2017年5月26日、27日と2日間イタリアのシチリア島はタオルミーナで行われたG7首脳会合ではテロ問題と共に北朝鮮の脅威が最重要課題として取り上げれたようだ。会合終了後の安倍晋三の「内外記者会見」(首相官邸サイト)での発言もテロと北朝鮮の脅威に対する言及が多くを占めている。
北朝鮮に関してどのようなことを言っているか、見てみる。「自由、民主主義、人権、法の支配。こうした普遍的な価値」を脅かす存在の一つとして北朝鮮を挙げている。
安倍晋三「今そうした価値がかつてない挑戦を受けています。北朝鮮が国際社会の度重なる警告を無視し、核・ミサイルによる挑発的行動をエスカレートさせています。先週発射されたミサイルの軌道は高度2000キロを超え、ユーラシア大陸から太平洋に至る広大な地域を射程にとらえていることが明らかになっています。
この20年以上私たちは北朝鮮問題の平和的解決を模索してきました。もちろん今もそうであります。しかし、これまでの現実を見れば、対話の試みは時間稼ぎに利用されてしまった。北朝鮮は国際社会による平和的解決への努力をことごとく踏みにじり、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、核兵器の開発を続けてきました。
この1年余りの間に2度の核実験を行い、30発を超えるミサイル発射を強行しました。その全てが国連安保理決議に明白に違反しています。国際的な無法状態が、残念ながら常態化しているのです。
これは、世界中で息をひそめながら核・ミサイル開発への野心を持つ勢力に誤ったシグナルを送りかねない。この問題をこのまま放置すれば安全保障上の脅威があたかも伝染病のように世界に広がる危険性を帯びています。
もはやこの問題は東アジアにとどまりません。世界全体の脅威であります。そのことを、今回、G7のリーダーたちと共有しました」
最後の「もはやこの問題は」以下云々は北朝鮮の軍事状況が東アジアにとどまることなく「世界全体の脅威」となっている、この認識は安倍晋三のリーダーシップによってG7のリーダーたちの間で共有されるに至ったと言うことなのだろう。
そしてG7が北朝鮮に対して制裁等の圧力の強化で一致したことを指摘している。
安倍晋三「サミットでも、北朝鮮は即時かつ完全に全ての核・ミサイル計画を放棄しなければならないとG7は明確に合意し、そのためには制裁などの措置を強化する用意があることも完全に一致しました。拉致問題の即時解決に向けた決意も共有しました」
制裁への言及と併行させてトランプが手を付け、安倍晋三が追随した中国とロシアへの協力の呼びかけにも言及している。
安倍晋三「今こそ国際社会は団結しなければなりません。とりわけ、北朝鮮と国境を接する中国やロシアとの協力が不可欠です。私はこの機会に改めて中国やロシアを始め国際社会全体に結束と行動を呼び掛けたいと思います。
そして、この北朝鮮問題を今回のサミットにおいて最優先事項と位置付け、力強いメッセージをまとめてくれた、議長であるジェンティローニ首相のリーダーシップに感謝したいと思います」
安倍晋三は北朝鮮の脅威を自身のリーダーシップによってG7のリーダーたちの間で共有されるに至ったとし、脅威除去には中国やロシアとの協力が不可欠だと提案しているが、G7で発揮したはずのそのリーダーシップがそれ程のことではないことが冒頭発言後の記者との質疑応答で明らかになる。
リカルディANSA通信記者「総理は、アジアにおける緊張、特に北朝鮮情勢をめぐる緊張を解決するために中国とロシアの協力が不可欠であると述べ、両国にメッセージを送りました。しかし、G7コミュニケ(声明文)の中で北朝鮮に関する12番には、両国への言及がありません。これに関して、総理は少し失望されていますか。今回のG7でもっと多くを引き出したかったと感じていますか」
安倍晋三「今回はG7において初めて北朝鮮の問題が主要課題として、最重要優先課題として取り上げられたわけであります。そして私からも時間を掛けて、北朝鮮の脅威、問題点、どのようにG7として対応していくべきかお話しました。各国のリーダーたちからもそれぞれ意見の表明があった。北朝鮮は昨年以降、2回の核実験を強行するとともに、30回を超える弾道ミサイルの発射を強行しました。
その脅威は、新たな段階に入っています。父親の金正日総書記時代の18年間に発射したミサイルの数は16発でしたが、その倍以上の数を金正恩委員長時代に、この1年余りで発射をしたということになるわけであります。
