4月26日、「2016年G7伊勢志摩サミットに向けた世界人口開発議員会議」が都内で開催され、安倍晋三が「基調演説」を行った。
安倍晋三「この2日間の会議では、女性や若者の活躍、人口問題と持続可能な社会づくりなど、様々な課題が議論されています。その前提となるのが全ての人々が健康で暮らすこと。飢餓や貧困の解消は、保健医療水準の向上と共に実現するものであり、格差や不平等の克服は保健医療の確保なくして成り立ちません。今や保健をめぐる問題は、一つの国にとどまらず、地球規模で取り組むものとなりました。世界の保健医療水準を向上させることが、すなわち自らの国の社会経済的発展や社会の平和安定につながります」――
相変わらずキレイゴトを並べるのが名人ときている。偽ブランド品を眩(まばゆ)いばかりの照明の下にキラキラと並べて本物と見紛わせ、客の虚栄心を擽り、次々と売りつけて、自身はしこたま儲ける。そのような商売名人のようだ
「飢餓や貧困の解消は、保健医療水準の向上と共に実現するもの」と言い、「格差や不平等の克服は保健医療の確保なくして成り立ちません」と言う。
いわば「保健医療水準の向上」が「飢餓や貧困の解消」の実現原動力であり、「保健医療の確保」こそが「格差や不平等の克服」の成立要件となるということを宣言していることになる。
と言うことは、保健医療の水準が向上している国では飢餓も貧困も解消された状況にあり、このことに対応して格差や不平等が少なくとも克服できている状況にあることになる。
日本は保健医療の水準が向上している国である。安倍晋三は常々証明している。2013年3月15日 の TPP交渉参加決定記者会見。
安倍晋三「最も 大切な国益と は何か。日本には世界に誇るべき国柄があります。息を飲むほど美しい田園風景。 日本には、朝早く起きて、汗を流して田畑を耕し、水を分かち合いながら五穀豊穣を祈る伝統があります。自助自立を基本としながら、不幸に して誰かが病に倒れれば村の人たちがみんなで助け合う農村文化。その中から生まれた世界に誇る国民皆 保険制度を基礎とした社会保障制度。これらの国柄を私は断固 として守ります」――
安倍晋三は日本が「世界に誇る国民皆 保険制度」、あるいは「世界に冠たる国民皆保険、皆年金」の国であることを常套句として国会答弁その他で繰返し発言している。
そしてこのような日本の保健医療の世界的な水準を日本の国柄だと自ら誇り、この誇りを国民が共有することを常に求めている。
当然日本は保健医療が世界的な水準で向上している国として飢餓・貧困は疎か、格差や不平等も特に問題にしなければならない程には社会に蔓延っていない比較的平等な社会を築いていることになるし、築いていなければならない。
だが、保健医療に限っても、世界に冠たる国民皆保険、皆年金制度を誇っていても、2014年6月時点の保険料を支払うことのできずに保険料を滞納する貧困家庭は全加入世帯の17%以上にも上ると、2015年2月12日付「しんぶん赤旗」は伝えている。
保険料を完納できない世帯には正規の保険証に代わり、「資格証明書」や、有効期限が短い「短期保険証」が発行されるが、医療機関の窓口で10割全額支払わなくてはならない「資格証明書」が発行された世帯は約26万4500世帯、「短期保険証」が発行された世帯は約114万3300世帯に上ると解説している。
要するに安倍晋三が麗々しく言っているように日本が保健医療の世界的な水準を誇っていたとしても、飢餓とまではいかなくても日々の食生活を満足に満たすことのできない貧困や格差・不平等は厳然と存在していて、保健医療が貧困・格差・不平等解消の打ち出の小槌になるわけではないことを示している。
2012年の等価可処分所得の中央値の半分の額に当たる貧困線は122万円、世帯の割合は16.%。これらの世帯で暮らす18歳未満の「子どもの貧困率」は16.3%を占めていると、2014年8月29日付「Nippon.com」が伝えている。
この貧困率は2000年代半ばの時点でOECD加盟国30か国のうち日本(約15%)は4番目に高かったと書いている。
経済先進国・保健医療先進国でありながら、豊かさとは逆行した姿を一部国民に強いている。
と言うことは、国の政治が最初に為すべきは貧困の撲滅・格差と不平等の是正であって、貧困や格差・不平等が存在する国情のもと、保健医療の水準の向上を先に持ってきても意味はないことになる。
いくら高度な水準を誇る保健医療であったとしても、カネがなくて利用できなければ猫に小判。豚に真珠そのものとなる。
例えばEU諸国の保健医療は世界的な水準を誇っているはずだ。だが、EU諸国に流れた移民の多くは職業的にも社会的に差別され、満足な職も手に入らずに貧困と格差の犠牲となっている。
そしてそのような貧困と格差がEU諸国に於けるテロの温床となっていると言われて久しい。
安倍晋三も2015年年2月18日の参院本会議で安倍晋三の施政演説に対する公明党の山口代表の代表質問に答えて、「御指摘のとおり、貧困や抑圧といった問題がテロの温床になっていると考えられます」と発言している。
この答弁は中東諸国のみならず、EU諸国をも含めた状況を指しているはずだ。
「飢餓や貧困の解消」は「保健医療水準の向上」とは決して連動していないし、連動しない。いくら保健医療を世界的な水準で確保しても、「格差や不平等の克服」を保証しない。
飢餓は飢餓として、貧困は貧困として、格差は格差として、不平等は不平等として存在存在し続けるだろう。
だが、安倍晋三は以上のような極く当たり前の認識を持つことができない。キレイゴトを弄して、不可能を可能と思わせたに過ぎない。猫に小判が通用し、豚が真珠の価値を知ることができるかのように広言する程度の低いパフォーマンスをいっとき見せたに過ぎない。