北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

在外邦人輸送訓練、小牧基地を中心に1月17日から本日20日まで実施

2011-01-20 21:58:01 | 防衛・安全保障

◆紛争地からの救出想定し陸海空自衛隊が参加

 第二北大路機関に掲載したのですが、昨日の記事を掲載したのち、邦人輸送訓練が実施されている事を知りました。本日は小牧基地の写真とともにこの話を見てゆきましょう。

Img_4454  在外邦人輸送 自衛隊が訓練へ:1月16日 11時11分・・・災害や紛争などが起きた国から日本人を安全な場所へ輸送することを想定して防衛省・自衛隊は、17日から愛知県内の基地を中心に、大規模な訓練を行うことになりました。外国で災害や紛争など不測の事態が起きた場合、自衛隊は、自衛隊法に基づき、現地に滞在する日本人を航空機や艦艇で安全な場所へ輸送することができ、毎年、訓練を行っています。

Img_4421  今回の訓練は17日から20日まで愛知県の航空自衛隊小牧基地を中心に行われ、政府専用機やC130輸送機、空中給油機など航空機あわせて8機と輸送艦1隻が参加します。また、地上でも陸上自衛隊の隊員たちが武装勢力の襲撃を想定して航空機の周辺を警備するほか、避難する人たちの中にテロリストなど不審な人物が紛れ込んでいないか検査を行うなど、安全に輸送を行うための手順を確認するということです。

Img_4444  自衛隊による海外の日本人の輸送を巡っては先月、朝鮮半島で不測の事態が起きた場合に備え、菅総理大臣が、韓国側と協議していきたい考えを示した一方、仙谷前官房長官は、歴史的な経緯などから難しいという認識を示すなど政府内部でも議論が分かれています。http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110116/k10013430281000.html

Img_4491 海外赴任や出張、海外旅行や留学先が突如紛争地や騒乱地となり帰国しようにも安全な第三国に退避しようにも空港は民間機の運航が不能、国境は封鎖されて社会インフラもマヒし始めている、一見平和に見えたとしても奇襲攻撃や大規模災害などにより外務省が渡航安全情報に注意を促していない場合であっても一転して祈念無状況に陥る事は充分考えられます。

Img_4507 リゾート地が突如戦場となったレバノン戦争や、観光地を広く大津波が襲ったインド洋大津波、インドネシアの公共料金値上げに反発したデモが契機となったスハルト政権崩壊事例は数多、そういう状況に陥った場合はどうなるのか。自衛隊法では、自衛隊機や自衛艦により第三国での有事の際に邦人を安全な地域まで輸送することが任務として盛り込まれています。

Img_4520  邦人救出任務について、その実任務の際の問題点を表面化させ、実際の運用を演練する邦人輸送訓練が実施されたとのことです。訓練は記事の通り17日から本日20日まで続けられたのですが19日には訓練の報道公開が行われ、邦人救出に関する所要の訓練はテレビ報道などでも伝えられました。

Img_4551  航空自衛隊小牧基地を紛争地における飛行場との想定で政府専用機や自衛隊輸送機、ヘリコプターを用いて陸上自衛隊が警備する飛行場から安全な他国飛行場という想定の小牧基地の別の場所や、愛知県伊良湖沖を航行する海上自衛隊の輸送機へ退避するという訓練を実施したとのことです。今回の邦人輸送訓練は政府専用機であるB-747が初めて参加したという事が大きな意義でした。

Img_4532チュニジアから邦人観光客ら帰国 関空、安堵の表情:チュニジアから邦人観光客ら帰国 ・・・ チュニジアの政変による帰国便のキャンセル続発で足止めされた日本人観光客らが19日午後、経由地のローマからアリタリア航空機で関西空港に帰国。疲労の色もにじませつつ「やっと帰れた」「お風呂に入りたい」と安堵の表情を見せた。

Img_4563  この日はローマから最大規模の団体客約80人が関空に到着。石川、大阪、兵庫、愛媛、福岡、佐賀など各府県から参加し11日にチュニジアに入り、カルタゴなど世界遺産の遺跡見学を予定していた。 兵庫県川西市の主婦太田あけみさん(58)は「移動のバスからは、町のあちこちに煙が上がっているのが見えて、怖かった。ホテルの敷地から外に出られず、楽しみにしていた遺跡は見られなかった」と疲れた様子。2011/01/19 13:27   【共同通信】http://www.47news.jp/CN/201101/CN2011011901000440.html

