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アフガニスタン邦人救出命令発令,現地孤立邦人500名救出へC-2輸送機とC-130輸送機を派遣

2021-08-23 20:08:54 | 国際・政治
■邦人救出!自衛隊アフガン派遣
 自衛隊が遂にアフガニスタンへ派遣されます、それは政府崩壊で悪化する治安情勢を前に在留邦人と大使館現地職員の救出任務の開始を意味します。

 アフガニスタン情勢の急激な悪化を受け、政府は本日、航空自衛隊輸送機の派遣を決定しました。加藤官房長官は記者会見において出国を希望する邦人を迅速かつ安全に対比させるためとして自衛隊輸送機を現地に展開させ、調整がつき次第輸送活動を開始すると発表しています。外務省は在留邦人の正確な人数を発表していませんが、500名程度という。

 C-2輸送機1機とC-130H輸送機を2機派遣、加藤官房長官の発表では自衛隊機3機が派遣される事となります。最初の1機は本日夕刻にも派遣されるとしており、既に出発した可能性もあります。C-2輸送機は鳥取県美保基地に、C-130H輸送機は愛知県小牧基地に配備され、過去C-130Hはこの種の任務に参加しましたが、C-2は初の邦人救出任務となる。

 自衛隊法84条。邦人救出については自衛隊法84条に明記され、戦闘地域での救出は不可としていますが、2013年の安倍政権時代の法改正により、救出部隊が襲撃を受けた際には事実上の自衛戦闘が可能で、保護下の邦人のみ攻撃を受けた場合でも対応が可能になりました。ただ、アフガニスタンの首都カブールは、今も非常に緊迫した状況が続いています。

 武漢コロナCOVID-19邦人緊急退避では、全日空のチャーター機が飛行しました。しかし、今回は自衛隊機が派遣されます、これはカブール国際空港周辺で散発的に銃撃があり、また空港入り口付近では銃撃戦も発生しているほか、カブール騒擾を受けISILによるテロの懸念などもあり、民間機では対応できないのです。空港はアメリカ中央軍が管理している。

 駆け付け警護、当時の自衛隊法改正では戦争準備であるとして大問題となりましたが、1992年のカンボジアPKO任務では、駆け付け警護が不可能であった為、保護下にある人員が攻撃を受けた際には、防弾チョッキを二重に装着した隊員が銃撃に飛び込み、自衛戦闘の要件を確立させるという、人命無視も甚だしい訓練が自衛隊派遣要員に強いられています。

 邦人退避輸送。自衛隊では紛争地に邦人が取り残される危機的状況に対応するべく、1999年11月に初の“在外邦人等輸送訓練”を開始しました。今では信じがたい事ですが自国民を救出する際にも1990年代までは自衛隊派遣が憲法違反であると考えられ、基本は自己責任、例外として任務には警視庁SAT特殊急襲部隊などが対応すると考えられていました。

 自衛隊による邦人救出が訓練の形で実現した背景には、1998年3月のインドネシア暴動が背景に在りました。インドネシアでは1997年アジア通貨危機による景気後退を前に政府の無策が大量の失業者を生み、1998年3月に当時のスハルト大統領が直接選挙理ではなく国民協議会により七期目の大統領職に就いた事で大規模な暴動が発生、無政府状態となる。

 インドネシア暴動では、航空自衛隊のC-130輸送機を友好国タイのウタパオ航空基地へ進出させると共に、海上保安庁巡視船やしま、をインドネシアへ派遣しています。巡視船が派遣されたのは不思議に思えますが、これは当時の自衛隊法で邦人救出に輸送艦など艦艇の使用が禁止されていたためで、やしま船上には精鋭SST特殊警備隊が派遣されました。

 アルジェリア邦人襲撃事件。邦人救出を更に一歩進める事態となったのは2013年1月に発生したアルジェリア邦人襲撃事件で、アルジェリア国内の天然ガスプラントがアルカイダ系テロリストに襲撃され、警備のアルジェリア軍が突破、邦人10名を含む外国人41名が人質となり、邦人の大半が殺害されています。当時日本の国内法に打つ手はありません。

 事件を受けての自衛隊法の改正により、これまで自衛隊は邦人救出任務において、戦闘地域外にある飛行場に自衛隊機が派遣され、安全な飛行場まで、邦人は戦闘地域を突破して自力で移動しなければなりません。正規軍同士の戦闘であれば、湾岸戦争のフセイン政権のような外国人人質を捕る国を例外として、旅券を提示すれば邦人は標的となりません。

 邦人が戦闘地域を突破、これは現実的ではないとして法改正が行われ、2013年11月15日に自衛隊法が改正、戦闘地域から空港までの輸送を自衛隊が対応できる事となり、万一の際には破棄する装備としまして、オーストラリア製装甲機動車輛ブッシュマスターが輸送防護車として緊急採用、宇都宮駐屯地の中央即応連隊などに8両が集中配備されています。