北朝鮮が危険な挑発行為を中止し、その全ての核ミサイル計画を破棄するよう、国際社会全体が結束して行動しなければならないわけであります。今回、このG7において結束して、しっかりと北朝鮮に圧力を掛けていくという点において結束できたことは極めて意義があると思っています。そして国連の場においても、G7で協力して厳しい安保理決議の採択に向けて成果を出していきたいと思っています」
リカルディ記者はG7コミュニケの中には北朝鮮問題の解決に向けた一つの方法として冒頭発言で示した中国とロシアに対する協力の呼びかけに関わる文言が入っていないがと指摘してから、「総理は少し失望されていますか。今回のG7でもっと多くを引き出したかったと感じていますか」との表現で、コミュニケの纏め方に対しての安倍晋三のリーダーシップの過不足についての感想を尋ねた。
ところが我が安倍晋三は国会答弁で質問には全然答えずにその場を遣り過すよく使う手をここでも遺憾なく発揮して、冒頭発言で述べた北朝鮮の脅威を繰返す誤魔化しの手に出た。流石である。
外務省のサイトから記者指摘の個所がどのような文言となっているか、「G7 タオルミーナ首脳コュニケ」から調べてみた。
〈12.我々は,不拡散及び軍縮に関するコミットメントを改めて表明する。北朝鮮は,国際的な課題における最優先事項であり,度重なる,また,現在進行中の国際法違反を通じて,国際の平和及び安定並びに不拡散体制に対し,なお一層,重大な性質を有する新たな段階の脅威となっている。北朝鮮は,即時かつ完全に全ての関連する国連安全保障理事会決議を遵守するとともに全ての核及び弾道ミサイル計画を,完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法で放棄しなければならない我々は,北朝鮮による核実験及び弾道ミサイルの発射を最も強い言葉で非難し,これらの目的を造成するための措置を強化する用意があり,国際社会に対し,関連する国連安全保障理事会決議の持続的な,包括的な,かつ,完全な履行を確保するための努力を倍加するよう強く呼びかける。我々は,北朝鮮に対し,拉致問題の即時解決を含め,人道及び人権上の懸念に対処するよう求める。〉
要するに安倍晋三はコミュニケに北朝鮮問題解決に向けて中国やロシアに対して協力を呼びかける文言を盛り込むことができなかった。自身のリーダーシップの程度を知られることになるから、例の如くに都合の悪いことは答えないという手を使った。
安倍晋三は北朝鮮に対する「対話の試みは時間稼ぎに利用されてしまった。北朝鮮は国際社会による平和的解決への努力をことごとく踏みにじった」と言っている。
確かに「北朝鮮は国際社会による平和的解決への努力をことごとく踏みにじった」。だが、「対話の試みは時間稼ぎに利用されてしまった」と言っていることに関しては、“利用する側”の問題だけではなく、“利用されてしまう側”にも問題があるはずだ。
安倍政権は2014年5月、北朝鮮が拉致被害者や拉致の疑いのある特定失踪者を含む域内の日本人の安否について包括的かつ全面的な再調査を約束したことを受けて、北朝鮮側が再調査の特別調査委員会を発足させ、その活動を開始し、そのことを日本側が確認した時点で独自に科してきた人的往来や送金など経済制裁の一部を解除する方針を決め、同年7月4日、確認できたとして制裁解除を決定した。
ところが制裁解除決定の5日後の7月9日早朝に北朝鮮は複数の弾道ミサイルを日本海に向けて発射、安倍政権は抗議したものの、慎重に状況を見極めるという態度を取り、7月13日に安倍晋三は「先般の合意に従って、北朝鮮に調査を進めていくよう求めていきたい。問題解決に向けた我々の取り組みにミサイル発射が影響を及ぼすことはない」(時事ドットコム)と言明、ミサイル発射に対する抗議を無効化した。
拉致調査の前にはミサイル発射は問題ありませんよと言ったも同然である。
北朝鮮側は1回目の調査結果を夏の終わりから秋の初め頃に報告するとしていたが、拉致被害者に関しては拉致されたことの情報がどこでどう漏れるか警戒するために監視下に置いていて常時把握していなければならないはずだから、それ程にも時間がかかることに疑わなければならなかったはずだが、安倍政権は疑わずに相手の言った時期まで報告を待ち続けた。
ところが秋の初めが過ぎても報告が入らない。2014年9月末に中国で日朝政府間協議の開催を求めて日本側から問い合わせると、北朝鮮は「調査は1年程度を目標としており、現在はまだ初期段階にある」と回答。そして調査の詳細はピョンヤンで特別調査委員会のメンバーから直接聞くよう求めてきた。
