自民党衆院議員杉田水脈(みお―51歳)が7月18日発売の月刊「新潮45」に「『LGBT』支援の度が過ぎる」と題した一文を寄稿、〈「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がない。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」と行政による支援を疑問視〉、〈「『常識』や『普通であること』を見失っていく社会は『秩序』がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません」などと主張した。〉と、2018年7月23日付「朝日デジタル」記事が伝えていた。
杉田水脈はLGBTを「子供を作らない、つまり『生産性』がない」ことを理由に「常識」や「普通」に反する存在と看做した。そのような存在を社会的に認知し、「税金を投入する」ことは社会の「秩序」を失い、「いずれ崩壊していく」と警告を発した。
つまり杉田水脈はLGBTを人間として認めていない。あるいは国民として認めていない。
表現にはその人の思想が宿る。杉田水脈の以上の見解はLGBTに関わる思想そのものということになる。
杉田水脈のこの思想は「人権意識欠如だ」とか、「優生思想だ」、「LGBTに対する理解不足だ」といった批判を各方面から浴びた。対して自民党は8月2日に杉田水脈に今後注意するよう指導し、性的指向・性自認に関わる党見解をホームページに掲載したという。
この8月2日は月刊「新潮45」発売の7月18日から2週間経過している。この即座の対応に反する遅過ぎる対応は安倍政権及び自民党が当初は放置し、批判の自然消滅を狙っていたからだろう。でなければ、もっと早くに指導していたはずだ。
ただ当初の思惑が外れて、批判は自然消滅することなく、何ら対応しない自民党に対するそれへと飛び火することととなり、そのことからの2週間遅れの反応ということに違いない。
いわば火の粉が自らに降り掛かってきた。杉田水脈の思想をこのまま放置したら、安倍政権及び自民党がその思想を容認している、いわば思想的に同質と解釈されかねない恐れから、方針転換を図ったはずだし、特に杉田水脈が安倍チルドレンであるという点から、安倍自民党総裁三選にも影響しかねないことを恐れたはずだ。
だから、《性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方》と題したPDF 記事を自民党サイトに載せて、自民党の見解と杉田水脈の見解が異なることを知らせしめることになったのだろう。
そこには、〈古来、わが国で性的指向・性自認の多様なあり方が受容されてきた〉が、〈明治維新以降、西洋化の流れの中で同性愛がタブー視され、違法とされた時期もあっ〉て、〈現在、性的指向・性自認の多様なあり方について、社会の理解が進んでいるとは必ずしも言えず、性同一性障害特例法等の制度的な対応が行われたものの、未だにいじめや差別などの対象とされやすい現実〉がある。
そこで、〈安倍政権が掲げる「一億総活躍社会」の旗のもと、性的指向・性自認について悩みを抱える当事者の方が自分らしい生き方を貫ける社会を実現するため、必要な措置を検討する〉ことになった。
そして、〈目指す方向性〉として、〈カムアウトできる社会ではなくカムアウトする必要のない、互いに自然に受け入れられる社会の実現を図ること〉、〈性的指向や性自認によるいじめも含め、〉、〈いじめや差別を許さない適切な生徒指導・人権教育をさらに推進すること。〉、就職に於いて〈当事者が不当な取り扱いを受けることを防止する〉ために、〈公正な採用選考についての事業主に対する啓発・指導〉を行うこと等々を挙げ、LGBT等の保護に関わる相談窓口やホットライン等を紹介している。
こういったことを以って杉田水脈のLGBTに関わる思想と自民党の性的指向・性自認に関わる基本的な考え方とは異なることを公表、一自民党議員として杉田水脈はこのような基本的な考え方に従うべきだと指導を行ったということなのだろう。
対して杉田水脈は「党性的指向・性自認に関する特命委員会 古屋圭司委員長からご指導をいただきました。真摯に受け止め、今後研鑽につとめて参りたいと存じます」とのコメントを発したと2018年8月2日付「産経ニュース」記事が伝えている。
