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ウクライナ支援UNHCR輸送へ自衛隊C-2輸送機-国連のロシア軍Il-76輸送機支援依存からの脱却へ大きな一歩

2022-05-01 07:01:09 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 C-2輸送機によるPKO協力法に基づく初の空輸任務がいよいよ開始されます。そして派遣される機数は少ないのですが自衛隊にも国連にとっても転換点となり得る一歩です。

 航空自衛隊のウクライナ支援空輸支援が1日より開始されます。これはUNHCR国連難民高等弁務官事務所の要請に基づく支援となります。さて今回派遣されるのは川崎重工が誇るC-2輸送機、フェリー航続距離では10000kmの飛行が可能であり、日本から欧州へ直行可能です。そして最大空輸能力は36t、自衛隊では戦車や自走砲以外大半を輸送可能だ。

 C-2輸送機の派遣はPKO協力法にもとづくものであり、このPKO協力法に基づくC-2輸送機の派遣は今回が初めてとなります。もともとC-2輸送機は26tの貨物を搭載し6500kmの航続距離が求められた戦術輸送機であり、従来のC-1輸送機が8tを搭載し2000kmの航続距離という要求性能とは根本から別次元といえる程の大きな性能が要求されていました。

 PKO支援任務、C-2輸送機が開発された背景には、1992年のカンボジア派遣以来一貫して増加傾向にあったPKO任務に際して、航空自衛隊の装備する輸送機は、周辺国に脅威を与えないとの国家政策を反映して空輸能力が低く抑えられており、例えばモザンビークPKOへ空輸をおこなったC-130では片道五日間を要するなど任務に対する能力不足が深刻です。

 このため、航続距離の大きなC-2輸送機が開発されたのですが、自衛隊が最後にPKOへ部隊を派遣したのは2012年の南スーダンPKO,この時期にはまだC-2輸送機は初度作戦能力を付与されておらず、飛行開発実験団などでの評価試験が継続、最大搭載能力37tが補強材の関係で36tとなっていたころです、その南スーダンからも2017年に自衛隊は撤収へ。

 PKO任務は、日本がPKO参加を開始した1990年代とは異なり2002年の南スーダンPKO以降は安保理決議をもって派遣する平和執行、つまり国連軍としての要素が濃いものとなっていて、日本の自衛隊法では集団的自衛権公使の観点から簡単に派遣できないものとなってゆき、周辺情勢緊迫化などとあわせ、2017年以降、部隊としては派遣できていません。

 UNHCRの要請に基づくウクライナ周辺国への人道支援物資輸送支援は、ようやくC-2輸送機が平時における本来の用途に追いついたといえるのかもしれません。一方で、国連がなぜ日本に敢えてC-2輸送機派遣を求めてきたのか、この点の視点も実は重要です、それは従来、国連が従来に依存した空輸支援が受けられないという特段の事情がありました。

 Il-76輸送機、42tまでの貨物を輸送可能でC-2輸送機とアメリカのC-17輸送機の中間、いや中国のY-20輸送機に準じる程度の輸送機があります、設計はかなり古いのですが傑作機と呼びうるもので、もともと国連はUNHCR以外の空輸支援も含めて、このIl-76輸送機にかなりの部分依存していました、それが今回運用できないという状況なのです。それは。

 Il-76輸送機はロシア軍が国連支援の一環として派遣しているもので、恐らく国連も今回ロシア軍へウクライナ人道危機への要請を考えはしたのかもしれませんが、ロシア軍はIl-76輸送機をウクライナ侵攻への空挺部隊による侵略に活用しており、とても回す余裕はありませんし、おそらくそのつもりもないのでしょう、つまり国連がロシア依存脱却に自衛隊に頼った構図だ。

 C-2輸送機と同程度、たとえばエアバスA-400M輸送機やアメリカ製C-17輸送機ならば対応は可能ですが、A-400M輸送機は今回、NATOがウクライナ支援として全力で運用しており、C-17輸送機もアメリカは米本土からの作戦輸送に、オーストラリアやイギリスもウクライナへの直接支援に動員されており、とても国連まで回る余裕がないのです。派遣されるのは1機なのですが、意義は大きいのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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