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河野防衛相イージスアショア秋田山口建設中止発表!SM-3ブースタ安全落下技術目処立たず

2020-06-15 20:11:43 | 防衛・安全保障
■ナイキミサイル以来の課題
 イージスアショアミサイル防衛システムの秋田県と山口県への建設を中止する事が先程、河野防衛大臣により発表されました。

 河野防衛大臣は今日1730時過ぎに行われました記者会見において、新型ミサイル迎撃システムイージスアショアの建設計画について、現在進められている秋田県と山口県へのイージスアショア建設を中止し計画の停止という方針へ転換した事を表明しました。イージスアショアは2基の建設が防衛計画の大綱に明示され、その建設計画が進められてきました。

 秋田県と山口県へのイージスアショア建設中止、この背景には両県に所在する臨海部の陸上自衛隊演習場へ建設する計画でしたが、発射するスタンダードSM-3は1300kmという長射程の迎撃が可能である一方、ブースターを有する多段式の迎撃ミサイルであり、有事の際に実際に迎撃を行う際、分離したブースターを自衛隊敷地内へ落とす事が求められる。

 防衛大臣による建設中止表明は、現在のミサイル迎撃システムではプログラムを書き換えた場合でも正確にブースターを特定地域に落下させることはできません、この為、システムではなくミサイル本体の再設計が必要となり、当面はイージス艦とブースターを持たないペトリオットミサイルPAC-3により脅威へ対応する事とし中止を決定した、とのこと。

 陸上配備型イージスシステム、イージス艦の陸上版です。北朝鮮弾道ミサイル実験の異常な増加と共に、北朝鮮による水爆実験の成功と弾道ミサイルへの核弾頭小型化、要するに日本の都市部へ水爆を内尾む事が可能となりイージスアショアは日本本土が広島長崎以来の核攻撃の脅威に曝されるという現実的な脅威を受け、迎撃手段として選定されています。

 イージスミサイル防衛システムについては、日本側が大きな信頼性を置いています、何故ならばブッシュ政権時代にイージスミサイル防衛システムが本格的に動き始めた際、その主導権の一端を担ったのはほかならぬ日本で、1998年の北朝鮮ミサイル実験にて東北地方上空をミサイルが通過、日本が最初から開発に関与し必要としたシステムであるためです。

 THAAD高高度終末段階迎撃システム。イージスアショアと共に政府は弾道ミサイル迎撃システムにアメリカ陸軍が開発したTHAADを検討しました、既存のペトリオットミサイルでは准中距離弾道弾の落下速度を迎撃できない為に新しいシステムが求められたわけですが、THAADは射程250km、命中直前の最終段階で迎撃できるシステムという候補でした。

 スタンダードSM-3,実はこのTHAADと比較した場合、イージスアショアは放物線を描いて飛来する弾道弾の頂点段階で迎撃するミッドコース防衛システムであり、サッカーで例えるならばTHAADはゴールキーパーに当りますが、イージスアショアから発射するSM-3はミッドフィールダーでしかない事が、つまり最後の段階を護れない事が一大課題でした。

 スタンダードSM-6,しかし技術というものは進歩するものでして政府がTHAADを退けイージスアショアを選定した後に、終末段階を迎撃するスタンダードSM-6改良型が開発されます、これは射程370kmの対航空機対巡航ミサイル迎撃用の艦隊防空ミサイルですが、空母などを狙う対艦弾道弾脅威等を受け、終末段階防衛が求められ、改良し開発されたもの。

 しかし、イージスアショアはTHAADと比較し優位性が指摘されたのは、システム構成費用がイージスアショアは650億円であるのに対しTHAADは1250億円に達し、そしてSM-3は射程が大きく2システムで本土を防衛できますが、THAADは射程の関係から7システムの取得が必要であり、最終的にTHAADは費用対効果の低さ故に落選したという理由も。

 ただ、イージスアショアの650億円という見積は遥かに低い事が判明します、もともと費用概算はイージス艦からイージスシステムを除く艦砲やエンジンや船体建造費を省いたものです。しかし、まさか電力を民間電力に頼れず、また土地造成費用も必要であり、その総合建設費は倍以上に上る事が判明しています。そして建設用地選定にも問題が生じます。