安倍晋三も8月2日の宮城県東松島市訪問の際、自民党が公にしているしそうと杉田水脈の思想が異なることを発言している。「朝日デジタル」(2018年8月2日15時26分)
安倍晋三「人権が尊重され、多様性が尊重される社会をつくっていく、目指していくことは当然のことであろうと思う。これは政府与党の方針でもある」
かくして杉田水脈はLGBTに関わる自らの思想を内心奥深くに隠して、表面的に口を噤むことになる。
但しこれで一件落着と見ることはできない。杉田水脈が沈黙することになったとしても、表現にはその人の思想が宿ると同時にその人の人間性を表す。LGBTに非寛容な思想・人間性の持ち主が沈黙したまま国会議員の席に居座ることに変わりはない。
いや、LGBTに非寛容なだけではない。「Wikipedia」の「杉田水脈」の項目には彼女の思想=人間性が次のように活写されている
2017衆院選 候補者アンケート(朝日・東大谷口研究室共同調査)で、幼稚園や保育所から大学までの教育無償化について「反対」と回答、「ゼロ歳児に社会性なんてあり得ません!」と主張、「保育所は子供を家庭から引き離し、洗脳教育を施す施設である」とし、学童保育についても「共産党の陰謀である」とし、保育所と学童保育について普及に反対であり、両者ともコミンテルンや共産党が日本を弱体化させるための施設と主張。
保育所の少なさへの不満の噴出や増設の要望は、「旧ソ連崩壊後、弱体化したと思われていたコミンテルンが息を吹き返しつつあり、そのターゲットが日本になっている」などとし、日本を貶める勢力による陰謀、工作活動、「世論操作」であると主張、保育所について「子供を家庭から引き離し、保育所などの施設で洗脳教育をする。旧ソ連が共産主義体制の中で取り組み、失敗したモデルを21世紀の日本で実践しようとしている」と主張、保育所を「誰もが利用できるのが当たり前」、「利用する権利がある」と考えるのは「大きな間違い」であると主張。
「『保育園落ちた』ということは『あなたよりも必要度の高い人がいた』というだけのこと。言い換えれば『あなたは必要度が低いので自分で何とかしなさい』ということ」と主張、「学童保育所は鍵っ子が可哀想だということで、共産党が主導してつくったサービス」であるとし、「”学童保育"は共産党用語であり、自治体では用いません」と主張等々、極度に偏って偏狭なまでのその思想=人間性を紹介している。
かくこのようにLGBTに関わる思想・人間性のみならず各政策で見せている思想・人間性に関しても自民党とは異なりながら、みんなの党や日本維新の会、次世代の党、日本のこころと党籍を変えてきた杉田水脈を安倍晋三は自民党から立候補させるべく白羽の矢を立て、比例代表の公認候補として担ぎ出して当選させ、安倍チルドレンの一人とした。
いわば杉田水脈の人を見ての安倍晋三の努力と成果なのだろから、杉田水脈の思想・人間性がどのようなものかは知らなかったと口が裂けても言うことはできない。
党公認を与える第一番の責任者としても、杉田水脈の思想・人間性を承知していなかっとすることはできない。
承知していながら、安倍晋三は国会議員として相応しい一人とすることのできない思想・人間性の杉田水脈を国会議員に仕立てたという逆説を、国民が気づかないことをいいことに演じたことになる。
となると、宮城県東松島市訪問の際に「人権が尊重され、多様性が尊重される社会をつくっていく、目指していくことは当然のことであろうと思う。これは政府与党の方針でもある」と発言しただけでは済まないことになる。
断るまでもなく、この発言は杉田水脈に自民党公認を与え、国会議員にした安倍晋三自身の責任については何ら触れていないからだ。
杉田水脈が国会議員に相応しい人物ではないという一点から見ても、そのLGBTに関わる思想・人間性が性的指向・性自認に関わる自民党の基本的な考え方とは異なるゆえに指導を行ったというのも単なるゴマカシとなる。
杉田水脈を自民党から除名、議員辞職勧告決議をするなりして辞職を迫った上で安倍晋三はかくこのような思想・人間性の持ち主を国会議員とした自らの不明・不見識とその責任の欠如を国民に謝罪すべきだろう。