北大路機関

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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【15】むらさめ型護衛艦に続く第三世代汎用護衛艦(2012-10-08)

2023-08-06 20:02:46 | 海上自衛隊 催事
■次の護衛艦を考える
 観艦式の写真と共にいろいろ海上自衛隊関連の話題を掲載する特集となっている日曜特集です。

 むらさめ型護衛艦後継艦がどのようになるのか、一番艦むらさめ竣工が1996年ですので既に一番艦艦齢は27年、イージス艦こんごう艦齢に至っては30年でもありますから、真剣にその後継艦を計画しなければなりませんが、特にその運用環境が変化した。

 汎用護衛艦は、求められる運用性能に1990年代の設計当時は、アフリカ方面での長期作戦運用などは考えられなかったでしょう、しかしソマリア沖海賊対処任務によりその任務は恒常化しており、また護衛艦を取り巻く国際情勢も大きく変化しています。

 反撃能力という新しい防衛力整備を考えるならば、例えばアメリカのスプルーアンス級駆逐艦のようにMk41VLSを61セル搭載し、汎用護衛艦を水上からの打撃力に用いるという選択肢は当然考えられます、しかし同時に脅威の変化も留意する必要がある。

 対艦ミサイルの射程延伸が続いていますし、何より無人水上艇による攻撃という新しい脅威が顕在化しており、これは従来の対水上戦闘の概念をおおきく変えうるものとなるのかもしれません。無人艇は行動圏内が限られる一方、運用に柔軟性があります。

 搭載センサーをどのように考えるか、無人艇の脅威を直視すればマストに設置する対水上レーダーでは無人艇による飽和攻撃を直前まで把握できない可能性がありますので、無人ヘリコプターや小型無人機を上空に待機、対水上警戒を行う必要が出てきます。

 はるな型ヘリコプター搭載護衛艦のような航空機格納庫容積に余裕を持たせることで無人ヘリコプターや無人航空機を十分に搭載させるという選択肢はでてくるでしょう。船体設計では、はるな型の基本設計の延長線上に、むらさめ型護衛艦が位置するのですし。

 哨戒艦、汎用護衛艦の将来における不確定要素に12隻という纏まった数を量産する海上自衛隊哨戒艦というものがあります。これは基準排水量1920tで速力は20ノット、乗員30名で派手な武装は無く30mm機関砲と飛行甲板や多目的格納庫を有するという。

 観艦式に参加するならば一隻当たり300名は乗れそうだ、乗員が少ないので地本要員やほかの地方隊と陸上自衛隊などからも安全員として支援要員が必要になるか、という視点はさておき、この哨戒艦が護衛艦を平時の警戒監視任務から解放する可能性がある。

 平時における警戒監視任務は護衛艦でなくとも可能であり、実際近年は護衛艦の訓練時間を圧迫することから警戒監視任務に掃海艇や多用途支援艦まで動員、補給艦が当たったという事例も散見されます。しかしこれらの艦艇にも任務があることは変わりない。

 1920tの船体に乗員30名であれば、これは全員が個室を与えられ、つまり一か月二ヶ月の長期航海に対応する可能性があります、3交代制をとるならば1直あたり艦長や船務長を除けば9名で運用する必要がありますが、警戒監視と記録だけならば可能でしょう。

 油槽船1号型、4900t型油槽船として2022年に2隻が揃って竣工した海上自衛隊期待の大型支援船ですが、全員が個室という自衛隊の艦船として油槽船1号型は初の実績を積みました。油槽船1号型で全員個室が実現したのだから哨戒艦でも十分あり得ます。

 ひびき型音響測定艦、情報収集艦であり艦内が全く公開されないために詳細は不明なのですが、こちらについても長期間の航海を行うとともに運用を自動化しているため、ほぼ全員が個室という話がありまして、しかも運用上その連続航行日数も数か月に及ぶ。

 SURTASS船という、長大なAN/UQQ-2監視用曳航アレイソナーを運用する音響測定艦は基準排水量2850tに対し乗員40名、この為トレーニングルームや自習室と艦内での野菜栽培装置などを搭載しているといい、1991年竣工ながら居住性の理解があった。

 警戒監視任務、12隻の哨戒艦といいますと護衛艦の48隻と比較し四分の一ではないか、という反論が来るかもしれませんが、一人当たりの居住区画容積を護衛艦よりも余裕を持ち、一回当たりの航海日数が多ければ護衛艦30隻分の警戒監視任務も可能となる。

 むらさめ型護衛艦後継艦は、こうした観点から任務を第一とできる余地が生まれます。ただ、護衛艦は30年間にわたり運用し、特に次の汎用護衛艦は20隻に上る第三世代型汎用護衛艦の鏑矢となるため、毎年一隻を建造した場合でも20年間の整備期間へ。

 第三世代汎用護衛艦は、いや、第一世代汎用護衛艦の20隻は、はつゆき、うみぎり、に至るまで一定の同等性能を基に整備されていますが、第二世代汎用護衛艦は最初の一隻、むらさめ、最後の第二世代汎用護衛艦しらぬい、比べますとかなり変容がある。

 ロシアウクライナ戦争の戦訓を反映するならば、極論として政治が北大西洋方面へ護衛艦隊を展開させ睨みを利かせる運用を要求する可能性も皆無ではありません、実際、1990年代と2020年代の日本安全保障政策は周辺情勢に併せてものすごく大きく変化した。

 自爆型無人機、2024年にもシャヘド136ロシア仕様無人機工場がロシア国内に完成しますと安価な無人機が毎年数千機製造される事となる、シャヘド136の射程いや航続距離は1800㎞から2500㎞ですので沿海州から東京は勿論、福岡にさえ届くのです。

 反撃能力で反撃すれば抑止力になる、こう思われるかもしれませんが、策源地攻撃を行うとして大袈裟な発射装置が不要でピックアップトラック荷台からさえも発射しうる自爆型無人機を完全制圧するには、現実的にはすべての車両を叩くなど現実的に不可能だ。

 ウクライナ軍は無人航空機による反撃をモスクワに重点的に展開していますが、これは民主主義国家ではなく明確に格差を容認している権威主義国家に対しては策源地攻撃は、ウクライナの視点でモスクワやサンクトペテルブルクに行う必要があるという認識で。

 反撃能力、直接侵攻は無くともイエメン内戦におけるサウジアラビアやアラブ首長国連邦へのシャヘド136攻撃に見られるような、例えば日本の原発や石油貯蔵施設と空港や人口密集地に対して、日本人そのものが大量破壊兵器だとして攻撃する可能性はある。

 極論だといわれるかもしれませんが、ブチャの虐殺やオデッサの穀物倉庫への攻撃は、こうした意識がある故と考えなければならない、ロシアから見て同胞であるウクライナへこの仕打ちと考えるならば、ロシアから見て日本は同胞以上の存在なのか、と。

 汎用護衛艦に反撃能力を搭載し北大西洋に展開し、各国領空を経由せずバルト海側から反撃を行うという選択肢は、岸田政権のドクトリンにおいて考えなければなりませんし、すると汎用護衛艦の行動半径についても、こうした見直しを含める必要が出てくる。

 逆に食料自給率と再生可能エネルギーや水素動力と原子力に重点化、鎖国で専守防衛を貫ける国家へ転換する可能性も皆無ではない。護衛艦はこうした国家の施策を先読みし設計する必要があるため、第三世代汎用護衛艦は今から一つの関心事ともなるのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【14】次回の観艦式は防衛大学校会場を検討すべき(2012-10-08)

2023-07-23 20:20:23 | 海上自衛隊 催事
■次の観艦式を考える
 70周年観艦式が昨年実施されましたのでもう陸上自衛隊中心の中央観閲式と航空自衛隊を中心に航空観閲式が行われれば次はすぐ。

 海上自衛隊60周年記念観艦式、過去観艦式は巨大台風直撃とCOVID-19感染拡大により二回連続で一般公開が中止されていますので、最後に公開された観艦式は2015年という8年も前の観艦式でした。この時の観閲艦はヘリコプター搭載護衛艦くらま、でした。

 安倍総理大臣が観閲官を務めた、といいますと観艦式の一般公開が遥か前の話ということがわかります。実際、見せられない国威発揚行事、というのはどういうものなのだろう、と考えるのですね。すると、もう少し多くの人に見せる工夫が必要ではないか。

 オンラインで見せている、こう反論されるかもしれませんが、すると自衛官志願もオンラインに限る、となりかねません。応募はオンラインでも可能と反論しますと、皮肉の様にいや勤務もテレワークでしか志願しません、となりかねない。見せる必要があるのだ。

