以下の文章は大方のマスコミ記事や識者が見ていることをなぞるような形で進めることになる。
トランプ政権は北朝鮮が核兵器をミサイルに搭載して運搬する能力を保持していると受け止めている。
当然と言えば当然だが、北朝鮮がミサイル発射実験を繰返すことで、核運搬能力と飛距離を高めていくことと核実験を繰返すことで、その小型化と威力増強を成し遂げていくと見ている。
これらを阻止するためにトランプは北朝鮮のミサイル発射実験と核実験に対峙することになる。
2017年4月4日にシリア政府が同国西部の反政府勢力支配地域を空爆、化学兵器サリンを充填した爆弾を投下、100人近くの死者と大勢の負傷者を出したのに対してトランプは2日後の4月6日にその報復としてアサド政権の軍事施設を巡航ミサイルで攻撃した。
この報復は北朝鮮に対してこれ以上のミサイル発射実験や核実験を強行した場合はこういった攻撃もあり得るという見せしめでもあると言われた。
そしてその具体化の一つとしてトランプは4月11日に米海軍の原子力空母カール・ビンソンを中心とする第1空母打撃群を朝鮮半島周辺に向けての航行を指示している。
トランプはこの他にも2017年4月13日にアフガニスタン国内の「イスラム国」の拠点に対して核兵器以外の通常兵器で最大の破壊力があるとされ、「すべての爆弾の母」と呼ばれている「大規模爆風爆弾」を投下、大きな被害を与えているが、北朝鮮に対してアメリカの軍事力の高さを見せつけるデモンストレーションを兼ねていたと言われている。
トランプがホワイトハウスの記者団に対して「アメリカには素晴らしい軍隊がある。米軍をとても誇らしく思うし、今回の作戦もまた成功裏に遂行された。米軍は世界一の軍隊で、通常通り作戦を遂行した。米軍にはすべての権限を付与しているし、それが実行されただけだ」(Newsweek)と米軍の攻撃能力を誇示しているが、その優れた攻撃能力はいつどこでも示すことができるという北朝鮮に対する警告の意味を含んでいるはずだ。
この警告に対して北朝鮮は2017年4月15日が金日成の生誕105年に当たるに際して国運隆盛のデモンストレーションとしてアメリカやその他の国が予想した核実験は決行しなかったものの、翌日の4月16日、ミサイルの発射実験を行った。
ミサイルは発射直後に爆発している。
このミサイル発射に対して4月16日同日、アメリカ高官が「核実験が行われたら、米国は別の行動を取っていた」(毎日新聞と、即軍事行動の意思表示を露わにしている。
だが、北朝鮮は4月16日に続いて4月29日、再びミサイルを発射させた。このミサイルも北朝鮮の領域を出ずに空中で爆発した。
アメリカも韓国も日本も、各政府共にミサイル発射は失敗したと伝え、マスコミはそれに倣ったが、ミサイルの性能試験のために意図的に爆発させたのではなかいと一部マスコミは伝えている。
但し4月16日に北朝鮮のミサイル発射に対してアメリカ高官が「核実験が行われたら、米国は別の行動を取っていた」と強く牽制していながら、何ら軍事行動を取らなかった。
トランプはシリアやアフガニスタンを攻撃して米軍の軍事能力の高さを誇示し、尚且つ、「テーブルの上にはすべての選択肢がある」と北朝鮮に対して軍事攻撃の可能性もあり得ることを発信し、これらを以って北朝鮮に対する牽制とする一方で、2017年4月6日、7日のアメリカ南部フロリダ州での米中首脳会談で中国に北朝鮮に対して影響力を行使するように迫っていて、その影響力による北朝鮮のミサイル開発と核開発の断念を実現させる外交手段を継続させていた。
トランプは2017年4月11日に自身のツイッターに「中国が北朝鮮問題を解決すれば、アメリカとより良い貿易取引ができるだろうと中国の習近平国家主席に(首脳会談で)説明した。中国が協力を決断するなら、それは素晴らしいことだ。そうでなければ、中国抜きで我々が問題を解決する」と投稿して、中国の影響力に期待する外交努力と並行させて期待通りにいかなかった場合の軍事攻撃の選択肢をテーブルに乗せたままでいる硬軟二面作戦を北朝鮮に対して示したままでいる。
北朝鮮はトランプの4月11日のツイッター投稿「中国抜きで我々が問題を解決する」に反応したのか、同じ4月11日、米国が北朝鮮に対して軍事的先制攻撃の兆候があれば米国へ核攻撃すると警告を発した。
(「時事ドットコム」記事から、「北朝鮮弾道ミサイルの推定射程」を載せておく。)
これは当然の反応であろう。アメリカと北朝鮮は通常兵器による軍事力の差は相撲取りと子ども程度の力の差があるはずである。これに核兵器を加えた場合、相撲取り10人に対する、あるいはそれ以上に対する子ども1人の程度に差が開いているかもしれない。
この力の差は戦争継続の経済力についても言えるはずだ。
かつての朝鮮戦争当時のように一進一退の攻防は期待できない可能性の方が高い。
いわばアメリカと北朝鮮が実際に戦争となった場合、北朝鮮勝利の確率は極めて低い。
当然、アメリカが通常兵器を使った対北朝鮮先制攻撃であろうと、核兵器を使った先制攻撃であろうと、ためらうことなく即核ミサイルを使った反撃に出るという警告の有効性のみが北朝鮮側からしたら金正恩独裁体制を守る、あるいは金親子三代の独裁体制を守る唯一無二の、それしか残されていない安全保障と言うことになる。
そしてこの手の安全保障は北朝鮮が核兵器をミサイルに搭載して運搬する能力を保持していて、アメリカ本土に届く弾道ミサイルを開発しているというアメリカ側の受け止めにかかっている。
その受け止めは実際に有事が生じた場合、北朝鮮に先制攻撃で大きな打撃を与えることができたとしても、核施設全てを一度に壊滅させることができる保証はなく、そのためにも北朝鮮は移動式ミサイル発射装置の開発に余念がなく、アメリカ本土の一部のみならず、韓国、日本、ハワイ、グアム島が核攻撃の標的とされ、多くの市民が犠牲となる想像力をアメリカ側に誘発させることになって、トランプは指導者としての責任を考えざるを得なくなる。
このことまでを含めた北朝鮮の警告という手を使った、その有効性に頼った安全保障であるはずである。
有効性を維持しているから、トランプは中国の影響力に期待する外交努力を続ける一方で、軍事攻撃の可能性を発信する硬軟二面作戦に出ざるを得ず、このことが北朝鮮への通常兵器を使った先制攻撃であろうと核兵器を使った先制攻撃であろうと困難にしている自明の理であろう。