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映画『土と兵隊』(田坂具隆監督:1939) 『天皇皇后と日清戦争』(嵐寛寿郎主演:1958)

2011-01-03 23:10:48 | 映画

◆名画365日

 ここ一年間の映画を、というのが今回の記事の趣旨なのですが、どうも現在制作されている映画は邦画ではテレビの派生、洋画の多くは人件費の肥大化をCGでカバーしているという作品が多いという印象があります。そこで少々古い作品を中心に紹介。

Img_1555  日本映画で初めて世界三大映画祭であるヴェネチア国際映画祭において評価を受けた田坂具隆監督の作品、『土と兵隊』、1939年の作品ですが昨年初めてDVDを入手出来まして鑑賞しました。本作はヴェネチア映画祭受賞作品『五人の斥候兵』に続く戦争ドキュメンタリー作品。日中戦争における一方面の作戦を第一線の兵隊から見たというドキュメンタリータッチの作品なのですが、偉い人は訓示をしたりするだけで、将校といえば工兵中尉、主役は血の通った人間で、人間味に徹しているなかで攻撃前進や火力拠点攻略、敵前渡河から行軍、長い待機に束の間の休息までを見事に描き切っています。

Img_1556  戦前や戦時中の映画では今の日本映画では再現不可能なほどに火力の展示に迫力があるのですが、小銃は勿論、大隊砲や機関銃、軽機に擲弾筒等が実弾を発射し、火力は昨今の特殊効果で定番のセメントやガソリンを一切用いない、本当の火力を見る事が出来る作品です。その一方で驚かされるのは、この種の映画にありがちな国策の繰り返しなどが無く、本当に最前線の雰囲気を描ききるところに徹しているところが特色でしょうか。比べればコレヒドール戦記やサハラ戦車隊と同じくらい、政治色は薄い、違和感無く見れる作品。

Img_1551  出演は小杉勇、井染四郎、見明凡太郎ほか。小杉勇氏は刑事物語や特別機動捜査隊の監督等で知られる方ですが、見明凡太郎氏は大岡越前シリーズで奉行役を演じていたところは時代劇ファンの知るところでしょうか。新東宝の『戦艦大和』では酒好きの軍医長、大映『大怪獣決闘ガメラ対バルゴン』では中部方面総監を演じているのは特撮ファンとして思い出す方もいるのではないでしょうか。本作は『五人の斥候兵』でヴェネチア国際映画祭大臣賞を受賞したのを契機に創設された日本映画総合賞を受賞しています。火力で圧倒する日本軍といいますか、日本が最も軍事的に強かった時代、最前線はどういう空気であったのかを知る一助にはなる作品だろう、と多くの人に勧めるとともに、昨年最も記憶に残った一本でした。

Img_1569  『天皇・皇后と日清戦争』、嵐寛寿郎主演の新東宝映画作品で、観客動員数2000万を記録した『明治天皇と日露大戦争』に続く明治天皇の偉業を示す映画。実はDVDを入手できるという事になったのですけれども、少々悩みました、本作は1958年の新東宝映画で、新東宝が東方から分裂する過程や当時の戦争映画全般を考えますと、果たして大丈夫な作品なのか、日露戦争は『坂の上の雲』とともに昨今も関心が集まっている作品で、東宝の『日本海大海戦』を始め多くの作品で描かれているのですけれども、天皇陛下をどう描くかは多くの東宝映画が慎重を期している、そんななかで明治天皇を主人公とした映画は、不敬、観た後で違和感が残るのではないか、と。しかし杞憂でした、名画です。

Img_1571  KBS京都の中島貞夫邦画指定席をご覧の方には馴染みが深いでしょうアラカンこと嵐寛寿郎が明治天皇、高倉みゆきが昭憲皇后を演じ、日本国家が初めて経験する近代戦争へ臨む様子を黄海海戦、平壌攻略、旅順攻防戦等の戦闘場面を通じ描いている作品。高潔で仁愛を醸す人格という描かれ方は、その人となりから大帝と慕われる所以を知ることが出来、下関条約や三国干渉までも描いた結末を経ても清涼感が残ります。日清戦争の長唄が途中入るところにはやや慣れないのですが、特撮と大型セットによるロケによる戦闘シーンは迫力で、高島忠夫、宇津井健、中山昭二、天知茂、藤田進ほかオールスターの出演にて、指揮官や外交官、最前線で運命に翻弄される将兵を描く作品、迫力もありますが清涼感も大きい作品でした。こちらも人に勧められる一本でしたね。

Img_1526  『日本敗れず』、新東宝が1954年に公開した映画で、監督は『戦艦大和』の阿部豊監督が製作した作品、1945年8月15日の終戦詔勅を巡る陸軍部隊の反乱を描いた作品で、名優早川雪舟が陸軍大臣を、藤田進が東部軍司令官を演じた作品なのですが、なんと『日本のいちばん長い日』を脚本がそっくりなのです。昨年最も驚いた作品はこの一本でしょうか。御前会議から玉音放送の録音、しかし終戦を回避しようと青年将校の反乱を描いた作品は淡々と、しかし秘めた兇情に近い心情とともに、その時何があったのか、描いているのですが前述の通り、後年の作品には原作があったのか、と驚いています。阿部監督の作品は半世紀以上のちに『男たちの大和』でリメイクされていますが、こっちのリメイクは失敗でした。

