2017年5月22日午後10時33分(日本時間23日午前6時33分)夜、イギリスのマンチェスターにあるマンチェスター・アリーナで米国人気女性シンガーソングライター、アリアナ・グランデの公演終了後に観客が帰り始めたエントランス・ロビー付近で自爆テロが発生、警察発表で観客と実行犯1名を含む計23名が死亡、少なくとも120名が負傷した。死亡した犠牲者の中で最も若かったのは8歳の少女だったという。(Wikipedia)
アリアナ・グランデ自身がまだ23歳で、犠牲者は若い年齢層のファンが多かったということだ。
2日後の5月25日午前10時半近く、安倍晋三はイタリアは南部のシチリア島のタオルミナで開催されるG7首脳会合に向けて羽田空港から出発する際、「記者会見」を開いた。
「自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値で結ばれたG7の強い結束を示していく」
「北朝鮮の問題についてG7で一致結束して毅然として対応していく。そのための議論をリードしていきたい」
「如何なるテロもG7の強い結束とそして意思を挫(くじ)くことはできない。先のマンチェスターにおける悲惨なテロを受けて、G7として断固としてテロに立ち向かっていく。その決意を表明したい」
等々、勇ましい言葉を並べた。
「G7として断固としてテロに立ち向かっていく」という強い言葉はテロに対する激しい憎しみと同時に犠牲者への深い祈りと誓いでもあったはずだ。
なぜなら、マンチェスター・アリーナ自爆テロ当日の5月23日午前、首相官邸で行われた自民党サイバーセキュリティ対策推進議員連盟との面会の中で、「お亡くなりになられた方々にお悔やみを、負傷された方々にお見舞いを申し上げたい。テロは断じて許されない。どんな理由があれ、テロを根絶していくために、国際社会としっかり連携していきたい」(産経ニュース)と発言していたからだ。
5月26日~27日のG7首脳会合開催中の5月26日午前10時35分頃から約55分間、安倍晋三はトランプと日米首脳会談を開いている。「外務省」のサイトに記者が入ることを許される会談冒頭の発言要旨が記載されている。
〈トランプ大統領から,安倍総理は私の友人であり,いい関係を構築することができた,北朝鮮について話すこともあるし,テロの問題について話すこともある,特に北朝鮮の問題は世界的な問題であり,絶対解決しなければならない問題である旨述べた。
これに対して安倍総理から,再会でき嬉しい,トランプ大統領の中東とNATO訪問の成功に祝意を表する,トランプ大統領が世界の安全保障に力強くコミットしている姿勢を示したことを評価している,国際社会の課題について日米の連携を確認したい旨述べた。〉――
安倍晋三は「トランプ大統領が世界の安全保障に力強くコミットしている姿勢を示したことを評価している」と述べた。「世界の安全保障」と言うとき、安倍晋三は念頭にテロの問題や北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の海洋進出等を置いていたはずだ。これらの問題が深く「世界の安全保障」に関わっているという思いで。
念頭に置いていなければ、G7首脳会合に向けて羽田空港から出発する際に記者会見で発言した言葉がウソになる。一貫性のない、単なるお題目に過ぎなかったことになる。
次の2017年5月26日付「産経ニュース」記事によると、外務省の記事には書いてなかったが、安倍晋三は会談冒頭で巧みな冗談を言ってトランプを和ませたようだ。
記事題名は、《【日米首脳会談】安倍晋三首相、ジョークでトランプ氏の笑いをとる》となっている。
先ず、〈トランプ氏は会談冒頭で北朝鮮の脅威を取り上げ、「世界的な問題だ」と指摘。核問題の解決に向けた決意を表明し、会談に同席した両政府関係者の表情は一気に厳しくなった。〉と紹介。
続けて、〈安倍首相の発言の順番となり、首相はあいさつもそこそこに「1つ残念なことは、今回はゴルフができないことです」と切り出した。トランプ氏の真剣な表情は一気に崩れ、米政府関係者に満面の笑顔を向けた。〉
そしてこの発言がなぜ冗談になるのか記事は次のように解説している。
〈2人は2月の首脳会談後に行ったゴルフで、緊密な関係を築いた経緯がある。トランプ氏は安倍首相のジョークに気をよくしたのか追加発言を求め、「われわれは友情を築き上げた」と相好を崩した。〉――
この記事には書いてないが、外務省の記事では上に上げたようにトランプは北朝鮮とテロの問題について取り上げている。勿論、テロの問題については3日前のマンチェスター・アリーナ自爆テロを強く意識していたはずだ。
