区にある市立慶徳小学校では、水や食料が不足していて、避難している人たちは僅かなパンやおにぎりを分け合っているということ、車中泊の高齢者が、今日は昨日一度だけ給水があって、後はなかったと言っていることなどを伝えている。
だからこそ、このような不足状況を受けて官房長官の菅義偉が4月16日の非常災害対策本部会議(午前5時10分~同23分)後の記者会見で、「避難所に90万食送る準備を進めている」とか、安倍晋三が4月17日午前11時過ぎに首相官邸で記者団に「今日中に70万食届ける」と物資支援に慌ただしい対応を見せなければならないことになったはずだ。
菅義偉「熊本県内の681か所の避難所におよそ9万人が避難している。被災地域の必要な物資を確保できるよう、本日、非常災害対策本部の下に関係省庁からなる物資調達班を設置し、被災者数に応じた3日分の食料、90万食を供給する準備を進めている」(NHK NEWS WEB/2016年4月16日 19時50分)
何万、何十万という住民が避難所での生活を強いられる甚大な自然災害を受けた避難生活では不足する物資が定番化しているにも関わらず、そのような定番化した物資の不足状況を受けて4月16日に物資調達班を設置して供給の準備を開始すると言っているのだから、食料の手配と手配後の配送で被災者の手元に届くのは17日かそれ以降ということになり、定番化している災害発生当初の不足物資の対応としては後手に回っている印象は拭えない。
安倍晋三「熊本県内のスーパーやコンビニエンスストアの食品の品薄状態については、食品業、小売業の皆さんの協力を頂いて、夜を徹して手配を進めてきた結果、朝9時までに15万食以上が店頭に到着したとの報告を受けた。
今日中には70万食を届ける。被災者のおひとりおひとりに必要な食料、水が届くようにするので、どうかご安心を頂きたい」(NHK NEWS WEB/2016年4月16日 19時50分)
朝9時までに届けた15万食はスーパーやコンビニ宛であって、避難所ではない。前段との関連からすると、後段の今日中に届けるとしている70万食はやはり避難所ではなく、スーパーやコンビニと言うことになる。
コンビニやスーパに届けた商品を以って「被災者のおひとりおひとりに必要な食料、水が届くようにする」と言っているのだから、ゴマカシ以外の何ものでもない。
以上のような支援物資の対応遅れは災害発生時当初の不足物資が定番化していることの関係からすると、そのことにも満足に対応できなかった二重の対応遅れを示していて、河野太郎が言う程には当初のプッシュ型にしても迅速とは言えなかったし、満足に機能していたとも評価することはできない。
プッシュ型が満足に機能していなかったことは熊本市が救援物資の配送見直したところに現れている。
全国からの救援物資は十分集まっていて4月21日に受け入れを中断しているが、受け入れた救援物資は集積拠点の「熊本県民総合運動公園」に集めてから各区役所に一旦配送、区役所から各避難所に配送していたが、人手不足や各避難所が必要とする物資と数量の把握に持間がかかったからなのだろう、物資が滞留することになったために区役所経由を省いて集積拠点から避難所に直接配送する方法に切り替える方針を4月24日に決めたという内容の記事を「NHK NEWS WEB」(2016年4月24日 13時11分)事が伝えている。
支援物資の滞留は支援物資到着の遅れを物語ると同時にプッシュ型が満足に機能していなかったことの何よりの証明としかならない。
また最初はプッシュ型、次はプル型と分けて考えるところに安倍政権の熊本地震被災者物資支援に関わる危機管理の想像力の欠如を現出させている。後半はプル型で間に合うとしても、前半はプッシュ型と決めておくと、プッシュ型に入っていない物資の不足を訴えられて急遽プル型で対応しなければならなくなったとき、用意していないために柔軟に対応できないケースも生じることになるからだ。
このように最初はプッシュ型、次はプル型と決めておく柔軟性のなさが定番化している災害発生当初の不足物資への対応が定番化しているにも関わらず、そのことへの想像力を働かせることができずに満足に機能しなかった原因でもあろう。
熊本地震での支援物資の遅れを書いた4月18日(2016年)の当ブログ記事に、災害発生当初に不足し、〈必要とする物資が定番化している以上、定番となっている物資を(集積拠点から)トラックに積んで先ずは各避難所に向かって、そこで必要とする物資と個数を聞いて降ろしていく。不足なら、次の便で不足分を届ける。余った物資は次の避難所に届ける。
道路が寸断されていたなら、自衛隊のヘリコプターを利用して先ずは隊員一人をロープで吊り降ろして、その隊員が避難所とヘリコプター間の意思疎通を無線機で仲介して必要とする物資を伝え、伝えた物資を地上の隊員の誘導で同じくロープで吊り降ろして、物資調達を果たす。
こういう方式にすれば、迅速に被災者のニーズに応じることができるはずだ。〉と書いたが、書いたときは気づかなかったが、形式の名付けをするなら、“御用聞き型”と言うことができる。
一旦集積場に集積された支援物資の中から災害発生時に不足し必要とされる食料・飲料水、トイレットペーパーや生理用品、季節によって毛布等々、定番化した物資を兎に角トラックに積んで避難所に届け、避難所が必要とする物資を降ろし、もし定番化外の物資を要求されたなら、連絡手段があるなら集積場に連絡して次の便で届けさせるか、連絡手段がなければ、トラックの荷を幾つかの避難所を回って全て配送し終えた後に集積場に戻って、その荷と他の避難所への定番化した不足物質を積んで再び配送に向かう。
勿論、道路が寸断されていて陸路の配送が不可能なら、自衛隊のヘリがその役目をする。
このような“御用聞き型”によって震災発生当初からプッシュ型とプル型を同時に機能させる柔軟な物資支援が可能となり、その柔軟性は車中避難者を含めた避難所生活者の不足物資の早い段階からの解消に満遍なく働くことになる。
だが、安倍政権はそうすることができなかった。食料を70万食届けた、90万食届けると、支援を十分に機能させているかのように言い、飲料水や生活用水不足に自衛隊の給水車を派遣、15日の朝早くから給水支援を実施したが、全ては不足の訴えが出てからの対応であり、不足の充足に時間がかかった。
安倍晋三は「被災者の皆さんの生活を支援し、不安な気持ちに寄り添う対応を進めていきたい」と言っているが、実際には災害時の不足物資が定番化していることを計算の内に入れることができなかった危機管理対応の遅れ・危機管理に於ける想像力の欠如が招いた被災者の不安でもあり、その不安を今以て長引かせている何よりの原因であるはずだ。