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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

海上防衛新戦略 東京・グアム・台湾“TGTトライアングル”に関する批判的一考察

2011-01-22 19:40:03 | 国際・政治

◆もっと広い海のシーレーンを俯瞰してほしい

 海上自衛隊の新しい戦略構想として、東京・グアム・台湾を結ぶTGTトライアングルにおける警戒監視体制を強化するプランがあるそうで、一部報道でも出ていました。

Img_8104  TGT、何やら泣いている顔文字のようにみえてくるのですけれども、こういう任務に対応する防衛力の整備計画こそ防衛計画の大綱に明記するべきだと思うのですが、そもそもこうした任務の具体性を挙げた後で、その任務遂行に必要な部隊や装備定数が出てくるのですからね。海上自衛隊の警戒範囲を具体的に示した、という事になるのかもしれませんが、しかし、この範囲だけ防衛していればなんとかなるのでしょうか、大井篤氏の“海上護衛戦”等を読んでいますと、非常に不安になってきます。シーレーンはその圏外に伸びているのですからね。

Img_7548  陸上自衛隊では南西諸島における緊張が高まった際には地対艦ミサイル連隊や対戦車部隊を輸送艦やヘリコプターにより急速派遣し、緊張が武力紛争へ展開する事を予防する構想があるようですが、陸上自衛隊の場合、台湾や中越国境など海外に前方展開して中国の圧力に対応するという選択肢はあり得ませんので、納得はいきます。しかし、海上自衛隊の場合、シーレーンは台湾よりも南方海域へ伸びているのですから、トライアングルと称して第二次大戦中の絶対国防圏というような意気込みで向かうのではなく、むしろ、マラッカ海峡等を経て欧州や中東から日本へ伸びるシーレーンの防衛こそが必要な防衛力と考えるのですが。

Img_5744  冷戦時代、日本はソ連太平洋艦隊に対して宗谷・津軽・対馬の三海峡にたいして防衛警備を重視するという方策があったのですが、これはソ連太平洋艦隊が広く太平洋へ展開することによりシーレーンへの脅威が及ぶ事を阻止するという目的があった訳です。一方で現在はシーレーンへ、既に中国海軍が東シナ海、南シナ海に面した基地から脅威を及ぼせる範囲にあるわけですので、むしろ、海域を限定して防衛警備、という発想は地方隊にミサイル艇を増勢して、潜水艦に対しては水中マイクロフォンや哨戒機、沿岸用小型護衛艦の再整備等に重点を置いて、護衛艦隊は機動運用を念頭に置いた方が良いのではないでしょうか。

Img_6260  中国海軍は現在、航空母艦を建造し、中古艦の整備による現役復帰等を進めているようですが、中国の空母は長く伸びるインド洋のシーレーンに対し、インド海軍がロシアから空母を、インド海軍もかなり大型の航空母艦を建造している事にも触発されています。過去に中国がインドに攻め込んでいますので、逆を心配しているのでしょうね。他方で戦力投射能力を中国が保有すれば、それは勿論方向を替えてわが国に対しても投じる事が出来るようになる訳ですから、警戒も一応必要になってきます。しかし、相手が空母を建造している訳でこれは日本のシーレーンを非常な遠隔地において脅かせるようになる事を示していますので、ここでTGTトライアングル!、と構えるのもどうかな、と考える次第。もっとも、政治がシーレーン防衛の重要性をどの程度認識しているか、という事で、周辺事態法が示す海域よりも外での任務はまかりならない、というような国民の平和と安全を無視するような主張を続ければ、実現しない訳でして、最近を見ていますとこちらの方が心配になってくるのではありますが。

Img_3935  一方で、シーレーンの話にしますとこれは防衛だけの問題では無いのですよね、沿岸国との関係が重要になる。沿岸国との関係を良好に保つには、という事。援助や技術供与、そういうものも手段になります。開発援助に政治を絡めることは、見返りを期待しているようで違和感を感じるという声を聞いたこともあるのですが、開発援助や通商協定、技術供与を筆頭に極力日本にとって友好国を増やすという努力、一貫した対外政策の明示、これらは国益というものが不変である以上政権や政策にも左右されない内容ですので、外交や通商政策、科学技術政策とも連携して考えなければならない内容、そう政治の問題でもあるのですが、ね。

HARUNA

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コメント (2)
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