トランプが拉致解決で安倍晋三と協力できることは何もないことが既に明らかになっている。
安倍晋三は2018年8月22日にトランプと電話会談を行い、首相官邸エントランスホールで記者団に答えている。
「トランプとの電話会談」(首相官邸) 安倍晋三「日米電話首脳会談を行い、トランプ大統領と北朝鮮情勢について話をいたしました。歴史的な米朝首脳会談から2か月が経過しましたが、最新の情勢分析を行い、そして同時に、今後の北朝鮮に対する方針について綿密な打合せを行いました。 そしてまた、拉致問題についても、改めて日本の拉致問題に対する取組について説明をし、今後の協力についてトランプ大統領に改めて依頼をし、そしてトランプ大統領もしっかりと日本の考え方に沿って協力をしていくという話がありました。 朝鮮半島の完全な非核化を実現するとの方針においては、日米は完全に一致しております。こうした日米の取組、そしてさらには韓国、ロシア、中国との協力を進めていくことによって、核問題、そしてミサイル問題、何よりも重要な拉致問題の解決に向けて全力で取り組んでいきたいと思います」(文飾は当方) |
2017年10月12日、安倍晋三は新潟県新発田市の遊説で11月初旬来日予定のトランプが日本滞在中に横田夫妻等拉致被害者家族と面会する意向であることを明らかにした。
「産経ニュース」(2017.10.12 15:51)
安倍晋三「新潟といえば、横田めぐみさんを思い出します。13歳の時に北朝鮮に拉致されました。ほんとにひどい話です。お母さんの早紀江さん、お父さんの滋さんは『自分たちは、だんだん年を取った。何とかしてよ、安倍さん』。
その思いに私は答えていかなければいけません。このお父さん、お母さんが、しっかりとめぐみさんを抱きしめる日がやってくるまで、私の任務は終わらない。この決意で全力を尽くしていく。
昨年(2016年11月10日)、ニューヨークでトランプ大統領とお目にかかったときも、そしてこの今年の2月(2017年2月11日)、フロリダでトランプ大統領とゆっくり話をさせていただいたときも、めぐみさんのことも、そして拉致問題についてもお話をした。
『シンゾー、それひどいな』。トランプ大統領はこう言ってました。そして先般のニューヨークにおける国連総会のアメリカ大統領の演説。アメリカ大統領の国連総会における演説は世界中が注目します。その場でめぐみさんについて触れてくれました。本当にうれしかった。
その後、(2017年9月21日、国連総会出席訪米時のニューヨークで)トランプ大統領と行った首脳会談で、私は『大統領、是非11月に日本を訪問した際には、めぐみさんのご両親、拉致被害者のご家族に会う時間をとってください。会ってください』
こうお願いをしましたら、その場で『分かった、シンゾー。その皆さんと会うよ。ほんとにひどい話だ。日本の拉致被害者救出をするために、オレも全力尽くしていくよ』。こう約束をしてくれました」――
この首脳会談の2日前の2017年9月19日、トランプは国連総会の一般討論演説で初の演説を行い、拉致問題を取り上げている。翌9月20日、官房長官の菅義偉が自民党のインターネット番組でトランプの拉致問題言及に、「安倍首相が電話会談の際に『日本には拉致問題もある』と極力言っていた。大統領の発言は涙が出る程嬉しかった」と述べたと「産経ニュース」が伝えている。
トランプは2017年11月5日に初訪日、翌日の11月6日、迎賓館赤坂離宮で安倍晋三と首脳会談。会談後、同じ迎賓館で北朝鮮に拉致された被害者の家族らと約30分間面会した。トランプは「悲しい話をたくさん聞いた。拉致された被害者が愛する人々の元に戻れるよう安倍晋三首相と力を合わせていきたい」(朝日デジタル)と述べ、拉致解決に向けた協力を約束したという。
安倍晋三は2018年6月7日も、トランプとワシントンのホワイトハウスで会談している。既に2018年6月12日にシンガポールで歴史上初の米朝首脳会談の開催が決まっていた。その「共同記者会見」(首相官邸)
安倍晋三「日米は常に共にある。シンガポールで行われる、歴史的な会談の成功を強く期待しています。
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拉致問題を早期に解決するため、私は、勿論、北朝鮮と直接向き合い、話し合いたい。あらゆる手段を尽くしていく決意です」
安倍晋三は拉致解決の提起をトランプにお願いする一方で拉致問題の当事国として、極々当然のことだが、北朝鮮との直接交渉に言及した。但し「話し合いたい」と希望を述べる段階にとどまっている。
そして2018年6月12日のシンガポールでの歴史上初めての「米朝首脳会談」。トランプが拉致問題の解決を提起したことに対して金正恩は「拉致問題は解決済み」の従来の態度を取らなかったとされている。いわば拉致解決に後ろ向きの態度ではなく、前向きの態度を示したサインと受け取り、トランプの影響力のお陰と見たといったところなのだろう。
米朝首脳会談後の同2018年6月12日午後9時34分から約20分間、安倍晋三はトランプと電話会談を行い、その後記者会見を開いている。
安倍晋三「拉致問題についてでありますが、まず私から拉致問題について、米朝首脳会談においてトランプ大統領が取り上げていただいたことに対して、感謝申し上げました。
