安倍晋三はテロ集団人質安田純平氏にも身代金を払う交渉はせずに“人命第一”を言う矛盾を演ずるに違いない

2018-08-02 11:22:56 | 政治
 

 2015年6月にシリアで行方不明となり、国際テロ組織アルカイダ系の武装組織に拘束されたと見られていたフリージャーナリストの安田純平氏(44)の動画が2018年7月31日にネット上に公開された。

 安田純平氏の動画での発言を「FNN PRIME」(2018年8月1日 水曜 午後5:30 )記事が伝えている。

 「私の名前はウマルです。韓国人です。今日の日付は2018年7月25日、とてもひどい環境にいます。今すぐ助けてください」

 韓国人と韓国名を名乗っていたから、本人かどうか、真偽不明の声が寄せられていたが、官房長官の菅義偉が2018年8月1日午前の記者会見で本人であることを認めたと2018年2018年8月1日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。

 記者「映像の男性は安田さん本人と見ているか」

 菅義偉「そのように思っている。政府としては、邦人の安全確保は最大の責務で、こうした認識の下に、引き続きさまざま情報網を駆使して全力で対応に努めている」

 「邦人の安全確保は最大の責務」と言っていることは“人命第一”を意味する。何を措いても人命の救出を最優先すると言うことになる。

 上記「FNNPRIME」記事は、安田純平氏の映像が公開されたのは、ここ1カ月で3回だと伝えている。1度目は半年以上前に撮影した動画を用いた7月初旬、2度目は6月12日撮影の動画を用いた7月中旬、3度目が7月25日撮影の動画で、7月31日に公開。

 さらに動画を公開し、武装勢力との仲介役を務めているシリア人活動家は武装勢力は150万ドルの身代金を要求していたが、自身の交渉によって50万ドルにまで値下げさせることができると述べたといった趣旨のことを伝えている。

 仲介役とは名前ばかりで、武装勢力の一員かも知れないが、1カ月に3回も動画を公開し、身代金の値下げを臭わしているということは身代金を手に入れようとかなり焦っている可能性を見て取れる。

 但しいずれの動画でも身代金の要求は伝えていない。日本メディアがシリア人活動家と接触して、その人物の話として身代金について知らされる形を取っている。

 このことの理由は後で述べる。

 安田純平氏が2015年6月にシリアで行方不明となり、その映像が2016年3月16日にシリア反政府活動家のフェイスブック上に公開された際、翌3月17日午前の記者会見。

 菅義偉「本事案については、これまでも安倍総理大臣の指示を受けて体制をしっかり整えて対応してきているが、今般の映像の公開を受けて、改めて、安倍総理大臣からは『引き続き、邦人の安全確保を最優先で対応するように』という指示があった。内閣危機管理監のもとで必要な体制をとり、さまざまな情報収集をして、対応に全力で取り組んでいく」

 記者「政府や家族に身代金の要求があったのか。また、拘束している集団と接触はしているのか」

 菅義偉「身代金の要求は承知していない。接触については事柄の性質上控えたい」(NHK NEWS WEB

 「本事案については、これまでも安倍総理大臣の指示を受けて体制をしっかり整えて対応してきている」と言っていることは、2015年6月に安田純平氏の行方不明が伝えられてからのことを言っているはずだ。そして「改めて、安倍総理大臣からは『引き続き、邦人の安全確保を最優先で対応するように』という指示があった」と言っていることは、安倍晋三から“人命第一”の指示があったことを示す。

 但し「身代金の要求は承知していない」としていることは疑わしい。武装勢力にとって自分たちの戦闘そのものに直接関係のない外国人誘拐が身代金要求目的でないとしたら、何を目的の誘拐だというのだろうか。何を目的に動画をわざわざ公開するのだろうか。

 マスコミが把握している身代金の要求の情報を政府が把握していないとしたら、政府の情報収集能力の程度が知れて、笑われることになる。 

 安田純平氏の動画が身代金の要求を伝えていないのは次の理由からだろう。過激派武装集団「イスラム国」が湯川遥菜氏を204年8月に拘束、続いて2014年10月25日にフリージャーナリストの後藤健二氏が共に行動したことのある湯川遥菜氏の救出を目的にシリアに入って消息を絶ち、共に身代金要求の人質とされて、最終的に72時間以内に2億ドル(約230億円)の身代金の支払いがないと両者を殺害すると予告する動画が2015年1月20日に公開された。

 そして日本政府の身代金の支払いがないままに2015年1月24日、後藤健二氏の写真が映った静止動画が公開され、湯川遥菜氏を殺害したというメッセージが表示され、続いて後藤健二氏も2015年1月30日に殺害されたと見られている。