 自衛隊観艦式について、フリートウィークに留まらないもう一つの後方も考えるべきではないのか、と最近考えるのです。例えば、サンフランシスコ艦隊週間のような陸上から見学できるように会場を配置しますと、5万人10万人は見学者を増やせるでしょう。

 観艦式は一般乗艦券の倍率がものすごいことになっていますからそれだけ関心がある行事なのです、そしてフリートウィークでも多数の来場者が集まっていますので、この広報機会を逃しているのはもったいないように思う。乗れないならば陸から、ということ。

 サンフランシスコ艦隊週間は有名なゴールデンブリッジを中心に出入港を行い、その様子を陸上から見るというもの。それこそ一般招待者を中心に行う観艦式は日本以外は韓国海軍が行う程度、韓国海軍の招待者枠も限られていてしかも観艦式は十年に一度のみ。

 防衛大学校に観艦式一般会場を設置して、自由公開としてはどうだろうか、こんなことを思うのですね。もちろん、琵琶湖花火大会大津駐屯地一般開放のような、単に見るだけの一般公開ではなく、東部方面総監と中部航空方面隊司令官に臨席して執り行う。

 防衛大学校ならば小原台の高台にありますので出入港の艦艇がよく見えます。観音崎から撮影される方も多いようですが、見るだけの観艦式ではなく、陸上会場というれっきとした観艦式の一場面に自由に参加できる、という方式を整えることがのぞましい。

 横須賀地方総監は、横須賀基地での式典支援任務があり参加できないでしょうが、舞鶴地方総監か呉地方総監、総監クラスが参加して陸海空行事を陸上でも行う、という方式を採れれば望ましい。式典の様子はWeb中継をオーロラビジョンに映せば理想的です。

 FH-70榴弾砲による礼砲射撃、礼砲は観音崎砲台に76mm砲が置かれていますが、せっかくの国威発揚行事ですので203mm自走榴弾砲は退役する故無理にしても、FH-70榴弾砲を一個大隊準備して礼砲射撃を行うくらいは、防衛大学校でも可能ではないか。

 礼砲は国賓19発、閣僚や大使と大将が17発、公使と中将が15発、海軍提督に当たる少将や陸空軍少将は13発、総領事と准将が11発、そして領事が7発となっています。通常礼砲に用いる廃棄装備の105mm砲ではなく、ここは155mm榴弾砲を使いたい。

 三浦半島とはいえ小原台から浦賀水道まではかなり距離はあります、ただ、艦船は意外と近くに見える、細部をみるには厳しいところですが、観艦式となれば数が多い、海上でアナウンスにより説明するには苦労するほど多数が航行しますので、見ごたえはある。

 礼砲とはいえ空包の迫力はかなりのもの。発砲焔も大きく、多分浦賀水道を航行する艦艇からも一閃の発砲焔は肉眼で見えると思います、そして十秒程度遅れて砲声が聞こえる筈だ。一個大隊並んだFH-70は陸上自衛隊広報としてもよい情景となるでしょう。

 観音崎砲台はどうするのか、と思われるかもしれませんが、海上自衛隊観艦式ではなく自衛隊観艦式という自衛隊記念日行事、つまり陸海空自衛隊の祭事なのですから陸上自衛隊が特科部隊を参加させてもなんの不思議もありません。航空機は参加しています。

 国際観艦式の時代なのですから、外国艦艇に対しては礼砲の機会がありますし、護衛隊群司令は海将補、将官クラスが多数観艦式には参加しますので、FH-70の空包射撃は、陸上でなければ見られない迫力、という展示にはならないでしょうか。このほかには。

 16式機動戦闘車による礼砲というものもあっていいでしょう、通常は野砲を用いますが数が数ですから。10式戦車や99式自走榴弾砲の空包射撃はクラッカーのような最小限の音しか出ませんので、礼砲として視覚から認識できない可能性があり、適しません。

 小原台の防衛大学校前を艦艇が航行するのは0730時から0900時にかけて、そして観艦式を終えて横須賀や横浜に船橋や木更津に艦艇が戻ってくるのは1500時から1630時にかけてです。すると、0900時から1500時まで六時間はさてなにをするのか、となる。

 祝賀飛行はそのまま防衛大学校の直上を飛行してもよいのではないかと思う。羽田管制空域に隣接する地域であり過密空域ではあるのですが防衛大学校開校祭ではブルーインパルスが飛行展示を行った事例もあり、観艦式の一環として立ち寄れない距離ではない。

 P-1哨戒機やF-35戦闘機とSH-60K哨戒ヘリコプターの編隊飛行、観艦式で飛行する航空部隊の規模は小さな航空祭よりも大きく、観閲部隊上空を飛行した後編隊を可能な限りそのまま三浦半島に転進するならば、固定翼機は10分も掛からず到達可能です。

 SH-60K哨戒ヘリコプターやAH-64D戦闘ヘリコプターにCH-47輸送ヘリコプターは固定翼機よりも巡航速度が限られるのですが、六時間中の10分15分程度の離隔時間ならば、それこそ6時間の待ち時間ならばそれほど気にならないのではないでしょうか。

 ブルーインパルス飛行展示、もう一つは観艦式の一環として飛行するブルーインパルスが観閲部隊上空での飛行展示を完了した後に、観音崎上空で飛行展示を行い、陸上会場からみられるようにできないか、ということです。短時間でも大きな広報効果と思う。

 ブルーインパルスについては燃料の関係上、また航空管制という立地の関係上で行える飛行展示には限界があることは認識していますが、水平系の飛行展示に限って短時間でも行うならばT-4練習機の航続距離はそれほど短くはありません、十分可能な範囲だ。

 ブルーインパルス、こう強調するのは陸海空自衛隊の行事ということを陸上でも体験できるように、という点です。具体的には礼砲を陸上自衛隊の特科部隊を、そして総監と航空方面隊司令官を、と記した通り、陸であっても陸海空の式典だと強調できるため。

 防衛大学校に観艦式陸上会場を設置した方がよい、こう思うのは繰り返しますが、国民の関心の高さに対して、乗せられる人数が限られているという厳しい現実です。そして忘れてはならないのは、広報が募集広報だけでなくより広い意味があるということ。

 広報については、しかし知っている人ほど労働基準法の枠外にあって、しかも昔の風習が残っているてんが特にここ21年間の予算不足をなんとか繕うような勤務体制が敷かれて厳しいことになってはいることを周知してしまうのですけれども、まあそれは。

 防衛予算は膨大かもしれないが適正に使われている、こう強調するというのは国民の防衛力への信頼にも直結しているのです。結局のところ民主主義国家に在って国民の支持というものが無ければ政治は何もできないのですから、広報は平時の実戦なのです。

 観艦式参加艦艇は横須賀基地と横浜港に船橋港と木更津港に分かれて停泊しますが、結局観音崎と防衛大学校の目の前を通らなければ相模湾の観艦式に参加できないのですから、出入港の膨大な艦艇、これを広報機会として活用しては、とおもうのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【13】佐世保地方隊展示訓練ジョイントレビュー中止(2012-10-08)

2023-07-09 20:17:06 | 海上自衛隊 催事
■観艦式と佐世保展示訓練
 観艦式の主役護衛艦くらま、その母港は横須賀や相模湾から遠く離れた西海防衛の要衝である長崎県の佐世保基地です。

 佐世保地方隊展示訓練、ジョイントレビュー中止は残念でした、けれどもここまで豪雨災害の報道が続いていますと、特に山陰地方に線状降水帯が掛かり、前日までは北九州地方に線状降水帯が掛かっていたという状況で実施した場合は、批判を招きそう、とも思う。

 予備日というものが確保できていれば、翌日や、また関係者や招待客を予行で載せてしまって本番は一般客を中心に、という選択肢もありますが、なにしろ平時任務で艦艇やりくりが大変ですので一発本番、とするほか展示訓練が計画できない厳しい情勢もあるのです。

 線状降水滞、一昔では活発な前線、と呼ばれていたところでしょうが、この季節の豪雨は災害に直結していますので、展示訓練の中止、乗艦予定の方には残念だったでしょうが、実際、山陽新幹線が運転見合わせになる水準の豪雨となりましたので、仕方ない、とも。

 大阪湾展示訓練と広島湾展示訓練、実は当方も展示訓練の中止は過去に経験が有りまして、一応念のためにと京阪特急で移動している最中に中止に見舞われたり、呉市に前日行ってみて、晩酌といろいろ楽しい夜を過ごした翌日が悪天候で中止だった、ことがあった。