 カブールでの邦人救出ですが、しかし課題が余りにも大きすぎます。恐らく中継地となるアラブ首長国連邦ドバイなどとカブール国際空港をピストン輸送するのでしょう。C-2輸送機を多数派遣しても良いとは思うのですが、肝心のC-2輸送機の生産が縮小しており肝心な時に数が足りないという、財政再建器用貧乏が国民の生命に関わる状況となっています。

 C-2輸送機とC-130輸送機、C-130輸送機で航続距離が対応するのかについては、各国がC-2輸送機と同程度のエアバスA-400M輸送機や大型のC-17輸送機に加えて、例えばニュージーランド空軍が自国民救出へC-130を派遣していますので、航続距離については対応できるのでしょう。では輸送防護車でカブール市内を移動か、というと、これは難しい。

 カブール国際空港は旅団規模のアメリカ軍部隊により万全の警護となっていますが、アメリカ軍はタリバーンとの戦闘を回避する為にカブール国際空港敷地外での自国民救助を実施していません、ヘリコプターを用いて空港から救出を実施しており、この状況で自衛隊車輛だけが空港の外に展開する場合には、輸送防護車ではまったく安全が確保できません。

 UH-60JA多用途ヘリコプターをC-2輸送機に搭載し派遣する必要があるように思います、こういうのもカブール国際空港付近はタリバーンが交通統制しており、この中で空港からアフガニスタン脱出を望むカブール市民が多数押しかけ、既に圧死など少なくない死者も出ています。邦人が既に空港内で待機しているのならば話は別ですが、陸路は現実でない。

 パキスタンへ自衛隊輸送機でヘリコプターを派遣した事例が過去にあります。これは2005年10月8日に発生したパキスタン地震、死者7万名という巨大災害に対して国際緊急援助法に基づく自衛隊派遣で、山間部の被災地にヘリコプターが必要と判断され、C-130H輸送機4機を動員しUH-1H多用途ヘリコプター6機を二度に分け機内に搭載し派遣しています。

 C-2輸送機最初の一機が1830時頃、入間基地にて必要な物資を搭載し離陸、美保基地を経由し今夜中にも出国するとのこと。早ければ今週末にも邦人輸送を開始するとしており、これは美保基地からそのままカブールへ飛行するのではなく、一旦ドバイ等、経由地に向かう事を意味しています。米軍は来週火曜日にアフガン撤退完了するといい、時間は僅かです。

 戦闘に巻き込まれる可能性は充分有る、これは本日23日、アメリカ軍とドイツ軍がカブール空港防衛へ戦闘に参加する緊迫した状況があったためです。具体的には現地時間本日0413時、正体不明の武装勢力がカブール国際空港を襲撃し、アフガニスタン人警備員と戦闘となる事態が発生、ここにアメリカ軍とドイツ軍が支援に戦闘加入したとのことです。

 カブール空港防衛、これは2017年の南スーダンPKO自衛隊派遣に際し、自衛隊宿営地が国際空港に近く、駆け付け警護の必要性が在った為の自衛隊法改正が行われ、これが自衛隊の侵略行動に繋がるとして大きな国会論争となっています。今回の任務は恐らく、邦人だけの輸送で終わるとは考えにくく、同盟国や友好国関係者輸送も求められる可能性が。

 邦人輸送を仮に空港まで自力避難とし、空港内に限定した場合でも、空港内に日本受持ち区画等が指定される可能性もあります、この場合に、近傍で必要が生じた場合には、いわゆる駆け付け警護が求められる可能性もあり、政治は現場に無理な判断を押し付けぬよう、万全の準備とともに臨める体制の構築が求められます。戦後初の戦闘、その覚悟を持たねばなりません。

 ドバイ国際空港はアフガニスタンから次々と空路退避する避難民で溢れ一時受け入れ中止する状況や、オランダ軍が派遣した輸送機へ空港内の警戒が厳しすぎてオランダ国民が一人も乗れずアメリカ軍が振り分けた第三国の避難民のみで離陸しオランダ政府が抗議する一幕もありました。しかし、難しくとも邦人の他に現地協力者の方の輸送も含め、成功させねばなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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C17が欲しかったですね (ドナルド)
2021-08-23 23:56:10
「C2がもっと欲しかった」とは思いません。同額で、より性能の高い、C17を買っていればよかったと、正直思います。そうであれば、受け入れ態勢が確実なので、より早く派遣できたでしょうし(各国が採用しているため、現地でのC17の整備サポート体制は万全)、1ソーティーで2倍の輸送ができ、言い換えると22機ではなく14機ほどで所用を満たし、余った予算で色々な物を購入できたかと思います。例えばP-1とか。
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