Img_4581 訓練している最中に実際に出動するべき時期があったのでは、と思いますが、これでは訓練の為の訓練しか政府は認めていないように見えます。報道を見る限りでは、訓練中こそ政府は真剣に邦人救出に政府専用機をイタリアのNATO軍が多く訓練に参加するアビアノ基地や海上自衛隊の航空部隊が海賊対処任務で展開するアフリカのジブチへ展開するべきだったと思うのですが。

Img_4586  邦人が騒乱状態に取り残され、そのさなかにそれを想定した訓練を行っていたという事を当事者が知った場合、どんなに冷淡な政府と思われるか考えた事はないのでしょうか。能力がありながらそれを有効に活かさないで、万一の際は責任を取る覚悟はあったのでしょうか。

Img_4612  さて、初の邦人輸送訓練が行われたのは1999年11月、前年の1998年にインドネシアにおいてスハルト政権が民主化暴動により崩壊したことで急激に治安が悪化し、隣国へ航空自衛隊輸送機が展開し、海上保安庁の巡視船が救出へ出動した事案の記憶が残っている頃に実施されました。

Img_4627  海上自衛隊が主訓練部隊として実施され、三浦半島周辺海域を中心に演習が展開されました。護衛艦へのヘリコプターでの緊急輸送や搭載艇による沖合の艦船への輸送が行われまして、第1空挺団から邦人を安全に誘導し警備を行う誘導隊が編成され訓練に参加、自衛隊初の特殊任務部隊として注目を集めました。

Img_4640  邦人304名を輸送するのに輸送ヘリコプターや輸送艦を用いず護衛艦3隻と掃海母艦、補給艦のみで実施したため五時間以上を要したそうですが、ここから第一歩が始まったとのことです。2002年の邦人輸送訓練は東北方面隊から第20普通科連隊が厚木基地へ展開して演習を実施しています。

Img_4645  これをもって誘導隊の編成は第1空挺団の専売特許では無く、各師団や旅団が持ち回りで対応できるようになっているとのことで、2006年ごろから第10師団や第3師団の駐屯地記念行事等でも誘導隊任務に対応できる戦闘防弾チョッキ2型や防弾用盾、近接戦闘用のゴーグルといった装備を有しているところが公開されています。

Img_4431 邦人救出という実任務は最初にイラクでの復興人道支援任務に際して情勢悪化を背景に報道陣を安全な第三国への輸送任務がその最初の事例となりました。周辺事態法が成立した1999年と比べ自衛隊の任務範囲は、イラクでの復興人道支援や対テロ戦争インド洋海上阻止行動給油支援、ソマリア沖海賊対処任務というような、危険なものが占める割合が増えました。

Img_4479  その以前に実施された任務も危険ではありましたがタケオ県でのカンボジアPKOやモザンビークPKO,ゴラン高原派遣と戦争に遭遇される可能性よりは非戦闘地域と言える地域への派遣と言えて、例外はルワンダ派遣等でしょうか。近年は緊迫度の高い、ルワンダ派遣のような緊張度の高い任務が増大していまして、その任務範囲も大きく広がっています。

Img_4557  このため、多様な任務をより広い地域において対処するために航続距離の大きいB-747の参加が行われた、と今回の訓練では見る事が出来ないでしょうか。もっとも747は着陸できる滑走路が限られ、機体自衛装置もC-130Hのようなものが搭載されていないため、この点は問題になるのですが。

Img_4626  B-747の参加、もう一つは自衛隊機の行動半径の増大への対応の下準備という事もあるのでしょうか、長距離の人員輸送にも期待されているKC-767空中給油輸送機の第一線配備や現行のC-1輸送機に代わる大型で航続距離の大きいC-2輸送機の開発なども自衛隊の任務範囲や能力の増大に加えて求められる任務遂行能力の強化にも反映されることになるのでは、といえるでしょう。

Img_4576  ともあれ、この種の演習が想定している事態はいつ具現化するか分からず、訓練中に展開されたチュニジア事案もこの範疇に含まれるのかもしれませんが能力は高く維持する必要があります。他方で政治は自衛隊の能力をしっかりと把握し、有事の際には国家の財産である彼らの能力を活かせるよう采配が必要と考えます。

HARUNA

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コメント (2)
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