 ただ、近年の、自衛隊が忙しいので全く展示訓練を行う事が出来ない、という時代ではなく、当時は、まあ、来年があるよね、という時代でしたので、いまとは展示訓練への価値観が違う、と言われてしまえばそれまでなのですが、しかし、なんとかならないものか。

 佐世保地方隊が展示訓練を実施できたのは前回、いつであったか。COVID-19感染拡大により云々、と思われるかもしれませんが展示訓練自体を海上自衛隊が実施できたのは2013年が最後でした、が、2022年に舞鶴地方隊が展示訓練を再開できた、というかたち。

 地方隊展示訓練が中断した背景には2014年の熊本地震がありまして、これにより海上自衛隊も災害派遣により年次訓練計画が大幅に影響し、海上幕僚長自身が、部隊を休ませよ、という異例の通達を出した事で2014年の展示訓練が中止、これがいままでひびいている。

 ジョイントレビュー、要するに地方隊展示訓練ですが、これは2010年代初めには観艦式の行われない年度に間毎年行われていました、それも舞鶴展示訓練や伊勢湾展示訓練に大阪湾展示訓練や天草灘展示訓練と陸奥湾展示訓練と広島湾展示訓練、いろいろやっていた。

 体験航海でも複数の護衛艦が参加するものがありましたし、展示訓練というものも毎年行う割にはその規模はかなり充実していましたので、一回くらい乗艦券が手元にあるものの乗れなかった、ということでは、昔は落ち込まなかったようにおもうのですが、いまは。

 展示訓練はミニ観艦式というもので、驚くなかれ、一昔には自由に見学、できる訳ではないけれども当日券が発行されていました、基本的には事前応募制の抽選という事ですが急遽確保出来た参加艦艇や当日の欠員に対応する、というかたちで、柔軟にできていた。

 伊勢湾展示訓練、初めて撮影する事が出来た展示訓練は伊勢湾展示訓練だったのですが、この時は有人から名古屋港にかなりの艦艇が集まっているので日曜日に撮影へ行かないか、という声を掛けられ、行ってみたら、乗りませんか、と声を掛けられ友人共々乗った。

 インターネット時代という事で、2005年の海上自衛隊部隊HPなどはほんとうに、一応ホームページを開いてみた、という時代、展示訓練というものも応募が実施される期間を丹念に調べておけば、意外と競争率は高くなかった、という、情報化草創期の流れが在った。

 展示訓練、SNS時代のいまでは行事実施の情報は即座に共有されますので競争率は高くなっています、その一方で問題は繰り返す通りですが、自衛隊の艦艇が忙しくなっていて、体験航海を行おうにも難しい状況があるのです、ただ、広報の重要性は依然として高い。

 募集難、実際のところ海上自衛隊は厳しい状況にあります。なにしろ拘束時間が元々長い船乗り、民間の船員さえ労働基準法の基準外に置かれている中で艦艇勤務には人気が限られている、個室の比率も低く、しかも展示訓練が行えない程に平時任務がかさんでいます。

 募集対象者に対しては勿論、府警に対しても海上自衛隊というものを知ってもらう必要性があるのですが、しかし無い袖は振れない、護衛艦も練習艦も掃海艇も忙しいし潜水艦は乗せられない、という状況もあるのです。すると、如何に対応するべきなのか。

 展示訓練の良い美を確保出来ない、これは、まあ仕方ないにしろ文字通り無い袖は振れない、という事なのですが、例えば展示訓練当日が悪天候で駄目だった場合でも、縮小開催できるような内容を考える事は出来ないものだろうか、こう思ったりしてしまうのですね。

 観閲艦と受閲艦、展示訓練のこうした役割分担はあるのでしょうけれども、たとえば、その日だけしか訓練日程や警備計画などから参加できない艦艇と、予備日にも参加できる艦艇をA部隊とB部隊とに分けておくことができれば、縮小開催が、可能となってくる。

 体験航海ジャナイカ、とおもわれるかもしれませんが、観閲式を省略し、ミサイル艇機動展示やヘリコプター発着にIRフレアー発射展示などを全部やめて、体験航海を一定規模の艦艇で実施する、単縦陣の艦隊航行だけでは少々見劣りしますが何もしないよりは、と。

 海上保安庁の観閲式などでは、護衛艦よりもかなり大人数を乗せます、もちろん海上自衛隊の護衛艦にも乗せられる人数は省令で明確に記されているのですが、ヘリコプター搭載護衛艦はるな、で最大800名だったように記憶しますので、詰め込めば乗れるという。

 当日に護衛艦の参加規模が少なくなるのであれば、当日に載る護衛艦が変わる、という事はあります。いや、前に護衛艦が機関故障で乗れなかった際には、二日連続で護衛艦はるな、ということがあった。展示訓練に参加する、はるな、最初で最後の機会ではあったが。

 予備日が有れば。こうも思うのですが、しかし、海上自衛隊が最も広報しなければならないのは、護衛艦が広報に回せない程にたりていない、という現実なのかもしれません。それも人手不足などではなく、平時における警戒監視任務が多すぎる為、という理由で、だ。

 護衛艦が足りていない、国民にこう広く広報する為の方法というものを考えなければなりません、それも遊んでいる訳ではなく、周辺情勢が緊迫化していて、護衛艦のやりくりが追い付かない、予算面でも人員面でも、また現在の予算での待遇についても、という。

 ジョイントレビュー、いまの大学生の世代の方は、かりに中学高校と世界の艦船や丸なんかを読んでいる場合でも展示訓練を知らない、そうなると自衛隊というのは世襲制ではないにしても、限られた方々の就職対象にしか思えなくなるのは必至でしょうし、知らない。

 広報は重要だけれども、広報に割けるリソースが無い。ううむ、哨戒艦が数が揃ってきたならば平時における警戒監視任務は多少緩和するのか、その場合相手が潜水艦など哨戒艦探知できないものを繰り出してきたならばどうするかなど、考えてしまうのですね。

 護衛艦はこうした場合、また後方に参加するのに制限が加わるのかもしれませんが、その場合は、現在の護衛艦の居住性は欧州海軍の艦艇と比較して、世界で最も劣悪なアメリカ海軍の居住環境とは会えて比較しないのですが、この当たりの改善が必要ともなります。

 広報は、正直なところ、就職先のミスマッチングが短期間での離職に繋がるのは現在の日本社会の共通現象で、特にそれは企業も公務員も非正規化が進み定期昇給と年功序列に終身雇用の枠組みが破綻した故ですが、広報を重視し現状を見てもらい必要があるとおもう。

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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【12】ヘリコプター搭載護衛艦くらま望見の視点(2012-10-08)

2023-06-11 20:11:41 | 海上自衛隊 催事
■くらま-浦賀水道にて
 前回は反撃能力の視座とともに2012年の写真を回顧した際の複雑な視点を思い出しましたが防衛力整備というのは常にそういうものかのかもしれない。

 ヘリコプター搭載護衛艦、この2012年観艦式は御縁あってヘリコプター搭載護衛艦をいちばんよく見る事が出来る位置から撮影する事が出来ました。わたしの観艦式、観閲艦が護衛艦くらま、の頃に始まりましてそのあとはなかなか、という北大路機関らしい話です。

 22DDH、現在の護衛艦いずも型の建造とともに、いずれ自衛隊はF-35B戦闘機を導入する事になるのだろう、こう考えていましたが驚いたのは、それが意外なほど早かった、ということでしょう。実際のところ海上自衛隊の空母建造構想は海上警備隊まで遡るのだから。

 海上警備隊時代に、アメリカからボーグ級護衛空母の貸与を希望し、また新たに旧海軍の阿賀野型軽巡洋艦の船体設計をもととした対潜中枢艦を建造し、貸与された艦隊駆逐艦とともに対潜掃討部隊を、という研究が、一応日米間での情報交換までは行われていました。

 阿賀野型、なんて、と思われるかもしれません。海上自衛隊の空母建造計画というものを、様々な文献、創刊間もない頃の世界の艦船、誌上にもそうしたものが記されているものですし、当時は驚いたものですが、海上自衛隊と旧海軍は不可分の連続性が見えるのです。

 白露型駆逐艦と護衛艦はるかぜ型、搭載機器やレーダーや水測機器などは当然一新されるのですが船体設計の一部は応用されているといい、一方で旧海軍は三門艦砲を搭載する場合、前甲板に1門と後甲板に2門、という設計が踏襲されていましたが、護衛艦では逆に。

 エセックス級空母の中古艦や全通飛行甲板型護衛艦にハリアーが開発されるとDDV航空機搭載護衛艦、というものなどが定期的に読売新聞や朝日新聞のような全国紙でも関係者の話として検討の話題が示されるようになり、いつかは、と考えられた戦闘機の搭載です。

