トランプと安倍晋三がどう逆立ちしようとも北朝鮮は非核化しない 金正恩独裁体制と非核化は逆説関係

2018-05-15 11:33:39 | 政治
 安倍晋三:従軍慰安婦強制連行否定2007年3月16日閣議決定

「政府が発見した資料の中には、軍や官憲がいわゆる強制連行を
直接示すような記述も見当たらなかった」
とする
“政府発見資料”とは如何なる資料か、公表すべき

 確かに非核化要求の国連決議による対北朝鮮経済制裁が効果を上げたのだろう、核の威嚇を使った対決姿勢をあれ程見せていた北朝鮮が2018年2月25日のピョンチャンオリンピック閉会式に合わせて高位級代表団を韓国に派遣、ムン・ジェイン(文在寅)韓国大統領との会談で「アメリカと対話をする十分な用意がある」と米朝対話の再開に前向きな姿勢を表明。

 2018年3月5、6日に大統領特使団トップとして北朝鮮を訪問した大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長が6日の記者会見で北朝鮮は朝鮮半島非核化の意思を明確にし、北朝鮮への軍事的脅威が解消されて体制の安全が保障されれば、核を保有する理由がない点を明確にした等を発表。

 さらに鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室が3月9日に訪米、核・ミサイル実験の停止を提示する内容と米朝首脳会談を提案する金正恩の親書をトランプに渡した。対してトランプはその提案を受諾。

 3月29日、韓国と北朝鮮は10年半ぶりとなる南北首脳会談の開催を4月27日に行うことで合意。

 2018年4月20日、金正恩は「我々には如何なる核実験、中長距離や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射も必要がなくなった。北部核実験場も自己の使命を終えた」と述べ、核実験とICBM発射の中止、北部核実験場の廃棄を宣言した。

 4月27日の38度線の板門店での南北首脳会談後、両国は共同宣言で冷戦の産物である長年の分断と対決の一日も早い終息と民族的和解と平和繁栄の新しい時代の構築、休戦協定締結65年になる今年、終戦を宣言して停戦協定を平和協定に転換、恒久的で強固な平和体制構築のために韓国・北朝鮮・米国の3か国、または韓国・北朝鮮・米国・中国の4カ国の協議開催を積極的に推進、完全な非核化を通じた核のない朝鮮半島の実現という共通の目標の確認等を宣言した。

 5月10日、トランプはツイッターで米朝首脳会談を5月12日にシンガポールで開催することを明らかにした。その後、トランプは中西部インディアナ州で支持者を前に演説。

 トランプ「私は平和な未来と世界の安全を追求するためキム委員長と会う。関係はいい。非常によいことが起きる。大成功となるだろう。韓国や日本、中国などにとって素晴らしい合意をつくる」(NHK NEWS WEB

 5月13日、北朝鮮は4月20日に宣言していた核実験場廃棄を5月23日から25日の間にアメリカと韓国、中国、ロシア、イギリスの報道機関を招いて公開することを明らかにした。

 トランプは早速ツイッターで応じた。「北朝鮮が6月12日の米朝首脳会談の前に核実験場を廃棄すると表明した。ありがとう。とても賢く、丁重な行動だ!」(NHK NEWS WEB

 東アジア及び米朝の緊張緩和ムードが一気に高まっている。トランプが楽観的なのは北朝鮮を完全非核化に持っていけば、ムン・ジェイン(文在寅)韓国大統領に嗾けられたノーベル平和賞も夢ではないと夢想しているからなのだろうか。

 安倍晋三も従来から北朝鮮に対して完全非核化を求めている。5月11日、フジテレビの番組で米朝首脳会談について次のように発言しているとその要旨をマスコミが伝えている。

 「産経ニュース」/2018.5.11 22:49)

 安倍晋三「米朝首脳会談は史上初めて行われる歴史的な会談だ。米国と密接に連携できる場所(シンガポール)で良かった。核兵器を含むすべての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルを完全に検証可能な形で不可逆的に廃棄(CVID)し、拉致問題で前進があるか。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が決断するかどうかだ。