 秋田県と山口県への建設は、二基で日本全土を防空するという前提で転用可能な自衛隊用地を探すとして選定された場所ですが、用地選定がずさんで、特に周辺への住宅地の存在や高出力のレーダーによる電磁波人体影響等もあまり考えられていませんでした。この為に再精査を求める声が自治体にあり、一旦建設したらば移動できない為に深刻な問題です。

 中止となったブースター問題、もっともこれはナイキミサイルでもあった問題なのですね。現在のペトリオットミサイルにより解消こそされましたが、あのミサイルもブースターで上昇し弾頭を切り離し航空機等を迎撃しました。当然切り離されるブースターは落下していたのですが、過去ナイキミサイルの配備に対し、ブースターで問題とはなっていません。

 ナイキミサイルで問題とはならなかったブースターではありますが、しかしスタンダードSM-3は中間段階を迎撃する為、弾道ミサイルが真上を飛翔した場合は発射施設周辺に落下するのではないか、という危惧もある意味、全くないとは言えません、ただ、核攻撃による大量の人命の脅威とブースター落下で怪我や事故の懸念を秤に掛けられなかっただけ。

 しかし、どうしても核攻撃から多数の人命を守るという視点からは、ブースターの問題はなかなか考え及ばなかったという事もあるのかもしれません。個人的には上掲の建設費高騰も含め、例えばイージス艦をイージスアショア建設費を転用する形で3隻増強し、自衛艦隊直轄のミサイル護衛艦のみの第9護衛隊として運用してはどうか、とも考えるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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5 コメント

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Unknown (軍事オタク)
2020-06-16 14:07:15
陸上自衛隊の中SAMもブースターがあるから同じですね。
まあ中SAM改ではブースター無しだが。
問題になっていない、知らないだけ、左翼が騒がないだけだね。
現状は可能性が少ないが、有事にブースターが落ちてくることは国民としては受け入れなきゃいけないことです。
有事の場合は特に公共の利益が優先されます。
水爆ミサイルや核ミサイル着弾で数千万・数百万人が亡くなるのとブースター落下被害とで、とどちらが被害が桁違いに少ないか小学生でもわかります。

もし迎撃ミサイルのブースター落下による被害が出たら損害を国が倍賞するのです。

極端な言い方をすれば、
戦車砲弾・機銃の跳弾で被害が出る可能性があるから戦車や機銃の装備は反対!
飛行機もヘリも落ちるから配備反対!
なんでも反対!
となる。
戦後75年間一度も敵向けて銃弾もロケットもミサイルも発射していない我が国で、
なぜ反対!反対!とだけなるのですかね?
本来なら逆に、核攻撃からの国土防衛の切り札配備ですから、反対どころか是非配備して~
となるべきです。
もちろん周辺地域には補助金や基地対策を施してですね。

残念ながら現状は、
中国等の工作活動による日本の左翼の基地反対運動等、我が国を弱体化させている力に、
マスコミを含めて国民が協力しているのが実態ですね。

戦後、
GHQや日教組教育などの利己主義教育による、
自由だ自由だ!自分だけ良ければいい!
理論の刷り込みも入ってますかね。

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Unknown (KGB tokyo)
2020-06-16 18:14:31
元々イージスアショアには反対でしたので、今回の河野防衛相の英断を歓迎します。
24時間迎撃態勢取るには固定ミサイルサイトは、一見効率的ですが、長距離攻撃兵器がHi Lo多様化する中、アショアのような大型固定施設は格好の的です。
それらに対する防御対策には更なる巨額な費用が必要です。
代替え策としては はるな様も言われるようにSPY6イージス艦追加建造、更にTHAAD復活!
これらの組み合わせの方が、運用の冗長性も確保できるでしょう。
また米からも指摘されるように、専守防衛など成り立たず、CPも悪すぎで、攻撃力強化による抑止が重要!
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Unknown (市民のミカタ)
2020-06-16 21:52:58
平和市民の反対により
軍備の強化が阻止されたことを祝福する
返信する
Unknown (市民のミカタ)
2020-06-16 21:54:55
>軍事オタク

日本の巡視船により朝鮮人民が殺されたことをわすれるな!
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Unknown (日本海側の市民の視点)
2020-06-17 11:41:36
>朝鮮人民が


あれは武装工作船に乗って停船しなかったからでしょ


そしてもちろん

もちろん向こうの警備船が非武装の日本漁船に何をしたのか、どれだけなくなったかも、知ってますよね^_^
返信する

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