 このように日本政府が身代金の支払いに応じなかったのは2013年6月17日、18日にイギリスの北アイルランド・ロック・アーン開催のG8サミット(主要8カ国首脳会議)の首脳宣言に安倍晋三が忠実に従った結果であろう。

 「G8サミット首脳宣言」(外務省/2013年年6月18日)

 〈前文 6

 我々は,我々の国民を守るとともにテロリスト・グループがその繁栄を可能とする資金を得る機会を減少させることにコミットしている。我々は,テロリストに対する身代金の支払を全面的に拒否し,世界中の国及び企業に対し,我々の後に続き,テロリストにとり格好の他の収入源と同様に身代金を根絶させるよう求める。我々は,ベストプラクティスを事前に共有するとともに,人質事件発生時には必要に応じて専門知識を提供することにより,事件の解決に向けて互いに協力し合う。〉

 安田純平氏を人質とした武装勢力は後藤健二氏と湯川遥菜氏を誘拐した「イスラム国」が動画で身代金要求を公にしたために安倍晋三が2013年G8サミットの首脳宣言に縛られて身代金を支払うことができなかったと考え、身代金の要求は裏の取引で交渉する目的で動画では直接要求しなかったのではないだろうか。

 「イスラム国」が身代金として要求した2億ドルは安倍晋三が2015年1月16日にエジプト・カイロ入りして、翌1月17日にカイロで行った中東スピーチで「イスラム国」を名指し、「ISILと戦う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」に対して報復の意味を持たせた同じ金額ということであるはずだ。

 後藤健二氏と湯川遥菜氏が後ろ手に拘束され、72時間以内に身代金の支払いがないと二人を殺害するとの動画がインターネットに公開された同じ日の2015年1月20日に安倍晋三は訪問先イスラエルで内外記者会見を開いている。

 ベイカー・エルサレム・ロイター通信支局長「過去にこうした状況で第3国がこの地域で身代金を支払うといったことがあった。そうしたやり方は今回の問題を解決する上で検討され得るか」

 安倍晋三「先ず、今回の事案については、我々人命第一に考え、各国の協力も得ながら情報収集に当たっております。今後も、人命を確保する上において、全力で取り組んでいく考えであります。いずれにせよ、国際社会は決してテロには屈してはならない、とこう考えております」――

 安倍晋三は2つの相反することを言っている。「我々人命第一に考える」、そして「国際社会は決してテロには屈してはならない」

 これまでも武装勢力による邦人人質事件では「人命第一」を繰返し言ってきたのだから、もし“人命第一”を絶対とするなら、身代金の支払いも解放条件に含まれていることになる。

 だが、「国際社会は決してテロには屈してはならない」と言っていることは、2013年「G8サミット首脳宣言」で決めたとおりに身代金支払いの拒否を含意していることになる。支払いに応じたら、テロに屈することになって、「屈してはならない」の宣言自体を自分から壊すことになる。

 そして後藤健二氏と湯川遥菜氏の邦人拘束事件では身代金の支払いを拒否して、テロに屈しないことを有言実行してみせた。

 と言うことは、今回の安田純平氏の身代金要求の人質事件でも安田純平氏を拘束している武装勢力とは身代金の支払いを拒否するために、あるいはテロに屈しない姿勢を見せるために直接交渉を回避、その一方で邦人拘束が発生するたびに行ってきた関係国やその情報機関、宗教関係者、部族長等々のルートを活用して救出を策す間接的な方法を採用するはずだ。

 例え後者のいすれかの組織が武装勢力にカネを支払うことになり、そのカネを日本政府が後から補填することになっても、補填したことの情報隠蔽は十分に謀ることができるし、補填の情報が洩れたとしても、日本政府は武装勢力と身代金の支払いを直接交渉したわけではない、単なる謝礼だと言い逃れることができる。

 だとしても、この方法は後藤健二氏と湯川遥菜氏の例を参考にせざるを得ないように“人命第一”を絶対的に保証はしない。それを承知で前例通りに日本政府は安倍晋三の指示に従って身代金要求の情報は極力隠しつつ、尚且つ武装勢力に対しては身代金の支払いを直接的には拒否する、自ずと矛盾を描き出すことになる「邦人の安全確保を最優先」、“人命第一”という名の交渉を国民に見せることになるはずだ。

 後藤健二氏と湯川遥菜氏の人質事件のときのように安倍晋三がテロに屈しない強い指導者の演出に再度成功したとしても、厳格な意味で言っている「邦人の安全確保を最優先」、“人命第一”ではないことを認識していなければならない。
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