Img_1558  映画全般と言いますと、昨年はディアゴスティーニが隔週で東宝特撮映画を発売するようになっていまして、このシリーズのおかげで今まで見る事が出来なかった作品を正規のDVDと比べれば半額以下で購入できるようになりました。既に書架に揃っている作品は重複しないように避けますが、こうした書店で買えるDVDの御蔭で映画が今まで以上に身近になりまして、このほかパブリックドメイン化され格安DVDで購入できる半世紀以上前の洋画等も増え、大画面の薄型テレビ普及とともに映画に親しめる環境が身近になっていることは嬉しいです。

Img_1566  『旅するジーンズと16歳の夏』、『旅するジーンズと19歳の旅立ち』、先日BSでも放映されていたようなのですがアンバータンブリン、ラスタンブリンの娘さんなのですが、出演しているという事で購入しました。2005年と2008年の作品なのですが幼いころから四人一緒だった少女が16歳の夏休み、初めて別々の場所で過ごそうというそんな時、どんな体系にでもフィットする魔法のジーンズを入手するところから話は始まります。一週間ごとにこのジーンズをシェアすることを約束に、別々の夏を迎えるという作品、吹き替えに坂本真綾さんや小松由佳さんが出演していて、そういう意味でもお勧め。

Img_1522  『ロストコマンド』、これは過去にも紹介したのですがアンソニークインとアランドロンの映画、テーマ性や迫力を上手く織り込んだ作品で、ここ数年に見た作品では最も勧められる映画です。ここまで古い映画ばかりなのですけれども、映画館へは足を運ぶ事も少なくないのですが、しかし、三十年後五十年後に残りそうな作品というと、不安になりますね。ドラマの劇場版などは、まずドラマ本体が映像ソフトとして数十年残るのは容易ではありませんし、CGに頼り過ぎているというのは、まず一つ十年前に製作されたCGを今見ると陳腐さに愕然と来ますが、数年後には今日数百万を要した映像も数千円のソフトで出来るようになってしまいそうで。

Img_1588  この最近ですとスピルバーグの『シンドラーのリスト』、暗い映画ですが、考えさせられるものです。しかし、シンドラーの軍需工場は別としてゲート所長、昔映画館で観た時は少佐だと記憶していたのに少尉にしては権限が、という以外は暗い時に観たい一本。『未知への飛行』、ヘンリーフォンダ主演の作品で、舞台は米ソ冷戦下の60年代、防空管制コンピュータの不具合からB-58飛行隊にソ連への全面核攻撃命令が出てしまい、超音速爆撃機へ命令撤回を伝える事が出来ず、大統領は世界を護るために苦悩の決断を下す、という作品。

Img_1577_2  古い作品を中心に紹介してきたのですけれども、ここ最近の作品は『ヒトラー最後の十二日』や『ダークブルー』といった数年前の作品、『ブラックホークダウン』も良かったですね。しかし、京都市内では朝日ビルの映画館を始め幾つか潰れてしまったので、これからはどうなるのでしょうか。しかし、『空軍大戦略』のように英国本土防空戦を実際の機体を復元して状況を再現しようとしたり、そういう苦労はCGで済ませてしまうのか、それとも客寄せの道具にして小道具大道具が脇役をはみ出してしまっている作品も結構多くなってしまったような気がします。

Img_1578_2  また、詰め込み過ぎの映画が多くなったかな、と。歴史は大河、といわんばかりにドキュメンタリータッチで描く作品は、途中に地図が欲しくなる『遠すぎた橋』等あるのですが、あれは良かったです。ですが最近の作品はどれだけでもリアルに描けるようになっているので観ていて疲れるのですよね、迫力で圧倒してしまって落ち着いて考える時間も無い。観た後は、ああ凄かったで終わってしまう、昔はそういう作風は余りなかったように記憶します、これ、映画の製作費が大きくなって配給の関係で一定以上の内容を盛り込める作品の本数が限られているので、政策側か配給側か、一本に盛り込むものを多くしてしまおうとして、結果深みが無くなってしまうのでしょうか、観ていて疲れるし、聞き流せない。

Img_1580_2  『マルタ島攻防戦』なんかをみると、カメラアングルと映画音楽でかなりの工夫が出来るようでして、アングルの工夫が最近の作品からは消えてしまっているのかな、と。こういうのは数を創らなければスタッフも慣れないのかもしれませんし、映画音楽も、まず作曲家というジャンルが洗練されすぎてしまって、薄っぺらになっているのではないでしょうか。ううむ、しかし昔の映画はカメラ技術が途上だったからこそアングルの研究が進んだのかもしれませんし、昔は不可能だった描写を今日出来るようになっているのですから、これはどうなるのでしょうかね、それとも当方の単なる懐古趣味か。

Img_1589  日本映画ですが最近は映画会社が配給に徹している関係でテレビの延長線上のような作品が増えてしまったようで、これが残念です。某都知事が戦争映画に挑戦したものもあるのですが、それを含めて色々と観た感想では、やっぱり戦争映画に限って言えば戦争経験がみんな無いので、昔みたいに説得力が無くてその分は説教力で代えようとしている、おじいさんがそういう事言ってるから多分そうでしょ♪、と描いているようで、日本は戦争映画、もう少し考えた方が良いかもしれないと毎回思います。

Img_1563  空の境界、映画中々良かったのですが終章が間もなく発売とのことです。しかし、映画では無いのですけれども、無理してアニメーションの実写化を行うと、どうしても転ぶ傾向があるので、こういう部分が気になるのかな、と。Fate劇場版ですが、三部作くらいにしてよかったようにも。しかし、映像化はどんどん進むようで、こっちは今後期待ですね。ZEROはテレビアニメ化なのか、劇場版なのか、気になりますが、こちらは話が少しそれてしまいました。今年はどんな作品に出合えるか、楽しみです。

HARUNA

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コメント (4)
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