中東歴訪中のトランプがこの自爆テロを受けて、「美しく罪のない多くの若者が、生きて自分の生活を楽しんでいたのに、あまりに大勢が、凶悪な人生の負け犬たちに殺されてしまった」(BBC日本ニュース)と非難しているからだ。
貧困や差別といった経済発展や社会の矛盾が温床となっているテロでもあるはずだが、「凶悪な人生の負け犬たち」と本人にのみ責任を帰す単細胞はさすがトランプらしいが、いずれにしても安倍晋三に対して「テロ」という言葉を口にしたときマンチェスター・アリーナ自爆テロを念頭に置いていなければ、テロ非難の言葉はお題目化する。
そして安倍晋三自身もG7首脳会合に向かう羽田空港でマンチェスター・アリーナ自爆テロを念頭に「G7として断固としてテロに立ち向かっていく」とテロに対する憎しみと同時に犠牲者への祈りと誓いを口にしている以上、日米首脳会談冒頭でのでトランプの北朝鮮問題やテロ問題の発言を受けて、これらが世界の安全保障に差し迫った緊急の課題として敏感に反応しなければならなかったはずだ。
特にマンチェスター・アリーナ自爆テロでは自爆犯1名を除いた犠牲者22名の内、半数を1名超える12名は16歳未満の子どもだったと「Wikipedia」は伝えていて、安倍晋三はその情報をG7首脳会合に向けて羽田空港から出発するまでの間に受けていなければならない。
だが、安倍晋三はトランプとの首脳会談での冒頭発言で、〈あいさつもそこそこに「1つ残念なことは、今回はゴルフができないことです」と切り出した。〉
要するにトランプが安倍晋三に対して最初に持ってきた北朝鮮問題やテロ問題の世界の安全保障に差し迫った緊急の課題を差し置いてTPOを弁えずに今年2月の日米首脳会談後に行ったゴルフに引っ掛けて、今回はそれができないのは残念だと、ゴルフを最初の話題に持ってきた。
安倍晋三は羽田空港で「自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値」を口にしている。これらの普遍的価値観の破壊要素としてテロや北朝鮮のミサイル開発・核開発を可能としている独裁政治を置いているはずだ。
当然、普遍的価値を守り抜かなければならない民主国家の指導者として普遍的価値の破壊に対しては怒りを持ち、普遍的価値の擁護に関しては使命感を持つ、そのような感受性が敏感であるかどうかの程度が「テロに立ち向かう」とか、「北朝鮮のミサイル発射は断じて容認できない」等々と言っていることの実行性・言行一致性に関係してくることになるために例え首脳会談でテロや北朝鮮問題を議論の本題としたとしても、それで許されるわけではない。
国家指導者に於いて一致していないと、人任せとなる。あるいは国家安全保障政策に於いて優先順位の後位に置かれることになる。
要するにトランプとの首脳会談の冒頭の場面でトランプが北朝鮮問題やテロの問題を口にしたにも関わらず、安倍晋三にとっては現在普遍的価値観の破壊要素となっていると同時に世界の安全保障上の差し迫った問題となっているテロや北朝鮮問題よりもゴルフの話題がより敏感な問題であった。
では、マンチェスター・アリーナ自爆テロ2日後5月25日に羽田空港で「普遍的価値」を口にしたこともそうだが、「如何なるテロもG7の強い結束とそして意思を挫(くじ)くことはできない。先のマンチェスターにおける悲惨なテロを受けて、G7として断固としてテロに立ち向かっていく。その決意を表明したい」という発言は何だったのだろう。
この発言にテロに対する激しい憎しみと同時に犠牲者への深い祈りと誓いを込めていたはずだが、何も込もっていなかったのだろうか。込もっていなかったとしたら、羽田空港での発言はいつも口にする言葉を単に並べ立てただけのお題目となる。
産経ニュース記事が〈トランプ氏の真剣な表情は一気に崩れ、米政府関係者に満面の笑顔を向けた。〉と書いていることからして冗談は効果を見せた。この冗談によって安倍晋三はトランプをして2月首脳会談時の二人の親密さを思い出させたことになり、同時にトランプと共にその親密さを共有する演出に成功したのだ。
いわばトランプを笑わせて、改めて気に入られた。TPOを弁えなかったこと自体が既に罰当たりな話だが、弁えなかったのは相手から好意を得ることだけを優先させたからだろうが、そのような冗談は多分に媚びの意識から発するものだと相場が決まっていて、罰当たりに重なる罰当たりとなる。
安倍晋三はゴルフに関しての罰当たりは今回が初めてではない。2014年8月20早朝の広島豪雨時、土砂災害が発生して死者が出ているにも関わらず夏休みのゴルフを続ける罰当たりを既に演じている。