やり取りについては、今の段階では詳細について申し上げることはできませんが、私からトランプ大統領に伝えた、この問題についての私の考えについては、トランプ大統領から金正恩委員長に、明確に伝えていただいたということであります。
この問題については、トランプ大統領の強力な支援を頂きながら、日本が北朝鮮と直接向き合い、解決していかなければいけないと決意をしております」――
2018年6月7日のトランプとの共同記者会見では、「私は、勿論、北朝鮮と直接向き合い、話し合いたい。あらゆる手段を尽くしていく決意です」と述べていたのに対して電話会談後の記者会見では、「日本が北朝鮮と直接向き合い、解決していかなければいけないと決意をしております」となっていて、北朝鮮との直接交渉による解決により強い決意を示している。前者の「私は」が、後者では「日本が」と言葉を変えていることは、最終的解決はアメリカではなく、日本自身の責任だという意味であって、この点からも決意の強さを窺うことができる。
金正恩が「拉致問題は解決済み」の従来の態度を取らなかったことのトランプの影響力の効き目に勇気づけられた要素も混じっているはずである。
このことは電話会談翌日6月13日の幹事長代行萩生田光一の安倍晋三との会談後の対記者談発言が明らかにしてくれる。
萩生田光一「トランプ大統領が単に拉致問題を提起しただけではなく、今まで『拉致問題は解決済みだ』と公の席で言ってきたキム・ジョンウン委員長からそういう反応がなかった。
これは大きな前進だ。北朝鮮とこれからさらに話をするという確認ができたと思う。日本が前面に出て、しっかり拉致問題の解決に向けた努力をしてもらいたい」(NHK NEWS WEB)
安倍晋三が「大きな前進」と見ていないのに萩生田光一の方で「大きな前進」と吹聴するのは分を超えることになる。「僅かな前進」と見ていたなら、萩生田光一も右へ倣えで、「僅かな前進」と言うだろう。
「大きな前進」はトランプの金正恩に対する影響力の大きさも現している。その影響力の大きさの裏打ちがあってこその「大きな前進」という関係を取ることになる。
ところが、トランプのこの影響力に冷水を浴びせるサインが北朝鮮側から示された。2018年6月12日の「米朝首脳会談」から3日後の6月15日夜放送の北朝鮮国営ピョンヤン・ラジオ放送。
「日本は既に解決された拉致問題を引き続き持ち出し、自分たちの利益を得ようと画策している。国際社会が一致して歓迎している朝鮮半島の平和の気流を必死に阻もうとしている」(NHK NEWS WEB)
トランプの金正恩に対する拉致問題での影響力は何の効き目もなかった。「大きな前進」どころではなかった。「拉致問題は解決済み」から一歩も進んでいなかった。
2017年9月19日にトランプが国連総会の一般討論演説で拉致問題を取り上げたことに対して官房長官の菅義偉が翌9月20日に「大統領の発言は涙が出る程嬉しかった」と感激していたが、「政治は結果」を口癖としている政治家にはあるまじき早トチリだったことになる。
2018年6月12日のピョンヤン・ラジオ放送の発言自体が示していることだが、その後の拉致問題に関わる北朝鮮側の態度を見ても、拉致問題の取扱はトランプがどう口を挟もうと、そのこととは無関係に北朝鮮自身のペースで取扱うことを示している。
いわば北朝鮮側が発する「拉致問題は解決済み」といった文言はトランプに影響されないことの宣言と見るべきだろう。実際にも影響されていないから、米朝会談で金正恩はトランプから拉致解決の提起を受けながら、その後に「拉致問題は解決済み」の態度を取ることができる。
米朝首脳会談で金正恩が「拉致問題は解決済み」という従来の態度を取らなかったのではなく、トランプの提起に対して何か言わなければならないその場凌ぎの体裁上、「努力します」程度のことを発言したのに対してトランプが自画自賛大好き人間として成果に仕立てたい余りに作り上げた金正恩の態度ということもあり得る。
トランプの拉致解決に向けた影響力が金正恩には何の効き目もないということはトランプが拉致解決で安倍晋三と協力できることは何もないという関係を取る。
にも関わらず、記事冒頭で触れたように安倍晋三は2018年8月22日のトランプとの電話会談で拉致解決の協力をトランプに改めて依頼し、トランプは協力を約束した。
日本の首相によるアメリカ大統領に対する協力の依頼とアメリカ大統領の日本の首相の依頼に対する協力の約束についての経緯には物事が何らかの解決に向かって進展する予感を自ずと振り撒くことになる。
そのような予感を振り撒くことにならなければ、電話会談での依頼も約束も意味を失う。電話会談の内容を記者会見で公表する意味も失う。予感を振り撒き、予感が実際の形を取ってこそ、トランプの影響力は証明される
現実問題としても、これまでの首脳会談や電話会談でも、あるいはトランプと拉致被害者家族との面会でも、拉致問題が何らかの解決に向かって進展する予感を振り撒いてきた。そのたびに拉致被害者家族は期待を抱き、希望をつないだ。
だが、米朝会談後の経過を見る限り、トランプの拉致解決に向けた影響力が目に見える形を取っていない以上、安倍晋三がトランプとの関わりで何らかの解決に向かって進展する予感を振り撒くことは、予感が成果という形を取ることのない予感だけのことであって、トランプを利用して拉致問題がさも解決するかのように見せかける薄汚い詐欺行為でしかないことになる。
このような薄汚い詐欺行為はもうやめるべきだろう。