北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ウクライナでの戦術核使用懸念,仮にロシアがウクライナ戦争で実戦使用した際に想定される憂慮すべきシナリオ

2022-10-01 20:01:41 | 国際・政治
■核抑止均衡破綻の恐怖
 現実に在り得ることならばその蓋然性に応じて考えたくない事でも考えねばなりません。

 核兵器が使用された場合は国際公序はどのように変化するのか、考えたくはない事ですがロシア軍が戦術核兵器を実戦使用した場合のマクロな影響を考える必要があります。ミクロな威力としては未知数です、いやロシア軍のNBC防護装備状況を見ますと一次被曝以上に二次被曝の影響はウクライナ軍以上にロシア軍の影響が酷い事になるのかもしれません。

 ウクライナ軍は核防護装備についてはそれ程充実していない可能性はあります、特に暴露した補給物資や非装甲車両等については核兵器は絶大な影響を及ぼします、他方でBMP-1装甲戦闘車やアメリカが供与したM-113装甲車などはNBC防護能力がありますので、核兵器は軍隊が密集している地域に投射される事で威力が大きく、分散が重要となるのです。

 機械化部隊は集合分散を迅速化している事に意義があり、特に15キロトン規模の戦術核兵器は2km離れていれば装甲車内や掩蔽壕等に退避している事で生存性は高くなります、ウクライナ軍は今年7月までゃ深刻な装甲車両不足に悩まされていましたが、欧米と豪州が供与したかなりの数の装甲車両がこれを補う事となりました、状況は随分変わったのです。

 しかし、これはミクロ的なものであり問題は世界政治に及ぼす影響です。1953年に朝鮮で使用の懸念、1956年の第二次中東戦争では戦術核の使用が真剣に検討され、1962年のキューバ危機では回避出来たのは僥倖であった程に使用が切迫していた、1973年第四次中東戦争では秘密裏に保有した核兵器を使用直前としたことが危機回避の端緒となった、等など。

 決定的に異なるのは、戦術核兵器はこの状況でも結局使用されなかった、ということです。故に核兵器が実戦使用されたのはアメリカが唯一核兵器の開発に成功した直後の広島と長崎であり、これ以降に複数の国が核兵器を保有する様になりますと、核抑止力の均衡、こう説明されるものですが核による反撃の懸念が核兵器の使用を思いとどまらせてきました。

 核抑止の均衡が破綻するのではないか、これは核兵器を政治的テーマとして扱った1984年の東宝映画“ゴジラ”において小林桂樹氏演じる日本の総理大臣が戦術核兵器使用を前に反論した内容と重なるものです。つまり一回使われてしまいますと、どの状況ならば戦術核兵器使用が全面核戦争に繋がらないのか、という次の使用への基準が示される事となる。

 次の核兵器使用への基準、これこそが懸念すべき問題です。仮にもし実戦使用されるならば、軍隊を狙った軍事目標主義であった場合でもどの程度の民間人への付随被害が、各兵意による報復を招かないのかと受容限度をしめしてしまうこととなりますし、一回使用され、核兵器による反撃が無いならば、核兵器保有国は実戦使用の有用性を実感するに至る。

 楽観要素をこの状況から見い出すとしますと、ウクライナ軍へ機械化装備と核防護資材を大量供給する事で、核兵器を使用したものの効果が無かった、という状況を作り出す、若しくは相手に使用しても効果が無い事を突き付け、核兵器を使用する事によって得られる軍事的成果より、使用する事で国際信条の失墜や次の経済制裁の大きさを突き付けるか。

 ただ、これも楽観要素過ぎるといわれるかもしれません、次の核兵器使用を示唆しても相手は戦術核兵器を大量に保有しているのですから、効果が出るまで次々と使うという選択肢があるのですし、前線の核防護装備が充実しているならば、策源地、つまり港湾都市や政経中枢都市を核攻撃し、ウクライナ政府からの民心離反を狙う可能性さえ否定できない。

 マクロ的に懸念するのは、核兵器を使用される事により、却って“核兵器への恐怖”が“核兵器を保有しない事で核攻撃される恐怖”に切り替わる可能性です。少なくとも、今回もしロシアが核兵器を使用したとして、ロシア政府がこれを契機に核兵器を放棄する事は考えにくい、それよりも使い切るまで継続する、全面核戦争へ一歩進む脅威の方が大きい。

 核軍拡と核拡散の同時進行、懸念するのは上記の核兵器への恐怖が核兵器を持たない事による恐怖に切り替わり、核開発が世界へ拡散する脅威です。保有国が増えるならばそれだけ使用される懸念も増大し、一発の核兵器が使用されるだけでも世界が変ってしまう懸念が大いにあるのです。間の悪い事に現在の核軍縮国際公序は、転換点の最中にある故に。

 核兵器禁止条約、これは過去にも懸念を示した事ですが、核兵器保有と核開発を禁止するが批准国へ査察も行わず核開発への罰則も無い、これが査察と罰則で核開発を封じてきた核不拡散条約と競合する関係にあり、前者に加盟したまま極秘裏に開発する道が残されているのです。仮に使用されたならば、この前提での安全保障視座を考えねばならない、危機感があります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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