北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

大水害時代にLAV-25とBvS.10が必要だ【2】浮き彫りになったウェットギャップ踏破力限界

2020-07-30 20:10:02 | 防災・災害派遣
■五〇年代巨大水害頻発の再来
 水害は消防に任せるべき、なるほどそれならば自衛隊が防衛出動に際してウェットギャップに面した場合もそうするべきなのでしょうか、問題はこの能力の不足だ。

 水陸両用車両、こう表現しますと特殊車両という印象を与えてしまいますが、浮航能力を持つ装甲車両、と表現しますと基本的な装甲車の不整地突破能力の一つ、と理解することができるでしょう。実際、陸上自衛隊の73式装甲車、350両が量産された装甲車も簡単な浮航キットを装着することで河川などを渡河することができました。特殊ではない。

 ウェットギャップ。河川や湿地などは軍事上で行動を制約される障害と理解されるものなのですが、浮航能力があれば、こうした地形障害を克服することができるのですね。ただ、日本では道路網が発達していますので、このウェットギャップを特殊な障害、架橋などで克服するもの、と認識していたのかもしれません、故に浮く装甲車は今の日本で少数派だ。

 ウェットギャップ、しかし水害による浸水というものが、この認識を改めるようにも考えるのです。その上で、自衛隊の車両がこうしたウェットギャップに根本的に普遍的な対応能力を持つのであれば、水害で浸水している孤立地域へも、水没した地域に直面しても車列を維持したまま準備なしに中隊単位でそのまま展開してゆくことができるのですね。

 水害が今後増大するのか、こう問われますと実のところ水害というものは近年大きく報道されるようになりまして、脅威度合いが大きく認識されているのですが、水害そのものはカスリーン台風やルース台風、伊勢湾台風に枕崎台風や第一室戸台風第二室戸台風で毎年のように千人単位の犠牲者、数千が死亡することもあった1950年代が上といえました。

 気候変動による台風の巨大化や線状降水帯という豪雨の激化、問題なのは1950年代のような数千犠牲者が発生する水害こそまだないものの、1980年代や1990年代までに継続した治水インフラの整備限界や、ダム治水以外の治水の試みの限界というものが水害リスクを激化させているという現状がありまして、それでも水陸両用車大量配備は不要か、と。

 73式装甲車のみならず、この設計に大きな影響を与えているM-113装甲車、世界中で採用されいまも改良型の生産が継続されているアメリカ製装甲車も、こちらは標準装備の車体前面にあります波切板を前にたてて支柱で支えますと、そのまま水上に乗り出してゆくことができました。フランスのVAB,ドイツのフクス、一時期まで水上浮航能力は普通でした。

 VAB装甲車。ライセンス生産ができるのであればLAV-25軽装甲車よりも安価なVAB装甲車でも良いのですが、実際VABとLAV-25は同時期の調達費用で半分程度の取得費用ですので、LAV-25を普通科連隊に一個中隊配備する費用でVAB軽装甲車ならば2個中隊を配備できることとなります、もう少し予算を積み高機動車の後継に充てられるならば理想だ。

 VAB装甲車は機関砲も搭載していません、正確には中隊の火力分隊用として20mm機関砲を背負い式に搭載したものが2両配備されますが、基本は機銃のみ、LAV-25は八輪駆動ですがVABは四輪式、よってかなり簡易な車両、82式指揮通信車を四輪駆動にしたような構造なのですが、こちらも浮航能力が付与されています、そして安価は強みでもあるのです。

 高機動車に浮航能力でもあればと思うのですが、VAB装甲車は簡易な構造である分だけ取得費用を抑えており、フランス陸軍、国防費がかぎられているフランス軍でも3500両を取得できたうえ、1500両を輸出することができたのですね。費用はさておき、LAV-25ならば普通科連隊に中隊単位で、安価な車種ならば2個か3個中隊は必要と考えるのです。

 水に浮く車両が基本となるならば、あたかも火災現場に消防車が駆けつけるように、浸水し通常の車両が行き来できない地域へ孤立地域はもちろん孤立家屋の前に一台一台装甲車を展開させ、タクシーのように被災者を収容することができましょう。だからこそ、虎の様に見ない虎の子の一両二両というよりも、連隊に中隊単位で必要だ、と考えるのですね。

 高機動車や3-1/2tトラックにもスノーケルを設置する必要はあるように思います、予算で問題があるならば標準装備でなくともスノーケルキットとして準備し適宜装着できるようする、2m程度の浸水で車両がある程度行動できるようにしておくならば、水害はもちろん、水陸機動作戦においても沿岸部で立ち往生する懸念は多少なりとも払拭できるでしょう。

 しかし、こうした上で、普通に浸水地域へ進出できる装甲車両を必要と考えるのは、前述のウェットギャップというもの、消防や警察ではハイパーレスキューのような例外をのぞけば、こうした機関は平時のインフラに依拠した活動を想定しているために優先度は低くならざるを得ないのですよね、故に自衛隊がLAV-25やBvs.10を大量配備すべきなのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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2 コメント

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Unknown (軍事オタク)
2020-07-31 13:02:06
陸自の装軌か6輪以上の少なくとも半分以上の装甲車は、
ヨーロッパ諸国の陸軍の様に、浮 航能力付にすべきだと思います。
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やはり、関係ないのでは?: (ドナルド)
2020-07-31 21:13:33
いや、少なくとも水害と、浮航性のある装甲車には、なんの関係もないのではないでしょうか?

・上陸戦闘時の水上航行なら最低限LAV7レベルの浮航性。

・戦闘時の戦略機動を損なう川や浅瀬を渡河するならLAV25やVABレベルの浮航性。

・水害対策なら非装甲の浮航性のある車体や、普通のゴムボート、Rigid Raiderのような汎用のボート。

何度もすみませんが、「水害対策」は「浮航性のある装甲車」とは、全く関係ないと思います。。。すくなくとも私は、水害時にはLAV25やVABに乗って浮航して移動したいとは全く思いません。自衛隊の皆さんがその浮航能力で私を助けに来たとしても、私のいるところに到達できるとは思えません。装甲車は乾いた地面い置いて、天井にくくりつけたゴムボードで助けに来て欲しいなと思います。
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