安倍政権は2014年10月末に外務省の幹部を団長とするメンバーをピョンヤンに派遣、北朝鮮側の回答を官房長官の菅義偉が2014年10月31日の午前の記者会見で発表している。
菅義偉「北朝鮮からは拉致被害者の調査では、『個別の入境の有無や経緯、生活環境などを調査している。被害者が滞在した招待所の跡などの関連場所を改めて調査すると共に新たな証人や物証などを探す作業を並行して進めている』と説明があった。
日本側からは、どのような方法で調査を進めているのか、さまざまな角度から詳細な質問を行ったが、北朝鮮側からは、『これから調査を深めていく段階で、途中段階で憶測を招くような説明は避ける。現時点で客観的で明白な資料は発見できていない』という説明があった」(NHK NEWS WEB)
北朝鮮側の説明は拉致被害者は監視下に置いてなく、一般の北朝鮮人に混じって生活していることになる。拉致被害者の口から拉致の状況が第三者に漏れて、それが情報となって北朝鮮人の間に広まることを想定も警戒もしていないことになる。国民の福祉よりも国家権力を守ることを第一意義としている独裁権力が自らの存在を危うくする情報管理を怠っていることなど常識的には考えることはできない。
安倍晋三は10月31日の衆議院特別委員会で次のように答弁している。
安倍晋三「拉致の実行を行った特殊機関に対しても、しっかりとした徹底的な調査が今度は行われるということだ。北朝鮮側からは、調査の信頼性を確保するための客観的かつ科学的な方法で調査し、過去の調査結果にこだわることなく、調査を深めていくと説明があった。わが方としては、北朝鮮はゼロベースで調査を始めるものと理解している」
北朝鮮からの第1回目の報告は2014年中なく、北朝鮮との政府間協議再開から1年経過の3月30日になっても梨の礫であった。にも関わらず安倍晋三は2015年3月31日の閣議で北朝鮮に対する日本独自の制裁措置のうち、来月の4月13日に期限が切れる、輸出入の全面禁止と人道目的を除く北朝鮮籍船舶の入港禁止の措置をさらに2年間延長することを決定した。
この決定をエサに拉致解決という魚を釣りたかったのだろうが、安倍政権は北朝鮮に対してこの当時全ての拉致被害者の即時帰国と真相究明、実行犯の引き渡しを要求していた。
拉致は金正日が首謀者であることが既に広く知られていた。当然、金正日の命令で行われた拉致であるなら、実行犯は拉致に関わる権力中枢の動静を知り得ている可能性がある。そのような実行犯を金正日にしても金正恩にしても日本側に素直に渡すか疑わなければならなかったはずだ。
日本側の実行犯の引き渡し要求に対して北朝鮮側が独裁権力維持とその権力正当性の観点から実行犯の引き渡し要求に応じることができなかったなら、実行犯の引き渡し要求を撤回しなければ、拉致問題は前へ進まないことになる。
2015年7月3日、北朝鮮が拉致被害者らの調査を開始してから7月4日で1年となるのを前に北朝鮮当局が「誠意を持って調査を行っているが、今しばらく時間がかかる」と調査結果の報告の延期を政府に連絡してきた。
安倍政権は延期を受け入れなければ、北朝鮮は調査を打ち切るかもしれない懸念から延期を受け入れる以外の選択肢はない身動きが取れない状態に置かれた。
2015年9月末になってマスコミは複数の日本政府関係者の話として昨年からの日朝非公式協議で北朝鮮側が「8人は死亡。4人は入国していない」とした当初の調査結果は現段階では覆っていないとしていることを伝えた。
拉致問題が停滞する中、北朝鮮は2016年1月に入って核実験を行い、2月に長距離弾道ミサイルの発射を強行、安倍晋三も国連決議違反として国際社会と協調して制裁を加えなければならない立場上、一旦は解除した日本独自の制裁を再設定せざるを得なくなり、制裁強化の準備を指示することになった。
当然、北朝鮮は拉致調査の中止で応じることになり、拉致問題はウヤムヤとなった。
拉致交渉も一つの対話の試みに入る。だが、そのような対話の試みも「時間稼ぎに利用された」だけで終わった。安倍晋三と言う“利用されてしまう側”にも問題があったということである。
そもそもからして日本側が拉致解決に前のめりになり、一部制裁を解除したことにアメリカは懸念を示した。
2014年7月3日。
ローズ大統領副補佐官「オバマ大統領も日本政府が拉致問題の解決に重点を置いていることはよく理解しているが、北朝鮮の核問題に関して多国間で科している制裁を犠牲にすべきではない。われわれは結束して圧力をかけ続ける必要がある」
