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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アメリカ空軍:E-3早期警戒管制機後継にE-7早期警戒機導入へ,航空自衛隊E-767後継機選定へ重大な影響

2022-04-30 20:05:07 | 先端軍事テクノロジー
■現代航空戦必須のAWACS
 AWACS空中早期警戒管制機はその有無だけで現代の航空戦闘における勝敗が決定的に左右されるといっても過言でない程に重要な航空機です。

 アメリカ空軍はE-3早期警戒管制機の後継としてオーストラリアや韓国、トルコ、そして続いて近年イギリスも採用したE-7Aウェッジテイル早期警戒機の採用方針を固めました。E-3早期警戒管制機はこの種の機体の草分け的存在で、航空戦には必須、APY-2レーダーを中心とした警戒管制システムは毎年膨大な費用を投じて能力向上をすすめています。

 E-3は優れた機体ではあるのですが、原型となったボーイングC135シリーズは老朽化が進んでおり、その旅客機型であるボーイング707は既に国際航空路線に姿はありません。NATOやフランス空軍、サウジアラビアでは運用が継続しているのですが、イギリスのE-3はE-7に既に置き換えられています。いよいよアメリカでも転換期が来るのでしょう。

 しかし問題があります、E-3後継機が明確となったということは、同時に搭載するAPY-2レーダーの寿命も、アメリカ主導の能力向上プログラム終了という形で明確になるわけです、するとこれはNATOのE-3も先が見えてきたこととなるのですが、機体は違えども、航空自衛隊が運用しているE-767早期警戒管制機もおなじAPY-2を採用しているのです。

 E-7A早期警戒機はボーイング737AEW&Cとして2004年に開発されました、かつてのE-10用技術の流れをくむMESA多機能電子走査アレイレーダーを搭載している早期警戒機です。早期警戒管制機といえば巨大な回転式のAPY-2レーダーを搭載したE-3セントリーや自衛隊のE-767早期警戒管制機が有名ですが、小型であるものの新型の早期警戒機だ。

 オーストラリア空軍が最初に採用、続き韓国空軍やトルコ空軍が採用しています。機体そのものはボーイング737ー700を原形として居るもので元々はAWACS早期警戒管制機として開発されたものではなく、ビジネスジェット機や小型旅客機の早期警戒機型用に開発されたAPS-145レーダーをボーイング737ー700に搭載するという視点ではじまります。

 APS-145はE-2C早期警戒機に採用されているレーダーで麻薬取り締まり任務などにこのレーダーを空母艦載機であるE-2Cよりも機内に余裕のあるP-3C哨戒機やC-130輸送機へ搭載する施策がありましたが、新たに早期警戒機導入の構想がありましたオーストラリア空軍が関心を示し、しかしより高度なレーダーの搭載が求められ、MESAが採用された。

 E-10多機能指揮機、アメリカ空軍はE-3早期警戒管制機の後継としてE-10を開発していた、非常に野心的な航空機で派生型にE-8ジョイントスター戦場監視航空機やRC-135電子偵察機の後継を一手に担う構想で進められています。ただ、2007年、折しもイラク戦争とアフガン、テロとの戦いの戦費嵩む時代に開発費高騰を理由に開発中止となりました。

 ボーイング767-400ER、このE-10はワイドボディ型旅客機であるボーイング767系統の機体に、回転式レーダーではなく機体の胴体下部に巨大なカヌー型AESAレーダーアンテナを装着していた点が特色で、戦場監視型がE-10A,そしてAWACS型がE-10B,電子偵察型がE-10Cとなる計画、500km以遠の索敵追尾能力と識別能力の付与が想定されています。

 E-3早期警戒管制機の後継には、このE-10が再開発されるまでは至らなくとも、もう少し大型の、少なくともナローボディの737系統よりは大型の機体が採用されるものと考えていました、何故ならばE-3の原型であるボーイング707/C137シリーズの機体容量の少なさが問題視されており、ボーイング737はこの707よりもふた周り小型であったためです。

 アメリカは将来発展性を考慮し大型の機体を好む、これは米英共同開発のセンチネルR1電子偵察機において指摘されたことでした。センチネルR1はRC-135電子偵察機やEP-3電子偵察機の後継となる情報収集機をイギリスとアメリカで共同開発する計画で、その原型機は北米カナダのボンバルディア社製大型ビジネスジェットが採用されました。しかし。

 ASTOR計画として開始された共同開発は、ボンバルディア社製グローバルエクスプレスビジネスジェット機を採用することが米英で合意したにもかかわらず、アメリカ側はこの規模の機体では将来発展性に限界があるとして採用を見送り、結果的にイギリスのみが開発費の残りと正式配備の負担継続を行っています、その費用面での負担は並みならぬものが。

 センチネルR1電子偵察機は2021年2月にラストフライトを実施しイギリス空軍での運用を終了しました、イギリスでは2005年に完成しました、初度作戦能力獲得は2008年ですので、13年間は現役にあったのですが、この種の航空機として短命に終わったのは、アメリカが採用せず能力維持改修費用をイギリスだけでは捻出し続けられなかった為といえる。

 E-2D,さて航空自衛隊は早期警戒機の南西方面への増強の必要性から新しくE-2Dを導入開始します。これは、現在E-2C早期警戒機とE-767早期警戒管制機という二機種の装備体系に加えて、E-2CとE-2Dでは別物という三機種の装備体系に移行しようとしている構図なのですが、E-2Dとともに候補に考えられたのがオーストラリアも使うE-7Aでした。

 E-2Dが採用された背景にはE-2Cと整備設備が同程度で、加えて機体規模も同じ空母艦載機である関係上、那覇基地や三沢基地の格納庫を応用できるという強みがある一方、難点として艦載機であるために機内容積は狭く、極論すればトイレにさえ行けないという狭さがあり、性能上空中給油は受けられますが、連続飛行には乗員の面で限度があるのです。

 E-7Aが避けられた背景の一つに考えられるのが、アメリカが採用していないため、R1センチネルのように、近代化改修プログラムの費用が割高になるという問題だったのですが、ここでE-7Aをアメリカが採用する方針を示した、これほど小型の機体を選ぶというのはある種驚きでしたし、整備補給面でもアメリカ空軍で737型はそれほど運用されていません。

 近い将来の自衛隊のE-767後継機にはどう影響するのか。APY-2レーダーの運用はアメリカでもいま暫くは継続するのでしょうが、先は見えています。そして後継機は一朝一夕に決定できるものではありません、特に自衛隊ではボーイング737系統の運用実績はなく、エンジンからして初期型は別として特に700シリーズには該当する機体はありません。

 E-767後継機に、まさかE-2Dを当てるわけには参りません、ストレスは限界があり乗っているのは同じ人間、交代要員区画に簡易食堂と交代者用仮眠寝台のあるE-767は空中給油を受け連続して24時間飛行することは可能ですが、E-2Dに簡易便座装着で座席仮眠のまま12時間連続任務をおこない、その環境で同じ集中力を維持するのは土台無理なのです。

 アメリカは空中給油機に767系統のKC-45を採用しましたので、E-3早期警戒管制機後継機についても767系統のものを採用するのではないか、737のような小型の機体は半世紀単位で運用する早期警戒管制機としては避けるはずだ、こうした考えもあったのですが、自衛隊がE-7AではなくE-2Dを採用したことは、実のところ拙速だったのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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