 F-35Bの搭載、結局ハリアーの場合は能力に限界があり、導入に関わる費用対効果、そして自衛隊の任務を考えた場合には、無理に導入する必然性よりも、イージス艦やターターシステム艦の改良を優先し、ハリアーは後回しとなった、こうした実情があるようでした。

 ハリアーは改良によりAGP-65レーダーを搭載することでAMRAAM空対空ミサイルの運用能力を持ち、対して超音速飛行能力の無いハリアーの会敵能力などの限界があり、艦隊防空に限るならばある程度の能力を発揮できるというオペレーションリサーチは側聞する。

 バックファイア超音速爆撃機、この背景にはソ連が冷戦時代にTu-22Mバックファイア超音速爆撃機の整備を開始し、これは戦略兵器制限条約を受け、その枠外に置くために空中給油受油装置を持たず、航続距離が限定されている、という点はあっても充分脅威という。

 護衛艦隊が警戒していたのはバックファイアからの超音速対艦ミサイル飽和攻撃が、日本のシーレーンを航行するタンカー等に向けられた場合の脅威であり、一方、検討されていた当時のハリアーにはサイドワインダーミサイルまでしか搭載できない限界がありました。

 イージス艦が、選ばれる事になりましたが、サイドワインダーミサイルだけでもバックファイアがミサイル発射位置に進出する事を妨害する事はできるのではないか、という検討が有る一方、簡単ではない、なにしろ相手は超音速機、早期警戒管制機の連携が必須とも。

 空中巡洋艦構想、なんていうP-3C哨戒機にフェニックス空対空ミサイルを搭載することで長距離戦闘機として戦闘機を伴わない爆撃機だけを迎撃する案もあったのですが、こうした検討も実現する事は無く、しかし2020年代にF-35B搭載が、実現する事となります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【11】ヘリコプター搭載護衛艦くらま・ひゅうが(2012-10-08)

2023-05-21 20:11:44 | 海上自衛隊 催事
■専守防衛変容とその背景
 観艦式の写真を紹介すると共にアーカイブを作成しタンカーと護衛艦や都市部と護衛艦という写真をまとめているのですが。

 日本の安全保障体制、戦後レジームからの脱却を掲げた安倍総理大臣時代は、結局憲法改正まで到達する事はできませんでしたが、結局のところ戦後秩序というもの、東西冷戦と二つの超大国という関係性の中にあって唯一日本国憲法は担保されていたといえます。

 アメリカの同盟国としての日本ですが、冷戦時代に在ってはフィンランドのような重武装中立という選択肢をとっていたならば、日本の中立性というものはもう少し変わったのかもしれない、フィンランドと日本は同じ枢軸国であったのですから。しかし実際は。

 第二次世界大戦における決定的な敗戦から、重武装の武装中立国家を目指す、という選択肢はそもそも中た訳ですし、国土が広く人口の少ないフィンランドに対して、四方を海に囲まれる日本はエネルギー源一つとって中立政策を行える程自給自足の目処はありません。

 エネルギー問題は、そもそも日本が第二次世界大戦において南方へ進駐した最大の要因でもある訳で、結局、殻に閉じこもるかたちでの重武装中立ではなく、シーレーンに依存する国際公序とともに生きてゆくほかなかった、という条件下での平和憲法が出来上がる。

 転換期を迎えている事は理解しているのですが、一方で安全保障環境の転換期とともに、今の日本国憲法が成立つ前提を維持する為の努力が、見方を変えれば憲法に抵触する、政治の領域を超える段階まで進んでしまっているようで、解釈改憲の範疇を超えていないか。

 2012年の観艦式、これこそ平和国家の専守防衛を経済大国が具現化した姿、といいえたのですが。防衛力を2012年の水準、これは、くらま現役に戻せとかF-4ファントムを再生しろというわけではなく、防衛力と防衛力整備指針の内容そのものが変容していまして。

 反撃能力のような射程の長い装備の大量整備とか、MLRSを全廃するという政治決定や戦闘ヘリコプターを廃止するという指針が示され、専守防衛型の防衛力をそのまま廃止して、そのリソースで反撃能力を整備しようとする今の指針は、大丈夫なのかと危惧するのです。

 2012年と2023年では周辺情勢の緊迫化も進んでいるために、装備の種類ではなく数で、と但し書きをつける必要はあるのですけれども、まず、装備の数を2012年の段階、対戦車ヘリコプター、多用途ヘリコプターも戦車も火砲も戻してみてはどうか、と思うのですね。

 専守防衛の装備が充分あって、そこで初めて有事に際して、限定戦争を仕掛けられた場合には専守防衛の防衛力を駆使して撃退しつつ、相手が全面戦争に打って出ようとする状況を反撃能力という抑止力が、牽制する形で相手が全面戦争という選択肢を封じる、という。

 前よりは潜水艦は多くなった、けれども哨戒機も掃海艇も削減された、そして全体として余裕がなくなっている。専守防衛が事足りて初めて反撃能力を考えるべきであり、そして反撃能力ではなく元々的基地攻撃能力という呼称を用いていたのだから、なにかちがう。

 もっぱら相手本土を、壊滅的打撃に用いる装備ではないのだけれども保有するならば、所謂防衛戦闘における逆襲部隊と混同させるような名称を用いるべきではないのでは、とも思うのです。政治は理解しているのか、国民は理解しているのか、金額だけ見ていないか。

 戦車凄いとか護衛艦かっこいい、という段階の関心事でも、長く見ていますと防衛力というものの在り方はおぼろげでも見えてくるものですので、予算が増える、という話を聞きますと、どうしてもこう考えるのです。関心を持てば調べる公開情報はいくらでもある。

 反撃能力、一方で将来の台湾海峡有事における日本の立ち位置、中立という事はみじんも考えることができない実情に立ち至れば、相応の覚悟というものが求められます。中立が難しいのは第一に在日米軍基地が攻撃されるということ、特に日米共用基地が、です。

 佐世保基地や鹿屋航空基地に新田原基地と共用施設が多いために確実に自衛隊も攻撃されるためです、不随被害も出るでしょうし、沖縄本島などはかなり基地周辺の着弾だけではなく、浮流機雷の漂着による船舶被害や人的被害を見込まなければならないかもしれない。

 そして、台湾海峡有事においてそもそも警戒しなければならないのは、東南アジアと日本を結ぶ海上交通路を台湾の喪失は、太平洋戦争における沖縄の失陥と同じ結果をもたらし、シーレーンという視点で完全に孤立してしまうのではないか、という危惧があります。

 日本国家は最早以前のような自由主義陣営として、つまり個人の自由と価値観を個人の尊厳により決定するという立ち位置で居続けることは出来なくなる、こうした認識が必要です。それもありではないか、と思われる方は、そういった生活に慣れていないからです。

 考えてみてください、あなたのスマートフォンのなかみを検閲されるのを手始めに、自宅も公共の場所であり、令状のない創作、自宅とは国家のものであり個人の行動はすべて国家が統制する、そしてどう思おうが幸せであるとして政治を支持しなければならない。

 大陸の手法では、それができない人間を不適格者として再教育させる、再教育の施設は日本の今の刑務所とよく似ているが、自発的に入っているといい、どのようなことを思おうと地震の意志で入り満足しているという言葉しか外部には許されない社会となる構図だ。

 COVID-19の中国における対策を見ていますと、個人の尊厳に対して政治が無制限の公共の福祉のためのあらゆる措置を付託された国家権力が暴走した場合の不自然さは見えています、いや、逆にこれがあるからこそ、個人の尊厳、財産などではなく生命が問われる。

 台湾などは安全保障と防衛への危機感をあらわにしている。結果的に、東南アジアとのシーレーンを遮断され、太平洋への権威主義への防波堤となっていた台湾が基地となれば、太平洋上での中東からの石油シーレーンさえも脅かされることとなる、ということです。

 つまり中立でいるには、核兵器でも保有して本当の意味で中国の軍事圧力にモノを言える国となるのか、軍事圧力とは核攻撃の恫喝も含めてですよ、もしくは覚悟を決めてアメリカとともに台湾有事を起こさせないための圧力、実力で戦争をさせない覚悟が必要という。

 権威主義国家の政権はある日突然倒れる、これは民主主義国家の政権が選挙により後退するものとは正反対のものなのですが、これ故に例えば実際に戦争というものが始まった場合、権威主義国家は簡単に引く事ができません、それはロシアウクライナ戦争を見る通り。

