省庁が障害者雇用促進法で法的な義務を付されている障害者雇用人数を水増ししていた。しかも厚労省は現行制度が始まった1976年から40年超続いていると見て、全省庁を調べているという。
水増しとは体のいい言葉で、実際は人数をゴマカシていた。高い倫理観が求められる役人がその自覚もなく、裏付けのない成績に手を染めて役所としての体裁を守る。
そこにはどれだけのウソを介在させていただろうか。ウソに慣れて、後ろ暗さも感じなくなっていたに違いない。
役人たちの倫理観を失った所業は最近目に余る。公文書の所在隠蔽、公文書の改竄、息子の裏口入学依頼、多額の飲食接待を形式とした収賄、職務上の権限に関わる第三者の依頼に応える受託収賄等々が次々に起きている。
水増しの手口は障害者雇用の場合は障害者手帳所持が条件となるが、所持せず、指定医の診断書もない職員を人数に加えていたという。あるいは障害者手帳の発行条件を満たさない、法定雇用率算出外の軽度障害者も算入していたという。例えば障害者手帳の取得要件に該当しない弱視者も数に加えていた。
要するにあの手この手を使った数合わせのゴマカシを働いていた。
2018年8月22日付の「NHK NEWS WEB」記事が、水増しは 中央省庁で1000人超の見通しだと伝えている。
記事は、総務省や国土交通省、経済産業省、国税庁、環境省の少なくとも5省庁で水増しが行われていた疑いがあり、ほかの省庁にも広がる見通しだと告げた上で、去年6月の時点で中央省庁で働く障害者は合計約6000人で、官公庁に対する法的な義務の2.3%に対して省庁全体で2.49%と上回る達成度となっているが、水増し分を除くと逆に下回ることになり、省庁によっては1%以下のところもあると解説している。
要するに法的義務の達成を目的に水増しのゴマカシを働いていたことになる。このゴマカシは役人たちが障害者雇用促進法を空文化させていたことを意味する。何という悪質な所業だろうか。
しかも右へ倣えで、ゴマカシていたのは国だけではなく、山形県や栃木県教育委員会、高知県なども水増ししていた。洗い出せば、他の自治体もも同じ穴のムジナと化す可能性も否定できない。
あるいは民間も同様の手口を駆使している疑いも払拭できないことになる。
次のサイトから、平成29年の民間企業と公的機関等に於ける「障害者雇用状況集計結果の取りまとめ」を見てみる。
「厚労省」(2018年12月12日) この取りまとめは毎年6月1日現在の身体障害者、知的障害者、 精神障害者の雇用状況について障害者の雇用義務のある事業主などに報告を求め 、それを集計したものだという。 <民間企業>(法定雇用率2.0%) ○雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新。 ・ 雇用障害者数は 49 万5,795.0 人、対前年4.5%(2万1,421.0人)増加 ・ 実雇用率1.97%、対前年比0.05ポイント上昇 ○法定雇用率達成企業の割合は 50.0%(対前年比1.2ポイント上昇) <公的機関>(同2.3%、都道府県などの教育委員会は2.2%)※( )は前年の値 ○雇用障害者数及び実雇用率のいずれも対前年で上回る。 ・ 国 :雇用障害者数 7,593.0人(7,436.0人)、実雇用率 2.50%(2.45%) ・ 都道府県 :雇用障害者数 8,633.0人(8,474.0人)、実雇用率 2.65%(2.61%) ・ 市町村 :雇用障害者数 2万6,412.0人(2万6,139.5人)、実雇用率 2.44%(2.43%) ・ 教育委員会:雇用障害者数 1万4,644.0人(1万4,448.5人)、実雇用率 2.22%(2.18%) <独立行政法人など>(同2.3%)※( )は前年の値 ○雇用障害者数及び実雇用率のいずれも対前年で上回る。 ・ 雇用障害者数1万276.5人(9,927.0人)、実雇用率 2.40%(2.36%) |
民間企業の法定雇用率2.0%に対して前年比+4.5ポイントとなっているが、 実雇用率1.97%で法定雇用率2.0%に僅かに達していない。しかも法定雇用率達成企業の割合は対前年比+1.2ポイントとは言え、全体の半数に当たる50.0%に過ぎない。
従業員100人超の企業は法定雇用率未満の場合、不足する人数1人あたり月5万円(一部経過措置あり)を国に納めることが義務付けられ、法定雇用率を超えて雇用すると1人あたり月2万7千円が支給され、100人以下の企業は、別の基準で報奨金が支給されると「コトバンク」が解説しているが、アメとムチが必ずしも効力を発揮していない。
対して公的機関は法定雇用率を全て達成しているが、水増しのゴマカシ分を差し引くと、達成は怪しくなるだけではなく、今年2018年4月1日から