「制裁解除」によって一時的にミサイル開発資金・核開発資金を提供したことになっただろうことも、北朝鮮による拉致交渉の利用に入るはずだ。
一度「ブログ」(2016年9月10日 )に書いたことだが、安倍晋三は拉致問題解決の有利性を考えて、金正日から金正恩への父子独裁権力の継承を一度は歓迎したのである。
2012年8月30日、フジテレビ「知りたがり」。
安倍晋三「ご両親が自身の手でめぐみさんを抱きしめるまで、私達の使命は終わらない。だが、10年経ってしまった。その使命を果たしていないというのは、申し訳ないと思う。
(拉致解決対策として)金正恩氏にリーダーが代わりましたね。ですから、一つの可能性は生まれてきたと思います」
伊藤利尋メインキャスター「体制が変わった。やはり圧力というのがキーワードになるでしょうか」
安倍晋三「金正恩氏はですね、金正日と何が違うか。それは5人生存、8人死亡と、こういう判断ですね、こういう判断をしたのは金正日ですが、金正恩氏の判断ではないですね。
あれは間違いです、ウソをついていましたと言っても、その判断をしたのは本人ではない。あるいは拉致作戦には金正恩氏は関わっていませんでした。
しかしそうは言っても、お父さんがやっていたことを否定しなければいけない。普通であればですね、(日朝が)普通に対話していたって、これは(父親の拉致犯罪を間違っていたと)否定しない。
ですから、今の現状を守ることはできません。こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ。
そこで思い切って大きな決断をしようという方向に促していく必要がありますね。そのためにはやっぱり圧力しかないんですね」――
似たような発言を他でも繰返している。
要するに日本人拉致犯罪は金正日の首謀事犯(刑罰に処すべき行為)だから、抱えている自身にとっての不都合な部分まで明らかにすることができないために全面的な拉致解決にまで進めることができなかった。
但し息子の金正恩は金正日の犯罪に関わっていないから、金正恩の政権を維持するためには父親の拉致犯罪を間違っていたと否定し、全て明らかにすることで日本からの経済援助を受けることができる拉致問題の全面解決に努めるべきで、そのように仕向けていくとした。
つまり日本人拉致の首謀者である金正日体制が続いたなら、自身が犯した国家犯罪だから、全てを明らかにしなければならない全面的解決は望めないが、その息子であっても犯罪に関係してない金正恩なら、全面解決の可能性に賭けることができると、その独裁権力の父子継承を歓迎したのである。
但し金正恩は父子権力継承の正統性を父親金正日の血に置いている。その血はその父親金日成から引き継いだものだが、当然、その血はありとあらゆる正義を体現しているものと見做さなければ、権力継承の正統性に瑕疵が生じることになる。
金正日の血は正義であり、正義とは金正日の血を意味し、その存在そのものを正義とすることになる。そうすることによって権力継承そのものを正義と価値づけることができ、そこに正統性が生まれる。
存在そのものを正義とする以上、金正日が自らの最優先の政治思想として掲げていた、金正恩に対する「遺訓」としている、すべてに於いて軍事を優先させる「先軍政治」も含まれることになる。
また、権力を父子継承するについては、金正日独裁体制を支えた北朝鮮軍部や朝鮮労働党の側近を継承し、自らの体制としなければならない。父親金正日の正義を支えた体制でもあるからだ。
かくかように独裁体制下の権力の父子継承とは父親の正義をその子が受け継いで自らの正義とすることを意味することになって、父親の犯罪を暴くことは父親の正義をニセモノとすることであり、結果的に父親から受け継いだ自らの権力の正統性をそこに置いている正義を自ら否定することになる。
金正恩が決して出来ないことを安倍晋三は期待し、2011年12月17日に北朝鮮の独裁権力の座に就いた金正恩のその権力継承を2012年当時は歓迎していたのである。
2014年当時まで北朝鮮としては決して飲むことはできない拉致実行犯の引き渡しを求めていたことまで重ね合わせて安倍晋三の外交能力がこの程度でしかなかったことを照らし合わせてみると、ミサイル開発や核開発を含めて何事につけても、金正恩という“利用する側”の問題だけではなく、安倍晋三という“利用されてしまう側”にも問題があったはずで、その筆頭は安倍晋三であるはずだ。