 今までうまくいかなかったのは、見返りのタイミングを間違えたからだとトランプ米大統領にも言っている。制裁解除や援助はCVIDを達成した後だ。米朝でトランプ氏が得意なディール(交渉)で突破口を開いてほしい。ここですべてが決まれば一番いいが。

 金氏は速いスピードで、非常にダイナミックな判断をしている。会った人によると、最終的に一人で判断し、判断に自信を持っているようだ。国際社会の出来事を熟知し、自分の国にどういう問題があるかよく知っているという。問題を解決する必要性について十分に認識している可能性はある。

 (金氏が「なぜ日本が拉致問題を我々に直接言ってこないのか」と発言したとの報道について)見方によっては、それに応じるかもしれないという分析ができるだろうと思っている。日朝首脳会談は、拉致問題の解決につながらなければならない。ただ会って1回話をすればいいということではない。

 (日朝)首脳会談が実現されればいいと思う。日朝国交正常化は極めて重要なピースだ。金氏は米朝、南北首脳会談だけをやればいいのではないと判断してほしい。

 アメリカのボルトン安全保障政策担当大統領補佐官が5月13日にアメリカのABCテレビのインタビューに応じて次のように発言している。

 ボルトン「北朝鮮の非核化については譲れない。それは核兵器だけという意味ではない。弾道ミサイルや生物・化学兵器もあり、話し合わなければならないことはいろいろある。

 金正恩朝鮮労働党委員長や、北朝鮮の政府は、大量破壊兵器を保有しないほうがいいという戦略的な決定をする必要がある。非核化のプロセスが不可逆的に完全に進む必要がある。それに先立って、見返りを送るべきではない」(NHK NEWS WEB

 不可逆的完全な非核化の確認まで見返りを与えないというのは理解できる。弾道ミサイルや生物・化学兵器の廃棄もアメリカ側からしたら当然な要求だろう。

 しかし後者のこの要求は北朝鮮に対して「国家安全保障上の軍事的衣を脱ぎ捨て、裸になれ」との要求に等しくならない保証はない。このことは次の国務省声明とトランプ自身の言葉によって明らかになる。

 5月2日米国務省声明「(北朝鮮の)人権侵害について我々はなお深く懸念しており、非常に遺憾に思っている。(北朝鮮に)最大限の圧力を掛ける方針と合わせ、人権侵害の責任を追及していく」(ロイター/2018年5月3日 / 06:47)

 国家規模の人権侵害は独裁体制によって産出される。当然、人権侵害の責任追及は独裁体制の追及となり、人権侵害の完全な払拭は独裁体制の崩壊、民主化によってのみ達成される。

 こういったプロセスが考えられる以上、北朝鮮が米国が提示した体制の保障に応じて核兵器だけではなく、生物・化学兵器から通常兵器である弾道ミサイルまで放棄した場合の軍事的無防備は人権侵害追及というトロイの木馬によって米側が体制の保障を如何に言おうと、独裁体制側は体制の保障が体制の保障とならない危険性を常に抱えることになる。

 この理を金正恩は十分に弁えているはずだ。

 トランプはアメリカ第一主義を抱え、アメリカの膨大な貿易赤字を解消する姿勢を示している。2018年4月16日、米南部フロリダ州での会合での発言。
 トランプ「貿易取引に関しては、我々の友好国の方が敵国より悪くなっている。日本や韓国など多くの国に巨額の貿易赤字を抱えている。殆ど全ての国との取引で、我々は大変多くの仕事とお金を失っている。米国は長年、出し抜かれてきた」(東京新聞/2018年4月17日 夕刊)

 そう、友好国とは日本や韓国等の民主国家であり、トランプは独裁国家、あるいは独裁的国家を「敵国」としている。中国やロシアが後者に当たり、貿易赤字問題を抱えていないが、北朝鮮も独裁国家として「敵国」という位置づけになる。

 トランプが深く認識して「敵国」という言葉を使ったかどうかは分からないが、民主国家と独裁国家、あるいは独裁国家と類似の国家とは経済面での国益は妥協できても、国家体制という点では本質的には相容れないことを示唆した。国家体制によって決まってくるそれぞれの人権の質・人権の状況に関しては決して交わらないことを暗に言い当てた。