民間企業は対象規模が従業員50人以上から45.5人以上へ、法定雇用率は2.0%から2.2%へ、国、地方公共団体等は2.3%から2.5%へ、都道府県等の教育委員会は2.2%から2.4%へと引き上げられている。
公的機関に関しては上辺の数字を事実と解釈して引き上げたことは必ずしも責めることができないが、法定雇用率達成企業の割合が全体の50.0%に過ぎないなら、先ずはその割合を100%に可能な限り近づける努力を求めもせずに法定雇用率と対象規模だけを引き上げるのは理解できない。
水増しが見逃されていたなら、同じ方法を以ってして達成する方向に走る可能性は否定できない。
この引き上げは安倍晋三の掛け声に対応した措置なのだろうか。文飾は当方。
「「日本とASEAN・Always in tandem――「3本の矢」で一層のWin-Win関係へ」」(首相官邸/2013年年7月26日)
安倍晋三「日本は、より強い経済を手に入れ、アジアを人種や性別、年齢の違い、障害の有る無しにかかわりなく、すべての人が可能性を追求できるダイナミックな社会とし、我々はより素晴らしい場所に変えていきたいと考えています。
そうすることで、ASEANがより豊かになり、アジアが、子どもたちの将来に希望輝く場となるよう、日本は、自らの責任を果たしていくことをお約束します」
安倍晋三の自民党総裁としての「1億総活躍社会記者会見」(自民党/2015年9月24日)
安倍晋三「ニッポン一億総活躍プラン。 目指すは『一億総活躍』社会であります。
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女性の皆さんが、家庭で、職場で、地域で、もっと、もっと活躍できる社会を創っていかなければなりません。一度失敗を経験した皆さん、難病や障害のある方、すべての人が、もう一歩前に踏み出すことができる社会を創ることが必要です。『多様な働き方改革』を進め、誰にでも活躍のチャンスがある経済を創り上げてまいります」
「内外情勢調査会2015年12月全国懇談会 安倍総理スピーチ」(首相官邸/2015年12月14日)
安倍晋三「少子高齢化に歯止めをかけなければ、日本経済の持続的な成長は望めません。高齢者も若者も、女性も男性も、難病や障害のある方、誰もが活躍できる社会をつくることができれば、新たなアイデアが生まれ、イノベーションを起こすことができる。つまり、第二の矢と第三の矢があって、初めて、第一の矢が成り立ちます」
「第3次安倍改造内閣発足記者会見」(首相官邸/2015年10月7日)
安倍晋三「本日、内閣を改造いたしました。この内閣は、『未来へ挑戦する内閣』であります。
少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持する。そして、高齢者も若者も、女性も男性も、難病や障害のある方も、誰もが今よりももう一歩前へ踏み出すことができる社会をつくる。一億総活躍という輝かしい未来を切り開くため、安倍内閣は新しい挑戦を始めます」
「第50回 国家公務員合同初任研修開講式」(首相官邸HP/2016年4月6日)
安倍晋三「 若者もお年寄りも、女性も男性も、難病や障害のある方も、一度失敗を経験した人も、誰もが活躍できる社会であります。誰もが生き甲斐を感じられる社会を創り、少子高齢化に歯止めをかける。『一億総活躍』とは、国民一人一人の前に立ち塞がる、様々な「壁」を取り除くことであります」
「一億総活躍・地方創生全国大会in九州」(首相官邸/平成28年7月27日)
安倍晋三「子育て中の人、親の介護をしている人、難病や障害のある人、一度失敗を経験した人、人生経験豊かな高齢者の皆さん、恐れを知らない若者たち。多様な人々が、多様な経験や視点を持ち寄ることで、これまでにない社会の活力が生まれると思います。
これが、『一億総活躍社会』なんですね。
その実現のための最大のチャレンジが『働き方改革』であります」
他の機会でも「子育て中の人、親の介護をしている人、難病の人」と共に「障害のある人」も加えて、これらの国民を2015年10月に発足した第3次安倍晋三改造内閣の目玉プラン「一億総活躍社会」の確かな一員とする公約を掲げた。
当然、特に公的機関は障害者をその雇用を通して、安倍晋三が言っている「今よりももう一歩前へ踏み出すことができる社会」――「一億総活躍社会」の確かな一員とする、その公約実現に向けて率先垂範の努力を鋭意傾けなければならなかった。その結果の障害者雇用人数の水増しであるなら、公的機関側は数合わせに注力を注ぎ、安倍晋三は少なくともそのような公的機関に対しては確かな一員とすることの実効性を持たせることができないままに障害者雇用の掛け声を踊らせていたことになる。
尤も安倍晋三が掛け声だけなのは障害者雇用に限ったことではない。「誰もが活躍できる一億総活躍社会」の実現自体が掛け声倒れとなっていて、実効性を見通せないでいる。
それでもなお、安倍晋三は図々しくも首相の続投を目指している。