 覚悟を以て戦争の始まりを防ぐ事が出来れば、始らない戦争で緊張関係を維持することは冷戦の様で厳しい国際関係が続く事を意味しますが、戦争が始まってしまい出口戦略を権威主義国家へ用意する事よりも遥かに容易いといいますか、被害者がすくなくなります。

 歴史を見ますと回避できる危機を譲歩という形で丸く収めようとして結果的に大戦争となったのが第二次世界大戦です、これを繰り返してはなりませんが回避できる危機を力押しで封じ込めようとして起ったのが第一次世界大戦、こちらも繰り返してはならないのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【10】ヘリコプター搭載護衛艦くらま・イージス艦ちょうかい(2012-10-08)

2023-04-30 20:20:41 | 海上自衛隊 催事
■横浜市街とイージス艦
 横浜の情景、日曜特集は他の記事に関連する写真のアーカイブを作成する意味も含めていますので中々前に進まない。

 2012年の観艦式写真を2023年に見返しますと、やはり防衛力整備の方向性と伝統的な自衛隊の装備体系の転換が、此処まで変わるのか、2003年の北大路機関創設当時と2012年の自衛隊観艦式の頃の自衛隊を比較した場合以上に転換の度合いの大きさに驚かされる。

 3.11東日本大震災の影響もあるのでしょうが、ミサイル防衛の重視による自衛隊の従来装備体系の瓦解、防衛崩壊という他ない程の防衛力の空洞化と、これを補うための反撃能力整備というもの、この二点というものが、自衛隊の方向性の転換の大きな変容とおもう。

 東日本大震災に伴う原発停止、考えるとこの当たりの拙速でポピュリズム的な対応が、それまでモノヅクリタイコクと称され製造業を基幹産業としていた日本の競争力を劇的に鈍化させ、しかも製造業以外分野での競争力の薄さ、規範形成能力が国力を削いでしまった。

 怒号を議論と勘違いする層、結果的にポピュリズムを形成してしまい、原則論同士の、いわば成り立たない価値観の衝突を公的な議論において塗布することで、政治を劣化させるとともに、政治参加の時間を、経済活動と両立する難しさが削いでいる現状もありますが。

 反原発に全てを押し付ける訳ではありませんが、併せて日本が権威主義国家ではなく民主主義国家であり、一旦方向性が示された方式を切り替える事の政治的な難しさが、製造業に必要な電力を削ぎ、その利益で創生されるべき次世代産業への転換の道も閉ざしている。

 電力の話は競争力の話に終始するのですが、しかし波及効果として日本のポテンシャルそのものの変容というものが、結果的に安全保障情勢にも影響を及ぼしているのではないか。具体的には元々低い規範形成能力と、これを補完した経済力の両輪関係が喪失した、と。

 軍拡には反対、という主張はあるのですが、結果的に均衡が崩れてしまったというのは上記の通り、そして均衡が崩れている状況での防衛力再編を行う必要があったのですが、破綻点を迎えるまでは、現状で何とかなっている、と反論されますと覆す論理はむずかしい。

 2012年と2022年、この特集を始めましたのが2022年、比較しますと、戦車も火砲も激減し、ロケット発射機に対戦車ヘリコプターも全廃に向け推移している。何処かで覆さないと、抑止力が破綻し、朝鮮戦争やウクライナ戦争のような状況になってからでは、おそい。

 安全保障関連三文書、2022年の防衛力再編と共に防衛装備は多少、専守防衛を果たせる程度には回帰するのだろう、こう思っていました。日本を責められれば実力で追い出す、その能力を誇示する事で相手に思いとどまらせる、抑止力はこういうものだと理解していた。

 戦車大隊の復活もあり得て機動運用部隊らしい装備になるのだろう、こう期待していましたら、説明によれば、これは第3師団広報の方にお教えいただいて、逆にびっくりしたのですけれども、地域配備師団や即応機動師団という名称はなくなり、統合されてしまう。

 地域配備師団であった部隊はそのままの装備で機動運用部隊として運用されます、との事で、ちょっとこの装備とこの人数ではなあ、と考えさせられたものです。まあ、要するにミサイル防衛で調達できなかった装備、これらを揃える方が先決だ、と思うのです。

 AH-64Dアパッチロングボウ戦闘ヘリコプターの残り49機と耐用年数を迎える12機の後継機に損失予備の1機、調達できなかった10式戦車600両のうちの戦車300両定数ぶんとか、多くの装備が削減されていますが、これらが一旦充足したならば、また違いました。

 “専守防衛に必要な装備で着上陸した敵を迎え撃つ”としましたうえで“日本本土へのミサイル攻撃が行われた場合には反撃能力を行使して敵の本土を叩く”となります、しかし、“専守防衛の部隊が減らされておりまともな作戦ができない”現状では話は別となる。

 “反撃能力を装備している”わけなのですから、敵本土からの日本本土へのミサイル攻撃はないのだけれども、ほかに戦車も航空機もないのでミサイル攻撃を行う、という施策しか“選択肢がなくなる”ということに懸念するのです。すると海を挟んだミサイル戦に。

 ウクライナがモスクワへの大規模攻撃を計画するも核攻撃で反撃されるとのアメリカの勧告を受け入れ断念した、という報道が先日ありましたが、日本の場合は、まあモスクワを叩く事は無いのでしょうが指揮中枢も目標といいますので、これに近い事はやるのだろう。

 反撃能力が残っているのに降伏はあり得ませんし、じゃあ九州と沖縄と北海道はあきらめよう、西日本と東北も場合によっては仕方ない、関東地方か、もしくは東京以外はあきらめよう、なんていう選択肢は国家としてはあり得ないわけです。すると、優先度は違う。

 “まず防衛力をミサイル防衛により削られた段階まで戻す”ということが緊急に必要であり、“反撃能力の防衛力整備はその次”というのが自然流れではないのか。このあたりが自衛隊を、初めて駐屯地祭にいった当時はOD作業服と64式小銃の時代だったのですし。

 動いている61式戦車を撮影し60式自走無反動砲の射撃を発砲炎がうつらないと嘆きながら一生懸命撮影し、60式装甲車の退役を見送ったという世代、そんな世代からはちょっと違和感を受けるのですね。反撃能力、これも政府はトマホークを500発ほど買うと発表へ。

 これが閣議決定では400発となりまして、なるほど“ほど”というのは大雑把だ。100発も減らされるのか、臨時ボーナスですごい凄いといいながら実際には数千円を配るときと一緒だなあ、と思いつつ、これをどのようにして運用するのかが未知数です。

 政府の説明ではイージス艦に搭載すると在りましたが、イージス艦の任務は艦隊防空なのです。ミサイル防衛で、それではイージス艦はミサイル防衛のSM-3迎撃ミサイルで艦隊防空用のミサイルが大きく削減されているのだから、ここにトマホークを搭載すると大変だ。

 VLS垂直発射装置を占有したならば更に艦隊防空ができなくなる、と危惧したものでして、心配は残る。潜水艦用垂直発射装置の研究、こうした防衛装備庁からの開発研究企業の公募がありましたが、要するにトマホークミサイルを導入した場合でも搭載する艦艇がない。

 ミサイルの問題という事を明示したわけでして、しかも通常動力潜水艦の船体はそんなにミサイルを搭載できません。防衛予算をGDP3%への増額を目指して新しく巡航ミサイル原潜を導入するという動きもありません。一方陸上配備型トマホークを導入する動きも無い。

 旧式潜水艦の船体を延長してVLS区画を追加して、一隻当たり18発程度搭載できるようにするならば、24年で退役する潜水艦を更に12年程度延命して潜水艦36隻体制を目指し、第一線で行動させるのではなく後方でミサイル運用に特化する様な施策ならば別だが。

 こんな防衛政策では朝令暮改ではないけれども五年後にはまた逆転するように大幅に見直されて、付き合った防衛産業が撤退するか数千億円を各社が賠償請求するほどの損失を被るのではないか、という危惧もあります。観艦式で示された防衛力は、ちがっていました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【09】ヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが・イージス艦ちょうかいとともに(2012-10-08)

2023-04-02 20:16:15 | 海上自衛隊 催事
■予想できなかった2020年代
 防衛力整備が2012年当時は東日本大震災の影響は残るもののおおむね順調に見えまして流石に2020年代の変容は予想でき無かった。

 ゆうだち艦上からこの観艦式を撮影していました当時は、ひゅうが大きいなあ、という印象とともに22DDHこと現在の護衛艦いずも型の建造に将来の海上防衛について予想は恐らく遠い将来にF-35B戦闘機を搭載するのだろう、と思っていたものなのですが。

