安倍晋三は憲法記念日の2017年5月3日都内開催の「公開憲法フォーラム」に憲法9条の1項と2項は手を付けずに合憲性を示すために自衛隊を明文化し、東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年を改正憲法施行の目標年とする内容のビデオメッセージを送り、同日付読売新聞朝刊での安倍晋三のインタビュー記事では9条1項、2項の後に9条の2を設けて、そこに自衛隊の存在を明記する、いわば自身の改憲構想を述べた。
その安倍晋三が今度は2017年5月21日夕方のニッポン放送の番組収録では改憲構想の実現化に向けた発言があったようだ。
安倍晋三「自民党の憲法改正に向けての責任者である保岡本部長は『年内にはまとめたい』という意欲を示しており、この機運が盛り上がっていけばと思う。まずは党内でしっかりと議論して、年内に案をお示しできればと思う。
大災害があったり、万が一、海外からの侵略にあった時、命をかけて国民を守るのは自衛隊の諸君だが、自衛隊の存在について、いまだに違憲かどうかという議論がある。これに終止符を打つのは、やはり私たちの世代の責任ではないか」(NHK NEWS WEB/2017年5月21日 22時00分)
後段の発言はビデオメセージとほぼ同じ内容となっている。
前段の発言は安倍晋三が2017年5月12日午後、党憲法改正推進本部の本部長保岡興治と党本部で会談した際の保岡興治の対応と自身の改正案の取り纏め時期に関する希望となっている。
5月12日午後に安倍晋三と会談した保岡興治は次のように発言している。
保岡興治「党総裁から方向性が示されたことでやるべきことが明確になった。最大限努力する」(日経電子版/2017/5/13 0:03)
自民党は谷垣総裁の野党時代の2012年4月27日に「自民党憲法改正草案」を決定している。当然、「やるべき」方向性とは憲法9条1項の戦争放棄(「国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない」)は現憲法のままとし、現憲法2項の戦力不保持と交戦権の否認は削除して、自衛権の発動を認め、9条の2を付け足して、国防軍の創設を謳っている自民党憲法改正草案が示す改憲の方向であるはずだが、党総裁が示した方向性によって「やるべきことが明確になった」と言っている。
いわば保岡興治は安倍晋三の改憲構想に則って憲法審査会に提出する自民党改憲案を纏めるとしている。
萩生田光一と同じく安倍晋三の腰巾着下村博文は安倍晋三が保岡興治と会談した同じ日の夜にBSフジに出演、改正案は「自民党内で年内にコンセンサスをつくり、来年の通常国会に発議案を出せたらベストだ」(時事ドットコム)と発言している。
下村博文が安倍晋三の腰巾着である以上、安倍晋三と意を通じていないはずはないから、自民党改正案年内コンセンサスは安倍晋三の意思だと見て然るべきである。
と言うことは、党憲法改正推進本部の本部長保岡興治は安倍晋三の改憲構想に従った自民党改憲案の取り纏めを行い、その時期も「年内にはまとめたい」と、安倍晋三が望む年内とすることを宣言したことになる。
安倍晋三がニッポン放送の番組収録で「年内に案をお示しできればと思う」と述べているスケジュールはほぼ確定的という思いが篭っているはずだ。
このような先々までのスケジュールを頭に描いた安倍晋三の「公開憲法フォーラム」に送りつけたビデオメッセージであり、読売新聞のインタビューだったのだろう。そして安倍晋三が思い描いているとおりに自身の改憲構想を自民党の改憲草案とする策略が着々と進んでいるということなのだろう。
なかなかの策略である。
安倍晋三が自身の改憲構想が自民党の改憲草案に盛り込まれることをほぼ狂いのない予定表に入れているはずだが、それが現実に確定しさえすれば、あとはこっちのものだと思っているに違いない。
憲法審査会で各党の改憲案との議論にそれなりに時間をかけ、憲法改正反対の野党がどう強硬に反対しようと一定時間の議論後に公明党や維新などの議員を加えた数の力を頼んで強行採決に持ち込んで賛成多数で可決すれば、本会議に持ち込むことができて、本会議でも同じ強行採決を使って、公明党や維新などの議員を加えた3分の2以上の賛成多数で自民党憲法改正案を国民投票に付すことができる正々堂々の憲法改正案とすることができる。
勿論、次に控えている有効投票数の過半数の賛成という国民投票はハードルが高いが、安倍晋三のビデオメッセージでの「今日、災害救助を含め、命懸けで24時間、365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が、今なお存在しています。『自衛隊は違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です」の発言、そしてニッポン放送の番組収録での「大災害があったり、万が一、海外からの侵略にあった時、命をかけて国民を守るのは自衛隊の諸君だが、自衛隊の存在について、いまだに違憲かどうかという議論がある。これに終止符を打つのは、やはり私たちの世代の責任ではないか」の発言が自衛隊の災害救助に重点を置いた文脈となっていることからも分かるように国民投票に於ける憲法改正の争点から戦争する自衛隊は可能な限り薄めて、災害救助活動に汗水垂らすの自衛隊の真摯な姿を争点の前面に押し立てて3匹目のドジョウを狙うに違いない。
1匹目は2014年年12月2日公示・12月14日投開票の衆議院選挙。安倍晋三は解散自体を「アベノミクス解散」だと銘打ち、選挙ではアベノミクスの是非を争点の前面に押し立て、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認や自衛隊海外派兵を含めた安全保障政策は争点の背後に置いて大勝するに至った。
2匹目は2016年7月の参院選挙。改憲を可能とする3分の2を自民党のみでか、あるいは改憲勢力を合わせて獲得できるかが話題となったが、安倍晋三は「最大の争点は経済政策だ」と言って、衆院選と同じようにアベノミクスの是非を争点の前面に押し立て、改憲については争点化を避け、その争点隠しのもと、憲法改正に前向きなおおさか維新の会等を加えて3分の2を超える改憲勢力を築くことに成功した。
安倍晋三のよく使う手となっている。
2017年5月16日の当「ブログ」に書いたが、安倍晋三の改憲構想――9条1項、2項は手を付けずに9条の2を設けて、そこに自衛隊の存在を明記する改憲の目的がどこにあるか肝に銘じなければならない。
〈9条1項と2項に手を付けなくても、9条の2を設けて自衛隊を明文化することに成功すれば、自衛隊が憲法違反だと誰もが言うことができない状態にすることができて、憲法に例え国防軍の創設を謳わずとも、新安保法制で如何ようにも自衛隊を駆使できる。〉
ここに安倍晋三の改憲構想の着地点があり、その着地点に向けたロードマップがビデオメッセージや新聞インタビューでの発言であり、憲法改正推進本部の本部長保岡興治との会談に於ける根回しであり、ニッポン放送の番組収録での発言ということであって、着地点に向けたロードマップを着々と消化している。