 父子継承の金正恩独裁体制国家が独裁体制国家であり続ける以上、民主国家米国にとっては本質的には「敵国」であるという地位を与え続けることになる。当然、金正恩独裁体制の北朝鮮も、独裁体制を維持する限り、米国以下の日本や韓国を相互に「敵国」と位置づけることになり、対峙する姿勢を常に内心に持つことになる。

 このような関係が将来的にも想定される以上、北朝鮮にとって国家安全保障上、核兵器はおろか、生物・化学兵器から通常兵器である弾道ミサイルまで放棄して、いわば国家安全保障上の軍事的衣を脱ぎ捨て、裸になるということが果たしてできるだろうか。

 金正恩が北朝鮮国民に向かって独裁体制の終焉を告げ、国家指導者の地位を降りて民主化を宣言、民主的な選挙による新しい指導者の選出にまで持っていったとき初めて、米側が言う体制の保障は言葉通りの意味を持つ。米国等の民主国家からの人権侵害の追及はなくなり、人権侵害の追及が独裁体制を崩壊させるトロイの木馬に変身する危険性も去る。

 要するにアメリカが北朝鮮の国家体制の保障をどう言おうと、金正恩が父子継承の独裁体制に拘る間は、独裁体制にとって国家安全保障上の軍事的衣を脱ぎ捨て、裸になるのと同然のトランプや安倍晋三が求める“完全で検証可能且つ不可逆的な非核化”には決して応じないだろうということである。

 2018年1月8日の当「ブログ」に次のように書いた。参考に。

 〈独裁国家は民主国家と経済上の国益を一致させることができても、国民統治に関しては基本的人権の点で国益を一致させることができない。その点で国益を一致させたなら、独裁国家はたちまち独裁国家でなくなる。

 独裁者は独裁体制を危険に陥れる国内の勢力に対しては言論の抑圧や集会の制限、あるいは禁止等の方法を用いて強権的な取締まりを行い、国外の勢力に対しては軍事的手段で独裁体制を守ろうとする。

 北朝鮮の金正恩にとっては国外の勢力からの独裁体制を死守する唯一無二の保障が核ミサイルの装備であって、そうである以上、放棄することはあり得ない。

 以前トランプが核放棄の条件として北朝鮮の国家体制の保障を口にしたことがあるが、金正恩は父子継承の金一族の独裁体制の国民統治と民主体制のそれとの国益上の利害の不一致・価値観の不一致が一度の保障によって解消されない永遠性を弁えていて、独裁体制死守の絶対的保障をアメリカ本土攻撃可能な核ミサイルの所有から変える意志を持っていないはずだ。

 北朝鮮が独裁国家体制を取る間は永遠に相交わることのない、常に相反する国民統治方式の軌跡を相互に描くことになる以上、「今後ともあらゆる手段による圧力を最大限まで高めて」いって、「北朝鮮の側から話し合いたいと言ってくる状況」を作ることができたとしても、その話し合いにしても「時間稼ぎに利用される」ことに変わりはない。

 つまり最大限に高めた圧力が北朝鮮の核ミサイル装備の放棄に繋がる保証はない。既に米本土到達可能なICBMを保有したとしていることが北朝鮮の強みとなるはずだ。この強みを背景に以後、様々な時間稼ぎで北朝鮮を確固とした核保有大国に育てていくことになるだろう。

 安倍晋三にしてもトランプにしても、鈍感・無知な点を相共通させて、金正恩が独裁国家体制指導者として核保有を独裁体制死守の最大国益とせざるを得ないことに気づかずに圧力によって核ミサイルを放棄させることができると固く信じている。

 北朝鮮が核保有を放棄せざるを得ない状況に追い込まれたとき、それは金正恩にとって祖父から父親へ、父親から自身へと受け継いできた父子継承の独裁体制を守る手段を失って、独裁体制の終焉を意味することになり、暴発の始まりに転換しない保証はない。〉

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