 F-35B戦闘機の配備開始は来年であり、先日航空自衛隊へF-35戦闘機搭載用のJSMミサイル、射程510kmのミサイル引き渡しが開始され、此処まで急速に防衛力が近代化されるとは思っていなかったのですが、それ以上に中国がこんなに空母を揃えると思わなかった。

 いずも型護衛艦のF-35B戦闘機搭載は予想よりも早くなった印象ですが、それ以上に自衛隊が防衛力を強化しなければならなくなります背景に中国の軍事圧力があり、これほど短期間に一気に中国海軍が戦力を拡大するとも思わなかったというのが率直なところです。

 新田原基地へ配備されるというF-35B戦闘機ですが、しかし予想できるといいますか、懸念するのは海上自衛隊と航空自衛隊との間で、F-35Bの運用についての齟齬が生まれないか、と危惧するのです。実際、イタリア軍で海軍と空軍の間でF-35Bの問題がありました。

 イタリア軍の縄張り争い、海軍は空母カブールで運用したい、空軍はAMX軽攻撃機の後継としてKC-130J空中給油輸送機とともに遠征航空団を編成したい、といい結果仲良く半分こにすることになった構図で。仲良く、といえば響きはいいのですが、現実は厳しい。

 第五世代戦闘機の運用基盤を二か所用意するというのは、いずも型護衛艦のF-35B戦闘機運用能力付与と同じくらい時間がかかります、F-35B含めF-35戦闘機はシミュレータでの訓練時間も長く、これが逆に普段それほど飛行訓練せずとも十分な技術を得られるという。

 F-35のシミュレータ重視設計思想は、機体寿命は飛行により削られませんし飛行させることによる消耗品の劣化も抑えられ、という利点はある、しかしその分シミュレータは高額となっていますし、この設置の費用とデータリンク装置の費用もかなり高くなります。

 F-35Bについて30機をあえて二つの基地へ分さん配置する必然性はあまりありません、政治的に二つに割れたという。イタリア国防省は、一か所にまとめておくとその基地が空爆で全滅すると危険だから分散は合理的なのだ、としていますが、そんなものなのかな、と。

 ミサイル攻撃を警戒するならば地下ハンガーに入れればいいしF-35Bならば滑走路が破壊された場合でも誘導路から短距離発着できる、と反論できてしまい、要するにやはり政治的なのだ、となります。日本の場合はイタリアと違い海上自衛隊は戦闘機を持たない。

 ハリアー攻撃機を運用するイタリア海軍のような、無駄にF-35B運用能力があるのだから割れるのだ、という事にはなりませんが、航空自衛隊が、海上自衛隊の護衛艦運用、特に護衛艦隊は別に南西諸島近海での任務だけが任務ではなく、これは広範な運用をめざす。

 佐世保地方隊の任務にとどまらず、インド洋や大西洋さえを含めた世界での運用を想定していますので、と事前にどのように調整しているのかが少々関心事となるのです。一方で、この護衛艦運用は、ある程度見込まれていましたが、早くなったことはまだにおどろき。

 反撃能力という新しい防衛力整備については、ちょっと想定できませんでした。専守防衛の枠外での反撃能力と、専守防衛の枠内での反撃能力では意味がまるで違います。専守防衛の枠内での反撃というのは防御戦闘という意味でしょう、しかし今回のものは違う。

 専守防衛、当たり前ですが防御戦闘には攻撃的な要素があり、逆襲部隊というものが防御戦闘では当然のように編成に内部化されています、ようするに相手の攻撃衝力を防御戦闘により削ぎ、つまり防御戦闘により相手の戦車や装甲車などを一定以下まで削ったのち。

 逆襲部隊という、息切れしたような時機を見計らって逆襲部隊を展開させる、逆襲部隊は戦車によるものが基本ですが、歩兵の、いや普通科による迂回攻撃等も含まれます。もちろん海岸橋頭保への攻撃や上陸部隊の洋上での撃破も含まれるのでしょうけれども。

 これが、特に逆襲部隊は反撃的な意味を含めているように見える。海岸橋頭保への攻撃もその反中でしょう、しかし、いま政府が想定する反撃能力は射程2000kmから3000kmのミサイルが中心、これを数百発程度保有するとともに従来の防衛力も維持するならわかる。

 戦車や火砲に戦闘ヘリコプターといった、これこそ専守防衛であるし日本を侵攻する相手もこれくらいで反撃されるのは想定するだろうというものを、従来の数まで再構築していざという時の為の抑止力と普段使いの戦車等の防衛力を整備するならば、わかるのだが。

 2000kmの射程のミサイルを保有する事は理解する、けれどもそんなミサイルを防衛力の主柱に据えるのは判らない、いったん陸上自衛隊がグアムまで撤退してから、という運用は考えられませんから、これでは北海道からハバロフスクが射程内に含まれます、実に長い。

 東京から北京を十分狙える、いや九州から四川省の核ミサイル部隊をも射程2000kmならば狙えます、いや安全保障政策の基本に専守防衛の終了という名言はありませんでしたから、専守防衛なのだ、そして自衛隊は軍隊ではないし日本は戦力を持っていないとする。

 憲法にあるノダ、と強弁を張ることも、できないことはないのが、ちょっと不思議といいますか、法律とは、と考える点なのですね。更にちょっと不安となるのは、防衛予算を増やす、という部分についてで、持続的な防衛力整備が可能なのか、という事なのです。

 日本はGDP1%防衛費という国是とともに防衛力を整備してきましたが、このわく内で小泉内閣時代にミサイル防衛という、もう一つ自衛隊が必要になるような防衛政策、防衛力整備を開始しています、これにより削られたのは専守防衛の骨幹と云えるものでした。

 戦車に火砲にヘリコプターと掃海艇、哨戒機や輸送機もかなり減りました、これはいずれ建て直しが必要になる、一個師団で実員4500名規模というのは明らかにおかしい、ここを是正するのか、と予算増では期待しました。せめて師団は6000名規模にもどしてほしい。

 特に自衛隊の、陸上自衛隊における師団と旅団をすべて機動運用部隊とする改編です、長らく機動運用部隊といいますと第7師団の戦車連隊中心の編成や第一空てい団に第一ヘリコプター団、近年はここに即応機動師団御即応機動旅団という、ものがくわわりました。

 装備の充実した即応機動連隊一つと、即応機動連隊に全て装備を持っていかれた印象のある軽装備の普通科連隊を基幹としていたものですが、地域配備師団も即応機動連隊くらいの、つまり偵察戦闘大隊の三倍くらいの部隊を持たせてくれるのではないかとか、ね。

 現実は、そんなことはありませんでした。地域配備師団は軽量装備のまま機動運用を強いられるというもので、、装備も人員も少ない中、気の毒になるのですが与えられた任務を不充分でもなんとかします、としか言いようがない状況があります。それは2020年代です。

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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【08】イージス艦あたご・イージス艦ちょうかいとともに(2012-10-08)

2023-03-19 20:01:57 | 海上自衛隊 催事
■2012年と2023年の周辺情勢
 観艦式特集は掲載の間隔があいてしまいましたが漸く調整が出来ましたので掲載を再開できました。

 海上自衛隊の運用と展望、この自衛隊観艦式2012の執り行われました時代と比較しますと2023年というものは大きく様変わりしているものでして、特に2022年安保関連3文書閣議決定ののちは、2012年の時代には想像もできなかった、大きな変容が有りました。

 いや2020年と比較しましても想像ができなかったダイナミズムの転換点を迎えているという印象です。防衛力の新時代、具体的には、やはり反撃能力の整備、というところでしょうか。F-35B戦闘機の護衛艦搭載まではある程度想像できたものなのですけれども、ね。

 全通飛行甲板を採用しているのだからいずれ固定翼の搭載やるのだろうなあ、いずも型の個艦戦闘能力の低さは艦載機で補うとしか考えられない、という素朴な印象はありました、いや実際にはハリアーを検討するのではないか、F-35Bに思い切ったことをやるのか、と。

 F-35Bにいきなり進むのは少々難しいのではないかという先入観、いうものが護衛艦ひゅうが建造の時代、就役した2009年には連想として浮かんだところなのですけれども。ひゅうが型護衛艦、このつぎの護衛艦いずも型が当時の政権で予算が通ったのは驚きました。

 あれは2009年概算要求で、民主党が自民党を政権交代に追いやりまして、当時連立政権を組んでいた社民党が、驚くことに社民党が19500t型護衛艦の建造にゴーサインを出したという、理由としては災害派遣に用いることが可能だから、というものでした。

 社民党が良いといった、考えてみれば社民党が賛成するならば,19500t型護衛艦を護衛艦はるな型後継に比較的早い時期に建造していたならば、東日本大震災が2011年に発生した時代に2隻はそろっていたのではないか、予算の関係から護衛艦ひゅうが型建造は遅れた。

 二番艦いせ、が東日本大震災に間に合いませんでしたから、ひゅうが型が最初からあの大きさであれば、そしてDDHヘリコプター搭載護衛艦を4隻ともほぼ同じ大きさの護衛艦として建造できていれば、建造費もほとんど同じなのだ、と思わないではなかったのですね。

 実際ヘリコプター搭載護衛艦は東日本大震災において期待以上の活躍となりまして、しかしもっと数があれば、とも考えさせられた。ハリアーの方が現実的ではないか、こう考えた背景として、こうもとんとん拍子に導入計画と配備計画が進むと思わなかったのです。

 F-35B戦闘機は苦闘が続いたJSF統合打撃戦闘機計画に際してはもっとも安定して計画が進んでいましたが、果たしてF-35Bを自衛隊が運用することに、特に開発に参加しておらず国際共同開発に際して開発国と優先顧客に優先的にF-35が配備されるという関係もある。

 野田内閣偉大に次期戦闘機がF-35に決定したのですから、考えれば日本がF-35を欲しいと表明したのはこの観艦式のほんの十数か月前という段階です、すると日本に回ってくるのは相当先になるのではという危惧がありました、しかし、わたしは間違っていたなあ。

 認識が違った間違った、と思ったのはF-35B戦闘機の自動着艦装置の優秀さで、ハリアー攻撃機は発艦に始まり着艦に終わるという、まあ飛ぶのは当然だし最後には降りるだろう、と反論があるのかもしれないのですけれども、訓練の大半が発着に終始していた点です。

 ハリアーが戦闘機としての訓練を行う場合は陸上基地から行い、艦上訓練の際には発着艦訓練を第一としなければならない、という難しさが、F-35Bの場合はこの部分をほぼ全て戦闘機さんがやってくれるので、操縦士は発着の訓練度合いをそれ程考えずともよい。

 ハリアーは操縦がかなり難しい航空機だとは言われるのですが、その点F-35Bを戦闘機として運用させることに専念させられる、という実情を、実感として持っていなかったのです。これはもうカタログスペックを見るだけの立場と、飛ばす側の視点の違いというか。

 この点は、SH-60哨戒ヘリコプターの操縦士の方と何度かいろいろな場面でお話しした際に、おそらく海上自衛隊の操縦課程ではハリアーの要員養成は無理、といわれたものですし、航空自衛隊の方に、これは仮に、という前提でハリアーについて聞いてみた場合でも。

 航空自衛隊の制空戦闘という任務上はハリアーに限られたリソースをつぎ込むことは考えられない、というお返事が、異口同音という表現のようにあったことを思い出します。ひとりひとりの技術というものだけではなく、システムとして発着訓練を要しているもの。

 この点で、F-35Bの自動発着艦システムとは、これこそが統合打撃戦闘機と呼ばれる所以なのだなあ、と妙に感心したものでしたが。つまり、空軍のF-35Bでも普通に海軍の艦艇に着艦できる、ということ。もっとも、その設計はハリアーの操縦の難しさへの反省か。

 ハリアーを空軍が運用した場合はハリアーを攻撃機として運用するための訓練には努力を惜しまないでしょうが、発着艦訓練に相当の飛行リソースをつぎ込まなければならないとしたならば、これは空軍の仕事ではない、となるでしょう。組織として当然のことです。

 この状況が海上自衛隊と航空自衛隊にも当てはまり得た、それを払しょくできたのがF-35Bという。空母、こう表現される時代も遠くない将来に来るのでしょうか、F-35Bの護衛艦での運用は、航空自衛隊は場外発着場の、つまりいくつかある代替滑走路の延長線です。

 八雲飛行場や計根別飛行場のような形で、想定しているといいますので、沖縄の離島に着陸するか護衛艦から発着するのか、という事で解決するわけです。F-35B,もっとも日本の場合は航空自衛隊が新田原基地へ配備する計画なのですけれども、その運用は未知数だ。

 新田原基地の運用を西部航空方面隊とするのか、南西航空方面隊とするのか、それとも航空総隊直轄部隊とするのか、海上自衛隊との統合運用に収めるのかでひと悶着ありそうですが。新田原基地ならば春日基地の西部航空方面隊隷下となる、これは普通の認識です。

 しかし沖縄県の離島飛行場で運用するならば、それは南西航空方面隊の管轄となる、それが護衛艦から運用するとなりますと自衛艦隊の運用となり、統合運用が難しくなります。ひと悶着といいますとイタリア海軍と空軍のF-35B縄張り争いという問題があります。

 これが日本でも再現されないのか、というのはちょっと気になるところで。縄張り争いというのはイタリアはF-35B戦闘機を30機導入するのですが、空軍と海軍で所管の違いが埋まらず、結局15機を海軍が、15機を空軍が、150km離れた基地で運用するという事に。

 日本の場合は、ある程度認識を共有しているのでしょうし、場合によってはかつて地対空ミサイルが陸上自衛隊から航空自衛隊へ移管したように、F-35Bだけ航空自衛隊から海上自衛隊へ移管する、という可能性もあるのでしょうか、それとも同床異夢があるのか。

 2012年に自衛隊観艦式を見守り、撮影しました際には、そこまで深い事を考える事無く、浦賀水道を進む護衛艦部隊だけを真剣にカメラで写真に収めていましたが、その写真を観返すときには、あの時代、安倍政権時代の日本は安定していて平和だったと思うのです。

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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【07】ヘリコプター搭載護衛艦くらま浦賀水道を太平洋へ(2012-10-08)

2023-02-12 20:00:16 | 海上自衛隊 催事
■思えば平和だった
 二〇一二年自衛隊観艦式の頃は護衛艦くらま以下今では歴史となっていった護衛艦も健在だったのですが、思えば緊張感はあるも平和な時代だった。

 観艦式特集、日曜特集として過去の自衛隊行事を紹介するとともに日常で掲載する防衛装備品や時事関連の話題に掲載するための写真アーカイブスを整理するという目的でも掲載しています観艦式特集ですが、この掲載を開始した昨年末には象徴的な転換点が。

 安全保障関連三文書が発表されます。防衛政策の大転換が始まり、これはCIVID-19感染拡大前に、月刊軍事研究が別冊にて自衛隊の50年に一度の大改編が開始されるという、善通寺駐屯地祭市街パレードの様子を表紙、水陸機動団と即応機動連隊を中心とした話題です。

 わたしが撮影していたのは表紙撮影位置から20mくらい後ろか、特集が組まれていました。ただ、自衛隊改編は2022年の改編が、かなりのリソースを反撃能力につぎ込むという、MLRSを廃止しそのリソースを反撃能力へ、AH-1Sを廃止しそのリソースを反撃能力へ。

 AH-64Dも廃止してそのリソースを反撃能力へ、OH-1といいますか観測ヘリコプターを全廃してそのリソースを反撃能力へ、88式地対艦誘導弾を廃止して反撃能力へ、12式地対艦誘導弾を廃止して反撃能力へ、U-125救難機を廃止して反撃能力へ、というものです。

 MLRSはM-270の後継装備にM-270A2でも調達するならばいいのでしょうが、そんな予算は無駄だとばかりに反撃能力を整備するという。まさに史上最大の防衛改革とおもう、が、賛同はしにくい。極端すぎる防衛力整備というものです、たとえば海上を例にすると。

 潜水艦が重要だと考える人に、その通りだ潜水艦を大幅に増強しよう、護衛艦は全廃だ、とかりに提示しますと極論過ぎる、と逆に反対されるでしょう。戦車はウクライナの戦場で評価されたといって普通科を全廃して戦車に置き換えるといえばやはり反対されるでしょう。

 50年に一度の大改革という2020年の表現は、そうではなく2022年こそ70年に一度といいますか、明治建軍以来の大改編といえるのです。痛いのはいやなので長距離打撃力に極振りしたいと思います、的な。即応機動連隊の改編は維持されるようですけれどもね。

 白書、しかし防衛白書に記された地対艦ミサイルが反撃能力に置き換わるという防衛省の説明を参考に、MLRSで海岸線の敵を撃破する運用も反撃能力に切り替わり、戦闘ヘリコプターなども反撃能力と、これは一部どんな機体を導入するのか不明なのですが。

 無人航空機で置き換えるようですけれども、防衛白書に記される防衛のあり方は、随分と変容することとなります。離島などで即応機動連隊が海岸線付近で敵の前進を阻んでいる間に、敵本土の港湾施設と飛行場を全力でミサイル攻撃するという現状からは一変する。

 防衛白書の防衛に関するイラストは随分と簡単になりますが、しかしイラストのイメージ図は敵国本土まで描かなければならないので大変です。陸上防衛は、相手が限定侵攻を仕掛けてきた場合に初動で相手を釘付けにする部隊をのぞけば、あとは全部変ります。

 多くが射程2000km規模の反撃能力、現在の自衛隊には装備されていない射程のミサイルにより置き換わる事となる。限定侵攻に初動の即応部隊で対応できなければ即座に相手国本土をミサイル攻撃する全面戦争に拡大するという、かなり思い切ったといいますか。

 北朝鮮型の自衛隊へ転換することとなります。ただ、これを防衛産業が本気で受け止めているならば、と懸念するのです。三菱重工の誘導関連の事業部付近には今後毎年数兆円のミサイル発注が十年単位で続くこととなりますので、現実になれば特需景気といえる。

 春日井や小牧当たりでタワーマンションラッシュになっていそうですが、先日そのあたりを所用で探訪しました際にはそのような気配はなく、防衛産業も、この勇ましい政策は岸田政権の寿命次第、とまではいかないにしても、これまでなんども繰り返されてきた事が。

 250機調達する航空機が33機で打ち止めとか、66機調達するというから部品を調達したものの13機で打ち止めとか、141機製造するはずの戦闘機が急に93機、と苦杯を飲まされてきましたので、静観しているという印象です。実際仮に現状のまま選挙に勝てるのか。

 防衛増税を争点に衆院総選挙をやって勝てる気がしないのですね、おそらく子育て政策や地方活性化政策とともに防衛増税をパッケージ化させて焦点を曖昧なものとするのでしょうけれども。結局、防衛産業はそんな危ない橋を渡れず、無駄に税金が流れる懸念さえ。

 観艦式、政府は反撃能力整備までの間隙を縫うべく、当面は先ずトマホークミサイルをアメリカから導入し、当面をしのぐとのこと。こうしますと、防衛費も増額することとなりますので、現在すすむ護衛艦もがみ型量産と平行し、将来護衛艦が建造される事は無いか。

 VLS垂直発射装置を大幅に増大させた護衛艦むらさめ型後継艦を前倒しで建造するのかもしれません。いや、こうした視点はまず八月の防衛予算概算要求をまたなければ先走りすぎということになるのでしょうけれども、政府が導入するトマホークミサイルもここは。

 現在の護衛艦には対空ミサイルと対潜用のアスロックを搭載してぎりぎりのVLS垂直発射装置しか搭載されていません、アスロックを予備弾半数を下ろして4発程度トマホークを載せる選択肢も、ないにはないのですけれども、数百発のトマホークを導入するのです。

 数発を護衛艦にひろく搭載したとしても、載せられる本数は知れています。潜水艦、ハープーンミサイルの後継にトマホークを載せる、これも出来ないことはないのですが。潜水艦に搭載する、ハープーンミサイルは便利そうに見えるものですが発射しますと難点が。

 即座に潜水艦の航行海域は暴露します、ハープーンの射程を考えれば潜水艦にはかなり自殺行為でして、射程の大きなトマホークの搭載はハープーンを置き換えるのに理想的です、ただ、これにしても潜水艦のミサイルと魚雷の搭載本数は22発程度でしかありませんから。

 まったく魚雷を下ろして巡航ミサイル潜水艦とするわけにも行かないでしょう、すると一隻あたり魚雷のほかに搭載できるトマホークミサイルはやはり数発、となる。個人的には、おやしお型潜水艦を、これは今自衛隊でもっとも古い、といいつつ自衛隊の潜水艦は若い。

 世界的に見れば最新鋭に伍する潜水艦について、最新鋭たいげい型潜水艦の建造が進むとともに延命改修と更に船体を延長、はるしお型潜水艦あさしおAIP実験区画追加改修のように、いったん切り離した船体にもう一つの区画を挿入して全長を15mほど延長させる。

 この区画にトマホークミサイル用水中発射VLSを追加しては、と考えるのです。現在製造されているトマホークは潜水艦魚雷発射管から発射できないものとなっていますので、アメリカ海軍の在庫から購入しない限りはVLSを搭載した潜水艦を新造するほかなくなる。

 ヴァージニア級攻撃型原潜にとりつけられているようなトマホーク四発内蔵型VLSを3セルか6セルおやしお型へ追加しますと、12発から24発搭載できることとなる、トマホーク運用能力は相手国からみれば脅威ですので、こうした潜水艦なんてものでもなければ、政府が導入を決定したミサイルを詰めないように思うのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【06】ヘリコプター搭載護衛艦くらま出航(2012-10-08)

2023-01-29 20:01:26 | 海上自衛隊 催事
■ヘリコプター搭載護衛艦
 今週も諸般の事情で短縮記事です。

 ヘリコプター搭載護衛艦くらま。1973年に海上自衛隊最初のヘリコプター搭載護衛艦はるな竣工となりましたので、この2023年というのは海上自衛隊艦隊航空にとり半世紀を迎える節目の一年です、しかしこのヘリコプター搭載護衛艦くらま、もいまや歴史の一隻だ。

 海上自衛隊の艦隊航空は、悲願とも言えた固定翼航空機の護衛艦への運用能力付与が秒読み段階となっています、2024年には航空自衛隊のF-35B戦闘機運用が開始され、南九州新田原基地へF-35B戦闘機が配備、この航空機は護衛艦での艦上運用も想定しています。

 はるな型ヘリコプター搭載護衛艦から始まりました艦隊航空、輸送艦おおすみ艦上などでのヘリコプター運用試験を行い、もちろんこの輸送艦は現在の大型のものではなくアメリカから供与された第二次世界大戦型の輸送艦ですが、その試験実績を以て建造されました。

 5000t程度の船体にヘリコプターを搭載する、海上自衛隊としてはこの設計をどのように実現するのかが課題でして、第二次世界大戦中の護衛空母を小型化した様な全通飛行甲板も検討されたといいます、これが実現していれば興味深い結果となったのでしょうけれども。

 全通飛行甲板を採用した場合は、5000tの船体では小型すぎますので格納庫を配置出来ません、すると哨戒ヘリコプターは露天係留となる、旧海軍では水上機を露天係留した事例はありますし、5500t型軽巡洋艦にも水上機を搭載した事例があるが整備上のぞましくない。

 巡洋艦型船体、ヘリコプター搭載護衛艦くらま筆頭に第一世代のヘリコプター搭載護衛艦はヘリコプター巡洋艦型の船体を採用していますが、全通飛行甲板を断念した先に海上自衛隊が選択したのは、カナダ海軍やイタリア海軍で実績ある巡洋艦方式の船体構造です。

 ヘリコプターを運用する場合、しかし飛行甲板に二機を同時発着させる広さを確保するのか、それとも一機のみを発着させもう一機を待機させる程度の広さとするのか、または発着区画は一機分のみとして艦砲などを充実させるのかで、大きな論争になってゆきました。

 ターターシステム、海上自衛隊としてはヘリコプター搭載護衛艦は当時最大の護衛艦がミサイル護衛艦あまつかぜ、基準排水量3050tですので旧海軍以来の大型艦、まさに巡洋艦の再来といえるもので、護衛艦はるな建造は三菱重工長崎造船所が引き受けています。

 ミサイル巡洋艦としても運用するべく、じつは護衛艦はるな設計時には広域防空艦としてターターシステムを搭載する構想もあり、この為には航空機区画を局限化する必要がありました。ただ、それではヘリコプター搭載護衛艦としての能力を最大限発揮出来ない。

 はるな建造、結果論ですがこのターターシステムを搭載しない選択は建造費を抑える事にも繋がり、これが日本の防衛費に大きな制約がある時代に、ヘリコプター搭載護衛艦を4隻も建造できた背景となり、その建造枠は今日の第二世代に引き継がせる事が出来ました。

 霧島筆頭に戦艦武蔵まで多数の戦艦を建造した経験のある三菱重工長崎造船所です、はるな建造も順調に進みまして、ヘリコプター搭載護衛艦くらま建造も三菱重工長崎造船所がになっています。現在長崎では護衛艦もがみ型が猛烈な意気込みで大量建造されています。

 ひゅうが型護衛艦など、ヘリコプター搭載護衛艦は現在、全通飛行甲板型の、空母型とも呼ばれますが、第二世代に交代を完了しました。ヘリコプター搭載護衛艦くらま建造までは時間もかかりましたが、その努力が現在の猛烈な周辺国の圧力に耐える原動力なのです。

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